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第五章:幕引きと抵抗
第五章:幕引きと抵抗 22
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【8】
太陽が沈む前に距離を稼がなければ。
まずは逃げ切ること。その後の行動に関しては、まだ具体的な中身は何も浮かんでいない。
足場の悪い山中を急いでいる上に、少女を一人連れているせいでどうしてもスピードが出せない。
途中、地面から突き出す木の根につまづきそうになりつつ、必死に足を進める。
「くそっ、おい、もっとしっかり歩けや! モタついてんじゃねーよ!」
襟首を掴み乱暴に引きずっていた蓮田を振り返り、昇は一喝する。
こんな状況でも感情が薄い少女を睨み、舌打ちを鳴らす。
「こんなとこで終わってなんかいられねぇんだ。てめぇらみてぇなガキのせいで、何でこの俺がこんな目に……!」
毒づくように文句をこぼし、道なき山中を歩く。
自分が進む方角がどこへ通じているのか、どれくらいの時間で開けた場所に出られるのか。それすらもわからぬ強行軍だ。
ここに来て三年になるとは言え、こんな獣道とすら呼べない場所にまでの土地勘は昇にはない。
眼前に迫る枝葉を、ナイフを握る手で払う。
まだそれほどの移動をしていないにも関わらず噴き出す汗に、不快感を覚える。
考えてみれば、食料はおろか水すら持ってきていない。
山に自生する食べ物など専門外だし、調達する暇もあるかどうかだ。
そこで、昇はチラリと蓮田が手にしている黄色のポーチを盗み見た。
ずっと大事そうに持ち続けているので、それとなく気にはなっていたのだが。
――食い物の一つか、金くらいは入ってるか?
どうせ捨てるときには殺すつもりだ。使えそうな物を所持していれば、拝借しても構わないだろう。
そう判断を下して、昇は一旦足を止める。
それから、掴んでいる蓮田の服を捻じるように締め上げながら引き寄せると、間近で睨むように声をかけた。
「おい、気になったんだけどよ、その持ってるポーチは何が入ってる?」
目当てのポーチを顎で示しつつ訊ねる。
この少女の性格上、まともな返事が聞けるかは微妙だとは思ったが、まずこの憶測は当たった。
「……」
だんまりを決め込んだまま、蓮田は冷めた瞳を昇へ向けるだけ。
四人もの人間を殺した男に人質にされ、こんな山中に一人連れてこられているにも関わらず、怯えている気配すら感じない。
「金か食い物くらいは持ってんのか?」
相変わらず薄気味悪い奴だと胸中でぼやきながら、重ねて訊ねる。
それでも蓮田は口を開かず、フッと鼻から短い息を漏らしただけだった。
その、まるで面倒な相手を前にふて腐れているかのような態度に、昇の顔にイラつきが増す。
「おい、聞いてんのかよ? あんましふざけた態度とってんじゃねーぞ?」
さらに顔の間合いを詰めて、威嚇する。
それでも相手に変化のないことへ更なる不満もつのるが、それが噴き出すより僅かだけ早く、蓮田の口が小さく動いた。
「……可哀そうな人」
「あ?」
「あなたは、可哀そうで、哀れです。ここまできて、それが自覚できませんか?」
唐突に喋り出した少女の台詞に、昇は訝しげに目を細め意図を探るように黙り込む。
太陽が沈む前に距離を稼がなければ。
まずは逃げ切ること。その後の行動に関しては、まだ具体的な中身は何も浮かんでいない。
足場の悪い山中を急いでいる上に、少女を一人連れているせいでどうしてもスピードが出せない。
途中、地面から突き出す木の根につまづきそうになりつつ、必死に足を進める。
「くそっ、おい、もっとしっかり歩けや! モタついてんじゃねーよ!」
襟首を掴み乱暴に引きずっていた蓮田を振り返り、昇は一喝する。
こんな状況でも感情が薄い少女を睨み、舌打ちを鳴らす。
「こんなとこで終わってなんかいられねぇんだ。てめぇらみてぇなガキのせいで、何でこの俺がこんな目に……!」
毒づくように文句をこぼし、道なき山中を歩く。
自分が進む方角がどこへ通じているのか、どれくらいの時間で開けた場所に出られるのか。それすらもわからぬ強行軍だ。
ここに来て三年になるとは言え、こんな獣道とすら呼べない場所にまでの土地勘は昇にはない。
眼前に迫る枝葉を、ナイフを握る手で払う。
まだそれほどの移動をしていないにも関わらず噴き出す汗に、不快感を覚える。
考えてみれば、食料はおろか水すら持ってきていない。
山に自生する食べ物など専門外だし、調達する暇もあるかどうかだ。
そこで、昇はチラリと蓮田が手にしている黄色のポーチを盗み見た。
ずっと大事そうに持ち続けているので、それとなく気にはなっていたのだが。
――食い物の一つか、金くらいは入ってるか?
どうせ捨てるときには殺すつもりだ。使えそうな物を所持していれば、拝借しても構わないだろう。
そう判断を下して、昇は一旦足を止める。
それから、掴んでいる蓮田の服を捻じるように締め上げながら引き寄せると、間近で睨むように声をかけた。
「おい、気になったんだけどよ、その持ってるポーチは何が入ってる?」
目当てのポーチを顎で示しつつ訊ねる。
この少女の性格上、まともな返事が聞けるかは微妙だとは思ったが、まずこの憶測は当たった。
「……」
だんまりを決め込んだまま、蓮田は冷めた瞳を昇へ向けるだけ。
四人もの人間を殺した男に人質にされ、こんな山中に一人連れてこられているにも関わらず、怯えている気配すら感じない。
「金か食い物くらいは持ってんのか?」
相変わらず薄気味悪い奴だと胸中でぼやきながら、重ねて訊ねる。
それでも蓮田は口を開かず、フッと鼻から短い息を漏らしただけだった。
その、まるで面倒な相手を前にふて腐れているかのような態度に、昇の顔にイラつきが増す。
「おい、聞いてんのかよ? あんましふざけた態度とってんじゃねーぞ?」
さらに顔の間合いを詰めて、威嚇する。
それでも相手に変化のないことへ更なる不満もつのるが、それが噴き出すより僅かだけ早く、蓮田の口が小さく動いた。
「……可哀そうな人」
「あ?」
「あなたは、可哀そうで、哀れです。ここまできて、それが自覚できませんか?」
唐突に喋り出した少女の台詞に、昇は訝しげに目を細め意図を探るように黙り込む。
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