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第五章:幕引きと抵抗
第五章:幕引きと抵抗 20
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「え?」
ぼそりと、独り言のように呻いた部長の声に、俺は反応を示す。
「いくらお人好しな性格だったとはいえ、おかしいなとは思ってたんだ。もう良い歳をした昇さんを、何故村長は自分の家へ引き取ったのか。もし、村長自身も昇さんを養子に出したことに負い目を感じてずっと生きてきていたとしたら、迎え入れる心境も理解はできる。自分の兄弟のことだし、村長は昇さんがどんな貧しい暮らしを強いられてきたかくらいは把握していたはずだ。となれば、心のどこかで申し訳がないと後悔してたとしても、不思議はないでしょ?」
「ああ……確かにそうっすね」
自分の判断で陥れてしまった不幸への罪滅ぼし。
それが息子ではなく甥っ子となった昇さんへの、村長なりの思いやりだったのか。
本人が亡くなった以上、真実を教えてもらうことはできないがたぶん間違いではないように思う。
――何だか……。
あまりにも、全てがやりきれない話ではないだろうか。
不妊という、どうしようもない悩みに直面した夫婦。
そんな兄弟を救おうとして差し伸べた手が、結局全てを壊し、取り返しのつかない破局を招いてしまった。
「……結局は、同じことか」
やれやれという風に肩を竦め、昇さんは唇を歪ませる。
「つまりは、お前らのせいで俺は一人、貧乏くじ引かされたわけだろ? てめぇらだけぬくぬくした生活おくって、俺は惨めに泥水飲まされてよ。どの道、生かしておく価値なんかありゃしねぇ奴らだったわけだ」
「――! 昇さん」
背中にでも隠していたか、昇さんはおもむろに後ろに手を回すと一本のナイフを取り出した。
きっと、絞殺した千賀子さんを刺すために用意していたものだろう。
慌てたように千賀子さんの前へ出た枝橋さんを、昇さんはじっと見つめる。
一触即発。そんな状況か。
そう思い、固唾を飲む一同の前で最初に動きを見せたのは、昇さんの方だった。
「お、おい……!」
切羽詰まった声を、渡辺さんが発した。
ナイフを握る昇さんが枝橋さんに飛び掛かり、腕を振り上げる。
それを受け止めようとしたのだろう。
身構えた元警官の一歩手前で、殺人犯は身体の向きを捻った。
「え……?」
反応の遅れた、桜の声。
「馬鹿が! 考えが単純なんだよ!」
方向を変えた昇さんの動きを、予測した者はいなかっただろう。
枝橋さんから軌道を変更した彼の先に立っていたのは、蓮田だった。
ナイフを持つのとは別の手で彼女の服を掴むと、昇さんはそのまま自分の元へと引きつける。
「ここまで追い詰められてよ、今更お前らを殺そうなんて考えるわけねぇだろうが」
してやったりの表情で告げる昇さんの腕の中で、蓮田は首にナイフを突きつけられ立ち尽くしていた。
その顔に焦りは窺えないが、かと言って打開策を閃いているとも思えない。
「乃亜ちゃん!」
慌てた桜の叫び声。
後輩の喉に当たるナイフの先端が薄皮を破いたか、蓮田の首から僅かに血が滲んできていた。
「昇さん、あんたいったいどうするつもりだ?」
慎重に、隙を探るようなニュアンスで枝橋さんが問いかける。
「決まってるだろ。このまま逃げてやるさ。どうせもう俺の計画は失敗だ。適当に逃げ延びて、海外に飛んでも良い。ここで黙って捕まっても、どうせ死刑になりそうだしな。やれるとこまで抵抗してやるよ」
ぼそりと、独り言のように呻いた部長の声に、俺は反応を示す。
「いくらお人好しな性格だったとはいえ、おかしいなとは思ってたんだ。もう良い歳をした昇さんを、何故村長は自分の家へ引き取ったのか。もし、村長自身も昇さんを養子に出したことに負い目を感じてずっと生きてきていたとしたら、迎え入れる心境も理解はできる。自分の兄弟のことだし、村長は昇さんがどんな貧しい暮らしを強いられてきたかくらいは把握していたはずだ。となれば、心のどこかで申し訳がないと後悔してたとしても、不思議はないでしょ?」
「ああ……確かにそうっすね」
自分の判断で陥れてしまった不幸への罪滅ぼし。
それが息子ではなく甥っ子となった昇さんへの、村長なりの思いやりだったのか。
本人が亡くなった以上、真実を教えてもらうことはできないがたぶん間違いではないように思う。
――何だか……。
あまりにも、全てがやりきれない話ではないだろうか。
不妊という、どうしようもない悩みに直面した夫婦。
そんな兄弟を救おうとして差し伸べた手が、結局全てを壊し、取り返しのつかない破局を招いてしまった。
「……結局は、同じことか」
やれやれという風に肩を竦め、昇さんは唇を歪ませる。
「つまりは、お前らのせいで俺は一人、貧乏くじ引かされたわけだろ? てめぇらだけぬくぬくした生活おくって、俺は惨めに泥水飲まされてよ。どの道、生かしておく価値なんかありゃしねぇ奴らだったわけだ」
「――! 昇さん」
背中にでも隠していたか、昇さんはおもむろに後ろに手を回すと一本のナイフを取り出した。
きっと、絞殺した千賀子さんを刺すために用意していたものだろう。
慌てたように千賀子さんの前へ出た枝橋さんを、昇さんはじっと見つめる。
一触即発。そんな状況か。
そう思い、固唾を飲む一同の前で最初に動きを見せたのは、昇さんの方だった。
「お、おい……!」
切羽詰まった声を、渡辺さんが発した。
ナイフを握る昇さんが枝橋さんに飛び掛かり、腕を振り上げる。
それを受け止めようとしたのだろう。
身構えた元警官の一歩手前で、殺人犯は身体の向きを捻った。
「え……?」
反応の遅れた、桜の声。
「馬鹿が! 考えが単純なんだよ!」
方向を変えた昇さんの動きを、予測した者はいなかっただろう。
枝橋さんから軌道を変更した彼の先に立っていたのは、蓮田だった。
ナイフを持つのとは別の手で彼女の服を掴むと、昇さんはそのまま自分の元へと引きつける。
「ここまで追い詰められてよ、今更お前らを殺そうなんて考えるわけねぇだろうが」
してやったりの表情で告げる昇さんの腕の中で、蓮田は首にナイフを突きつけられ立ち尽くしていた。
その顔に焦りは窺えないが、かと言って打開策を閃いているとも思えない。
「乃亜ちゃん!」
慌てた桜の叫び声。
後輩の喉に当たるナイフの先端が薄皮を破いたか、蓮田の首から僅かに血が滲んできていた。
「昇さん、あんたいったいどうするつもりだ?」
慎重に、隙を探るようなニュアンスで枝橋さんが問いかける。
「決まってるだろ。このまま逃げてやるさ。どうせもう俺の計画は失敗だ。適当に逃げ延びて、海外に飛んでも良い。ここで黙って捕まっても、どうせ死刑になりそうだしな。やれるとこまで抵抗してやるよ」
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