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第三章:藤花に消えた死体
第三章:藤花に消えた死体 1
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【1】
「……なるほどね」
藤美荘に戻り、村長宅で見てきたことの全てを告げ終えた後、部長が開口一番に発した言葉がそれだった。
まだ目が覚めきっていないのか、どこかぼんやりした様子で眼鏡の位置を直す。
部長を起こしに来た桜は、戻ってきた俺たちの姿を確認するとホッとしたように息をつき、今はすぐ隣に座っていた。
「えっと……つまり、あれだね。犯人はやっぱりこの村に潜んでるって。長沢くんの言うように、晴也さんの殺され方が碧さんと一緒なら可能性はかなり高い」
「……部長、とりあえず顔でも洗ってきたらどうですか?」
テンションの低い声でモソモソと話す部長に、俺は呆れ気味に言葉をかける。
今だ着替えすらしていない状態で、眠気覚ましのお茶を啜るその姿は、村の老人たちと大して変わらないのではないだろうか。
「……うん、これ飲んだらね。でも、碧さんに続いて晴也さんが殺されたっていうのは、果たしてどんな理由でだろうね。犯人は、あの夫婦に恨みがあったってことなのかな?」
「だとしたら、犯人はすぐに見当がつくんじゃないですか? そんなに人口多くないし、しらみ潰しに探していけば。……あれ? しらみ潰しであってたっけ?」
「……あってんじゃないか?」
自分の発言に戸惑う桜へ適当に頷き、俺は少し離れて座る蓮田を横目で見る。
二度も続けて死体を見ていながら、動揺など微塵もなく普段通りに物思いに耽っている後輩。
世間からすれば、彼女はごく普通の女子高生でしかない。それでここまで肝が据わっているというのは、なかなか凄いことではないだろうか。
男の俺ですら、今はもう一人で山道を歩くような勇気はないというのに。
どこで犯人に襲われるかわかったものではないし、またいきなり死体なんか見つけたらと想像するだけで気持ちが焦る。
――こいつは、平気で観察とかしそうだもんな。
犯人に遭遇した場合はどうか知らないが、死体発見に関しては充分にあり得る。
「でも、困ったなぁ……」
本当に困ったような部長の声で、俺は意識を前方に戻す。
「何がっすか?」
浮かない表情で顎を擦る部長へ訊ねると、視線を僅かに上げこちらを向く。
「いやね、碧さんが殺されて、次は晴也さんでしょ? これじゃあますます、千賀子さんから言い伝えに関する話が聞きにくくなるなと思って。長沢くん、蔵の前にいたっていう千賀子さんは、どんな様子だった?」
「どんなって……かなりショック受けてたみたいで、泣き崩れてましたよ。しばらくは放心状態かもしれませんね」
見知らぬ老人に付き添われていた老女を思い出しながら、俺は素直にそう答えた。
「やっぱりそうだよね。となると、違う方面から調べを進めるべきかな」
「二人も殺されたのに、そう都合良く俺たちの相手してくれる人いますかね? 大人しくしてろ言われて、終わりだと思いますけど。さっきだって、そう言われてあしらわれたばっかなんすから」
「まぁ、誰にでもってわけにはいかないかもしれないね。だから、聞けるところから聞いていこう。由奈さんとか流森さん辺りなら、案外話してくれそうだし」
そう言って湯飲みを置くと、部長は首を擦りながらあくびを噛み殺し立ち上がる。
「ひとまず僕はお風呂に入ってくるから、みんなは適当に待ってて」
自分の荷物をあさり着替えなどを持ち出し、部長はそのまま部屋を出ていく。
仕切る人間がいなくなり、部屋には静寂が広がる。
しばらく部長の出ていったドアの方を見ていた桜が、思い出したようにため息を吐くと、テーブルに肘をついて頭を抱えた。
「部長のあのやる気、どこから沸きだしてくるんだろ。あたし、何だか気が滅入りそう。ううん、滅入ってる」
「安心しろ、俺もだ」
幼なじみへ同意の言葉をかけてやり、俺はぼんやりと畳に視線を落とす。
終始置物状態の後輩を交えて三人。朝の冷たい空気に包まれた部屋の中、何とも言えない微妙な時間だけが流れていった。
「……なるほどね」
藤美荘に戻り、村長宅で見てきたことの全てを告げ終えた後、部長が開口一番に発した言葉がそれだった。
まだ目が覚めきっていないのか、どこかぼんやりした様子で眼鏡の位置を直す。
部長を起こしに来た桜は、戻ってきた俺たちの姿を確認するとホッとしたように息をつき、今はすぐ隣に座っていた。
「えっと……つまり、あれだね。犯人はやっぱりこの村に潜んでるって。長沢くんの言うように、晴也さんの殺され方が碧さんと一緒なら可能性はかなり高い」
「……部長、とりあえず顔でも洗ってきたらどうですか?」
テンションの低い声でモソモソと話す部長に、俺は呆れ気味に言葉をかける。
今だ着替えすらしていない状態で、眠気覚ましのお茶を啜るその姿は、村の老人たちと大して変わらないのではないだろうか。
「……うん、これ飲んだらね。でも、碧さんに続いて晴也さんが殺されたっていうのは、果たしてどんな理由でだろうね。犯人は、あの夫婦に恨みがあったってことなのかな?」
「だとしたら、犯人はすぐに見当がつくんじゃないですか? そんなに人口多くないし、しらみ潰しに探していけば。……あれ? しらみ潰しであってたっけ?」
「……あってんじゃないか?」
自分の発言に戸惑う桜へ適当に頷き、俺は少し離れて座る蓮田を横目で見る。
二度も続けて死体を見ていながら、動揺など微塵もなく普段通りに物思いに耽っている後輩。
世間からすれば、彼女はごく普通の女子高生でしかない。それでここまで肝が据わっているというのは、なかなか凄いことではないだろうか。
男の俺ですら、今はもう一人で山道を歩くような勇気はないというのに。
どこで犯人に襲われるかわかったものではないし、またいきなり死体なんか見つけたらと想像するだけで気持ちが焦る。
――こいつは、平気で観察とかしそうだもんな。
犯人に遭遇した場合はどうか知らないが、死体発見に関しては充分にあり得る。
「でも、困ったなぁ……」
本当に困ったような部長の声で、俺は意識を前方に戻す。
「何がっすか?」
浮かない表情で顎を擦る部長へ訊ねると、視線を僅かに上げこちらを向く。
「いやね、碧さんが殺されて、次は晴也さんでしょ? これじゃあますます、千賀子さんから言い伝えに関する話が聞きにくくなるなと思って。長沢くん、蔵の前にいたっていう千賀子さんは、どんな様子だった?」
「どんなって……かなりショック受けてたみたいで、泣き崩れてましたよ。しばらくは放心状態かもしれませんね」
見知らぬ老人に付き添われていた老女を思い出しながら、俺は素直にそう答えた。
「やっぱりそうだよね。となると、違う方面から調べを進めるべきかな」
「二人も殺されたのに、そう都合良く俺たちの相手してくれる人いますかね? 大人しくしてろ言われて、終わりだと思いますけど。さっきだって、そう言われてあしらわれたばっかなんすから」
「まぁ、誰にでもってわけにはいかないかもしれないね。だから、聞けるところから聞いていこう。由奈さんとか流森さん辺りなら、案外話してくれそうだし」
そう言って湯飲みを置くと、部長は首を擦りながらあくびを噛み殺し立ち上がる。
「ひとまず僕はお風呂に入ってくるから、みんなは適当に待ってて」
自分の荷物をあさり着替えなどを持ち出し、部長はそのまま部屋を出ていく。
仕切る人間がいなくなり、部屋には静寂が広がる。
しばらく部長の出ていったドアの方を見ていた桜が、思い出したようにため息を吐くと、テーブルに肘をついて頭を抱えた。
「部長のあのやる気、どこから沸きだしてくるんだろ。あたし、何だか気が滅入りそう。ううん、滅入ってる」
「安心しろ、俺もだ」
幼なじみへ同意の言葉をかけてやり、俺はぼんやりと畳に視線を落とす。
終始置物状態の後輩を交えて三人。朝の冷たい空気に包まれた部屋の中、何とも言えない微妙な時間だけが流れていった。
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