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第三章:藤花に消えた死体
第三章:藤花に消えた死体 7
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そこでやっとピンときたのか、桜の眉間から皺が消えた。
「そう。犯人は何で、わかりにくい場所にあった包丁を凶器に選んだのか。たぶん、予め準備しておくにあたって日頃渡辺さんが使っている包丁とかじゃ、すぐに紛失したことがばれるからだと思う。そんで、肝心なのはここだ。犯人は、普通ならあるかどうかわからないはずの予備の包丁を、厨房を荒らしたり家捜しすることなく見つけてる。これは、最初から包丁が保管されていることと、その場所を認知していたからできることだ。そして、それが可能な人物は、この宿の関係者ってことになってくる」
「藤美荘の関係者となると、従業員及び梅木家の人たちが対象になるのかな。あとは……まぁ、次点として警備で立ち寄っているかもしれない自警団。枝橋さんと一部の老人に可能性があるか」
そう言って唸ったのは部長だ。
「……でも、長沢くんたちの仮説は合っているかもしれないね。凶器の出所は藤美荘。被害者は梅木家の人間二人で、一人は敷地内の蔵で殺されているんだ。犯人は必然的に、この二つの場所と関係がある人物となってくるはず」
「それじゃ犯人は、あたしたちとかなり近い距離にいるってことになりません?」
「そりゃ、そうなるね」
部屋で虫を見つけたときと似た嫌な表情になる桜へ、部長はあっさりとそう返すと悩むような仕草で頭に手をやった。
「でも、そうなるといろいろと制限ができるなぁ。万が一、千賀子さんや枝橋さんが殺人犯だったら、迂闊に下手なことは訊けない」
より慎重に行動しないと。最後にそう付け加えて、部長は椅子を鳴らして立ち上がった。
「とりあえず、部屋に戻ろう。話の続きはお茶でも飲みながらってことで」
「ですね。ここにいても仕方ないっすから」
そこは素直に同意して、俺と女子二人も席を立ち出入り口へ歩いていく。
「ねぇ」
静まりかえる廊下に出てすぐ、桜が俺の脇腹を肘で小突いてきた。
「何だよ」
「もし本当に犯人が藤美荘と関係あるんなら、あたしたちって既にその犯人と、既に顔を合わせてるかもしれないってことになるよね?」
「絶対、とは言わないけど、その確率は高いだろうな」
「なんか嫌だなぁ……。でも、もしそうなら犯人は、あの昇って人が怪しくない? 感じ悪いしさ」
ヒソヒソと話してくる相手に、俺はたしなめるように言葉を返す。
「わからなくもないけど、決めつけんなよ。誰が犯人かなんて、今の時点じゃ証明しようがないんだし」
「まぁねぇ……。でも、不安にならない? 自分たちがいる村の、しかもすぐ側に人殺しが紛れてるかもしれないのよ? まさか、由奈さんは違うよね? ――痛っ」
馬鹿なことを漏らす幼なじみの頭を叩き、黙らせる。前を歩く部長を確認するが、どうやら聞いてはいなかったようだ。
少なくとも、こちらを気にした気配はない。
「部長目の前にいるのに、何考えてんだよ。少しは気ぃ遣えって」
「……ごめん」
慌てて口を押さえ、桜は申し訳なさ気に黙り込む。
そんな彼女をため息混じりに眺めながら、俺は今の言葉を反芻する。
“まさか、由奈さんは違うよね……?”
現状では、それを絶対にないと否定する材料は皆無だ。まずあり得ないとは思うが、それでも。
知り合いの親族まで疑いの対象にしなければならないこの状況に、何とも複雑な気持ちが胸に渦巻いた。
「そう。犯人は何で、わかりにくい場所にあった包丁を凶器に選んだのか。たぶん、予め準備しておくにあたって日頃渡辺さんが使っている包丁とかじゃ、すぐに紛失したことがばれるからだと思う。そんで、肝心なのはここだ。犯人は、普通ならあるかどうかわからないはずの予備の包丁を、厨房を荒らしたり家捜しすることなく見つけてる。これは、最初から包丁が保管されていることと、その場所を認知していたからできることだ。そして、それが可能な人物は、この宿の関係者ってことになってくる」
「藤美荘の関係者となると、従業員及び梅木家の人たちが対象になるのかな。あとは……まぁ、次点として警備で立ち寄っているかもしれない自警団。枝橋さんと一部の老人に可能性があるか」
そう言って唸ったのは部長だ。
「……でも、長沢くんたちの仮説は合っているかもしれないね。凶器の出所は藤美荘。被害者は梅木家の人間二人で、一人は敷地内の蔵で殺されているんだ。犯人は必然的に、この二つの場所と関係がある人物となってくるはず」
「それじゃ犯人は、あたしたちとかなり近い距離にいるってことになりません?」
「そりゃ、そうなるね」
部屋で虫を見つけたときと似た嫌な表情になる桜へ、部長はあっさりとそう返すと悩むような仕草で頭に手をやった。
「でも、そうなるといろいろと制限ができるなぁ。万が一、千賀子さんや枝橋さんが殺人犯だったら、迂闊に下手なことは訊けない」
より慎重に行動しないと。最後にそう付け加えて、部長は椅子を鳴らして立ち上がった。
「とりあえず、部屋に戻ろう。話の続きはお茶でも飲みながらってことで」
「ですね。ここにいても仕方ないっすから」
そこは素直に同意して、俺と女子二人も席を立ち出入り口へ歩いていく。
「ねぇ」
静まりかえる廊下に出てすぐ、桜が俺の脇腹を肘で小突いてきた。
「何だよ」
「もし本当に犯人が藤美荘と関係あるんなら、あたしたちって既にその犯人と、既に顔を合わせてるかもしれないってことになるよね?」
「絶対、とは言わないけど、その確率は高いだろうな」
「なんか嫌だなぁ……。でも、もしそうなら犯人は、あの昇って人が怪しくない? 感じ悪いしさ」
ヒソヒソと話してくる相手に、俺はたしなめるように言葉を返す。
「わからなくもないけど、決めつけんなよ。誰が犯人かなんて、今の時点じゃ証明しようがないんだし」
「まぁねぇ……。でも、不安にならない? 自分たちがいる村の、しかもすぐ側に人殺しが紛れてるかもしれないのよ? まさか、由奈さんは違うよね? ――痛っ」
馬鹿なことを漏らす幼なじみの頭を叩き、黙らせる。前を歩く部長を確認するが、どうやら聞いてはいなかったようだ。
少なくとも、こちらを気にした気配はない。
「部長目の前にいるのに、何考えてんだよ。少しは気ぃ遣えって」
「……ごめん」
慌てて口を押さえ、桜は申し訳なさ気に黙り込む。
そんな彼女をため息混じりに眺めながら、俺は今の言葉を反芻する。
“まさか、由奈さんは違うよね……?”
現状では、それを絶対にないと否定する材料は皆無だ。まずあり得ないとは思うが、それでも。
知り合いの親族まで疑いの対象にしなければならないこの状況に、何とも複雑な気持ちが胸に渦巻いた。
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