坂宮高校ミスオカ研の事件録~藤咲村の惨劇~

雪鳴月彦

文字の大きさ
5 / 173
プロローグ

プロローグ 5

しおりを挟む
「今見えてるのは、あくまで村の一部。皆が泊まる宿は、ここからだとちょっと見えないかな」

 そよぐような風に髪を揺らしながら、由奈さんは煙草に火を点ける。

「へぇ、ここが由奈さんの暮らしてる村かぁ……」

 間延びしたように呑気な口調で、部長がしみじみと呟いた。

「そう。古い言い伝えを残す寒村、藤咲村。……この村を知る人の中には、その言い伝えを皮肉って藤を裂く村、なんて読み方をする人も少しだけいるけどね」

 ふぅ、と吐き出された煙草の煙が、中空を彷徨い霧散していく。

「……藤裂き村?」

 由奈さんが告げた内容に、桜が僅かに不穏な表情を浮かべる。

「気にしないで。特に何があるわけでもないから。さ、あとほんのちょっとで宿に着くよ。荷物置いたら、村唯一の自慢でもある巨大藤の場所にも案内してあげる」

 にこりと笑いながらそう言って、由奈さんは煙草を携帯灰皿で揉み消す。

 そして、大きく伸びをすると運転席へと引き返した。

「巨大藤か。どれほどのものなんだろう、楽しみだなぁ」

「部長、何だかんだ言って普通に旅行楽しむつもりじゃないっすか?」

 上機嫌に話す部長へ、俺は半眼で呻く。

「いやいや、もちろん旅行としても楽しみだけど、僕が気になっているのはあくまで言い伝えだよ」

 ひらひらと手を振りながらそう答え、こちらの視線を気にすることなく部長は車に乗り込んでしまう。

「まったく、お気楽な先輩だよな。俺らも車に戻ろうぜ」

 まだ村を眺めている女子二人へ促すように言うと、桜が頷きながら振り向く。

「そうね。乃亜ちゃん、行こ?」

「……」

 隣に立つ後輩へ声をかける桜だったが、蓮田は無反応に立ち尽くすだけで動こうとしない。

「……乃亜ちゃん?」

 伏せるような眼差しでじっと村を見下ろす蓮田の顔を、桜は横から覗き込む。

「どうかしたの?」

「いえ、別に」

 僅かに首を曲げつまらなそうに短く告げると、蓮田は足音もなく車へと引き返していく。

 そんな彼女をポカンとしながら見つめていた俺と桜は、視線を交わして苦笑し合う。

「……やっぱり、あたしにはあの子を理解するの無理だわ」

「右に同じで」

 投げやりに言う幼なじみに賛同して、俺は車のドアを開けて乗り込む。

「よし、じゃあ行くよ」

 桜が後に続きドアを閉めるのを確認すると、由奈さんはまたアクセルを踏み込み山道を走りだした。




 観光客もほとんど来ないという寒村、藤咲村。

 そこに伝わる奇妙な言い伝えと、村で唯一の名所であるという巨大藤。

 それらを調べるだけの目的で訪れたこの村で、残酷で不可解な連続殺人が起ころうとしていることなど、この時は誰も予想すらしていなかった。


 ――藤を裂く村、か……。

 新緑が群生する景色を眺める俺の頭に、由奈さんが言った言葉が蘇る。

 ――なんていうか、あんまり良い呼び名じゃねーよな。

 漠然とした不安感を覚える俺の気持ちをよそに、車は引き返すことのできない悪夢の舞台へと走り続ける――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小説探偵

夕凪ヨウ
ミステリー
 20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。  男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。  そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。  小説探偵、と。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人
ミステリー
 子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。  故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。  嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。  不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。 ※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。  【アルファポリス】でも公開しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...