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第一章:偽りの招待状
偽りの招待状 7
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「ほぉ……そんな特異な症状があるとは知らなかった。きみも、色々と大変そうだな」
貴道さんがきちんと理解してくれた側かはわからないけど、一応の納得はしてくれたようで神妙な様子で相槌を打ちお兄ちゃんを観察する。
「特に大変な思いをした覚えはない。それよりも、あんたが言った創作料理を食べに来たとはどういうことだ?」
次は自分が質問をする番だと言うように、お兄ちゃんは貴道さんの顔を見つめ返す。
「ん? ああ、そりゃあ招待状にあった通りさ。フランスの有名シェフ、アスラン・ボタの未発表オリジナル作だ。実に楽しみじゃないか」
浮かれたような貴道さんの言葉を聞いて、あたしたち兄妹はほんのちょっとの間だけ視線を交わし合う。
葵さんに続いて、この貴道さんも絵馬さんとは別の理由でここへと呼ばれてる。
これが一体何を意味するのか。テーマパークのモニターとボランティアのシンポジウムに、新作料理の食事会。
そんなに多彩なイベントが、本当にこんな島で行われるのか疑問が湧き上がる。
「……すまない。一つ確認したいんだが」
そう言って、お兄ちゃんが声をかけたのは船を操縦してきた佐竹さん。
「はい、何でしょう?」
「この島には、オレたちの他に誰か来ているのか?」
「ああ……二日くらい前に、男性の方が一人。私と同じくらいの年代の人だったかなぁ。物静かで、上品な人でしたよ」
「……他には?」
「いやぁ、私が知る限りではその人だけですよ。みなさん以外にこの島へ来る予定の客もいないはずでしたが……。何か、問題でもありましたか?」
きょとんとしてお兄ちゃんを見つめ返す佐竹さんの様子に、嘘や冗談を言っている気配はない。
「いや、何でもない。気になっただけだ」
「はぁ……」
声をかけておきながらお礼も言わず、そのまま背を向けてしまったお兄ちゃんの代わりに頭を下げてから、あたしはたしなめようと横へ並ぶように移動する。
「……妙だな」
だけど、あたしが口を開くよりも一瞬早く、お兄ちゃんは深刻そうな呻きを漏らした。
「え? 何?」
「この島では、これからいくつもの催しが開かれることになっている。にも関わらず、ここへ来ているのはオレたちと二日先に上陸しているという謎の男一人のみ。この後に別の客が訪れる予定もないと言っていたが、これではあまりにもメンバーが少なすぎないか? あの船を運転していた男はこのまま引き返すと出発前に言っていたから除外すると、今この島には謎の男を含めて十一人だけ。その内の二人、オレたちは招かれる予定のない存在。つまり、元々ここには九人の人間しか集まる予定がなかったことになる」
ジッと前方を見つめたまま告げるお兄ちゃんの台詞に、あたしは僅かに首を傾げる仕草をする。
「元々住んでる人もいるんじゃないの? 使用人とか、調理師みたいなさ。お金持ちの家なら、そういうのがいてもおかしくなさそうなイメージがあるけど」
「確かに、その可能性はあるだろう。しかし、それでもたかが知れている。そういう連中は客ではないし、イベントに参加する側でもないはずだ。モニター、シンポジウム、食事会、最低でも三つのイベントを開くのに、客がこれだけでは成り立たないだろう。今、貴道という男が言っていたフランスの料理人だって、ここで暮らしているわけはない。何か、情報に矛盾を感じる」
「あー……そっか。言われてみれば確かに」
「だがまぁ、ひとまず着くべき所に着けばはっきりはするだろう。ちょうど迎えも来たみたいだしな」
「迎え?」
何のことかと下げかけていた顔を前に戻すと、鬱蒼とした木々に囲まれた、おそらくは島の奥へと続くのであろう細い道から一人の老人が姿を見せていることに気がついた。
「ねぇ、誰かしらあの人」
側に寄ってきた絵馬さんが、訝しそうに口を開いてくる。
六十代くらいの、細身の男性。
貴道さんがきちんと理解してくれた側かはわからないけど、一応の納得はしてくれたようで神妙な様子で相槌を打ちお兄ちゃんを観察する。
「特に大変な思いをした覚えはない。それよりも、あんたが言った創作料理を食べに来たとはどういうことだ?」
次は自分が質問をする番だと言うように、お兄ちゃんは貴道さんの顔を見つめ返す。
「ん? ああ、そりゃあ招待状にあった通りさ。フランスの有名シェフ、アスラン・ボタの未発表オリジナル作だ。実に楽しみじゃないか」
浮かれたような貴道さんの言葉を聞いて、あたしたち兄妹はほんのちょっとの間だけ視線を交わし合う。
葵さんに続いて、この貴道さんも絵馬さんとは別の理由でここへと呼ばれてる。
これが一体何を意味するのか。テーマパークのモニターとボランティアのシンポジウムに、新作料理の食事会。
そんなに多彩なイベントが、本当にこんな島で行われるのか疑問が湧き上がる。
「……すまない。一つ確認したいんだが」
そう言って、お兄ちゃんが声をかけたのは船を操縦してきた佐竹さん。
「はい、何でしょう?」
「この島には、オレたちの他に誰か来ているのか?」
「ああ……二日くらい前に、男性の方が一人。私と同じくらいの年代の人だったかなぁ。物静かで、上品な人でしたよ」
「……他には?」
「いやぁ、私が知る限りではその人だけですよ。みなさん以外にこの島へ来る予定の客もいないはずでしたが……。何か、問題でもありましたか?」
きょとんとしてお兄ちゃんを見つめ返す佐竹さんの様子に、嘘や冗談を言っている気配はない。
「いや、何でもない。気になっただけだ」
「はぁ……」
声をかけておきながらお礼も言わず、そのまま背を向けてしまったお兄ちゃんの代わりに頭を下げてから、あたしはたしなめようと横へ並ぶように移動する。
「……妙だな」
だけど、あたしが口を開くよりも一瞬早く、お兄ちゃんは深刻そうな呻きを漏らした。
「え? 何?」
「この島では、これからいくつもの催しが開かれることになっている。にも関わらず、ここへ来ているのはオレたちと二日先に上陸しているという謎の男一人のみ。この後に別の客が訪れる予定もないと言っていたが、これではあまりにもメンバーが少なすぎないか? あの船を運転していた男はこのまま引き返すと出発前に言っていたから除外すると、今この島には謎の男を含めて十一人だけ。その内の二人、オレたちは招かれる予定のない存在。つまり、元々ここには九人の人間しか集まる予定がなかったことになる」
ジッと前方を見つめたまま告げるお兄ちゃんの台詞に、あたしは僅かに首を傾げる仕草をする。
「元々住んでる人もいるんじゃないの? 使用人とか、調理師みたいなさ。お金持ちの家なら、そういうのがいてもおかしくなさそうなイメージがあるけど」
「確かに、その可能性はあるだろう。しかし、それでもたかが知れている。そういう連中は客ではないし、イベントに参加する側でもないはずだ。モニター、シンポジウム、食事会、最低でも三つのイベントを開くのに、客がこれだけでは成り立たないだろう。今、貴道という男が言っていたフランスの料理人だって、ここで暮らしているわけはない。何か、情報に矛盾を感じる」
「あー……そっか。言われてみれば確かに」
「だがまぁ、ひとまず着くべき所に着けばはっきりはするだろう。ちょうど迎えも来たみたいだしな」
「迎え?」
何のことかと下げかけていた顔を前に戻すと、鬱蒼とした木々に囲まれた、おそらくは島の奥へと続くのであろう細い道から一人の老人が姿を見せていることに気がついた。
「ねぇ、誰かしらあの人」
側に寄ってきた絵馬さんが、訝しそうに口を開いてくる。
六十代くらいの、細身の男性。
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