とある護衛の業務日記

文字の大きさ
4 / 29

一ヶ月経過③

しおりを挟む
 主人が誘拐されたことは紛れもない真実。
 なおかつ、誘拐犯の目的は知らないが規模は(資金的に)割と大きめ。もしかしたら出資者スポンサーがいるかもしれないが、そこの調査はひとまず横に置く。
 これらを総合して、おれのするべきことは、一つ。

「クソガキをボコることのみ……!」
「違うだろ!」

 ぺしーんという音と共に頭に衝撃を受けてよろめいた。

「何をする」
「いや、お前の言うクソガキって主人だろ?ボコるなよ。それより先にすることあるだろ。助けろよ」

 ぱしっぱしっと手でハリセンの調子を確かめていた女が呆れたふうに見上げてきた。おれはそれを横目で見ながら後頭部をさする。さっきまでハリセンのハの字もなかったのに、どこから持ってきやがった。
 しばかれた頭はすぐに痛みが引いたが、最初の衝撃が大きすぎた。ハゲたらどうしてくれる。

「一度くらいハゲてみろってんだ。貫禄になるぞ?」
「同情と哀れみしか生まんわ」
「変に脱力するから二人ともちょっと黙って」

 女の影に隠れるように立っていた小柄な男がぼそりと言った。陰気な黒目はどこまでも果てしなく呆れていた。

「一応わかってる?本丸目の前だよ?」

 そう言いつつ、物陰から外の建物を伺うように目を向ける。おれと女もつられて顔を向けた。往来の途絶えた閑散とした郊外は、ずいぶんと見晴らしがいい。

「殆ど人員は中に引っ込んでるみたいだけど、警羅はいるじゃん。騒いでばれたらどうするのさ。……十人かな?」
「いや、十ニ人だ。二人伝令として動いているな」

 目を眇めて訂正すると、心底嫌そうな目で見られた。

「何だ」
「……ルティの言うことじゃないけど……よく余裕ぶってられるね。あんたの主人の危機だってのに」

 その台詞がおかしかったので、ふっと鼻で笑ってやった。危機?これのどこが?
 馬鹿にされたのだとわかって、小男はぴくりと眉を動かしたが、ルティと呼ばれた女はあからさまに顔を歪めた。

「甘えな、どいつもこいつも。おれはに来ただけだ。そのついででクソガキをボコるけどな」
「……どういうこと?辻褄?あんたはあの坊っちゃんを……」
「傍観者は傍観者らしく、野次馬根性だけ持って黙って見てろ。手を出す気はねぇんだろーが」
「…………」
「おれは最優先事項を遂行する」

 腰に提げた剣の柄を肘置きにし、ふらりと歩き出す。何も隠れたりする気はない。その様子を見た女が慌てていたが、知ったことではない。

「……誰だ?てめぇ」

 すぐこちらに気づいた警羅の一人が警戒心を持って寄ってくるが、それを気にすることもしなかった。相手には自信満々に見えるんだろう。誰何しながらも既に腰の山刀に手をかけている。
 おれは何もしなかった。する必要がどこにもなかったから。右手をだらりと下げ、ただにっこりと笑む。

「我が主レオナール・ディオが下僕、アルフ・ヴィオス。お守りに参上した次第だ」

 ――さて。拳骨の他に何をお見舞いしようかな?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...