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第三章:藤花に消えた死体
第三章:藤花に消えた死体 33
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「蓮田、ちょっと待てよ」
咄嗟に呼び止め、俺は後輩の背後に近づいていく。
「お前、何かを探しに来たんじゃなかったのか?」
「いえ……忘れものをしたとは言いましたが、探しものをしにとは言った覚えがありません」
こちらの問いに振り返りながら答え、蓮田は間近に立つ俺を直視してくる。
「忘れものって、あんな花の山ん中にか?」
「はい。さっき、竜久さんの死体を見つけたときには、あの中を確認することを忘れていたので、それで」
数秒間、俺は聞かされた言葉の意味を吟味する。
忘れものと言われたら大抵は何かを落としたとか、そんなことを思い浮かべるところだが。
「……ややこしい表現をするなよお前は」
うんざり気味に呻いて、息を漏らす。
だいたいにして、部外者の俺たちが死体遺棄現場をいじくり回して良いわけがない。
今後警察が介入してきた際には、ほぼ確実に何らかのとばっちりを受ける羽目になりそうだ。
「何だかよくわからないけど、用が済んだというなら早く車に戻っていてくれるかな?」
言ったのは、枝橋さんだった。
言いたいことがあるがひとまずは保留だと、こちらを見るその表情から伝わってくる。
まぁ、当然の流れだろうなと、自分の中で割り切った。
確実に説教をされるだろうし、今度は外出すら制限されてしまうかもしれない。
そうされても文句が言えないくらいのことをしてしまっているのだ。
「わかりました。その……本当にすみません」
睨む大人たちに頭を下げて、俺は蓮田を促し車へ歩きだす。
「……とりあえずよ、全員で一回この辺り探してみた方が良いんじゃねぇか? もし誰かが竜久の死体を持ち出したなら、まだ近くにいるか隠したかしてる可能性あるだろ?」
「確かに、一理あるな」
背後で昇さんと自警団の男たちがやり取りするのを聞きながら、無言で車まで戻り後ろへ乗り込む。
閉めきっておくのはさすがに暑いので、ドアは開けたままにした。
ミーティングをするように花房の前で話し合っていた大人たちが、解散するように散らばっていくのを確認する。
今しがた話し合っていた通り、周辺の捜索へ向かったと判断して良いだろう。
花房の前に残っているのは村長だけで、ぼんやりとした感じで蓮田が掻き乱した花房の山を見つめていた。
「しかしお前、何であんなことやったんだ? 叱られることわかってんだろ?」
村長の背中をしばし眺めてから、俺は隣に座る後輩へと意識を逸らした。
問われた本人は僅かに顔の向きを変え、よく見ないとわからないくらい微かに頷いた。
「……どうしても、あの花房の中を確かめておきたかったんです。気になることがあったものですから」
「気になること?」
何のことかと考えを巡らせてみるが、特に引っかかるようなビジョンは記憶にない。
「殺害された竜久さんはあの場所に運ばれ、何故か近くに咲いていた藤の房を被せられていました」
すぅ……っと村長のいる場所に指を向けながら、蓮田は涼しい声で言葉を紡ぎ出す。
「でも、今確認をしたときには何も無かった……」
温い風が、開け放したドアから車内に入り込む。蓮田のショートカットの髪が僅かに揺れた。
「そんなの、犯人が移動させたからだろ? 言いたいことがよくわかんねぇよ」
埋もれた死体が無くなった。そんなのは見た者全員がわかってることだ。
いちいち花房を掻き分けるまでもなく、確認できる。
「どうして、犯人は……」
「え?」
ぼそぼそと呟くように何かを喋ったようだが、あまりに小声過ぎて聞き取れない。
「……?」
それからしばらく反応を待つが、蓮田は俯いたまま黙り込む。
等身大の日本人形かと思わせるくらいに整ったその横顔からは、感情すら読み取ることはできず。
ただ薄く開かれた瞼から見える瞳だけが、時折微かな揺らめきを見せるだけだった。
咄嗟に呼び止め、俺は後輩の背後に近づいていく。
「お前、何かを探しに来たんじゃなかったのか?」
「いえ……忘れものをしたとは言いましたが、探しものをしにとは言った覚えがありません」
こちらの問いに振り返りながら答え、蓮田は間近に立つ俺を直視してくる。
「忘れものって、あんな花の山ん中にか?」
「はい。さっき、竜久さんの死体を見つけたときには、あの中を確認することを忘れていたので、それで」
数秒間、俺は聞かされた言葉の意味を吟味する。
忘れものと言われたら大抵は何かを落としたとか、そんなことを思い浮かべるところだが。
「……ややこしい表現をするなよお前は」
うんざり気味に呻いて、息を漏らす。
だいたいにして、部外者の俺たちが死体遺棄現場をいじくり回して良いわけがない。
今後警察が介入してきた際には、ほぼ確実に何らかのとばっちりを受ける羽目になりそうだ。
「何だかよくわからないけど、用が済んだというなら早く車に戻っていてくれるかな?」
言ったのは、枝橋さんだった。
言いたいことがあるがひとまずは保留だと、こちらを見るその表情から伝わってくる。
まぁ、当然の流れだろうなと、自分の中で割り切った。
確実に説教をされるだろうし、今度は外出すら制限されてしまうかもしれない。
そうされても文句が言えないくらいのことをしてしまっているのだ。
「わかりました。その……本当にすみません」
睨む大人たちに頭を下げて、俺は蓮田を促し車へ歩きだす。
「……とりあえずよ、全員で一回この辺り探してみた方が良いんじゃねぇか? もし誰かが竜久の死体を持ち出したなら、まだ近くにいるか隠したかしてる可能性あるだろ?」
「確かに、一理あるな」
背後で昇さんと自警団の男たちがやり取りするのを聞きながら、無言で車まで戻り後ろへ乗り込む。
閉めきっておくのはさすがに暑いので、ドアは開けたままにした。
ミーティングをするように花房の前で話し合っていた大人たちが、解散するように散らばっていくのを確認する。
今しがた話し合っていた通り、周辺の捜索へ向かったと判断して良いだろう。
花房の前に残っているのは村長だけで、ぼんやりとした感じで蓮田が掻き乱した花房の山を見つめていた。
「しかしお前、何であんなことやったんだ? 叱られることわかってんだろ?」
村長の背中をしばし眺めてから、俺は隣に座る後輩へと意識を逸らした。
問われた本人は僅かに顔の向きを変え、よく見ないとわからないくらい微かに頷いた。
「……どうしても、あの花房の中を確かめておきたかったんです。気になることがあったものですから」
「気になること?」
何のことかと考えを巡らせてみるが、特に引っかかるようなビジョンは記憶にない。
「殺害された竜久さんはあの場所に運ばれ、何故か近くに咲いていた藤の房を被せられていました」
すぅ……っと村長のいる場所に指を向けながら、蓮田は涼しい声で言葉を紡ぎ出す。
「でも、今確認をしたときには何も無かった……」
温い風が、開け放したドアから車内に入り込む。蓮田のショートカットの髪が僅かに揺れた。
「そんなの、犯人が移動させたからだろ? 言いたいことがよくわかんねぇよ」
埋もれた死体が無くなった。そんなのは見た者全員がわかってることだ。
いちいち花房を掻き分けるまでもなく、確認できる。
「どうして、犯人は……」
「え?」
ぼそぼそと呟くように何かを喋ったようだが、あまりに小声過ぎて聞き取れない。
「……?」
それからしばらく反応を待つが、蓮田は俯いたまま黙り込む。
等身大の日本人形かと思わせるくらいに整ったその横顔からは、感情すら読み取ることはできず。
ただ薄く開かれた瞼から見える瞳だけが、時折微かな揺らめきを見せるだけだった。
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