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第一章:隔離された村
第一章:隔離された村 10
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ほんの少しでもまともに話せるきっかけを作り、夜には確実に迎えるであろうお通夜ムードの時間を出来る限り緩和したい。
桜としては、これが今一番叶えておきたい計画だろう。
無口を極めた蓮田と、二人きりの夜を過ごす。考えただけで憐れだ。
「乃亜ちゃん、こういうのに興味があるんだ?」
「いえ、それほどは……」
まるでいちいち答えるのが面倒くさいと言いたげな面持ちで、蓮田は吐息をつくように言葉を返してきた。
「あれ? かなりじっくり眺めてたから、そうなのかなって思ったのに。違ったのかぁ」
それでも、努めて明るい口調でコミュニケーションをはかろうと踏ん張る桜だが、
「……はい」
全ての流れをぶった切るような暗く短い返答に、幼なじみは笑みを固まらせたまま、あさっての方向に顔を背けてしまった。
「あぁ……、勝てる気がしない。あたし絶対に勝てる気がしない」
ぶつぶつと何かを呟きながら遠い目をするメンバーに、俺は胸中でご愁傷様と手を合わせておいた。
「さて、それじゃあ行こうか。こんな場所ずっと見てても気が滅入るだけだろうし」
からからと明るい笑顔をみせながら、由奈さんが言った。
「僕は飽きないけど。こういう鬱々とした空間って、地元じゃなかなか無いから新鮮な感覚だよ。明日にでもまた来てみようかな。天気が悪ければ尚更不気味さが増しそうだ」
嬉々とした表情を張り付け部長が言うが、誰もその言葉に賛同する者はいなかった。
上ってきた石段を戻り、再び車は走り出す。
代わり映えなく陰鬱な山道を十分ほど進んだだろうか。前方に、まるでトンネルの出口のような眩しい光が見えてきた。
その光へ飛び込んだ瞬間、強烈な眩しさが視界を奪う。
反射的に伏せた目をゆっくりと開くと、俺は窓の外に広がる風景に息を飲んだ。
ここまで続いていたうら寂しい細道とはまるで対称的な、明かりに満ちた広い空間。
どれくらいの広さだろうか。ぱっと見た感覚では学校の体育館以上の面積はありそうな気がする。
そして、その広場――としか形容できない――のほぼ中央。
そこに、まるで自分がここの主であると主張するかのように、想像を遥かに越える巨大な藤の木が鎮座していた。
広場全体を覆い尽くすかのように伸びる枝からは、無数の紫色をした花が垂れ下がり、その上空を埋め尽くしている。
広場の端にあたる場所へ車を停め、全員が外へ下りた。
側には他にも二台の軽トラックが駐車されており、よく見ると藤の木より更に奥、何かの石碑がある場所に男が三人立ってこちらを向いているのが確認できた。
観光客はいないはずだから、村の住民だろうか。
日常では嗅ぎ慣れない甘い香りを放ち、斑な木漏れ日を作り出す巨大藤。
「凄い……。こんな大きな木だとは思わなかった」
まるで自然の絨毯のように敷き詰められた藤の落花を踏みしめながら、部長は藤棚から悠然と垂れ下がる花房を見入るように凝視する。
「これなら、もう少しちゃんとした施設みたいにすれば、入場料取っても良いんじゃない?」
眼前に迫る花をそっと撫でながら、桜が言う。
「あたしもそう思うことがあったけど、村長さんはそこまでするつもりはないみたい」
桜としては、これが今一番叶えておきたい計画だろう。
無口を極めた蓮田と、二人きりの夜を過ごす。考えただけで憐れだ。
「乃亜ちゃん、こういうのに興味があるんだ?」
「いえ、それほどは……」
まるでいちいち答えるのが面倒くさいと言いたげな面持ちで、蓮田は吐息をつくように言葉を返してきた。
「あれ? かなりじっくり眺めてたから、そうなのかなって思ったのに。違ったのかぁ」
それでも、努めて明るい口調でコミュニケーションをはかろうと踏ん張る桜だが、
「……はい」
全ての流れをぶった切るような暗く短い返答に、幼なじみは笑みを固まらせたまま、あさっての方向に顔を背けてしまった。
「あぁ……、勝てる気がしない。あたし絶対に勝てる気がしない」
ぶつぶつと何かを呟きながら遠い目をするメンバーに、俺は胸中でご愁傷様と手を合わせておいた。
「さて、それじゃあ行こうか。こんな場所ずっと見てても気が滅入るだけだろうし」
からからと明るい笑顔をみせながら、由奈さんが言った。
「僕は飽きないけど。こういう鬱々とした空間って、地元じゃなかなか無いから新鮮な感覚だよ。明日にでもまた来てみようかな。天気が悪ければ尚更不気味さが増しそうだ」
嬉々とした表情を張り付け部長が言うが、誰もその言葉に賛同する者はいなかった。
上ってきた石段を戻り、再び車は走り出す。
代わり映えなく陰鬱な山道を十分ほど進んだだろうか。前方に、まるでトンネルの出口のような眩しい光が見えてきた。
その光へ飛び込んだ瞬間、強烈な眩しさが視界を奪う。
反射的に伏せた目をゆっくりと開くと、俺は窓の外に広がる風景に息を飲んだ。
ここまで続いていたうら寂しい細道とはまるで対称的な、明かりに満ちた広い空間。
どれくらいの広さだろうか。ぱっと見た感覚では学校の体育館以上の面積はありそうな気がする。
そして、その広場――としか形容できない――のほぼ中央。
そこに、まるで自分がここの主であると主張するかのように、想像を遥かに越える巨大な藤の木が鎮座していた。
広場全体を覆い尽くすかのように伸びる枝からは、無数の紫色をした花が垂れ下がり、その上空を埋め尽くしている。
広場の端にあたる場所へ車を停め、全員が外へ下りた。
側には他にも二台の軽トラックが駐車されており、よく見ると藤の木より更に奥、何かの石碑がある場所に男が三人立ってこちらを向いているのが確認できた。
観光客はいないはずだから、村の住民だろうか。
日常では嗅ぎ慣れない甘い香りを放ち、斑な木漏れ日を作り出す巨大藤。
「凄い……。こんな大きな木だとは思わなかった」
まるで自然の絨毯のように敷き詰められた藤の落花を踏みしめながら、部長は藤棚から悠然と垂れ下がる花房を見入るように凝視する。
「これなら、もう少しちゃんとした施設みたいにすれば、入場料取っても良いんじゃない?」
眼前に迫る花をそっと撫でながら、桜が言う。
「あたしもそう思うことがあったけど、村長さんはそこまでするつもりはないみたい」
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