坂宮高校ミスオカ研の事件録~藤咲村の惨劇~

雪鳴月彦

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第一章:隔離された村

第一章:隔離された村 25

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「七十二軒、ですか?」

 あっさりと言われた晴也さんの言葉に驚いた声を出したのは、俺と部長の男性陣。

「そう。過疎化の影響でね、昔はもっと沢山の家があったし人口も多かったみたいだけど、年々他所に人が流れていって今はこの有り様ってわけさ。住んでるのも老人がほとんど」

 一度口を止め、晴也さんはふぅ、と息をつく。

「しかも、中には身寄りのない人もいてね。必要ないからって、固定電話すら持とうとしない爺さんとかも、何人か紛れてる始末さ」

「え~、スマホは別にしても家の電話すら持たないって、今の時代あり得ないですよ」

 大袈裟に目を丸くしながら桜が言う。

「うん。でも、ここはそういう場所なんだよ。都会みたいな所からは切り離されて、存在することすら知る人も少ない。というより、その存在自体が本気で消えそうになってる状況だ。まぁ、ダムに沈むなんて話とかがないから、まだマシだけどね」

 まるで仕方ないことだと言いたげな表情でにこりと笑い、晴也さんは壁の時計に目をやった。

「さて、あんまり長居をして引き止めても悪いかな。もうみんなとは顔を合わせられないかもしれないけれど、どうぞゆっくりくつろいでいってください」

「晴也さん、あんまり無理しないでくださいね。碧さんも影では心配してるんですから」

 俺たちに頷くような動作で頭を下げて部屋を出ようとした晴也さんの背中へ、由奈さんがたしなめるような調子でそんな言葉をかけた。

「うん、わかってはいるよ。あまり心労を与えないよう、何とかしたいとは常に思っているんだけどね」

 複雑な表情で由奈さんに振り返り言うと、晴也さんはそのまま部屋を後にした。

「……貴重な時間を割いてまで、挨拶に来てくれたみたいだね」

 ぽつりと、部長が閉められたドアを見ながら呟いた。

「良い人そうでしたしね。弟の……竜久さんとは、正反対な印象受けましたよ」

「たとえ兄弟でも、全然似ないタイプだって珍しくないさ。さて、僕たちも戻ろう。由奈さん、後はお願いするよ」

 俺の返答に肩を竦めて、部長は今度こそ立ち上がる。

「ごちそうさまでした。明日のメニューも楽しみにしてます」

 立ちながら冗談めいた口調で桜が言うと、由奈さんはふふっと笑う。

「渡辺さんに伝えておくわ」

「さて、夜はこれからだよ。女性陣は一旦部屋に戻って、その後僕たちの部屋に集合ってことでよろしく」

「了解です」

 元気に答える桜と、無言で頷く蓮田。

「良いわね。みんなのこと見てると、何か修学旅行思い出しちゃうわ。でも、就寝時間は細かく言わないけど、あんまり夜更かしし過ぎないようにね。朝寝坊しても知らないから」

「ご心配なく。僕は目覚まし無しでも決まった時間に起きられるから、問題ないよ」

「それはまた便利な特技ね。初耳だわ」

 テーブルに置かれて食器類をまとめながら由奈さんが言葉を返す。

「それじゃあ由奈さん、おやすみ」

「はい、おやすみ」

 従姉弟同士による簡単な挨拶が済んだようで、それをきっかけに俺たちは食堂を出た。

「旅行初日の夜って、一番気持ちに余裕があるから僕は好きなんだよね」

 蛍光灯に照らされた廊下をダラダラと歩きながら、先頭を歩く部長が肩越しに振り向く。

「……部長、今旅行って言い切りましたね?」

 あくまでもミスオカ研として言い伝えを調べるための活動。そんな当初の目的が完全に存在を消しているような発言に、俺は呆れ声で呻く。

「うん、言ったよ。部活活動のための旅行って意味でね」

「……」

 お得意のおとぼけスマイルで、悪びれた様子もなく答える部長に無言で視線を向ける。

 この部長のお気楽な性格なら、あの村長と気が合うのではないだろうか。

 そんな思いつきを頭の中で転がしながら、こっそりとため息を吐く。

 ――ま、俺にとってはどうでも良いけど。

 どうせ村の言い伝えなんか興味も薄いし、普通に旅行であってくれた方が面倒くさくなくて良い。

 そんなことを考えながら、何気なく目を向けたガラス窓には、外の闇に塗り潰され見慣れた自分の顔を反射させていた。
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