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第五章:幕引きと抵抗
第五章:幕引きと抵抗 19
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瞬時に、桜へ向けられていた昇さんの目が千賀子さんを捉える。
「んだよ、ババァ。ここにきて説教でもするつもりか?」
「……違うの。昇、私はあなたに謝らなければいけません。あなたの人生をそこまで荒んだものにしてしまったのは、私のせいなのですから」
瞳いっぱいに涙を溜めて、千賀子さんは真っ直ぐに昇さんを見据える。
「あぁ? どういうことだ?」
「……あなたが両親だと思っていたあの二人、あの人たちはあなたの産みの親ではありません」
老婆の震える呟きが、室内を漂う。その声に耳を向けながら、俺たちはただ先の読めない展開を見物するのみ。
「あの二人は、あなたにとって叔父と叔母。そして、あなたの本当の両親は、私と繁信。……昇、あなたは私たちが里子に出してしまった息子なの」
ポカンと口を開け、千賀子さんを見る部長と、変わることなく無表情に昇さんを凝視している蓮田、そんな二人の先に立つ村長の妻が言った告白に、俺も意表を突かれた気持ちになった。
そしてそれは、言われた本人も同じだったのだろう。
「……てめぇ、何の話をしてるんだ?」
困惑、というよりも純粋な疑問か。
そんなものを表情に浮かべて、昇さんは千賀子さんに身体ごと向きを変えた。
「……あなたの父親代わりをしていた豊さんは、男性不妊を患っている人でした。それで、里美さんとの間に子供を授かることができなくて。それが原因で鬱病にすらなりかけていてね、それを知った主人が養子を貰ったらと提案をしたんです」
「それで、俺を出したってことか?」
冷めた目をする昇さんに曖昧に首を振り、千賀子さんは話を続ける。
「もちろん、始めからそんなこと考えていたわけではありません。普通に施設から引き取ればと思っての提案だったのだけど、豊さんが嫌だと。子供は欲しいけれど、他人の子を育てたいわけではないんだと言い張って。それで主人が持ちかけたのが、自分の子を提供するという話でした。ちょうど、あなたが生まれて二ヵ月が過ぎた時期でしたね」
何とも言えない空気が流れる室内に、千賀子さんのため息が混ざる。
「それじゃあ……昇さんが殺したのは、本当に血の繋がった家族?」
囁くように由奈さんが呟くと、千賀子さんは無言で首を縦に振った。
「正直、私は反対でしたけどね。どんな理由であれ、自分がお腹を痛めて産んだ子を手放すなんてしたくはなかった。それでも、手放してしまったのは私の弱さもあったのでしょう。子供を持てない豊さん夫婦の辛さもわかりましたし、赤の他人に渡すわけでもないという主人の説得に折れたわけですから」
老婆の目から零れた涙が、畳に落ちた。
「まさか、こんな悲劇に繋がるなんて思いもしなかった。全て親である私の責任……。私こそが、殺されるべきだったのでしょう」
「千賀子さん……」
かけるべき言葉も見つけられぬままに、枝橋さんが千賀子さんの肩に手を置いた。
誰であろうと、かける言葉などすぐには見つけられないだろう。
これは当事者でない者たちが、気安くどうこう言えるような軽い話ではない。
「村長が昇さんを引き取ったのは、それが理由だったのかな」
「んだよ、ババァ。ここにきて説教でもするつもりか?」
「……違うの。昇、私はあなたに謝らなければいけません。あなたの人生をそこまで荒んだものにしてしまったのは、私のせいなのですから」
瞳いっぱいに涙を溜めて、千賀子さんは真っ直ぐに昇さんを見据える。
「あぁ? どういうことだ?」
「……あなたが両親だと思っていたあの二人、あの人たちはあなたの産みの親ではありません」
老婆の震える呟きが、室内を漂う。その声に耳を向けながら、俺たちはただ先の読めない展開を見物するのみ。
「あの二人は、あなたにとって叔父と叔母。そして、あなたの本当の両親は、私と繁信。……昇、あなたは私たちが里子に出してしまった息子なの」
ポカンと口を開け、千賀子さんを見る部長と、変わることなく無表情に昇さんを凝視している蓮田、そんな二人の先に立つ村長の妻が言った告白に、俺も意表を突かれた気持ちになった。
そしてそれは、言われた本人も同じだったのだろう。
「……てめぇ、何の話をしてるんだ?」
困惑、というよりも純粋な疑問か。
そんなものを表情に浮かべて、昇さんは千賀子さんに身体ごと向きを変えた。
「……あなたの父親代わりをしていた豊さんは、男性不妊を患っている人でした。それで、里美さんとの間に子供を授かることができなくて。それが原因で鬱病にすらなりかけていてね、それを知った主人が養子を貰ったらと提案をしたんです」
「それで、俺を出したってことか?」
冷めた目をする昇さんに曖昧に首を振り、千賀子さんは話を続ける。
「もちろん、始めからそんなこと考えていたわけではありません。普通に施設から引き取ればと思っての提案だったのだけど、豊さんが嫌だと。子供は欲しいけれど、他人の子を育てたいわけではないんだと言い張って。それで主人が持ちかけたのが、自分の子を提供するという話でした。ちょうど、あなたが生まれて二ヵ月が過ぎた時期でしたね」
何とも言えない空気が流れる室内に、千賀子さんのため息が混ざる。
「それじゃあ……昇さんが殺したのは、本当に血の繋がった家族?」
囁くように由奈さんが呟くと、千賀子さんは無言で首を縦に振った。
「正直、私は反対でしたけどね。どんな理由であれ、自分がお腹を痛めて産んだ子を手放すなんてしたくはなかった。それでも、手放してしまったのは私の弱さもあったのでしょう。子供を持てない豊さん夫婦の辛さもわかりましたし、赤の他人に渡すわけでもないという主人の説得に折れたわけですから」
老婆の目から零れた涙が、畳に落ちた。
「まさか、こんな悲劇に繋がるなんて思いもしなかった。全て親である私の責任……。私こそが、殺されるべきだったのでしょう」
「千賀子さん……」
かけるべき言葉も見つけられぬままに、枝橋さんが千賀子さんの肩に手を置いた。
誰であろうと、かける言葉などすぐには見つけられないだろう。
これは当事者でない者たちが、気安くどうこう言えるような軽い話ではない。
「村長が昇さんを引き取ったのは、それが理由だったのかな」
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