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第三章:藤花に消えた死体
第三章:藤花に消えた死体 13
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「すいませんね」
真っ先に口をつけたのは昇さんで、小さく音を立ててすすってからまた話をはじめた。
「今日だって、兄貴が死んでるの気づいたときは驚いたけど、これでこれからは面倒なこと言われなくて済むって、軽口たたいてたくらいだったんだぜ」
「それは、ちょっと酷いんじゃ……」
まさにドン引きしたといった面持ちで、桜はひきつったような呟きをこぼす。
「まぁ、だろうな。他所から見たら、それが一般的な感想なのはわかるよ。でも、俺とかあいつはそういう固っ苦しいのは苦手でね。なんつーのかな。奔放主義? 自由でいたいってのが基本的な考えだから、小言を言われるのが腹立つわけよ」
「……」
いい歳をした大人の意見とは思えないその主張に、全員が言葉を失ったように黙る。
俺たちのような学生なんかが冗談めかして言う台詞としては気楽に笑えるが、三十をあからさまに過ぎているであろう大の大人が、恥ずかしげもなく口にできる言葉ではないだろうに。
この梅木昇という男と、次男の竜久は自分が思っていたよりさらに最低なのかもしれない。
「……でも、晴也さんが亡くなって跡継ぎもいないんでしたら、順番的には竜久さんが家を継がれる立場になるんじゃありませんか?」
凝固しかけた部屋の空気を悟って、流森さんが言葉を繋ぐ。
「でしょうね。本人もそこは煩わしがってますよ。でも、見返りを考慮するとまんざらでもない気持ちもあるようで。何せ、あの家にある莫大な資産を独り占めできるわけですから。ただ、結婚を強要されるのは鬱陶しいから、うんざりするかもしれないけど」
言って、また昇さんはコーヒーを一口飲む。
「そういえば、村長さんはかなりのお金持ちらしいですね。億単位の財産があるとか」
さりげなく話題の方向を変えて部長が言うと、昇さんはああ、と頷く。
「俺も直接見たりしたわけじゃないけど、宝くじの一等当てる以上の金額は確実にあるって聞いたよ。前にさ、竜久と話したことあるんだよ」
そこでまた、ニタリと下卑たような笑いを浮かべ、昇さんは何故か桜を直視する。
「もし竜久が遺産手に入れたら山分けしようぜ、なんてさ。所詮あり得ない笑い話だと思って言ってたけど、こりゃ現実味帯びてきたかな。はは」
「昇さん、さすがにそれは不謹慎じゃ……」
顔をしかめた流森さんが指摘すると、本人は反省の色もないまま
「おっと、これは失礼を。こんなこと、みんなに話す話題じゃなかったよな」
と、肩を竦めて答えてみせるだけだった。
部長、桜、俺の三人でそれぞれ視線を交わす。
話す内容は決して愉快なものではなかったが、それでも新しい情報は得られた。
梅木竜久。
彼には、被害者二人を殺害する動機があった。
普段から嫌味を口にしていた晴也さんを毛嫌いし、更に兄夫婦が亡くなることで高額な遺産を一人で相続する権利を手にできるのだ。
仮にだが、彼が犯人であれば死体を発見していながら、動揺のかけらも見せないことに納得もできる。
普通、どんなに嫌いな相手や憎らしい人物であったとしても、身近な人間の死体を間近で見てしまえば、少しくらいは鬱ぎ込む素振りは窺えそうなものだ。
しかし、さっきの竜久さんを思い出す限り、そういった心情を抱えているようにははっきり言って見えなかった。
真っ先に口をつけたのは昇さんで、小さく音を立ててすすってからまた話をはじめた。
「今日だって、兄貴が死んでるの気づいたときは驚いたけど、これでこれからは面倒なこと言われなくて済むって、軽口たたいてたくらいだったんだぜ」
「それは、ちょっと酷いんじゃ……」
まさにドン引きしたといった面持ちで、桜はひきつったような呟きをこぼす。
「まぁ、だろうな。他所から見たら、それが一般的な感想なのはわかるよ。でも、俺とかあいつはそういう固っ苦しいのは苦手でね。なんつーのかな。奔放主義? 自由でいたいってのが基本的な考えだから、小言を言われるのが腹立つわけよ」
「……」
いい歳をした大人の意見とは思えないその主張に、全員が言葉を失ったように黙る。
俺たちのような学生なんかが冗談めかして言う台詞としては気楽に笑えるが、三十をあからさまに過ぎているであろう大の大人が、恥ずかしげもなく口にできる言葉ではないだろうに。
この梅木昇という男と、次男の竜久は自分が思っていたよりさらに最低なのかもしれない。
「……でも、晴也さんが亡くなって跡継ぎもいないんでしたら、順番的には竜久さんが家を継がれる立場になるんじゃありませんか?」
凝固しかけた部屋の空気を悟って、流森さんが言葉を繋ぐ。
「でしょうね。本人もそこは煩わしがってますよ。でも、見返りを考慮するとまんざらでもない気持ちもあるようで。何せ、あの家にある莫大な資産を独り占めできるわけですから。ただ、結婚を強要されるのは鬱陶しいから、うんざりするかもしれないけど」
言って、また昇さんはコーヒーを一口飲む。
「そういえば、村長さんはかなりのお金持ちらしいですね。億単位の財産があるとか」
さりげなく話題の方向を変えて部長が言うと、昇さんはああ、と頷く。
「俺も直接見たりしたわけじゃないけど、宝くじの一等当てる以上の金額は確実にあるって聞いたよ。前にさ、竜久と話したことあるんだよ」
そこでまた、ニタリと下卑たような笑いを浮かべ、昇さんは何故か桜を直視する。
「もし竜久が遺産手に入れたら山分けしようぜ、なんてさ。所詮あり得ない笑い話だと思って言ってたけど、こりゃ現実味帯びてきたかな。はは」
「昇さん、さすがにそれは不謹慎じゃ……」
顔をしかめた流森さんが指摘すると、本人は反省の色もないまま
「おっと、これは失礼を。こんなこと、みんなに話す話題じゃなかったよな」
と、肩を竦めて答えてみせるだけだった。
部長、桜、俺の三人でそれぞれ視線を交わす。
話す内容は決して愉快なものではなかったが、それでも新しい情報は得られた。
梅木竜久。
彼には、被害者二人を殺害する動機があった。
普段から嫌味を口にしていた晴也さんを毛嫌いし、更に兄夫婦が亡くなることで高額な遺産を一人で相続する権利を手にできるのだ。
仮にだが、彼が犯人であれば死体を発見していながら、動揺のかけらも見せないことに納得もできる。
普通、どんなに嫌いな相手や憎らしい人物であったとしても、身近な人間の死体を間近で見てしまえば、少しくらいは鬱ぎ込む素振りは窺えそうなものだ。
しかし、さっきの竜久さんを思い出す限り、そういった心情を抱えているようにははっきり言って見えなかった。
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