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第四章:矛盾の解明
第四章:矛盾の解明 9
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【4】
小さな吐息をつき、枝橋は肩越しに藤美荘を振り向いた。
従業員の野島由奈と観光で来ている少年の姿は、ここから確認する限りもう見えない。
「……蓮田、か」
観光に来た学生メンバーの一人。整った顔立ちで可愛らしい印象はあったが、妙に無口で無感情なイメージもある少女だ。
事件について、何かを知っている風な説明をされたが、果たしてどんな情報を掴んでいるというのか。
時間ができたら、こちらから会いに行く必要があるかもしれない。
単なる杞憂で終わる話かもしれないが、万が一ということもあり得る。
「……」
ポケットに入れていた財布を取り出し、中から一枚の写真を抜き取る。
そこには穏やかに微笑んだ女性が写っており、こちらを優しく見つめている。
「万里絵……」
二年前の秋、この村でその短すぎる生涯を終えた最愛の妻。藤咲村へ引越してきて、たった半年後の出来事だった。
彼女が死ぬ間際に握りしめてきた手の温かさを思い出し、指先がじんとなる。
――約束は、果たさないといけない。
亡き妻へ誓ったあの想いを、ここで破ることなどできはしない。
「万里絵、必ず――」
「おい、直行! ちっと来てくれんか。またおかしなことが起きたかもしれん」
写真へと囁きかけたところへ男の声が割って入り、枝橋はハッとしたように顔を上げた。
しかめっ面で近づいてきているのは、今年五十を過ぎた自警団メンバーの一人だった。
持っていた写真を財布にしまい、さりげなくポケットへ戻す。
「どうしました、佐藤さん」
側で足を止めた相手を見つめて、声をかける。
「いやよ、今みんなで繁さん呼びに家に行ったんだけども、いねぇみたいなんだよ。千賀子さんとか、昇に訊いてもわからねぇ言うしよ。こんな時間から一人で行くような場所もねぇだろ?」
困惑気味に眉根を寄せ言ってくる佐藤に、枝橋も怪訝な表情で返す。
「確か、千賀子さんの側には誰か付き添わせていましたよね? その人たちも何も知らないと?」
「ああ。婆さん仲間が二人で一緒にいたらしいがわからんと。夜は繁さんが気を遣って別の部屋で寝てたらしいくてな、いつからいなくなったかも把握してないそうだ」
唸る相手に重々しく頷いて、枝橋は村長宅がある方向を一瞥する。
無論、そんな行為に意味はないしここからだと目的地が見えるわけでもないのだが、気分的なものかもしれないと胸中で自己判断を下す。
「一人で竜久さんを捜索しているとは思えないし、確かにおかしな。とりあえず、村長の家に行きましょう」
ありきたりな指示をだし、枝橋は男と並び歩きだす。
「まさかとは思うが、繁さんにまで何かあったとしたら……」
呻くように呟き、佐藤は枝橋を盗み見るように視線を向ける。
「何だかよぉ、呪われてるみてぇだよな」
「……」
突飛な発想をする男を一瞬だけ見返し、枝橋は黙ったまま足だけを動かす。
正直くだらないと思う。
呪いや祟りなど、この世にあるわけがない。
そんなものよりも確実な脅威となるのは、生きた人間の憎悪や殺意。
――それがわからなければ、自分の身なんて守れない。
そういったことは、おそらく自分が一番わかっている。
今までに何度も、身近なものとして触れてきたのだから……。
小さな吐息をつき、枝橋は肩越しに藤美荘を振り向いた。
従業員の野島由奈と観光で来ている少年の姿は、ここから確認する限りもう見えない。
「……蓮田、か」
観光に来た学生メンバーの一人。整った顔立ちで可愛らしい印象はあったが、妙に無口で無感情なイメージもある少女だ。
事件について、何かを知っている風な説明をされたが、果たしてどんな情報を掴んでいるというのか。
時間ができたら、こちらから会いに行く必要があるかもしれない。
単なる杞憂で終わる話かもしれないが、万が一ということもあり得る。
「……」
ポケットに入れていた財布を取り出し、中から一枚の写真を抜き取る。
そこには穏やかに微笑んだ女性が写っており、こちらを優しく見つめている。
「万里絵……」
二年前の秋、この村でその短すぎる生涯を終えた最愛の妻。藤咲村へ引越してきて、たった半年後の出来事だった。
彼女が死ぬ間際に握りしめてきた手の温かさを思い出し、指先がじんとなる。
――約束は、果たさないといけない。
亡き妻へ誓ったあの想いを、ここで破ることなどできはしない。
「万里絵、必ず――」
「おい、直行! ちっと来てくれんか。またおかしなことが起きたかもしれん」
写真へと囁きかけたところへ男の声が割って入り、枝橋はハッとしたように顔を上げた。
しかめっ面で近づいてきているのは、今年五十を過ぎた自警団メンバーの一人だった。
持っていた写真を財布にしまい、さりげなくポケットへ戻す。
「どうしました、佐藤さん」
側で足を止めた相手を見つめて、声をかける。
「いやよ、今みんなで繁さん呼びに家に行ったんだけども、いねぇみたいなんだよ。千賀子さんとか、昇に訊いてもわからねぇ言うしよ。こんな時間から一人で行くような場所もねぇだろ?」
困惑気味に眉根を寄せ言ってくる佐藤に、枝橋も怪訝な表情で返す。
「確か、千賀子さんの側には誰か付き添わせていましたよね? その人たちも何も知らないと?」
「ああ。婆さん仲間が二人で一緒にいたらしいがわからんと。夜は繁さんが気を遣って別の部屋で寝てたらしいくてな、いつからいなくなったかも把握してないそうだ」
唸る相手に重々しく頷いて、枝橋は村長宅がある方向を一瞥する。
無論、そんな行為に意味はないしここからだと目的地が見えるわけでもないのだが、気分的なものかもしれないと胸中で自己判断を下す。
「一人で竜久さんを捜索しているとは思えないし、確かにおかしな。とりあえず、村長の家に行きましょう」
ありきたりな指示をだし、枝橋は男と並び歩きだす。
「まさかとは思うが、繁さんにまで何かあったとしたら……」
呻くように呟き、佐藤は枝橋を盗み見るように視線を向ける。
「何だかよぉ、呪われてるみてぇだよな」
「……」
突飛な発想をする男を一瞬だけ見返し、枝橋は黙ったまま足だけを動かす。
正直くだらないと思う。
呪いや祟りなど、この世にあるわけがない。
そんなものよりも確実な脅威となるのは、生きた人間の憎悪や殺意。
――それがわからなければ、自分の身なんて守れない。
そういったことは、おそらく自分が一番わかっている。
今までに何度も、身近なものとして触れてきたのだから……。
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