坂宮高校ミスオカ研の事件録~藤咲村の惨劇~

雪鳴月彦

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第二章:悪霊の目覚め

第二章:悪霊の目覚め 29

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 歯を磨いたちいでにと眠気覚ましに顔も洗い、冷水に思わず眉をしかめる。

 手探りで蛇口を捻り水を止め、タオルで顔を拭いていると、どこかでドアの開く音が聞こえた。続いて、誰かの足音が混じる。

 こちらへ気づいたのか、立ち止まり様子を窺う気配を感じ、俺はタオルを離してそちらを見る。

「よぉ、今日は早いな」

「ん、おはよう」

 廊下に立って眠そうにこちらを見つめていたのは、見慣れた幼なじみだった。

 目をこすりながら、モソモソとこちらへ近づいてくる。

「今日も散歩行くの?」

「こんなときにするわけねぇだろ。蓮田は?」

 まさか散歩の準備でもしているのかと気になり訊ねると、桜は気だるげに首を横へ振った。

「起きてるよ。布団の中でじっとしてる。何か考え事してるんだってさ」

「ふーん?」

 昨日も橋の崩落現場で何やら思案していたが、その延長だろうか。気にならないわけでもなかったが、今はとりあえず保留にする。

 元々が何を考えているのかわからない後輩だ。問い質したところで、突拍子もない返答をされるだけに終わるかもしれない。

「部長はまだ寝てるの?」

「ああ、熟睡中だよ」

「こんなときによく呑気に寝られるわね。あたしなんか、夜中に何回か起きちゃったりしてるのに」

「あ、それ俺もだわ」

「近くで人が殺されたなんて知ったら、どうしても安眠なんてできないよね。緊張で神経高ぶってる感じで」

「まぁな。今日も一日、慌ただしくなんのかなぁ」

 頭を掻きながら、俺たちしかいない廊下を眺める。

 ここだけを見ていれば、当たり障りのない日常の一部だと言うのに。

「由奈さん、もう起きてるかな? 何か新しい情報あるかもしれないよ。電話が復旧しそうとか」

 期待を込めたニュアンスで、桜が言った。

「まさかだろ。夜中に復旧の目処が立つなんて、さすがに都合良すぎるって」

 現実的な返答を返しながら、頭の中では一理あるかと思考する。

 電話線の復旧はあり得ないだろうが、何かしらの進展や変化は起きている可能性はある。

 それが駄目でも、村の誰かが打開策を思いついているかもしれない。

「だよねぇ。……あたしも歯磨こうかな」

 失望したかのような目で俺の歯ブラシを見ると、桜は部屋へ引き返していく。

 それを見送りながら、これからどうするかを考えてみる。

 今更寝ることは論外として、部長の寝てる部屋でただぼーっとしているのも気が滅入る。朝食の時間だってまだ先だろう。

「下に行ってみるか」

 事務室へ行けば誰かいるかもしれない。

 一度部屋に戻り歯ブラシとタオルを片付けて着替えると、また静かに廊下へ戻る。

「……おはようございます」

 いつの間に出てきたのか、女子部屋の前に立っていた蓮田が、こちらを見つめながら無機質な挨拶をしてきた。

「おう、相変わらず早いな。眠れたか?」

「はい」

 こちらの問いに短く頷き、蓮田はまた俺をじっと見つめてくる。

「何だよ?」

「……どこか行かれるんですか?」

「ん? いや、別に。部屋にいてもあれだし、事務室にでも顔出してみようかと思っただけだよ」

「……そうですか。では、一緒に行くので待っていてください」

「は?」

 微妙に会話が成り立っていないような。どこをどう納得すれば、一緒に行く展開になるのか。

 ぽかんとする俺を尻目に、蓮田は桜と並んで歯磨きをはじめた。

「……」

 一緒に行くと言われた以上は待たねばならぬのだろうか。

 手持ちぶさたに突っ立っていると、先に用を済ませた幼なじみが、少しはマシになった表情でこちらへ歩いてきた。

「そんなとこに立って何してるの?」

 不思議そうに告げてくる桜へ肩を竦め、俺は蓮田を顎で示す。

「部屋にいてもあれだから事務室に行くって言ったら、一緒に行くから待ってろって。どういうつもりだろうな?」

「乃亜ちゃんが? あの子ってそんなこと言うの?」

 意外そうに目を大きくし、桜は蓮田を振り返る。

「ひょっとして雄治、気に入られたとか?」

「勘弁してくれよ……」

 さすがにそれはないだろうと確信しつつ、俺は重い気分でそう呻いた。
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