66 / 190
新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
貧村に現れた善良なる統治者 2
しおりを挟む
夕暮れになってようやく探索は終了した。この村の特徴は一般的だ。村人が住むエリアを中央としてその周囲は畑だけ。家の並びは不規則で所々死角が多い。カレン達は盗賊が村に進入する前に畑道や畑で殲滅するだろうが油断は禁物だ。ちなみに村人はざっと70人くらい。
客人用にぼっちゃん貴族が使っている大きな家は集落より北の方角に、井戸は集落と東と南の三ヶ所に設置してある。
当然のことながらこの村も穀物に関してはザオゼル麦しか作っていない。南が野菜、その他三方向はザオゼル麦だ。あれだけが安定して供給に繋がるから安くても我慢したのだろう。
案外探索は楽そうに見えるが、実はそうでもない。
だって……………………、
「ねぇ、クラリーチェさん?」
「ワン!」
「脚があるんだからさ…………」
「ワゥン!!」
「歩いてくれないかな…………?」
「クゥン」
クラリーチェが前足だけで俺の肩に乗っかっているのだから…………、筋力すごい。
俺が歩こうが走ろうが跳ぼうが屈もうが振り回そうが匍匐全身しようが俺から離れず、俺は彼女の熱意? に根負けした。
集落に戻るとみんな家に戻っていて、表にはだれもいない。入り口に家紋がついている家を探してそこに入ると疲れきった表情のカレンがいた。強行軍の後にすぐ住民と話してたので疲労がたまったのだろう。
「おつかれさまです。カレン様」
「いや普通に話してよ。あなたが言うと、違和感を覚えるから」
やっぱり慣れてないか。
「でも村の人達に示しがつかないから、俺はしばらく人前ではこの話し方でいくよ」
「…………、まぁ仕方ないわね」
ふと、カレンが俺の肩に前足を置いているクラリーチェを見つめる。そして、俺をジットリとした目付きで睨んできた。
「……………………なんで毎日愛情を惜しみ無く与えている私より、あなたの方に懐いているのかしら?」
「俺に聞かれてもな………………」
こればっかりは俺でも説明できない。諦めてくれ。
「で、カレン。ようやく一つめの村に到着したわけだが、他の村への派遣はどうする? 戦力の配置次第で戦況は変わるしな」
「恐らくすぐには来ないでしょ。他の村と言っても一時間ほどの近辺だし。あなたは魔術が使えないから戦闘になったら私の援護をお願いするわ。あとは、そうね……………………懐かれてるし、不満だけどクラリーチェをサポート役につけたら? 非常に不満だけど」
2回言いましたね、カレンさん。しかも2回目は強調してるし。
「ちなみにクラリーチェはプロテクティオ、レイ・プロテクティオ、エイディオ、ガルディアを使えるわよ」
「ちょっと待った! なんで守護忠犬がガルディアを発動できるんだ!?」
ガルディア。あの魔術は無属性因子の鳥類の形をした魔力を一時的に具現化させる魔術。使用者ならば、意識に集中している間、ガルディアの視覚をリンクさせることができる優れものだ。玄人だと目をつぶって集中することなく遠隔操作出来るが、素人の場合、自身とガルディアの視界が混濁するため、なかなかうまく扱えない。
具現化する瞬間に魔力を調整できて、魔力を大きく注ぎ込むほどガルディアの具現体も大きくなる。欠点としてはサイズが大きくなるほど威力と引き換え、移動速度が落ちる。一般的な用途は熟達した魔導師が遠い土地を観測するときに代わりとして用いたり偵察したりするくらいなので大きさは小鳥サイズ。攻撃はもちろんできるが、遠隔操作して標的にぶつける以外は基本魔術とそこまで変わらない。むしろ基本魔術よりマナの消費が大きく、一度標的にぶつけると消滅するので、攻撃にはあまり活用されないだろう。
遠隔操作の上に視野の共有は高度な思考能力と計演算能力を必要とする至難の技なので、魔導師以外は基本的にガルディアの使用をしないはずなのだが。というより、守護忠犬が使えること自体初耳なんだが…………。
「最初は私も驚いたけど、クラリーチェはおかしなことに何年か前、私がボールを投げてクラリーチェと遊んでいたとき、走らないでガルディアに取ってこさせたのが始まりね。あの頃はまだ生まれてから8ヶ月でものすごい可愛かったわ! 今も違う魅力があっていいけれど!!」
クラリーチェの話を力説するカレン。
そうか、クラリーチェが特別なんだ。クラリーチェに常識を期待してはいけないんだ…………。お目覚めの時間に俺を吹っ飛ばしたことも、俺におぶさることも……。
「とにかく明日は私、あいつとその部下を連れて、他の村を見て回るから留守番お願いね。それから配置を決めるわ。たぶんあいつの軍を双手に分けて、明日行くとこを防衛させる形になるだろうけど…………」
「俺に一人残れと!? 盗賊来たらすぐ負けるよ!」
「大丈夫よ、まだこないと思うし…………たぶん。それに私も久しぶりだから、村の人に挨拶したいのよ。夕方までには帰るから、ね? あ、念のためにクラリーチェは一旦返してもらうわよ」
と、クラリーチェの首もとを掴むカレン。しかしクラリーチェは俺から離れたくないらしく、強固なる前足で必死にしがみついていた。
「ちょっとクラリーチェ! 明日は来てもらわないと困るんだけど!? さすがに身内一人は心細いのよっ!!!」
「キャウ!? クゥゥンン!クゥゥゥゥゥン!!」
「おいクラリー…………イダイイダイダイッッ! カレン、強く引っ張らないでくれっっ、! 肩が! 肩がァァァァァ!」
外れる。肩が外れるよ…………。
「頼むクラリーチェ、一旦離れてくれッッ! もし言うことを聞いてくれたら、明後日からなるべく多くの時間過ごすからッッッッ!」
すると、
「ワン!」
一瞬で前足の力を抜き、均衡していた力がバランスを崩す。クラリーチェはそれを見透かしたように動くことなく、そのままカレンの胸元に顔面を埋める。
そしていつにも増して、尻尾をブンッブンッと唸りを上げるレベルで振り回す。
俺の言ったことを理解しているようだ。なんと現金なワンコ…………。
「どうして…………? 私の愛が足りないとでも言うの……………………?」
飼い主がクラリーチェに弱った視線を向ける。そんな飼い主の眼差しに振り向くことなく、俺を熱い視線で見つめるクラリーチェ。それに釣られて俺を見たカレンの瞳は、うるうるとしていた。
「私が宿に向かうと、すぐにクラリーチェはあなたの部屋に走っていく。ベッドとあなたに包まれて…………。それってつまり、寝取ら」
「寝取られの使い方違う上に変な誤解を招く発言はやめてくれっっ!!!!」
まだまだ夜は長くなりそうだ。悪い意味で。
客人用にぼっちゃん貴族が使っている大きな家は集落より北の方角に、井戸は集落と東と南の三ヶ所に設置してある。
当然のことながらこの村も穀物に関してはザオゼル麦しか作っていない。南が野菜、その他三方向はザオゼル麦だ。あれだけが安定して供給に繋がるから安くても我慢したのだろう。
案外探索は楽そうに見えるが、実はそうでもない。
だって……………………、
「ねぇ、クラリーチェさん?」
「ワン!」
「脚があるんだからさ…………」
「ワゥン!!」
「歩いてくれないかな…………?」
「クゥン」
クラリーチェが前足だけで俺の肩に乗っかっているのだから…………、筋力すごい。
俺が歩こうが走ろうが跳ぼうが屈もうが振り回そうが匍匐全身しようが俺から離れず、俺は彼女の熱意? に根負けした。
集落に戻るとみんな家に戻っていて、表にはだれもいない。入り口に家紋がついている家を探してそこに入ると疲れきった表情のカレンがいた。強行軍の後にすぐ住民と話してたので疲労がたまったのだろう。
「おつかれさまです。カレン様」
「いや普通に話してよ。あなたが言うと、違和感を覚えるから」
やっぱり慣れてないか。
「でも村の人達に示しがつかないから、俺はしばらく人前ではこの話し方でいくよ」
「…………、まぁ仕方ないわね」
ふと、カレンが俺の肩に前足を置いているクラリーチェを見つめる。そして、俺をジットリとした目付きで睨んできた。
「……………………なんで毎日愛情を惜しみ無く与えている私より、あなたの方に懐いているのかしら?」
「俺に聞かれてもな………………」
こればっかりは俺でも説明できない。諦めてくれ。
「で、カレン。ようやく一つめの村に到着したわけだが、他の村への派遣はどうする? 戦力の配置次第で戦況は変わるしな」
「恐らくすぐには来ないでしょ。他の村と言っても一時間ほどの近辺だし。あなたは魔術が使えないから戦闘になったら私の援護をお願いするわ。あとは、そうね……………………懐かれてるし、不満だけどクラリーチェをサポート役につけたら? 非常に不満だけど」
2回言いましたね、カレンさん。しかも2回目は強調してるし。
「ちなみにクラリーチェはプロテクティオ、レイ・プロテクティオ、エイディオ、ガルディアを使えるわよ」
「ちょっと待った! なんで守護忠犬がガルディアを発動できるんだ!?」
ガルディア。あの魔術は無属性因子の鳥類の形をした魔力を一時的に具現化させる魔術。使用者ならば、意識に集中している間、ガルディアの視覚をリンクさせることができる優れものだ。玄人だと目をつぶって集中することなく遠隔操作出来るが、素人の場合、自身とガルディアの視界が混濁するため、なかなかうまく扱えない。
具現化する瞬間に魔力を調整できて、魔力を大きく注ぎ込むほどガルディアの具現体も大きくなる。欠点としてはサイズが大きくなるほど威力と引き換え、移動速度が落ちる。一般的な用途は熟達した魔導師が遠い土地を観測するときに代わりとして用いたり偵察したりするくらいなので大きさは小鳥サイズ。攻撃はもちろんできるが、遠隔操作して標的にぶつける以外は基本魔術とそこまで変わらない。むしろ基本魔術よりマナの消費が大きく、一度標的にぶつけると消滅するので、攻撃にはあまり活用されないだろう。
遠隔操作の上に視野の共有は高度な思考能力と計演算能力を必要とする至難の技なので、魔導師以外は基本的にガルディアの使用をしないはずなのだが。というより、守護忠犬が使えること自体初耳なんだが…………。
「最初は私も驚いたけど、クラリーチェはおかしなことに何年か前、私がボールを投げてクラリーチェと遊んでいたとき、走らないでガルディアに取ってこさせたのが始まりね。あの頃はまだ生まれてから8ヶ月でものすごい可愛かったわ! 今も違う魅力があっていいけれど!!」
クラリーチェの話を力説するカレン。
そうか、クラリーチェが特別なんだ。クラリーチェに常識を期待してはいけないんだ…………。お目覚めの時間に俺を吹っ飛ばしたことも、俺におぶさることも……。
「とにかく明日は私、あいつとその部下を連れて、他の村を見て回るから留守番お願いね。それから配置を決めるわ。たぶんあいつの軍を双手に分けて、明日行くとこを防衛させる形になるだろうけど…………」
「俺に一人残れと!? 盗賊来たらすぐ負けるよ!」
「大丈夫よ、まだこないと思うし…………たぶん。それに私も久しぶりだから、村の人に挨拶したいのよ。夕方までには帰るから、ね? あ、念のためにクラリーチェは一旦返してもらうわよ」
と、クラリーチェの首もとを掴むカレン。しかしクラリーチェは俺から離れたくないらしく、強固なる前足で必死にしがみついていた。
「ちょっとクラリーチェ! 明日は来てもらわないと困るんだけど!? さすがに身内一人は心細いのよっ!!!」
「キャウ!? クゥゥンン!クゥゥゥゥゥン!!」
「おいクラリー…………イダイイダイダイッッ! カレン、強く引っ張らないでくれっっ、! 肩が! 肩がァァァァァ!」
外れる。肩が外れるよ…………。
「頼むクラリーチェ、一旦離れてくれッッ! もし言うことを聞いてくれたら、明後日からなるべく多くの時間過ごすからッッッッ!」
すると、
「ワン!」
一瞬で前足の力を抜き、均衡していた力がバランスを崩す。クラリーチェはそれを見透かしたように動くことなく、そのままカレンの胸元に顔面を埋める。
そしていつにも増して、尻尾をブンッブンッと唸りを上げるレベルで振り回す。
俺の言ったことを理解しているようだ。なんと現金なワンコ…………。
「どうして…………? 私の愛が足りないとでも言うの……………………?」
飼い主がクラリーチェに弱った視線を向ける。そんな飼い主の眼差しに振り向くことなく、俺を熱い視線で見つめるクラリーチェ。それに釣られて俺を見たカレンの瞳は、うるうるとしていた。
「私が宿に向かうと、すぐにクラリーチェはあなたの部屋に走っていく。ベッドとあなたに包まれて…………。それってつまり、寝取ら」
「寝取られの使い方違う上に変な誤解を招く発言はやめてくれっっ!!!!」
まだまだ夜は長くなりそうだ。悪い意味で。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる