桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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一抹の不安

一抹の不安

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 どう返せば良いのかわからずに、俺は中途半端に言葉を飲み込む。

 来年の春じゃ見られない。

 それは即ち、昨夜の件に関して桜の中で一つの答えが出た、ということなのだろう。

 事実、その直感を裏付けるように桜は申し訳なさそうな堅い笑みをこちらへ向け、小さな唇をゆっくりと動かした。

「あたしは今夜、あの男の人に会いに行くよ。いつまでも記憶無くしたままじゃ嫌だし、元の世界に帰る方法やあたしがこっちに来た理由が何なのかも、はっきりさせたいって気持ちがやっぱり強いから」

「……」

 予想はしていた。桜は絶対にこういう決断を下すだろうと。

 記憶を無くした日から今日まで、ずっとこういった機会が訪れるのを待っていたのだ。それをみすみす逃すなんて、普通はあるはずがない。

 だけど。

 脳が慌てだすことのないよう一度短く息を吐き、俺は呻くように声を捻り出す。

「お前の気持ちはわかるし、言ってることも理解できるよ。でもよ、大丈夫なのか? あの片桐ってやつ、得体が知れないじゃねぇか」

「うん、それはそうだけどね。でも、だからってここで背中を向けても、何にも得られるものがないでしょ? あの人がいったいどんな事を考えてるのかはわからないけど、もう一度会って話を聞いてみないと」

「そんな簡単な話か? あいつはお前に情報を与える代わりに、命を奪おうとしてくるかもしんねぇんだぞ?」

 これが一番肝心な部分だ。相手が無償で桜に関わる情報を提供してくれるのなら、何ら問題なんてない。むしろ、喜ばしいことだと思う。

 しかし、現実はそうはならなかった。

「もし、奴がお前を本気で消すつもりだったら、どうするつもりなんだ? 理由はわからねぇけど、あっちにはお前の能力は通用しないんだぜ?」

「その時は、戦うしかない……のかな。記憶を操作できなくても、まともに勝負したらあたしの方が強いし」

 強張った表情をちょっとだけ緩ませ、桜は胸を張ってみせた。

「いやいや、そりゃお前が強いのは認めるけど、普通に勝てる相手か? 精霊呼び出したり変な能力使ってくるような化け物だぞ」

 桜の能力が通じない以上、必然的に肉弾戦へ持ち込むしか倒す術がないのだろうが、いかんせん相手は一人とは言えない。

 昨夜見たアスカとか言う精霊はもとより、他にどんな化け物を呼び出してくるのか想像がつかない。

「できるならもう少しあいつの情報を掴んで、それから行動する方が無難だと思うんだけどよ……」

「それでチャンスを逃したら、本末転倒ってなっちゃうよ。大丈夫、仮にあの人と戦うことになってもあたしは負けない自信があるから。大体、どうしてあの人があたしを消そうとしてるのかはわからないけど、こっちだって素直にやられようなんて思うわけないでしょう?」

「それはそうだけど……」

「あの人の持つ情報は全部手に入れる。そんでもって、あたしは無事に生還。これ以外の結果になんて辿り着く可能性はゼロだよゼロ」

「……」

 こういう自信過剰なところは今回も健在か。そんな心境で桜に視線を返していると、不意にその目元に陰りが差した。

「ただ、そうなった場合、雄治ともお別れしなきゃいけなくなるかもね」

 そこで俺は思い至る。
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