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第三章:藤花に消えた死体
第三章:藤花に消えた死体 32
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近づけば近づくほど、目的の対象物ははっきりと目に飛び込んでくる。
盛られた藤の花が、さっき見たときよりも若干形が崩れているのがわかった。
それほど強い風が吹くような天候でもない。自然に崩壊のようなことが起きたと考えるのは、少し違和感がある。
「おい、昇。竜久はどこに倒れてたって?」
側に来た俺たち気づくと、自警団の一人が口を開いた。
四十代くらいか、比較的若く体格ががっしりしているため、柔道でもやっていそうなイメージをもってしまう。
「どこって、そこだよ。そこの藤の花に埋もれるようにして……ほら、ここ見てくれよ。血の跡があるだろ?」
「うん?」
竜久さんの顔が突き出ていたのと、丁度同じ位置。
そこを指差す昇さんに従うようにして、大人たちは示された場所へ屈み込んだ。
「……確かに、こりゃあ血痕だなぁ。しかし、肝心の死体がねぇじゃねぇか。どうなってんだい?」
別の男――こちらは七十代くらいの老人だ――が、首だけを昇さんへ向ける。
「んなこと知るかよ、俺が教えてほしいくらいだ」
吐き捨てて、昇さんは地面に残る血痕を睨む。
「話が全て本当なら、昇さんたちが引き返した隙に、誰かが移動させたとしか考えられないな」
腕を組み、険しい表情をみせる枝橋さんの言葉に、村長が頭を抱えながら座り込む。
「いったい、何故こんなことになったんだ……? 息子たちが殺されなければいけない理由が何かあるのか?」
苦悩するかのようにうずくまる老体を、全員が複雑な面持ちで見つめる。
千賀子さんはもちろん、村長もまた限界が近いのかもしれない。
肉体的にも精神的にもボロボロで、こうして村民たちに指示をだして動き回ることで、なんとかそれを誤魔化し耐えている状態か。
些細なきっかけでも与えれば、千賀子さん同様塞ぎ込んだ状態へ堕ちるのは一瞬のことだろう。
そんなことを直感的に考えていると、蓮田が幽霊のような無音の足取りで花房の山へと近づいていった。
呼び止めなければと手を伸ばしかけて、忘れ物とやらを探すつもりなのかと思い至り、成り行きを見守ることにする。
さっさと見つけてもらえた方が個人的に助かるし、周りからしてもいつまでもいられるよりは用事を済ませて引き下がってくれた方がマシだと感じるだろう。
事情を知らない自警団の三人は不審そうに蓮田を睨むが、特別注意を促すことはしてこない。
単に彼女の行動にどんな意図があるのか、図りかねている状態なだけなのかもしれないが。
しかし、そんな周りの胸中などお構いなしの蓮田は、じっと盛られた花房を観察していたかと思うと、突然とんでもない奇行に走った。
「お、おい! 何をしてんじゃお前は!」
彼女の一番近くにいた自警団が、慌てたように声をあげる。
あまりにも唐突過ぎるその行動に脳の理解が追いつかず、全員が目を丸くしながら身体を硬直させる。
積まれた藤の房を両手で掻き分け、竜久さんの身体が埋もれていたであろう部分を剥き出しにする蓮田。
「……」
散った花びらが敷き詰められている地面。それが露にされたその場所を、蓮田はただ無表情に見下ろしていた。
「……おいおい、いくらなんでもそんなとこに落としもんなんかあるわけねぇだろ? 何が目的なんだ?」
みんなが呆気に取られる中、最初に口を開いたのは昇さんだった。疑わしい視線を蓮田に送り、反応を窺っている。
「……もう、済みました」
下を向いたまま、蓮田はぽつりと呟く。
「あ?」
「ここへ来た用事は、果たしました。約束通り、車の中で待機しています」
一方的に淡々と告げると、少女は誰とも視線を交わすことなく車の方へと歩きはじめる。
盛られた藤の花が、さっき見たときよりも若干形が崩れているのがわかった。
それほど強い風が吹くような天候でもない。自然に崩壊のようなことが起きたと考えるのは、少し違和感がある。
「おい、昇。竜久はどこに倒れてたって?」
側に来た俺たち気づくと、自警団の一人が口を開いた。
四十代くらいか、比較的若く体格ががっしりしているため、柔道でもやっていそうなイメージをもってしまう。
「どこって、そこだよ。そこの藤の花に埋もれるようにして……ほら、ここ見てくれよ。血の跡があるだろ?」
「うん?」
竜久さんの顔が突き出ていたのと、丁度同じ位置。
そこを指差す昇さんに従うようにして、大人たちは示された場所へ屈み込んだ。
「……確かに、こりゃあ血痕だなぁ。しかし、肝心の死体がねぇじゃねぇか。どうなってんだい?」
別の男――こちらは七十代くらいの老人だ――が、首だけを昇さんへ向ける。
「んなこと知るかよ、俺が教えてほしいくらいだ」
吐き捨てて、昇さんは地面に残る血痕を睨む。
「話が全て本当なら、昇さんたちが引き返した隙に、誰かが移動させたとしか考えられないな」
腕を組み、険しい表情をみせる枝橋さんの言葉に、村長が頭を抱えながら座り込む。
「いったい、何故こんなことになったんだ……? 息子たちが殺されなければいけない理由が何かあるのか?」
苦悩するかのようにうずくまる老体を、全員が複雑な面持ちで見つめる。
千賀子さんはもちろん、村長もまた限界が近いのかもしれない。
肉体的にも精神的にもボロボロで、こうして村民たちに指示をだして動き回ることで、なんとかそれを誤魔化し耐えている状態か。
些細なきっかけでも与えれば、千賀子さん同様塞ぎ込んだ状態へ堕ちるのは一瞬のことだろう。
そんなことを直感的に考えていると、蓮田が幽霊のような無音の足取りで花房の山へと近づいていった。
呼び止めなければと手を伸ばしかけて、忘れ物とやらを探すつもりなのかと思い至り、成り行きを見守ることにする。
さっさと見つけてもらえた方が個人的に助かるし、周りからしてもいつまでもいられるよりは用事を済ませて引き下がってくれた方がマシだと感じるだろう。
事情を知らない自警団の三人は不審そうに蓮田を睨むが、特別注意を促すことはしてこない。
単に彼女の行動にどんな意図があるのか、図りかねている状態なだけなのかもしれないが。
しかし、そんな周りの胸中などお構いなしの蓮田は、じっと盛られた花房を観察していたかと思うと、突然とんでもない奇行に走った。
「お、おい! 何をしてんじゃお前は!」
彼女の一番近くにいた自警団が、慌てたように声をあげる。
あまりにも唐突過ぎるその行動に脳の理解が追いつかず、全員が目を丸くしながら身体を硬直させる。
積まれた藤の房を両手で掻き分け、竜久さんの身体が埋もれていたであろう部分を剥き出しにする蓮田。
「……」
散った花びらが敷き詰められている地面。それが露にされたその場所を、蓮田はただ無表情に見下ろしていた。
「……おいおい、いくらなんでもそんなとこに落としもんなんかあるわけねぇだろ? 何が目的なんだ?」
みんなが呆気に取られる中、最初に口を開いたのは昇さんだった。疑わしい視線を蓮田に送り、反応を窺っている。
「……もう、済みました」
下を向いたまま、蓮田はぽつりと呟く。
「あ?」
「ここへ来た用事は、果たしました。約束通り、車の中で待機しています」
一方的に淡々と告げると、少女は誰とも視線を交わすことなく車の方へと歩きはじめる。
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