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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌 1
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眼前にいる身の程知らずが喉から大量に出血する。苦しみ悶え、ピクピクと痙攣を繰り返す。
「フ…………フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!! 死んだ! 死んだ!! 邪魔物が死んだァァァァァァ! ようやく、ようやく彼女を私の物に出来る!!」
貴族は愉悦感に浸っていた。弱者をいたぶり、強者であることを自覚できる行為。一方的な虐殺を彼は心から愛していた。
しかし、それは彼の元々の性格なのか? と言われると実はそうでもないのかもしれない。最も影響を受けたのはやはり父親であろう。彼は幼き頃より、父親に退屈でつまらない世の中で、最高に満ち溢れた貴族の娯楽とはなん足るかを教育されていた。
その事を今、倒れているカレンへと足をゆっくりと進めながら、この貴族は思い出す。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
彼が四歳の頃。父親がメイドに首輪を着けて鎖で引っ張りながら後ろから犯すのを見させられる。
父親が体を揺さぶる度に、喘いでいるメイドを見て、彼はメイドが痛がっているのだと思い、酷いことしないでと父親に聞く。
しかし、父親は鎖でさらにメイドを反らせながら、こう言った。
「私が四つの頃も、亡き父上に同じ言葉を言ったことがあるらしい。つくづく子供は親に似るのだな。しかし、これは痛いことでも何でもない。この行為は我が家の権威を示すと共に、暇を潰せる素敵な遊びなのだ」、と。
父はさらに子供に家の当主としての役目を教え込む。
「お前はこの家の次の当主。貴族は権力と上に立つものとしての責務、その板挟みで疲れるとき、遊びを渇望する。ただの子供のおままごとではとても満足できない。だから、お前も今の内に学んでおけ。民衆の上に立つ、模範たる者の遊びをな」
その時の彼はまだ幼く、良く理解していなかった。
暫く経って、8歳の頃。
帝都より離れた自身達の直轄する村の中央広場へ連れていかれた。
彼は父の所業を目の当たりにする。
父は何もしていない村人を戯れに引きずり回し、殺した。
「我々はこの下賎な輩供に畏敬の念を抱かせないといけない。そうしなければいずれ言うことを聞かなくなるのが、卑しい者達だ」
それからも彼は徹底的に英才教育を施された。
だが、社交場、自身の領土でない所ではその本性をさらけ出さないように、ごく一般的な教養、倫理観も学ぶ。
彼は父親の言っていることに疑問を覚える。
父は間違っていることを行っているのではないか?
この時、まだ彼の心は汚れきっていなかった。
大人である十六歳になりたてのある日、見合い話が舞い込む。
なんでも、相手はなんとあの有名なノスタルジア家のご令嬢で自分より二歳ほど年下らしい。
彼の家は保守派の貴族との関係が深いため、新興貴族との面識は無かった。
しかし、父は過去のとある極秘戦争で戦死。成人していないと言う理由から叔父が後を継いだが、同じくその極秘戦争で死亡。まだ彼は当主に成ってから日が浅かった。ノスタルジア家の現当主が是非にと進めた上に、少ないながらも領地を増やせると彼は見込んだため縁談が始まる。
そして、初体面で彼は心を奪われた。
一瞬で理解した。彼女は父が教えたような貴族としての趣味を全く知らない。
清楚で素直。
「申し訳ないですが、あなたとは無理です」
そして第一声がこれだ。
普通なら嫌でも丁寧な断り方、遠回しな表現を貴族は使う。
母親に無理矢理見合いさせられたとは言え、この状況では相手に失礼だ。場合によっては闘争にすら発展する。
しかし、彼はそんな彼女に惚れてしまった。
今まで見てきた女と言えば、父親に何度も貫かれ、薬を盛られてだらしないメスの顔をしたメイドや滅ぼした他種族の森人の性奴隷。
少しでも権力にすがり付きたいと表向きは表情を柔らかくする卑しいメス達ばかり。
彼は実の母親を生まれたときに亡くしている。
だからそれくらいしか女を知らなかった。
だからこそ嫌われているとは言え、今までの彼の女に対する価値観を変えた彼女に惚れた。
けれどその恋心はある日、一変する。
どこぞの馬の骨とも知れない卑しい男に、純粋な笑顔を向けるカレンを見てしまった。
自分には向けない彼女の笑顔。
それを意図も簡単に引き出した男に嫉妬した。
そんな中、彼は思い出す、亡き父親のある言葉を。
「好いた女を惚れさせたいのなら、これを使え。それを食らった相手は薬と快楽とそれらをくれる男の事しか考えられなくなり、お前がそれを持っている限り女は従順にも、どんな奉仕だってする。だが、これは強烈な味と臭いがする。食事にとても混ぜられん。拒否するような強気な女なら、何かの都合を利用して無理矢理飲ませれば良い」
少々の月日が経ち、ノスタルジア家の当主からの救援要請が届く。なんでも、村が賊に襲われているのだとか。
彼は快諾した。私に任せておけ、と。
彼の顔は邪悪な笑みで歪んでいた。
何故ならば、その賊を裏で操っているのは私なのだからな、と。
しかもノスタルジア家も父が亡くなった原因である極秘戦争で大幅に戦力が落ちている。カレンに付くのはせいぜい二人か。
ならば、計画を邪魔されることは無い。父が残した精鋭の騎士団がいる限り。
そう思い、父親が残した小瓶に詰まった強力な薬物、それを懐に仕舞う。
「感謝致します父上。これで、カレン嬢は…………私の物だ」
まだ汚れきっていなかった面影は微塵もない。父親に英才教育として植え付けられた女に対する支配欲が彼の心を満たしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
彼の頭の中では様々な欲望が渦巻いていた。
(カレン嬢を愛でるとして、まずは鞭か、束縛もいい。あぁ、速く屋敷に持ち帰って彼女を愛したい。邪魔な下郎も死ぬしな)
騎士達も、もうアベルは死ぬだろうと長年の戦歴から判断し、主のあとに続く。
「『鮮血を食らいし……断罪なる鎌よ……』」
微かな音は、燃え盛る轟音によってかき消される。
「『罪ある者に……裁きを与える為……』」
けれど、状況の変化に一人の騎士が気付いた。
所々に転がっている、凌辱し、虐殺した死体から血が地面を伝って動き出した。
それらはあるひとつの方角に集められていく。
不可思議な事に騎士は目を奪われ、言葉が止まる。ただ死ぬはずだった男に血が集まっていた。
「『我の………………………………そして戦場で散った者達の血を代償とし…………』」
ようやく他の騎士も、頭の中がカレン一色のあの貴族でさえ、異変に気づく。
「な…………なんだあれは……?」
だが、もう既に遅かった。
「『盟約に従い……………………我に力を………………………………!!!』」
瞬間、倒れ伏した男を囲むように禍々しい紋様が集まった血で形作られる。
しかも、ゆっくりとその男は立ち上がり、左手から血を滴らせ、虚空に手を突いた。
引き抜くと同時に、左手には男の背丈ほどもある鎌が、どこからともなく出現する。
その鎌は、肉で出来たような歪で不気味な色彩をした柄に赤黒く巨大な三日月状の刃が付いていた。周囲の血を吸収すればするほど、その刀身は赤く輝く。
「そ…………そんな馬鹿な!!? 魔術も使えぬ貴様がなぜ!? こっ、殺せェェェ!!!」
「「『アルマス・フレイディオ』」!!」
あわてふためく主の号令の元、二人の騎士が火球を放つ。
それらはただ立っている愚かな下郎を燃やし尽くす。
だが、
「『散った者の血を代償に発動せよ……………贄血の治癒』」
ただ一言で焼け焦げ、ただれた皮膚が盛り上がったかと思うと、元の体に再生する。
「ば、化け物がァァァァァァッッッッ!」
貴族は怯える。あんな魔術、聞いたこともない。
あれは自然回復力を高める魔術でも、即座に傷を癒やすエイディオ系統でもない。
直感でわかる、邪悪な…………忌まわしき力。
「さぁ始めよう…………断罪の時間だ」
目の前の化け物は鎌を握り直した。
「フ…………フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!! 死んだ! 死んだ!! 邪魔物が死んだァァァァァァ! ようやく、ようやく彼女を私の物に出来る!!」
貴族は愉悦感に浸っていた。弱者をいたぶり、強者であることを自覚できる行為。一方的な虐殺を彼は心から愛していた。
しかし、それは彼の元々の性格なのか? と言われると実はそうでもないのかもしれない。最も影響を受けたのはやはり父親であろう。彼は幼き頃より、父親に退屈でつまらない世の中で、最高に満ち溢れた貴族の娯楽とはなん足るかを教育されていた。
その事を今、倒れているカレンへと足をゆっくりと進めながら、この貴族は思い出す。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
彼が四歳の頃。父親がメイドに首輪を着けて鎖で引っ張りながら後ろから犯すのを見させられる。
父親が体を揺さぶる度に、喘いでいるメイドを見て、彼はメイドが痛がっているのだと思い、酷いことしないでと父親に聞く。
しかし、父親は鎖でさらにメイドを反らせながら、こう言った。
「私が四つの頃も、亡き父上に同じ言葉を言ったことがあるらしい。つくづく子供は親に似るのだな。しかし、これは痛いことでも何でもない。この行為は我が家の権威を示すと共に、暇を潰せる素敵な遊びなのだ」、と。
父はさらに子供に家の当主としての役目を教え込む。
「お前はこの家の次の当主。貴族は権力と上に立つものとしての責務、その板挟みで疲れるとき、遊びを渇望する。ただの子供のおままごとではとても満足できない。だから、お前も今の内に学んでおけ。民衆の上に立つ、模範たる者の遊びをな」
その時の彼はまだ幼く、良く理解していなかった。
暫く経って、8歳の頃。
帝都より離れた自身達の直轄する村の中央広場へ連れていかれた。
彼は父の所業を目の当たりにする。
父は何もしていない村人を戯れに引きずり回し、殺した。
「我々はこの下賎な輩供に畏敬の念を抱かせないといけない。そうしなければいずれ言うことを聞かなくなるのが、卑しい者達だ」
それからも彼は徹底的に英才教育を施された。
だが、社交場、自身の領土でない所ではその本性をさらけ出さないように、ごく一般的な教養、倫理観も学ぶ。
彼は父親の言っていることに疑問を覚える。
父は間違っていることを行っているのではないか?
この時、まだ彼の心は汚れきっていなかった。
大人である十六歳になりたてのある日、見合い話が舞い込む。
なんでも、相手はなんとあの有名なノスタルジア家のご令嬢で自分より二歳ほど年下らしい。
彼の家は保守派の貴族との関係が深いため、新興貴族との面識は無かった。
しかし、父は過去のとある極秘戦争で戦死。成人していないと言う理由から叔父が後を継いだが、同じくその極秘戦争で死亡。まだ彼は当主に成ってから日が浅かった。ノスタルジア家の現当主が是非にと進めた上に、少ないながらも領地を増やせると彼は見込んだため縁談が始まる。
そして、初体面で彼は心を奪われた。
一瞬で理解した。彼女は父が教えたような貴族としての趣味を全く知らない。
清楚で素直。
「申し訳ないですが、あなたとは無理です」
そして第一声がこれだ。
普通なら嫌でも丁寧な断り方、遠回しな表現を貴族は使う。
母親に無理矢理見合いさせられたとは言え、この状況では相手に失礼だ。場合によっては闘争にすら発展する。
しかし、彼はそんな彼女に惚れてしまった。
今まで見てきた女と言えば、父親に何度も貫かれ、薬を盛られてだらしないメスの顔をしたメイドや滅ぼした他種族の森人の性奴隷。
少しでも権力にすがり付きたいと表向きは表情を柔らかくする卑しいメス達ばかり。
彼は実の母親を生まれたときに亡くしている。
だからそれくらいしか女を知らなかった。
だからこそ嫌われているとは言え、今までの彼の女に対する価値観を変えた彼女に惚れた。
けれどその恋心はある日、一変する。
どこぞの馬の骨とも知れない卑しい男に、純粋な笑顔を向けるカレンを見てしまった。
自分には向けない彼女の笑顔。
それを意図も簡単に引き出した男に嫉妬した。
そんな中、彼は思い出す、亡き父親のある言葉を。
「好いた女を惚れさせたいのなら、これを使え。それを食らった相手は薬と快楽とそれらをくれる男の事しか考えられなくなり、お前がそれを持っている限り女は従順にも、どんな奉仕だってする。だが、これは強烈な味と臭いがする。食事にとても混ぜられん。拒否するような強気な女なら、何かの都合を利用して無理矢理飲ませれば良い」
少々の月日が経ち、ノスタルジア家の当主からの救援要請が届く。なんでも、村が賊に襲われているのだとか。
彼は快諾した。私に任せておけ、と。
彼の顔は邪悪な笑みで歪んでいた。
何故ならば、その賊を裏で操っているのは私なのだからな、と。
しかもノスタルジア家も父が亡くなった原因である極秘戦争で大幅に戦力が落ちている。カレンに付くのはせいぜい二人か。
ならば、計画を邪魔されることは無い。父が残した精鋭の騎士団がいる限り。
そう思い、父親が残した小瓶に詰まった強力な薬物、それを懐に仕舞う。
「感謝致します父上。これで、カレン嬢は…………私の物だ」
まだ汚れきっていなかった面影は微塵もない。父親に英才教育として植え付けられた女に対する支配欲が彼の心を満たしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
彼の頭の中では様々な欲望が渦巻いていた。
(カレン嬢を愛でるとして、まずは鞭か、束縛もいい。あぁ、速く屋敷に持ち帰って彼女を愛したい。邪魔な下郎も死ぬしな)
騎士達も、もうアベルは死ぬだろうと長年の戦歴から判断し、主のあとに続く。
「『鮮血を食らいし……断罪なる鎌よ……』」
微かな音は、燃え盛る轟音によってかき消される。
「『罪ある者に……裁きを与える為……』」
けれど、状況の変化に一人の騎士が気付いた。
所々に転がっている、凌辱し、虐殺した死体から血が地面を伝って動き出した。
それらはあるひとつの方角に集められていく。
不可思議な事に騎士は目を奪われ、言葉が止まる。ただ死ぬはずだった男に血が集まっていた。
「『我の………………………………そして戦場で散った者達の血を代償とし…………』」
ようやく他の騎士も、頭の中がカレン一色のあの貴族でさえ、異変に気づく。
「な…………なんだあれは……?」
だが、もう既に遅かった。
「『盟約に従い……………………我に力を………………………………!!!』」
瞬間、倒れ伏した男を囲むように禍々しい紋様が集まった血で形作られる。
しかも、ゆっくりとその男は立ち上がり、左手から血を滴らせ、虚空に手を突いた。
引き抜くと同時に、左手には男の背丈ほどもある鎌が、どこからともなく出現する。
その鎌は、肉で出来たような歪で不気味な色彩をした柄に赤黒く巨大な三日月状の刃が付いていた。周囲の血を吸収すればするほど、その刀身は赤く輝く。
「そ…………そんな馬鹿な!!? 魔術も使えぬ貴様がなぜ!? こっ、殺せェェェ!!!」
「「『アルマス・フレイディオ』」!!」
あわてふためく主の号令の元、二人の騎士が火球を放つ。
それらはただ立っている愚かな下郎を燃やし尽くす。
だが、
「『散った者の血を代償に発動せよ……………贄血の治癒』」
ただ一言で焼け焦げ、ただれた皮膚が盛り上がったかと思うと、元の体に再生する。
「ば、化け物がァァァァァァッッッッ!」
貴族は怯える。あんな魔術、聞いたこともない。
あれは自然回復力を高める魔術でも、即座に傷を癒やすエイディオ系統でもない。
直感でわかる、邪悪な…………忌まわしき力。
「さぁ始めよう…………断罪の時間だ」
目の前の化け物は鎌を握り直した。
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