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出会い
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「……」
言葉を失い、俺は絶句する。
「いくら何でも、他人のプライバシーまで覗き見するほど落ちぶれていないわ。どうかな? あたしの言うこと、理解してもらえた?」
かざした手のひらを静かに下ろし、サクラは笑う。
もはや完全に意味不明な展開に俺が口をつぐんだままでいると、サクラはまだこちらが疑っていると思ったのか、すぐに笑みを引っ込め焦れったそうに鼻から息をついた。
「まだ説明が足りない? もしあたしの正体を疑ってるなら、目に見える証拠も見せてあげるけど」
「え――?」
突然俺の腕を掴み、強引に部屋の外へと連れ出そうとするサクラ。
本当に、この細い腕のどこにこんな力があるのか。足がもつれそうになりながら、踏み止まることもできず通路へ戻された。
パッと手を放し、くるりとこちらへ振り向いたサクラの顔は、勝ち気な笑みを浮かべている。
月明かりに照らされて始めてちゃんと認識できたことだが、彼女の着ていた服は何というか真っ黒いキャミソールのような物に見えた。
詳しくはないが、西洋風の人形が着ていそうなイメージの服。ゴシック、ゴスロリ、そんな言葉が一瞬脳裏に浮かぶ。
「あたしが言ってること、これで証明できるかな?」
言いながら、サクラはそっと胸の前で両手を組む。そして、そのまま静かに目を瞑り、祈るようなポーズをとった。
瞬間――。
「――!」
すぐ近くで風が舞い上がるような不思議な感覚を覚え、俺は反射的に目を閉じてしまう。
同時に、バサリッという鳥が羽ばたくような、大きな音が間近で聞こえた。
いったい何事かと恐る恐る目を開くと、黒い羽根が一枚、ヒラヒラと鼻先を掠めて落ちていくのが目にとまる。
「どう? これであたしの言うこと信じてもらえる?」
「え……?」
問われて、足元へ落ちた羽根から顔を上げると、そこには背中に大きな黒翼を広げたサクラの姿があった。
バサリともう一度音を立てて翼を動かしながら、誇らしそうにこちらを見つめ返してきている。
「嘘……だろ?」
呆然となりながら呟く。
「嘘なんかじゃないよ。ちゃんと本物でしょ?」
言って、上半身を捻って背中を見せるサクラ。
露出している肩口から生えるようにくっついているその翼は、顔を近づけて眺めても偽物とは思えないリアルさだった。
と言うより、これは本物にしかみえない。
ハリウッド映画で施すような特殊メイクやCGだというのなら納得しても良いが、そんな技術をこの少女が持っているわけがないし、いきなり翼が出てきた説明もつかない。
――何だよ、これ……。
俺は罰ゲームでぬいぐるみを取りに来ただけだったはずだ。それが、何をどう間違って、こんな事態になってしまったのか。
路上生活者が住み着いていたなら、まだわかる。警備員に見つかって補導されるのも、まぁありきたりな話だろう。幽霊でも現れて壁をすり抜けて行くくらいなら、怪談話のネタにもなったかもしれない。
だけど、この目の前の少女はそのどれでもない。
いきなり人を引き倒し、記憶を読み取り、あまつさえ羽根まで生やしてしまった。
デモン。
本人はそう名乗った。素直に受け止めれば、悪魔。
それなら、黒い翼もあることだろう。
だけど――。
夜の廃墟で悪霊ならぬ悪魔――しかも翼が無ければ、見た目は普通の女の子だ――に出会うことになるなんて、誰が想像できる?
ましてや、頭の中読まれた挙げ句に助けまで求められちまうとか。
さすがにもうどうすれば良いのかわからなくなる俺を、サクラは期待するような目で見つめ返してきている。
果たしてそこにどれほどの期待をしているのか知る由もないが、ただの高校生にすぎない俺にいったいどうしろというつもりなのだろう。
ただ、漠然とではあるが、たった今自分は引き返すことのできない面倒事に巻き込まれてしまったのではないかと、そんなことを頭の隅で感じ取っていた。
そしてそれが間違いや勘違いなどではないことを、この先俺は痛感する羽目になる。
とまぁ、これが俺とサクラが始めて出会ったときの出来事である。
今から約一ヶ月半前の夏の夜。この日から、俺の人生はほんの僅かずつ狂いだし始めたんだ――。
言葉を失い、俺は絶句する。
「いくら何でも、他人のプライバシーまで覗き見するほど落ちぶれていないわ。どうかな? あたしの言うこと、理解してもらえた?」
かざした手のひらを静かに下ろし、サクラは笑う。
もはや完全に意味不明な展開に俺が口をつぐんだままでいると、サクラはまだこちらが疑っていると思ったのか、すぐに笑みを引っ込め焦れったそうに鼻から息をついた。
「まだ説明が足りない? もしあたしの正体を疑ってるなら、目に見える証拠も見せてあげるけど」
「え――?」
突然俺の腕を掴み、強引に部屋の外へと連れ出そうとするサクラ。
本当に、この細い腕のどこにこんな力があるのか。足がもつれそうになりながら、踏み止まることもできず通路へ戻された。
パッと手を放し、くるりとこちらへ振り向いたサクラの顔は、勝ち気な笑みを浮かべている。
月明かりに照らされて始めてちゃんと認識できたことだが、彼女の着ていた服は何というか真っ黒いキャミソールのような物に見えた。
詳しくはないが、西洋風の人形が着ていそうなイメージの服。ゴシック、ゴスロリ、そんな言葉が一瞬脳裏に浮かぶ。
「あたしが言ってること、これで証明できるかな?」
言いながら、サクラはそっと胸の前で両手を組む。そして、そのまま静かに目を瞑り、祈るようなポーズをとった。
瞬間――。
「――!」
すぐ近くで風が舞い上がるような不思議な感覚を覚え、俺は反射的に目を閉じてしまう。
同時に、バサリッという鳥が羽ばたくような、大きな音が間近で聞こえた。
いったい何事かと恐る恐る目を開くと、黒い羽根が一枚、ヒラヒラと鼻先を掠めて落ちていくのが目にとまる。
「どう? これであたしの言うこと信じてもらえる?」
「え……?」
問われて、足元へ落ちた羽根から顔を上げると、そこには背中に大きな黒翼を広げたサクラの姿があった。
バサリともう一度音を立てて翼を動かしながら、誇らしそうにこちらを見つめ返してきている。
「嘘……だろ?」
呆然となりながら呟く。
「嘘なんかじゃないよ。ちゃんと本物でしょ?」
言って、上半身を捻って背中を見せるサクラ。
露出している肩口から生えるようにくっついているその翼は、顔を近づけて眺めても偽物とは思えないリアルさだった。
と言うより、これは本物にしかみえない。
ハリウッド映画で施すような特殊メイクやCGだというのなら納得しても良いが、そんな技術をこの少女が持っているわけがないし、いきなり翼が出てきた説明もつかない。
――何だよ、これ……。
俺は罰ゲームでぬいぐるみを取りに来ただけだったはずだ。それが、何をどう間違って、こんな事態になってしまったのか。
路上生活者が住み着いていたなら、まだわかる。警備員に見つかって補導されるのも、まぁありきたりな話だろう。幽霊でも現れて壁をすり抜けて行くくらいなら、怪談話のネタにもなったかもしれない。
だけど、この目の前の少女はそのどれでもない。
いきなり人を引き倒し、記憶を読み取り、あまつさえ羽根まで生やしてしまった。
デモン。
本人はそう名乗った。素直に受け止めれば、悪魔。
それなら、黒い翼もあることだろう。
だけど――。
夜の廃墟で悪霊ならぬ悪魔――しかも翼が無ければ、見た目は普通の女の子だ――に出会うことになるなんて、誰が想像できる?
ましてや、頭の中読まれた挙げ句に助けまで求められちまうとか。
さすがにもうどうすれば良いのかわからなくなる俺を、サクラは期待するような目で見つめ返してきている。
果たしてそこにどれほどの期待をしているのか知る由もないが、ただの高校生にすぎない俺にいったいどうしろというつもりなのだろう。
ただ、漠然とではあるが、たった今自分は引き返すことのできない面倒事に巻き込まれてしまったのではないかと、そんなことを頭の隅で感じ取っていた。
そしてそれが間違いや勘違いなどではないことを、この先俺は痛感する羽目になる。
とまぁ、これが俺とサクラが始めて出会ったときの出来事である。
今から約一ヶ月半前の夏の夜。この日から、俺の人生はほんの僅かずつ狂いだし始めたんだ――。
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