付け届けの花嫁※返品不可

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クルガ編

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 案の定、日がすっかり昇って煮炊きの煙がそこここで上げられるようになっても、ウミは糊で貼り付けたように瞼を閉ざしていた。
 それを叩き起こし、夜着から着替えようとしないので衣を顔面に投げつけて着替えるように言い、朝食の膳を取りに行った。
 厨房にはまかない人とミルカだけではなく、ポンコツ占い師のアルザやご近所の連中など、この冬、家に住まわせていた奴らが全員待っていた。にやにや顔で。

「……膳の一つに匙もつけてくれ」
「はーい」
「あと、あの部屋の掃除やらなにやらはこっちでやるから、当分は誰も入るな。あいつも旅の疲れが残っているので出てこれないが、なにかあったらおれから知らせるので心配はいらない。……いいな?誰も近づくなよ?ミルカや他の女たちもだ」

 にやにやが深くなっていくので念を押したら、なんだか生温い視線に変わってきた気がする。返事はと問いかけると「はーい!」と全員がおどけた声を返してきた。不安であるが、命令は守る奴らだ。膳を二人分もらったので、冷めないうちに部屋に戻ることにした。

「……おい、着替えはどうした」
「食べ終わったらまた寝るのでいいかなと」

 帰ってきたら帰ってきたで、いいご身分な嫁(名目)が待っていた。髪もぼさぼさのまま、正座だけはきちんとして膳をじっと見ている。背後の布団はもちろん畳まれていない。
 だらしないぞと言いたくなったが、飲み込んだ。監禁している側が言うことではない。

「朝メシ食ったら、おれは仕事に行く。昼に一度様子を見に来るから、それ以外で訪ねてくる奴らは部屋に入れるな。お前も外には出るな」
「もちろんです。ここで夕飯を待っています」

 きりっとした顔で言われても半目にならざるをえない。夜まで寝倒す気満々のようだった。

「……体を冷やすなよ」
「はい」

 ウミは今朝も今朝とて箸を使いにくそうにしていた。膳の端の匙に気づいたとたん持ち替えていたので、いっそここで箸を使う練習でもさせようかと思った。延々と寝させるよりもずっといい案な気がする。

(今日は思う存分寝かせて、明日からやらせよう)

 他の暇つぶしも、今日のうちに探してこようと決めた。














 ここ四ヶ月は、毎日午前に氏族の主だった面々を集めて会議や情報収集をしていた。今日は、昨日もらった物資を配り分けることを中心にやるつもりだったが、ここでもにやにや笑いに出くわしたので閉口した。一応、ウミが疲れを取るため休んでいるので、姿を見せずとも問題ないとか、おれの部屋には近づくなとか、重要なことを言ってみたが、生温さが増すばかり。だから一体なんなんだこいつら。
 分配が終わり、報告会もすぐに終わった。昨日の今日なので、大した揉め事もなかったらしい。その代わりにおれの結婚を面白がられたが、黙殺して集落全体の見回りに出た。やはりそろそろ雪が融けはじめているらしい。鍬で雪の上から掘ってみると、まだ土は固く凍っているようだったが、凍ったように薄い色の上空は風が強いのか、鳥がひゅるひゅると飛んでいた。レィミヤ族の構える集落のさらに北の山脈向こうから飛んできた鳥は、射落としてみると、夏の渡り鳥だった。

「アルザ」
「はーいよー」

 ポンコツでも占い師という役職である。既にかなり信用度は落ちているが、挽回できるならさせた方がよかった。じゃないとアルザを任命したおれにも痛みが響く。鳥の処理はアルザに任せて、一度ウミの様子を見に行った。案の定寝ていた。
 布団の側の火鉢の様子を見て炭を足した。炭の昨日もらった分はほとんど分けてしまったが、ウミの取り分として、少しおれ個人で預かっていた。ウミは嫁という名のついででも、援助を持ってきてくれたんだし、もらう正当性があった。
 火鉢の上に足つきの網を載せて、さらに厚い鉄鍋を置いた。鍋の中には木窓から雪氷を掬って入れた。音もそれなりに立てているし、窓を大きく開けて冷気を送り込んだのに、ウミの布団から出ている頭は微動だにもしなかった。ここまで寝られる根性がすごい。
 換気のため窓を少し空けたままにして、ウミの頭を見ながら午後の予定を考えた。

(農地に確認に……は止めた方がいいな。半日かかる)

 膳を運ぶのはおれなので、下手したらウミの夕メシが遅くなる。数日は集落の外縁を見回り、春――もしかすると夏の兆しを探した方がいい。遭難しない確証を得たら、また若者で隊を組ませて農地に走らせる。アルザの託宣は、その結果次第だ。ゆとりができた今だからこそ、急ぎ、かつ慎重に物事を進めなくてはならない。
 ウミがごろんと寝返りを打った。こちら側を向いた顔に、ラルトィ族への対応もあったなと思う。あのセリカが、ウミを送り付けて終わりにするとは思えない。
 仕事がありすぎて嫌になるが、仕方がない。ウミの件はもとより、アルザのこともあるし、ミルカだってまだ未熟だ。おれがやるしかないなら、やるだけだ。

「それにしてもお前、今のうちにそんなに寝てたら、夜に眠れないんじゃないか?」

 当然返事はなかった。肩をすくめて外に出る。
 集落の外縁を見回ると、昨日のラルトィ族一行の通った跡がはっきりと残っていた。たくさんの人間の足跡、大きな四足の蹄と、引きずられたソリの下で雪が踏まれ捲られ、泥の形で凍りついている。それとは違う方向に、おれとアルザで踏み固めた道ができていた。今日は飢えた目で狩猟にかかりきりにならずに済むのでいい。ところどころ、目についた地面を軽く掘り、木の枝に登る。上の風が温い。雪を融かす風だ。
 ついでにウミへの手土産も見つけたので、もいで懐に入れた。からんころんと音が鳴る。ミルカは喜んで遊んでいたが、さて、ウミはどんな顔をするやら。
 ……面倒くさそうな顔がありありと浮かんだ。おれも慣れてきたもんだ。

「そろそろ戻るか」

 だが、慣れたと言っても、表面的なことでしかなかったと、この後すぐに思い知らされた。
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