電子探偵イデア~殺意に染まる白銀~

雪鳴月彦

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 一月二十八日。

 ペンションでの惨劇から、約一週間が過ぎた日曜日。

 あたしは時計の針が十時半を差すのを確認して、モソモソと布団から起きだした。

 充電していたP.Uを手に取り、寝ぼけてふらつく足取りのままリビングへと向かう。

「あら、おはよう。ご飯用意してないから、今朝はパンでも焼いて食べてね」

「うん」

 あたしに気づいたお母さんが、弄っていたスマホから顔を上げてお気楽な口調で話しかけてきたので、テンションの低いリアクションを返しながら洗面所へ向かう。

 歯を磨いて顔を洗い、若干眠気を退治しながら台所へ入ると、トースターに食パンを一枚セットし牛乳を温めてリビングへと戻る。

「その顔は、また夜更かししてたでしょ? 睡眠はちゃんと取らないと、肌が荒れるわよ」

「別に良いよ。肌見せる相手もいないし」

 正面に座ったあたしを見て、呆れたように声をかけるお母さんに、ため息混じりの返事をしながらジャムを塗ったパンを齧る。

 それから、ポケットに入れていたP.Uを起動させテーブルへ置き、牛乳を一口啜った。

 暫しの間を空けて、P.Uからもはや見慣れたイデアの姿が浮かび上がる。

「おはよう、希。明子あきこさんも、今日はお休みなのね」

 二日酔いのOLみたいなテンションでパンを口へ運ぶあたしと、対称的なまでに元気なお母さんへ順番に視線を巡らせ、イデアはコトリと首を傾げてみせてきた。

「おはよう、イデア。今日は日曜日だから、お母さんも休みだよ」

「そう。身体を休ませるのは大切なことだわ」

 どうでも良いことみたいに言ったあたしの言葉に、どこかずれた返答をするイデアをおかしそうに眺め、お母さんは手にしていたスマホをあたしたちへ向けてきた。

「今ニュースの記事読んでたんだけど、あなたたちが解決した事件かなり大事になってるみたいね」

「え?」

 何だろうと訝しみつつ、見せられた画面を覗き込むと、逮捕された沢岸さんの証言をきっかけに西山さん夫婦の悪事が色々と露呈し、結構な問題になっている記事が書かれていた。

 沢岸さんの家族を巻き込んだ件の他にも、矢津さんの指示で何かしらの不正をしていたようで、任意での取り調べを受けることになりそうな展開となっているらしい。

 町長としての活動も続けることは困難になるだろうなと、政治や時事ネタに疎いあたしにも容易に汲み取ることができた。

「……沢岸さんの言ってた通りになりそう」

 ここまでくれば、もはや西山さん夫婦に言い逃れをする手段はほぼないだろうし、今後は今までのように平穏な生活はできなくなるはずだ。

 このままいけば、沢岸さんの復讐は成功することになるのだろう。

「沢岸って人、お母さんも新聞とかで読んだけど、苦労人だったみたいね。まだ若いのに、可哀想って思っちゃったわ」

 哀れみを含んだ呟きを漏らし、お母さんはスマホを引っ込める。

 イデアが謎を解き明かしたあの日、結局あたしと奈子はその日のうちに家へ帰ることは叶わなかった。

 まず除雪に時間がかかり救助が到着したのが午後を過ぎてしまっていたこと。

 そして、案の定と言うべきか警察に事情聴取を受けることとなり、それが思いのほか時間を取られてしまったのが主な原因だった。

 警察の人たちとの会話で一番困ったのがイデアの説明で、機械のプログラムが謎を解いたと言っても理屈を説明できないし、イデアを呼び出して自分で説明させるというのも客観的に見てシュールな気がしてしまい――それと、ふざけていると思われてしまう可能性があるなと思い怖気づいたのもある――、どうにか自分が偶然真相に気がついたということにして話をしておいた。

 今後またお話を聞かせてもらうことがあるかもしれないと言われ、実際に二度警察が来て簡単な確認をされたりもしながら今日に至っているが、今後もいつまでこういう状況が続くのかわからないのが憂鬱の種となっている。

「でも、考えてみるとイデアすごいよね。哲平さんが殺された後、リビングを一緒に調べたときにドアに死体をくっ付けるトリックに気がついたわけでしょ。部屋の中を適当に歩いてとか、意味わかんないことお願いしてきたの、あれ暖房の温度と風向きチェックするためだったなんて想像もしてなかったよ。正直、ふざけてるのかなとか思いそうになってた」

「別に言う必要がないと思ったから。それに、証拠がいつも目に見える物ばかりとは限らないものよ。温度や臭いにも、ヒントはあるわ。もっとも。私には臭いを嗅ぎ分ける機能はないけれどね」
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