坂宮高校ミスオカ研の事件録~藤咲村の惨劇~

雪鳴月彦

文字の大きさ
27 / 173
第一章:隔離された村

第一章:隔離された村 22

しおりを挟む
「村長がそういうのはよくわからないからって。旦那はやるべきだって言ったりしてた時期があったんだけどね」

 旦那、とは長男のことだったか。

 ついさっき、昇さんたちの話していた言葉が頭をよぎる。

 子供が産めないという碧さん。

 それを遠回しに言われた瞬間のぎこちない表情を思い返す限り、旦那は気にしていなくとも本人はかなり気にしているはずだ。

「はぁ……、本当にお気楽な性格なんですね、村長さん。あの吉田っておじさんが不安がるのもわかるかも」

 しみじみと言う桜の返しに、碧さんは僅かだけきょとんとした様子になる。

「あら、吉田さんにも会ったんだ?」

「はい、藤の木がある場所でたまたま。村長と少しだけ言い合いをして、すぐ帰っちゃいましたけど」

「あのお二人は仲が悪いって有名だからねぇ。いっそ吉田さんが村長になってくれたら良いのに……」

 言いながら、碧さんはほんの一瞬悲しそうな表情を浮かべる。

 それから、ごまかすようにまた笑みを作り俺たち全員に箸を渡した。

「それじゃあ、わたしは先に厨房に戻って片付け始めるから。みんなはゆっくり楽しんでね」

 前半は従業員である三人に、後半は俺たちへと告げて、碧さんはそそくさと食堂を後にする。

 それを無言で見送ってから、部長は小さな声で、

「たぶん、さっきの話だろうね」

 と言ってきた。

 突然何だろうかと視線で問い返すと、部長は碧さんが出ていったドアを顎で示した。

「あの人が最後に言ってたことだよ。今の村長じゃなくて、吉田って人が村の長を務めたら良いのに。そう言ってたでしょ? つまり、義理の父である村長がその役割を放棄すれば、必然的に自分の跡取りを残せない問題に対する負担や重要性を軽減できるのにって考えてたんだと思うよ」

「……ああ、なるほど」

「僕たちを相手に、意図的ではないにせよ愚痴を言ってしまったようなものだからね。たぶん、それでばつが悪くなったのかな」

 流森さんたちにより、料理の準備が整った。

「はい、それじゃあ遠慮なく召し上がってくださいな。時間とかは気にしなくて全然平気だから、焦らないで良いからね」

「ありがとうございます」

 部屋いっぱいに広がるような流森さんの声に笑顔でお礼を返すと、部長は先陣を切るように手を合わせる。

「いただきます」

 その言葉に続くように俺たちメンバーも箸を取った。

「それじゃあ、わたしたちは戻るから。あとはみんなだけでよろしくやってて。片付けは頃合いみてこっちでやるから、食べ終わってもお椀持ってオロオロしたりしないでね」

「そんなことしないよ」

 からかう由奈さんへ呆れたような微笑を返して、部長が言う。

「それじゃあみなさん、また」

 そんなやり取りを見守っていた渡辺さんが、軽く手をあげて部屋を出ていく。

 その後を追うようにして、他の二人も通路へ姿を消した。

「さぁ、食事を楽しもうか。まさか、こんなご馳走にありつけるなんて、嬉しい誤算だったなぁ」

 ゼンマイのごま和えを箸で摘まみ、部長は上機嫌に目を細める。

 桜の方は、山菜よりも肉がお好みのようで、真っ先にローストビーフを口へ運ぶ。

「うわ、これめちゃ美味しい!」

 顔をほころばせた先輩を横目で一瞥し、沈黙を貫く蓮田も自分のローストビーフを口に入れた。

「……」

 しかしこちらは全くの無反応で、静かに口を動かすだけに留まる。その表情からは、口に合うのか合わないのかすら読み取れない。

 ひとまず普通に食事を続けているのを見る限り、不服ということはなさそうだが。

 ――蓮田が笑うのって、どんな時なんだろうな……。

 遊園施設にでも連れていけば、喜ぶのだろうか。

 そんなありきたりな案を思い浮かべるが、事務的についてくるだけで変化はないだろうとすぐに脳内に結論が下された。

 自分が気にする必要もないことより、目前の料理に集中しよう。

 一人そんな思考を展開し、俺はたらの芽の天ぷらへと視線を定める。

「ねぇ、雄治のローストビーフちょうだい?」

「アホか」

 期待以上の料理に舌鼓をうちながら他愛のない雑談に花を咲かせ、初日の晩餐は平穏に過ぎていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小説探偵

夕凪ヨウ
ミステリー
 20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。  男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。  そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。  小説探偵、と。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人
ミステリー
 子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。  故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。  嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。  不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。 ※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。  【アルファポリス】でも公開しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...