記憶を運ぶ折畳み式ボート

房吉

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第1章 タイタニック編(1912年4月13日~)

第2話 豪華なる女王

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翌朝、私は目覚めた。

折畳み式救命ボートC号のシーラとして初めて迎える朝。

甲板には朝の光が降り注ぎ、乗客たちが散歩を始めていた。

「おはよう、シーラ」

タイタニックの声が聞こえる。

「おはよう、タイタニック。よく眠れた?」

「ええ、とても。海が穏やかで気持ちよかったわ」


朝の光の中、タイタニック号の姿がより鮮明に見える。

巨大な四本の煙突、真っ白な船体、きらめく窓ガラス。

「タイタニック、あなたってすごく大きいのね」

「ふふ、そうね。全長269メートル、幅28メートル。なんたって、世界一大きい船よ」

その声には誇りが満ちていた。

「どのくらいの大きさなの?」

「総トン数4万6千トン。想像できる?」



「まったく想像できないわ。私なんて、ほんの数百キロしかないもの」

タイタニックが軽く笑った。

「そうね。だからこそ、あなたは特別なの。小回りが利いて、必要な時にすぐに動ける」

「でも、あなたほど多くの人は乗せられないわ」

「それぞれの役割があるのよ」

午前中、私はタイタニックの案内で船内を「見て」回った。

もちろん実際に動くわけではないが、タイタニックが見ている光景を共有してくれるのだ。

「これがグランド・ステアケース。船の中心よ」

豪華な階段と、天井のガラスドーム。きらめくシャンデリア。

「まるで宮殿みたいな大階段ね!」

「そうでしょう?一等客室の人たちは、ここを通って食堂に行くの」

「食堂はどんな感じ?」

「食堂はマルコ・ポーロ・ダイニングルームっていうの。天井は高くて、柱や彫刻で飾られているわ。毎晩11コースの食事が出るのよ」

タイタニックの声は嬉しそうだった。

「それから、船内にはカフェ・パリジャン、トルコ風浴場、水泳プール、スカッシュコート、体育館まであるの」

「全部船の中に!?」

「ええ。だから『海の上の都市』とも呼ばれているのよ」





「すごいわ。こんな豪華な船、見たことない」

「それもそのはず。私は姉のオリンピックの改良版。人間たちの最高の技術の結晶なの」

タイタニックの声には自信と誇りが溢れていた。

「特に安全面では徹底してるわ。水密区画が15もあって、4つまで浸水しても沈まない設計なの」

「そんなにたくさん?」

「だから『沈まない船』と呼ばれてるのよ」



午後になると、甲板は散歩する人々で賑わった。

私の近くでは、船員たちが何やら話し合っている。

「また氷山の警告が来ましたよ、航海士長」

「そうか。だが心配ない。この航路はいつもそうだ」

その会話を聞いて、私は不安になった。

「タイタニック、氷山って危険じゃないの?」

「ああ、それね。確かに北大西洋にはこの季節、氷山があるわ。でも心配ないわよ」

タイタニックの声は全く動じていなかった。

「どうして?ぶつかったら危険じゃない?」

「ぶつかる前に見つけて避けるわ。それに、たとえぶつかっても、そうやすやすと沈まないわ。まさに不沈船よ!」

絶対的な自信。それがタイタニックにはあった。



「それに……」

タイタニックの声が少し低くなる。

「スミス船長は40年のベテラン。この航路を何度も通ってきたの。彼は『氷山なんて問題ではない』と言っているわ」

「それなら、安心ね」

「ええ、だから私たちは今夜も予定通り22ノットの快速で進むの」


夕暮れ時、甲板では夕食前の散歩を楽しむ乗客たち。

一等客室の紳士淑女は豪華な正装で、これから晩餐会へと向かう。

「あの人たち、とっても幸せそう」

「そうでしょう?彼らに最高の船旅を提供するのが私の使命なの」

タイタニックの誇らしげな声。

「今夜は特別なパーティーがあるのよ。船長主催の晩餐会」

夜になり、船内からはオーケストラの音色が漏れてくる。

「いい音楽ね」

「ええ、一流の演奏家たちばかりよ。彼らは毎晩演奏してくれるの」

静かな海面。満天の星空。穏やかな航海。

何も起きない、平和な夜のはずだった。

深夜、私は半分眠っていた。

静かな甲板。乗客たちはほとんど部屋に引き上げ、船員だけが当直についている。

そのとき、突然ブリッジから声が響いた。

「Iceberg, right ahead!」(氷山、正面です!)

艦首見張りからの警告。

その声に、私はハッとして目を覚ました。

「タイタニック!」
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