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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
白き夜にて、彼女は囁く 1
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「2、3日ぶりですね。アベル」
仰向けになっている俺は声のする左へ目だけ動かす。正確には唯一動ける目だけを無理矢理動かす。
「俺は呼んだ覚えなんかないぞ」
目と鼻の先に、同じく仰向けになっているノアの顔がある。
「あなたが白夜の箱庭そのものを呼ばなくとも、あなたに命の危険があれば発動するんですよ。これは本能的な問題。あなたの心は関係なく、肉体が危険だと判断した。それだけです」
ほんと、白夜の箱庭ってなんなんだろうな。仕組みが分からない。
「このままだとあなたは世界の理によって殺されます。決心はつきましたか? この前の返答を聞かせてください」
彼女は囁く。
「目の前のクソ貴族に殺されるんだろ、あれは世界とか言える器の人間じゃないし、そもそも世界に殺されるって、まるで俺が世界に対する反逆者みたいじゃないか」
「そうですよ」
「は?」
ノアはさも当然と言わんばかりの反応だ。
「そもそも世界とはなんなのか、我々人間は自然の力の他にもう二つ、強大な力を知っているでしょう?」
「一つは集団…………か」
「そうです。人とはそもそも、個にしてあらず。社会性を持っている我々は人と人との繋がりが厚くなればなるほど、次第に権力と言う見えざる力が生まれ、その力に惑わされます。あなたがこの度、このような災難にあっているのも、知ってるくせにのこのこと貴族間の問題に介入したからですよ」
うんざりとしたようにため息をつくノア。
「仕方ないだろ、そんなことで働くの止めたらその先の道のりが面倒だ。黒パン代を稼がなきゃいけないからな」
「権力を面倒だ、で済ますあなたの精神は素晴らしいですね」
肩を揺らして苦笑する。
「ではもう一つは?」
「さぁ」
自然、権力。後の一つはなんだろう。
「個の潜在能力ですよ。特に魔術、呪術と言った類いの…………ね」
人差し指を立てて言う。
「あなたならご存じでしょう? 横の繋がりなど気にせず、圧倒的戦力で周囲の権力者を畏怖させて、今日までその家を繁栄させている勢力を…………」
当然だ。そんなことは…………。
「ヴァルト…………………」
「そう、あなたの生家。ヴァルト家」
再認識させるように、俺の言動を反芻する。
「ベルギウス帝国がここまで領土を拡大してきたのも、影でヴァルトが動いてくれていたから。帝国の侵略戦争のほとんどに参加して、時には都市ごと破壊し、時には抵抗する異国の兵を虐殺して、戦意ごと根こそぎ奪っていく。たった一人でも軍勢に牙を向けるだけの余力がある、ベルギウス帝国最強の殺戮一族…………」
「…………」
「ただ一方で才能ある者であれば、身分に関わらず誰でも魔術を教える事から、師家と呼ばれ、一部の人々から崇められている。教えられる側からすれば、今の身分を脱却できると尻尾を振るのでしょう。もちろん、家が家ですから良く思われなかったり、地方独特の呪術や風習を尊重する人達からは嫌われていますがね」
「……………………そこまで知っていて、何が言いたい…………?」
そう、ヴァルトがこれまで生き残ってきたのも全てを覆すほどの力、つまるところ魔術を駆使してベルギウス帝国に貢献した為。初代ヴァルト家当主の手により家を五つに分割してからもそれが名残となり、今日に至るわけだ。
しかし何故それだけの力を持っていて、わざわざベルギウス帝国に忠誠を尽くしたか。それは至極単純な答え。
魔術師とは魔術を極め、それを糧に生きる存在。ヴァルトにとって王を殺し、頂きに立つことだけなら十分可能ではあるが、国を統治する能力はそれほどではない。
そのため、ベルギウス帝国に寄生する方が楽だったのだ。
人を統治する暇があるなら、魔術の研究をする。それを最大限活かせるのは戦争。それが魔術師にとって一番効率が良い。
「俺にはもう…………あの頃の力はない…………。なら関係ないだろう?」
「本当にそう思いこんでいるんですか?」
「なんだと?」
「あなたの場合、生まれつきとある力を持っている。左手の甲をよく見てください。それが証です」
彼女は指を指し、俺はその動作に釣られる。
「それがあなたを危険にさらし、あるいはあなたを生き残らせる、諸刃の力です」
俺の左手にはいつのまにか、禍々しい紋様が浮かび上がっていた。
仰向けになっている俺は声のする左へ目だけ動かす。正確には唯一動ける目だけを無理矢理動かす。
「俺は呼んだ覚えなんかないぞ」
目と鼻の先に、同じく仰向けになっているノアの顔がある。
「あなたが白夜の箱庭そのものを呼ばなくとも、あなたに命の危険があれば発動するんですよ。これは本能的な問題。あなたの心は関係なく、肉体が危険だと判断した。それだけです」
ほんと、白夜の箱庭ってなんなんだろうな。仕組みが分からない。
「このままだとあなたは世界の理によって殺されます。決心はつきましたか? この前の返答を聞かせてください」
彼女は囁く。
「目の前のクソ貴族に殺されるんだろ、あれは世界とか言える器の人間じゃないし、そもそも世界に殺されるって、まるで俺が世界に対する反逆者みたいじゃないか」
「そうですよ」
「は?」
ノアはさも当然と言わんばかりの反応だ。
「そもそも世界とはなんなのか、我々人間は自然の力の他にもう二つ、強大な力を知っているでしょう?」
「一つは集団…………か」
「そうです。人とはそもそも、個にしてあらず。社会性を持っている我々は人と人との繋がりが厚くなればなるほど、次第に権力と言う見えざる力が生まれ、その力に惑わされます。あなたがこの度、このような災難にあっているのも、知ってるくせにのこのこと貴族間の問題に介入したからですよ」
うんざりとしたようにため息をつくノア。
「仕方ないだろ、そんなことで働くの止めたらその先の道のりが面倒だ。黒パン代を稼がなきゃいけないからな」
「権力を面倒だ、で済ますあなたの精神は素晴らしいですね」
肩を揺らして苦笑する。
「ではもう一つは?」
「さぁ」
自然、権力。後の一つはなんだろう。
「個の潜在能力ですよ。特に魔術、呪術と言った類いの…………ね」
人差し指を立てて言う。
「あなたならご存じでしょう? 横の繋がりなど気にせず、圧倒的戦力で周囲の権力者を畏怖させて、今日までその家を繁栄させている勢力を…………」
当然だ。そんなことは…………。
「ヴァルト…………………」
「そう、あなたの生家。ヴァルト家」
再認識させるように、俺の言動を反芻する。
「ベルギウス帝国がここまで領土を拡大してきたのも、影でヴァルトが動いてくれていたから。帝国の侵略戦争のほとんどに参加して、時には都市ごと破壊し、時には抵抗する異国の兵を虐殺して、戦意ごと根こそぎ奪っていく。たった一人でも軍勢に牙を向けるだけの余力がある、ベルギウス帝国最強の殺戮一族…………」
「…………」
「ただ一方で才能ある者であれば、身分に関わらず誰でも魔術を教える事から、師家と呼ばれ、一部の人々から崇められている。教えられる側からすれば、今の身分を脱却できると尻尾を振るのでしょう。もちろん、家が家ですから良く思われなかったり、地方独特の呪術や風習を尊重する人達からは嫌われていますがね」
「……………………そこまで知っていて、何が言いたい…………?」
そう、ヴァルトがこれまで生き残ってきたのも全てを覆すほどの力、つまるところ魔術を駆使してベルギウス帝国に貢献した為。初代ヴァルト家当主の手により家を五つに分割してからもそれが名残となり、今日に至るわけだ。
しかし何故それだけの力を持っていて、わざわざベルギウス帝国に忠誠を尽くしたか。それは至極単純な答え。
魔術師とは魔術を極め、それを糧に生きる存在。ヴァルトにとって王を殺し、頂きに立つことだけなら十分可能ではあるが、国を統治する能力はそれほどではない。
そのため、ベルギウス帝国に寄生する方が楽だったのだ。
人を統治する暇があるなら、魔術の研究をする。それを最大限活かせるのは戦争。それが魔術師にとって一番効率が良い。
「俺にはもう…………あの頃の力はない…………。なら関係ないだろう?」
「本当にそう思いこんでいるんですか?」
「なんだと?」
「あなたの場合、生まれつきとある力を持っている。左手の甲をよく見てください。それが証です」
彼女は指を指し、俺はその動作に釣られる。
「それがあなたを危険にさらし、あるいはあなたを生き残らせる、諸刃の力です」
俺の左手にはいつのまにか、禍々しい紋様が浮かび上がっていた。
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