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第五章:幕引きと抵抗
第五章:幕引きと抵抗 26
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全員で、それを覗き込む。
「うわぁ、綺麗な人」
桜の言う通り、そこには優しい微笑を浮かべる女性が一人写されていた。
「妻の万里絵だよ。ここへ引っ越してきてすぐに他界したんだ」
「……何かあったんですか?」
僅かにずれた眼鏡を指で押し上げながら、部長が訊ねた。
「……病気だったんだ。この村に来たときには、既に手遅れな状態だった。というより、手遅れだったからこそ、ここへ引っ越してきたと言うべきかな」
写真に写る奥さんを指先で優しく撫でながら、枝橋さんは呟く。
「医者に余命を告げられて、妻が望んだのは静かな場所で残りの時間を過ごしたいということだった。もともと、都会が嫌いな性格だったんだけど、自分の仕事に合わせて我慢してくれていたみたいで」
「それじゃあ、枝橋さんがここに来たのは奥さんの願いを叶えるために?」
初耳だったのか、由奈さんが意外そうな様子でそう問いを口にした。
「うん。ここまでずっと尽くしてくれていたから、残された最後の時間ぐらいは彼女のために全て使いたいと思ってね」
蔵の方から、警察官同士のやり取りが聞こえる。そちらをチラリと見やってから、枝橋さんは話を続けた。
「村に来て四ヵ月は過ぎた頃かな。万里絵の容体が急変してしまってね。病院に行っても、付け焼刃な処置しかしてもらえないことは二人とも知っていたし、妻も望んでいなかったから。最後の瞬間まで一緒に側にいようと話し合って、今の家で最期を看取ったよ。そのとき言われたんだ。わたしがこれから眠るこの村を、最後に生きたこの場所を、どうか貴方に守ってほしい。そうすれば、わたしは安心して眠っていられるからって。……だから自分は、この藤咲村を一生をかけて守ろうと誓ったんだ。でも、駄目だった。こんな体たらくな結果を出してしまっては、万里絵に顔向けもできないよ」
情けないな、本当に。
そう付け加え息を吐く枝橋さんを、俺は黙って見つめていた。
慰めや同情の言葉をかけたいが、俺なんかじゃ荷が重すぎる。
「……きっと、奥さんは許してくれてますよ。枝橋さん、頑張ってたじゃないですか。奥さんが最後に託した意味って、そういうことだと思います。同じ女の勘ですけど」
俺たちの代わりに、由奈さんがそう答えた。
枝橋さんは、それに何かを返すことはしなかったが、かわりにどこか寂しげな様子で微笑みを浮かべてみせた。
しばらくの間落ち着いた沈黙が続き、なんとなしに周囲を眺めていた桜が梅木家の方へ顔を戻す。
「……あれ、千賀子さんだ」
きょとんとしたような幼なじみの声につられて見ると、家の玄関を出た千賀子さんが、こちらへ向かって歩いてくるのが確認できた。
相変わらず顔色は悪く、足取りもおぼつかない。それでも真っ直ぐにこちらへ来ると、俺たちの前で立ち止まった。
「千賀子さん、休んでいなくて大丈夫なんですか?」
心配するように、枝橋さんが声をかける。
「ええ、昨夜は少し眠れましたから。それよりも、ちょうど良かった。みなさんに会いに行こうとしていたところでしたので」
にこりと笑い、千賀子さんは俺たちミスオカ研メンバーを見回す。
「僕たちに、ですか?」
自分の顔を指差しながら部長が言うと、千賀子さんは静かに頷いた。
「うわぁ、綺麗な人」
桜の言う通り、そこには優しい微笑を浮かべる女性が一人写されていた。
「妻の万里絵だよ。ここへ引っ越してきてすぐに他界したんだ」
「……何かあったんですか?」
僅かにずれた眼鏡を指で押し上げながら、部長が訊ねた。
「……病気だったんだ。この村に来たときには、既に手遅れな状態だった。というより、手遅れだったからこそ、ここへ引っ越してきたと言うべきかな」
写真に写る奥さんを指先で優しく撫でながら、枝橋さんは呟く。
「医者に余命を告げられて、妻が望んだのは静かな場所で残りの時間を過ごしたいということだった。もともと、都会が嫌いな性格だったんだけど、自分の仕事に合わせて我慢してくれていたみたいで」
「それじゃあ、枝橋さんがここに来たのは奥さんの願いを叶えるために?」
初耳だったのか、由奈さんが意外そうな様子でそう問いを口にした。
「うん。ここまでずっと尽くしてくれていたから、残された最後の時間ぐらいは彼女のために全て使いたいと思ってね」
蔵の方から、警察官同士のやり取りが聞こえる。そちらをチラリと見やってから、枝橋さんは話を続けた。
「村に来て四ヵ月は過ぎた頃かな。万里絵の容体が急変してしまってね。病院に行っても、付け焼刃な処置しかしてもらえないことは二人とも知っていたし、妻も望んでいなかったから。最後の瞬間まで一緒に側にいようと話し合って、今の家で最期を看取ったよ。そのとき言われたんだ。わたしがこれから眠るこの村を、最後に生きたこの場所を、どうか貴方に守ってほしい。そうすれば、わたしは安心して眠っていられるからって。……だから自分は、この藤咲村を一生をかけて守ろうと誓ったんだ。でも、駄目だった。こんな体たらくな結果を出してしまっては、万里絵に顔向けもできないよ」
情けないな、本当に。
そう付け加え息を吐く枝橋さんを、俺は黙って見つめていた。
慰めや同情の言葉をかけたいが、俺なんかじゃ荷が重すぎる。
「……きっと、奥さんは許してくれてますよ。枝橋さん、頑張ってたじゃないですか。奥さんが最後に託した意味って、そういうことだと思います。同じ女の勘ですけど」
俺たちの代わりに、由奈さんがそう答えた。
枝橋さんは、それに何かを返すことはしなかったが、かわりにどこか寂しげな様子で微笑みを浮かべてみせた。
しばらくの間落ち着いた沈黙が続き、なんとなしに周囲を眺めていた桜が梅木家の方へ顔を戻す。
「……あれ、千賀子さんだ」
きょとんとしたような幼なじみの声につられて見ると、家の玄関を出た千賀子さんが、こちらへ向かって歩いてくるのが確認できた。
相変わらず顔色は悪く、足取りもおぼつかない。それでも真っ直ぐにこちらへ来ると、俺たちの前で立ち止まった。
「千賀子さん、休んでいなくて大丈夫なんですか?」
心配するように、枝橋さんが声をかける。
「ええ、昨夜は少し眠れましたから。それよりも、ちょうど良かった。みなさんに会いに行こうとしていたところでしたので」
にこりと笑い、千賀子さんは俺たちミスオカ研メンバーを見回す。
「僕たちに、ですか?」
自分の顔を指差しながら部長が言うと、千賀子さんは静かに頷いた。
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