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第四章:謎を解く
第四章:謎を解く 25
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真剣な面持ちでイデアの話を聞いていた沢岸さんは、呻くような声でそう呟き、右手の平で顔を覆った。
「あくまで憶測よ。私にもそこまでを見極める情報は持ち合わせていないから。……それと最後にもう一つ、訊きたいことがあるわ」
背を丸めるようにして項垂れる沢岸さんをあくまで平静な表情で見やりながら、イデアは更に問いを重ねていく。
「あなたが今回復讐を計画していた理由は理解したけれど、動機を聞いた限りでは殺害した二人と西山さんだけでなく、町長も復讐の対象に含まれていなくてはおかしいのではないかしら。どうして、一人だけ見逃すような計画を立てたの?」
「あ、それわたしも途中で気になった。沢岸さんの言うことが本当なら、その町長だって同罪じゃんって」
ずっと大人しく話を聞いていた奈子が、少しだけ身を乗り出すようにして言葉を挟んでくる。
「それはもちろん、町長だって憎んでいるよ。だけど、あいつだけは仕事があるせいかこのペンションには顔を出さないからね。どうしてもまとめて始末することが不可能だったんだ。だから、せめて三人だけでもこの手で殺して、僕は警察に捕まるつもりだった。そこで動機を告白すれば、町長のしていたことも明るみになって、社会的地位を崩してやることもできるだろうって思ってね」
言って、沢岸さんはまた西山さんを横目で睨む。
「殺された人間が政界の関係者となれば、少しくらいは世間でも取り上げてくれるかもしれない。そこで更に僕が全てをぶちまければあんたら夫婦も無傷じゃ済まない。下手すれば、僕の知らない他の不祥事まで明るみにされて、一生人前を歩けなくなるかもな」
「…………」
何も言い返せず、絶句したように固まっている西山さんを、イデア以外の全員が何とも言えない表情で見つめたタイミングで、オーナーがダイニングへと駆け戻ってきた。
「皆さん、電波が繋がりました! 今、警察の方にも連絡を入れましたので、今日中には救助が到着するはずです」
若干興奮したように告げてくるオーナーの言葉を聞いて、あたしは即座にスマホを取り出しネットに接続できるかを確かめる。
「……あ、本当だ。ちゃんと使える」
まるで今まで何事もなかったかのように、あっさりとトップページを表示したスマホ画面に安堵しつつ、あたしは試すようにそのままいくつかのサイトへアクセスした。
「P.Uの機能も、問題なく回復したわ。今日一日、この周辺の天候は安定して晴れるみたいだから、これ以上雪が積もる心配はなさそうね」
テーブルの上で自分の機能を確認していたらしい、イデアも淡々とした口調で告げてくる。
他の人たちも、それぞれ自分のスマホを手にして操作をしながら、どこかほっとした様子を滲ませていた。
「――皆さん」
これで本当に助かる。
ほんの少しだけ、そんな空気に包まれかけたダイニングに、沢岸さんの呼びかける声が響いた。
ハッとしたように全員がそちらを向けば、沢岸さんはいつの間にか立ち上がり、あたしたちへ深々と頭を下げる姿を晒していた。
「今回は、皆さんをこんなことに巻き込んでしまい、すみませんでした。オーナーたちには、ここを復讐の場に利用したせいでこの後も迷惑をかけてしまうし、望月さんや岩瀬さんたちも、せっかく遠方から遊びに来てくれたのに、大切な休暇を台無しにしてしまった。本当に、すみませんでした」
突然の謝罪に誰もが反応できずにいる中、唯一言葉を返したのはオーナーだった。
「やってしまったことは仕方がない……なんて言葉では到底許されることじゃないが、しっかり罪を償ってきなさい。亡くなった家族のためにも。本当なら、こんな馬鹿みたいなことをせず、沢岸くん自身が幸せに生きることが何より一番のはずだったんだから」
静かに沢岸さんの側へ近づき、オーナーはその肩へ優しく手を添える。
「…………」
頭を下げたままの沢岸さんは、オーナーのかける言葉には無言のまま小さく頷き、何かを堪えるように微かに身体を震わせていた。
「あくまで憶測よ。私にもそこまでを見極める情報は持ち合わせていないから。……それと最後にもう一つ、訊きたいことがあるわ」
背を丸めるようにして項垂れる沢岸さんをあくまで平静な表情で見やりながら、イデアは更に問いを重ねていく。
「あなたが今回復讐を計画していた理由は理解したけれど、動機を聞いた限りでは殺害した二人と西山さんだけでなく、町長も復讐の対象に含まれていなくてはおかしいのではないかしら。どうして、一人だけ見逃すような計画を立てたの?」
「あ、それわたしも途中で気になった。沢岸さんの言うことが本当なら、その町長だって同罪じゃんって」
ずっと大人しく話を聞いていた奈子が、少しだけ身を乗り出すようにして言葉を挟んでくる。
「それはもちろん、町長だって憎んでいるよ。だけど、あいつだけは仕事があるせいかこのペンションには顔を出さないからね。どうしてもまとめて始末することが不可能だったんだ。だから、せめて三人だけでもこの手で殺して、僕は警察に捕まるつもりだった。そこで動機を告白すれば、町長のしていたことも明るみになって、社会的地位を崩してやることもできるだろうって思ってね」
言って、沢岸さんはまた西山さんを横目で睨む。
「殺された人間が政界の関係者となれば、少しくらいは世間でも取り上げてくれるかもしれない。そこで更に僕が全てをぶちまければあんたら夫婦も無傷じゃ済まない。下手すれば、僕の知らない他の不祥事まで明るみにされて、一生人前を歩けなくなるかもな」
「…………」
何も言い返せず、絶句したように固まっている西山さんを、イデア以外の全員が何とも言えない表情で見つめたタイミングで、オーナーがダイニングへと駆け戻ってきた。
「皆さん、電波が繋がりました! 今、警察の方にも連絡を入れましたので、今日中には救助が到着するはずです」
若干興奮したように告げてくるオーナーの言葉を聞いて、あたしは即座にスマホを取り出しネットに接続できるかを確かめる。
「……あ、本当だ。ちゃんと使える」
まるで今まで何事もなかったかのように、あっさりとトップページを表示したスマホ画面に安堵しつつ、あたしは試すようにそのままいくつかのサイトへアクセスした。
「P.Uの機能も、問題なく回復したわ。今日一日、この周辺の天候は安定して晴れるみたいだから、これ以上雪が積もる心配はなさそうね」
テーブルの上で自分の機能を確認していたらしい、イデアも淡々とした口調で告げてくる。
他の人たちも、それぞれ自分のスマホを手にして操作をしながら、どこかほっとした様子を滲ませていた。
「――皆さん」
これで本当に助かる。
ほんの少しだけ、そんな空気に包まれかけたダイニングに、沢岸さんの呼びかける声が響いた。
ハッとしたように全員がそちらを向けば、沢岸さんはいつの間にか立ち上がり、あたしたちへ深々と頭を下げる姿を晒していた。
「今回は、皆さんをこんなことに巻き込んでしまい、すみませんでした。オーナーたちには、ここを復讐の場に利用したせいでこの後も迷惑をかけてしまうし、望月さんや岩瀬さんたちも、せっかく遠方から遊びに来てくれたのに、大切な休暇を台無しにしてしまった。本当に、すみませんでした」
突然の謝罪に誰もが反応できずにいる中、唯一言葉を返したのはオーナーだった。
「やってしまったことは仕方がない……なんて言葉では到底許されることじゃないが、しっかり罪を償ってきなさい。亡くなった家族のためにも。本当なら、こんな馬鹿みたいなことをせず、沢岸くん自身が幸せに生きることが何より一番のはずだったんだから」
静かに沢岸さんの側へ近づき、オーナーはその肩へ優しく手を添える。
「…………」
頭を下げたままの沢岸さんは、オーナーのかける言葉には無言のまま小さく頷き、何かを堪えるように微かに身体を震わせていた。
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