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第二章:救助を待つ
第二章:救助を待つ 7
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もっとも、ただのバイトであれば一日くらいは大抵融通が利くだろうし、どんなに時間がかかるとしても明後日までには除雪だって終えると思う。
上手くいけば、名取さんが作るあの美味しい料理がもう一日楽しめるかもしれないのだから、この事態を知ったら奈子は喜ぶことも考えられるくらいだ。
「そう、なら良いけれど。今現在、私はこの地域の気象情報や交通状況をリサーチすることができなくなっているから、万が一何かしらの問題が発生していても教えてあげることができないわ。その固定電話が命綱になるのなら、オーナーや従業員の指示には注意深く意識を向けるようにするべきね」
「うん、それくらいはわかってるよ。イデア、何かたまに親みたいなこと言うよね」
「そう?」
「じゃなきゃ、学校の先生みたい。引率の」
真面目にアドバイスみたいなことを告げてくるイデアに、ちょっとだけおかしくなりながらあたしが笑うと、イデアはまたコトリと小首を傾げる仕草を作った。
「電話、終わりましたので、次の方どうぞ」
イデアと会話をしているうちに、沢岸さんが連絡を済ませてこちらへと歩み寄ってきた。
「ああ、じゃあ望月さんお先にどうぞ」
隣であたしたちのやり取りを面白そうに眺めていた岩瀬さんが、レディーファーストですとでも言うかのような動作で右腕を前へ差し出し、お先にと示してくる。
「あ、ありがとうございます。すぐに済ませますので」
お言葉に甘えるかたちでお礼を言い、あたしは速足で電話の元へ行きお母さんの携帯番号を入力した。
受話器の奥で呼び出し音が鳴り響き、十秒ほどの時間を置いて聞き慣れた声が聞こえてきた。
『はい、望月ですが……』
見覚えのない番号からの通知が、こんな早朝からかかってきては警戒をするのも当然だろう。
お母さんの声は、普段なら絶対に聞く機会がないような強張った気配を滲ませていた。
「あ、おはようお母さん。あたしだけど」
そんなお母さんの警戒には特に気遣うこともせず、あたしはいつも通りの調子で話しかけた。
『あら、こんな早い時間に何? 寂しくなった?』
「違うし。あのさ、無事にペンションに着いて一泊したんだけど、大雪振っちゃって。そのせいで……かどうかはまだ不明だけど、何か今朝からスマホの電波が入らなくなっちゃってるんだよね。だから、もしあたしに連絡あるときはスマホにメールしたりしても見れないから、それだけ一応伝えておこうかなと思って」
朝っぱらからふざけたことを言ってくるお母さんを軽くいなし、あたしは端的に用件を伝える。
『えー? 大変そうね。そう言えば、確かにそっちの方はまとまった雪が降るみたいなこと昨日天気予報で言ってたような気がするわ。予定は? ちゃんと明日には帰ってこれそうなの?』
「うーん、どうだろう。ちょっと待って」
一瞬考えを巡らせるも、今のあたしに適当な答えを返すだけの判断材料がないことに思い至り、あたしは一度受話器から耳を離し側で待っていた沢岸さんを振り返った。
「あの、除雪の業者さんって、来てくれることになったんですか? あたしたち明日には帰る予定ですけど、大丈夫でしょうかね?」
上手くいけば、名取さんが作るあの美味しい料理がもう一日楽しめるかもしれないのだから、この事態を知ったら奈子は喜ぶことも考えられるくらいだ。
「そう、なら良いけれど。今現在、私はこの地域の気象情報や交通状況をリサーチすることができなくなっているから、万が一何かしらの問題が発生していても教えてあげることができないわ。その固定電話が命綱になるのなら、オーナーや従業員の指示には注意深く意識を向けるようにするべきね」
「うん、それくらいはわかってるよ。イデア、何かたまに親みたいなこと言うよね」
「そう?」
「じゃなきゃ、学校の先生みたい。引率の」
真面目にアドバイスみたいなことを告げてくるイデアに、ちょっとだけおかしくなりながらあたしが笑うと、イデアはまたコトリと小首を傾げる仕草を作った。
「電話、終わりましたので、次の方どうぞ」
イデアと会話をしているうちに、沢岸さんが連絡を済ませてこちらへと歩み寄ってきた。
「ああ、じゃあ望月さんお先にどうぞ」
隣であたしたちのやり取りを面白そうに眺めていた岩瀬さんが、レディーファーストですとでも言うかのような動作で右腕を前へ差し出し、お先にと示してくる。
「あ、ありがとうございます。すぐに済ませますので」
お言葉に甘えるかたちでお礼を言い、あたしは速足で電話の元へ行きお母さんの携帯番号を入力した。
受話器の奥で呼び出し音が鳴り響き、十秒ほどの時間を置いて聞き慣れた声が聞こえてきた。
『はい、望月ですが……』
見覚えのない番号からの通知が、こんな早朝からかかってきては警戒をするのも当然だろう。
お母さんの声は、普段なら絶対に聞く機会がないような強張った気配を滲ませていた。
「あ、おはようお母さん。あたしだけど」
そんなお母さんの警戒には特に気遣うこともせず、あたしはいつも通りの調子で話しかけた。
『あら、こんな早い時間に何? 寂しくなった?』
「違うし。あのさ、無事にペンションに着いて一泊したんだけど、大雪振っちゃって。そのせいで……かどうかはまだ不明だけど、何か今朝からスマホの電波が入らなくなっちゃってるんだよね。だから、もしあたしに連絡あるときはスマホにメールしたりしても見れないから、それだけ一応伝えておこうかなと思って」
朝っぱらからふざけたことを言ってくるお母さんを軽くいなし、あたしは端的に用件を伝える。
『えー? 大変そうね。そう言えば、確かにそっちの方はまとまった雪が降るみたいなこと昨日天気予報で言ってたような気がするわ。予定は? ちゃんと明日には帰ってこれそうなの?』
「うーん、どうだろう。ちょっと待って」
一瞬考えを巡らせるも、今のあたしに適当な答えを返すだけの判断材料がないことに思い至り、あたしは一度受話器から耳を離し側で待っていた沢岸さんを振り返った。
「あの、除雪の業者さんって、来てくれることになったんですか? あたしたち明日には帰る予定ですけど、大丈夫でしょうかね?」
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