電子探偵イデア~殺意に染まる白銀~

雪鳴月彦

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プロローグ

プロローグ 8

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「えー、何だろうこれ。美少女育成ゲームみたいなやつ? オタク男子向け?」

 左右に首を動かし、様々な角度からその立体少女を眺めていた奈子が、面白がるようにそんな呟きを漏らした瞬間。

 薄く目を開き俯きがちだった少女の顔が突然スゥッと動いたかと思うと、間近にある奈子とその人工的な視線を交わらせた。

「うおっ、動いた。てかこっち見た!」

 それに対して、喜ぶような反応を返す奈子であったが、

「……今の貴女の発言を否定するわ。私は育成ゲームのキャラクターなんかじゃない。私はイデア。疑似人格を搭載した、人工知能。貴女たちが普段使う言葉で略すなら、AI。貴女が、マスターの娘で良いのかしら?」

 その立体映像――イデアという名らしい――は、奈子のリアクションには構うことなくそう告げて微かに首を傾げる仕草をしてみせてきた。

「え? すご……喋ったよこれ。へぇ、会話できるんだ。マスターって何? イデアちゃん」

「マスターは、望月 廉。私を創りあげた本人」

「え? これ希のお父さんが作ったの? すっご! プログラマーじゃん」

 イデアの返答を聞いて、更にテンションを上げる奈子を、あたしは苦笑しながら一瞥する。

「AI作る人ってプログラマーなの? あたしそういうのさっぱりわかんないから」

「わたしも知らない。でも、そんな感じじゃん。イメージ的に。英語ばっかのパソコン画面操作してるんじゃない?」

「うーん、どうだろ。お父さんの仕事、本当にわかんないし」

 答えてから、あたしは改めて手にした電子機器へ目を向ける。

 画面から飛び出すイデアの、薄い緑色をした瞳がこちらを見つめていた。

「……貴女が、望月 希さん?」

「う、うん。どうしてあたしの名前を知ってるの?」

 自分の父親が作ったから。単純にわかる問いではあったけれど、他に気の利いた言葉も思い浮かばず、あたしは取りあえずそんなことを訊ねてみる。

「マスターが私の中に貴女の情報を組み込んでいるから。私が創られたのは、貴女のため。貴女が暇をしないように務めろと、プログラムの中に書き込まれてるの」

「何じゃそりゃ……。希のお父さん、才能の無駄遣いしてると思うよ絶対。娘に構ってあげられない、父親なりの愛?」

 イデアの返答を聞いて、ガクッと肩をずっこけさせる真似をする奈子にあたしもやや呆れた心地で頷く。

「娘一人のためにこんなすごい技術の機械作る暇があったら、仕事に集中すれば良いのにね」

「あんたは仕事すらしてないから、そんなこと言えた身分じゃないけどね」

「……奈子、あんたコロコロ態度変えすぎ」

 おどけた態度を一変させ揚げ足を取ってくる友人に、冷めた口調で突っ込みをいれ、あたしはイデアを少しだけ顔に近づけた。

「何か、色々訊きたいことはあるんだけど、取りあえずこの……あなたの収まってる機械の名前は何て呼べば良いの?」

 漠然と電子機器なんて呼び方を続けるのも微妙なので、まずはそこを訊いてみる。
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