電子探偵イデア~殺意に染まる白銀~

雪鳴月彦

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第四章:謎を解く

第四章:謎を解く 22

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「――父さんの葬儀が終わってすぐ、瀬里夏は精神病院に入院しました。最初は母さんの家へ預かることになったんですけど、父さんの死を目の当たりにしてから情緒が不安定になってしまい、突然泣き出したり夜中に叫び声をあげて混乱したように狼狽うろたえたりと、そんな症状が毎日続いて。母さんも一人じゃ手に負えなかった」

 ポツポツと、協会の告解室で懺悔する信者のように、沢岸さんは自分の身に振りかかった惨劇へのきっかけを語り続け、あたしやオーナーたちはそれを口を挟むこともできずにただ黙って聞いていた。

「それでも、二ヶ月くらいの入院でそれなりに落ち着きを取り戻して、以前みたいに、普通に会話をできるまでには回復したんです。だから、先生たちも母さんも僕も……皆が油断した。これで、少なくとも瀬里夏だけは元に戻れる、全てじゃなくても当たり前の日常を少しずつでも取り戻していく最低限の準備はできたんだと、勝手に決めつけて安堵してしまったんです」

 感情を押し殺すようにして話していた沢岸さんの顔が、不意にぐにゃりと歪んだ。

「……その瀬里夏さんも、亡くなったのね?」

 誰もが口を挟めない雰囲気の中で、イデアだけが空気を読むこともなく平然と問いを投げかける。

「そう。退院して、たった一週間後。朝、母親がバスルームを覗くと、切った手首を湯船につけて、浴槽にもたれかかるように座りながら死んでる瀬里夏を発見したんです。その日はちょうど、僕も母親の家に泊まりに来ていたから……妹の中から溢れた血で赤くなったあの湯船は、今でも忘れられない」

 イデアを見つめながら答えた沢岸さんは、震えるような深いため息を漏らした。

「今でも、浴槽を見ると身体が震える。蓋を開けたら、あの赤い水がそこにあるんじゃないかって想像してしまうんです」

 泣き笑いに近い、歪んだ笑みを口元にだけ浮かべそう付け加え、沢岸さんはスッと西山さんへ身体の向きを変える。

 怯えるような短い声を漏らし、西山さんが身を竦ませた。

「……冷たかったよ。人間じゃないみたいに」

 そんな西山さんを凝視したまま、沢岸さんは感情が抜け落ちたような声で話しかけた。

「バスルームで抱き締めた瀬里夏の身体は、本当に冷たかった。その身体を抱きながら、僕があんたらにどれほどの憎しみを膨らませたかわかるか? 僕の家族とその居場所を根こそぎぶち壊しておきながら、ヘラヘラして生きてるあんたらを見る度、何度衝動的に殺してしまいそうになったか……気づいてもいなかっただろ」

「ち、違うの。あれは、彩也子さんに指示されて仕方なくしていただけで、自殺まで追い詰めるつもりなんか私にはなかったわ。和江さんを仲間外れにして追い込めば、土地の引き渡しにも有利になるかもしれないって、だから協力するように頼まれて、私は仕方なく――」

「仕方なくであんたは人を殺すのか!!」

 わなわなと両手を震わせながら弁明をする西山さんを、沢岸さんが怒声をあげて一喝する。

「和江さんの葬式のときも、父さんの葬式でも、あんたらは口先の謝罪すらしなかった。それどころか、葬儀をしてるすぐ外で矢津たちとニタニタしながら雑談までしてただろ。全部、僕は見てたぞ。こいつらが父さんたちを殺した奴らかと思いながらな」
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