坂宮高校ミスオカ研の事件録~藤咲村の惨劇~

雪鳴月彦

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第四章:矛盾の解明

第四章:矛盾の解明 8

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 そう補足して笑いかけると、枝橋さんは真面目な表情のまま僅かに首肯してみせた。

「それでも、その蓮田って子が何を気にしているのかは興味があるな。後にでも是非話を聞きたいな」

「あー……まぁ、一応声はかけておきます。ただ、基本的に無口なんで、まともなコミュニケーションは難しいかもしれませんよ?」

「そんなこと構わないさ。相手に合わせたやり方で、話を聞き出せば良いだけだしね」

 こちらの忠告を一蹴し、枝橋さんは由奈さんへ向き直る。

「それじゃあ、異常がないならこれで失礼します。犯人がわかるまではなるべく一人で行動することがないよう、注意してください」

「はい、わかりました。ご苦労様です」

 由奈さんの返事を確認すると、枝橋さんは俺にも頷くような会釈を残して踵を返した。

 おそらく、村内に異変が起きていないか、見回りをしている最中だったのであろう。

 足早に去っていく元警察の背をしばらく眺めた後、俺は由奈さんへ疑問を投げかける。

「枝橋さんって、毎朝ここに通ってるんですか?」

「ん? 毎日じゃないけど、普段から定期的に来てるよ。今はこんなことになってるから、連日で顔出してくれてるけど」

 どこか疲れの滲む顔でそう答えると、由奈さんは腕時計を確認する。

「長沢くんは、こんな時間にどうしたの? まだ部屋で休んでても良いんだよ?」

「いやぁ、なんか部屋にいても息が詰まるんで。部長のこと起こしちゃっても悪いですしね」

「別に、あんなのに気を遣わなくても良いのに。て言うか、たまには無理矢理たたき起こして、身体を慣れさせるべきよ。低血圧だって言っても、動けないわけじゃないんだから」

「はぁ……」

 そういうものだろうかと若干疑問に感じたりもしたが、曖昧な返事をするだけに留めておく。

 低血圧になんかなったことがない自分には、共感も否定もしきれない内容だ。

「部屋に戻らないなら、管理室で休んでる? さすがに外を出歩く許可はあげられないし」

 わたし責任取れなくなっちゃうからと言って苦笑する部長の従姉に愛想笑いを返し、俺は素直に頷いた。

「はい、それじゃあ迷惑じゃなければ」

「今日はわたしも少し余裕あるし、一人にしたりはしないから安心してね」

 昨日のことを意識しているのか、管理室へ向かいかけた身体を一旦捻って振り返ると、由奈さんは優しく笑う。

「はい。渡辺さんは、食事の準備中ですよね?」

「うん、そう。流森さんは空き部屋の掃除担当の日になってる。わたしも後から手伝うけど」

「何か、面倒臭そうっすね。こんだけ広い建物の中を、数人だけで掃除とか」

 学校全体の掃除を、ほんの少人数でやらされているのと同じ意味だ。

 まともにやっていたら、一日かけたって終わらない作業ではないか。

「別に、毎回一気に全部やるわけじゃないから、それほど辛いわけでもないわよ。その日その日でやる場所を決めて、少しずつ進めていくの。じゃなきゃ、休む暇すら無くなっちゃうわ」

 横に並ぶ俺へ軽く肩を竦める素振りを見せると、由奈さんのウェーブした髪がふわりと揺れた。

「ですよね」

 それを横目で見ながら相槌を打ちつつ、今更ながらに思うことがあるのに気がついた。

 ――あまり、似てないんだな。

 部長と由奈さん。

 別に実の姉と弟ではないのだからそんなものなのかもしれないが、それにしても似通った部分が希薄だ。

「どうかしたの?」

 じっと見つめていたことに不信感を抱いたか、由奈さんは不思議そうに首を傾げ俺を見た。

「あ、いえ。部長と由奈さんって、あんまり似てないなと思って」

 正直に考えていたことを話すと、ほんの僅かに口元を歪めた由奈さんに、呆れたような息を漏らされた。

「あんなのと似てたら人生終わりでしょ。別に家族じゃないんだから、似てる必要もないと思うけど?」

 管理室のドアを開けて、由奈さんが先に中へ入る。

「いやぁ、従姉とかでも何となく雰囲気が似てる場合とかありません?」

「あー、否定はしないけど。わたしらには当てはまらない話だよ。あ、ドア閉めてね」

 部屋の奥へと向かいながら告げる由奈さんの言葉に従い、後ろ手にドアを閉める。

「コーヒー淹れるから、適当に座ってて」

「すみません。ありがとうございます」

 頷いて、手近なソファーへ腰かけると、俺は窓の外へと目をやった。

 ――今日はもう、何も起こらなきゃ良いんだけどな……。

 新緑が風にそよぐ平和な光景と室内に漂い始めたコーヒーの香りに、俺は少しばかり現実を忘れ、気分が和らぐような錯覚を覚えた。
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