とある護衛の業務日記

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五ヶ月経過①

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 おっさんにまつわるもの全否定スタンスのクソガキをもってしても「筆頭貴族」と言わしめるディオ家ともなると、パーティー一つとっても侮れない。招待客に王族直系がいるし、他の客は国内外から集まってるし、飯は美味いし、呼ばれてる余興の楽団や芸人たちも超有名らしいし、会場のそこここに飾られる花や工芸品の配置もチョイスも一級品。そして飯が美味い。

 しかし難点として、パーティーが始まったら、主役のクソガキの傍から離れて飯を堪能することが不可能。

「ちくしょー。もっと摘まみ食いしときゃよかった」
「……お前、まさか来賓用に用意された料理を食べたのか?」
「料理長に許可はちゃんともらったぜ。味見ってさ。あと十種類は時間がなくて食えなかったが」
「しかも全制覇するつもりだったのか」

 クソガキから呆れた目を向けられる。……最近この顔をされることが増えた。

「なんだ、お前も摘まみ食いしたかったら言えよ。料理長は案外気が利くぞ」
「お前と一緒にするな。そんなに食べたいなら一人で行ってくればいいだろう」
「お前の従者だからな、ほいほい離れちゃいかんのよ」
「……こんな場所で誘拐など起きないぞ?」
「それはお前の考えることじゃない」

 おお、クソガキがムッとした。

「……おれはお前が従者だと認めない」

 これももはや口癖の域だ。何せおれが従者だと言う度に念を押すように言うからだ。
 しかし、この言葉を聞くのははじめの時ほど不快ではない。甘ったれからは一割くらい脱却してるからか。知る努力をしているこの顔を見ると、こいつの兄貴を思い出す。

(粘り強い通り越してもはや鬱陶しいレベルの粘着度だったからな……)

 真っ向勝負をして一度折れたかと思えばネチネチチマチマと敵に針を刺し続けるがごとく。追い詰めて追い詰めて最後に高笑いをするのだ。かといって特筆すべきほどに性格に難があるというわけでもなく、人望を集めたのもそれを危険視されたのも、あのリオネス・ディオのカリスマ故ということだろう。
 こいつにはもっと前向きに育ってほしいもんだが。

「レオナール坊っちゃん。旦那さまがお呼びです」
「……わかった」

 執事長の言葉に返答した途端、雰囲気が変わる。ブスくれたガキでなく、威厳ある高位貴族の嫡男として。優雅で清廉。そしてなによりも凛々しい若君だ。

「お前、本当に兄貴に似てきたな」
「――は?お前、兄を……」

 知っているとも。遠目からだけどな。それでもあの、戦場を払う威容はしっかり味わっていた。
 しかしそこまでは教えてやらん。おれが教えてやることじゃない。舞台袖から、さっきまで来賓に挨拶していたおっさんの横顔が見える。強く遠くを見据える、堂々たる立ち姿は貫禄の一言に尽きるかと思えば……そうでもない。あの紺青の瞳がどす黒く燃えたことがあるのを、このクソガキは知らない。だから反抗期なんて暢気なことをやってられるのだ。
 前を向けと促すと、クソガキは諦めたようにおっさんを向いた。その間にじろりと睨み付けてきたのは、覚えていろと言いたいのだろう。残念だが言いつけを聞く筋合いはない。

「さあて。大茶番のはじまりだ」

 クソガキに聞こえないように呟いた声は執事長にはばっちり聞こえたようで、それはそれは眩しい笑顔を返された。
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