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プロローグ
プロローグ 5
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「今見えてるのは、あくまで村の一部。皆が泊まる宿は、ここからだとちょっと見えないかな」
そよぐような風に髪を揺らしながら、由奈さんは煙草に火を点ける。
「へぇ、ここが由奈さんの暮らしてる村かぁ……」
間延びしたように呑気な口調で、部長がしみじみと呟いた。
「そう。古い言い伝えを残す寒村、藤咲村。……この村を知る人の中には、その言い伝えを皮肉って藤を裂く村、なんて読み方をする人も少しだけいるけどね」
ふぅ、と吐き出された煙草の煙が、中空を彷徨い霧散していく。
「……藤裂き村?」
由奈さんが告げた内容に、桜が僅かに不穏な表情を浮かべる。
「気にしないで。特に何があるわけでもないから。さ、あとほんのちょっとで宿に着くよ。荷物置いたら、村唯一の自慢でもある巨大藤の場所にも案内してあげる」
にこりと笑いながらそう言って、由奈さんは煙草を携帯灰皿で揉み消す。
そして、大きく伸びをすると運転席へと引き返した。
「巨大藤か。どれほどのものなんだろう、楽しみだなぁ」
「部長、何だかんだ言って普通に旅行楽しむつもりじゃないっすか?」
上機嫌に話す部長へ、俺は半眼で呻く。
「いやいや、もちろん旅行としても楽しみだけど、僕が気になっているのはあくまで言い伝えだよ」
ひらひらと手を振りながらそう答え、こちらの視線を気にすることなく部長は車に乗り込んでしまう。
「まったく、お気楽な先輩だよな。俺らも車に戻ろうぜ」
まだ村を眺めている女子二人へ促すように言うと、桜が頷きながら振り向く。
「そうね。乃亜ちゃん、行こ?」
「……」
隣に立つ後輩へ声をかける桜だったが、蓮田は無反応に立ち尽くすだけで動こうとしない。
「……乃亜ちゃん?」
伏せるような眼差しでじっと村を見下ろす蓮田の顔を、桜は横から覗き込む。
「どうかしたの?」
「いえ、別に」
僅かに首を曲げつまらなそうに短く告げると、蓮田は足音もなく車へと引き返していく。
そんな彼女をポカンとしながら見つめていた俺と桜は、視線を交わして苦笑し合う。
「……やっぱり、あたしにはあの子を理解するの無理だわ」
「右に同じで」
投げやりに言う幼なじみに賛同して、俺は車のドアを開けて乗り込む。
「よし、じゃあ行くよ」
桜が後に続きドアを閉めるのを確認すると、由奈さんはまたアクセルを踏み込み山道を走りだした。
観光客もほとんど来ないという寒村、藤咲村。
そこに伝わる奇妙な言い伝えと、村で唯一の名所であるという巨大藤。
それらを調べるだけの目的で訪れたこの村で、残酷で不可解な連続殺人が起ころうとしていることなど、この時は誰も予想すらしていなかった。
――藤を裂く村、か……。
新緑が群生する景色を眺める俺の頭に、由奈さんが言った言葉が蘇る。
――なんていうか、あんまり良い呼び名じゃねーよな。
漠然とした不安感を覚える俺の気持ちをよそに、車は引き返すことのできない悪夢の舞台へと走り続ける――。
そよぐような風に髪を揺らしながら、由奈さんは煙草に火を点ける。
「へぇ、ここが由奈さんの暮らしてる村かぁ……」
間延びしたように呑気な口調で、部長がしみじみと呟いた。
「そう。古い言い伝えを残す寒村、藤咲村。……この村を知る人の中には、その言い伝えを皮肉って藤を裂く村、なんて読み方をする人も少しだけいるけどね」
ふぅ、と吐き出された煙草の煙が、中空を彷徨い霧散していく。
「……藤裂き村?」
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「気にしないで。特に何があるわけでもないから。さ、あとほんのちょっとで宿に着くよ。荷物置いたら、村唯一の自慢でもある巨大藤の場所にも案内してあげる」
にこりと笑いながらそう言って、由奈さんは煙草を携帯灰皿で揉み消す。
そして、大きく伸びをすると運転席へと引き返した。
「巨大藤か。どれほどのものなんだろう、楽しみだなぁ」
「部長、何だかんだ言って普通に旅行楽しむつもりじゃないっすか?」
上機嫌に話す部長へ、俺は半眼で呻く。
「いやいや、もちろん旅行としても楽しみだけど、僕が気になっているのはあくまで言い伝えだよ」
ひらひらと手を振りながらそう答え、こちらの視線を気にすることなく部長は車に乗り込んでしまう。
「まったく、お気楽な先輩だよな。俺らも車に戻ろうぜ」
まだ村を眺めている女子二人へ促すように言うと、桜が頷きながら振り向く。
「そうね。乃亜ちゃん、行こ?」
「……」
隣に立つ後輩へ声をかける桜だったが、蓮田は無反応に立ち尽くすだけで動こうとしない。
「……乃亜ちゃん?」
伏せるような眼差しでじっと村を見下ろす蓮田の顔を、桜は横から覗き込む。
「どうかしたの?」
「いえ、別に」
僅かに首を曲げつまらなそうに短く告げると、蓮田は足音もなく車へと引き返していく。
そんな彼女をポカンとしながら見つめていた俺と桜は、視線を交わして苦笑し合う。
「……やっぱり、あたしにはあの子を理解するの無理だわ」
「右に同じで」
投げやりに言う幼なじみに賛同して、俺は車のドアを開けて乗り込む。
「よし、じゃあ行くよ」
桜が後に続きドアを閉めるのを確認すると、由奈さんはまたアクセルを踏み込み山道を走りだした。
観光客もほとんど来ないという寒村、藤咲村。
そこに伝わる奇妙な言い伝えと、村で唯一の名所であるという巨大藤。
それらを調べるだけの目的で訪れたこの村で、残酷で不可解な連続殺人が起ころうとしていることなど、この時は誰も予想すらしていなかった。
――藤を裂く村、か……。
新緑が群生する景色を眺める俺の頭に、由奈さんが言った言葉が蘇る。
――なんていうか、あんまり良い呼び名じゃねーよな。
漠然とした不安感を覚える俺の気持ちをよそに、車は引き返すことのできない悪夢の舞台へと走り続ける――。
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