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第二章:救助を待つ
第二章:救助を待つ 39
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あたしも会話に参加しながら、いくつも並ぶスイッチを見ていると、全て同じ温度に設定されているのもわかった。
各スイッチの上にはシールが貼られ、『ダイニング』や『客室一』等、該当する場所であろう名前が記されている。
「そうですねぇ、確かに安くはありません。でも、暖房は冬場だけで、夏はエアコンがなくてもこの辺りは涼しいですから。ありがたいことに、季節を問わず年中お客さんも来てくれていることもありまして、どうにかやっていけてます」
「へぇ……夏が涼しいのはちょっと羨ましいかも」
あたしの家は、クーラーなしではとてもじゃないけど耐えられない。
冷静に考えてみたら、あの暑さの中にP.Uを放置したらイデアも壊れてしまうのではなかろうか。
「希、電話線を見せてもらって」
つい半年先の心配をしてしまうあたしの耳に、イデアが淡々と指示を放り込んでくる。
「あ、うん。すみません、ちょっとだけ確認させてもらいます」
「はい。どうぞお願いします」
本気でイデアが直してくれると思っているのか、オーナーは迷惑そうな様子は微塵も見せずに対応をしてくれる。
ありがたいと思う気持ちと騙しているという罪悪感が脳内で陣取り合戦をしている間に、あたしは固定電話の側へ移動し朝と同じように受話器を耳に当ててみた。
「……何にも聞こえない」
ポチポチと番号のボタンを押したりもしてみるが、受話器は反応を一切返してはこなかった。
「そちら、電話が置いてある台の右側を見てください。そこが切れてしまってるんです」
背後に控えるオーナーに言われて、あたしはイデアにも見えるようP.Uを前にかざしながら台の右手を覗き込む。
「あ……本当だ。完全に切れちゃってますね」
電話から伸びる細いコードは、邪魔にならないようにだろう、等間隔で壁に固定されながら近くにある棚の裏まで続いていた。
しかし、その途中から何か刃物で切断したかのように分断され、断面が僅かに垂れ下がってしまっている。
「……切断面を見る限り、間違いなく人為的に切られているわね。偶然何かに引っかけて千切れたとか、劣化による破損という可能性はあり得ないわ」
医者が患者のカルテを眺めているような真面目な顔で、イデアが小声で呟く。
「じゃあ、やっぱりこのペンションにいる誰かの仕業ってこと?」
あたしも声を抑え、囁くようにイデアへ問いかける。
「ええ。そう考えて問題ないと思うわ」
誰かが意図的に、電話線を切断した。
この切断された場所を見る限り、間違えて――ナイフやカッターをうっかりぶつけてみたいな――切ってしまうようなシチュエーションもあり得ないだろう。
「……一応訊くけど、イデアこれ直せる?」
「無理ね。私にそんな機能はないわ」
「だよね」
オーナーを騙した手前、あわよくば嘘を本当にできないかと望みを託してみたが、無慈悲に叩き落とされてしまった。
「えっと、すみません。イデアを使って調べてみましたけど、完全に線が切れてしまっているので、さすがに専門の業者を頼らないとどうしようもないみたいです」
各スイッチの上にはシールが貼られ、『ダイニング』や『客室一』等、該当する場所であろう名前が記されている。
「そうですねぇ、確かに安くはありません。でも、暖房は冬場だけで、夏はエアコンがなくてもこの辺りは涼しいですから。ありがたいことに、季節を問わず年中お客さんも来てくれていることもありまして、どうにかやっていけてます」
「へぇ……夏が涼しいのはちょっと羨ましいかも」
あたしの家は、クーラーなしではとてもじゃないけど耐えられない。
冷静に考えてみたら、あの暑さの中にP.Uを放置したらイデアも壊れてしまうのではなかろうか。
「希、電話線を見せてもらって」
つい半年先の心配をしてしまうあたしの耳に、イデアが淡々と指示を放り込んでくる。
「あ、うん。すみません、ちょっとだけ確認させてもらいます」
「はい。どうぞお願いします」
本気でイデアが直してくれると思っているのか、オーナーは迷惑そうな様子は微塵も見せずに対応をしてくれる。
ありがたいと思う気持ちと騙しているという罪悪感が脳内で陣取り合戦をしている間に、あたしは固定電話の側へ移動し朝と同じように受話器を耳に当ててみた。
「……何にも聞こえない」
ポチポチと番号のボタンを押したりもしてみるが、受話器は反応を一切返してはこなかった。
「そちら、電話が置いてある台の右側を見てください。そこが切れてしまってるんです」
背後に控えるオーナーに言われて、あたしはイデアにも見えるようP.Uを前にかざしながら台の右手を覗き込む。
「あ……本当だ。完全に切れちゃってますね」
電話から伸びる細いコードは、邪魔にならないようにだろう、等間隔で壁に固定されながら近くにある棚の裏まで続いていた。
しかし、その途中から何か刃物で切断したかのように分断され、断面が僅かに垂れ下がってしまっている。
「……切断面を見る限り、間違いなく人為的に切られているわね。偶然何かに引っかけて千切れたとか、劣化による破損という可能性はあり得ないわ」
医者が患者のカルテを眺めているような真面目な顔で、イデアが小声で呟く。
「じゃあ、やっぱりこのペンションにいる誰かの仕業ってこと?」
あたしも声を抑え、囁くようにイデアへ問いかける。
「ええ。そう考えて問題ないと思うわ」
誰かが意図的に、電話線を切断した。
この切断された場所を見る限り、間違えて――ナイフやカッターをうっかりぶつけてみたいな――切ってしまうようなシチュエーションもあり得ないだろう。
「……一応訊くけど、イデアこれ直せる?」
「無理ね。私にそんな機能はないわ」
「だよね」
オーナーを騙した手前、あわよくば嘘を本当にできないかと望みを託してみたが、無慈悲に叩き落とされてしまった。
「えっと、すみません。イデアを使って調べてみましたけど、完全に線が切れてしまっているので、さすがに専門の業者を頼らないとどうしようもないみたいです」
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