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第一章:偽りの招待状
偽りの招待状 6
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チャーター船が船着き場に到着したのは、十時四十五分ちょうど。
佐竹と名乗った船の操縦をしていたおじいさんに、荷物を降ろすのを手伝ってもらいながら陸へと足を付けたあたしは、ぐるりと周囲を見回してため息をついた。
「うわぁ……島だ。本当に」
「当たり前のことを言ってないで、早く進んでくれ。後ろがつかえてる」
この世に生まれて十九年。人生初の孤島上陸に感動するあたしの背中を、お兄ちゃんの手が無慈悲に押してくる。
「ちょっと、そんなに押さないでよ。危ないなぁ」
不満の声を漏らしながら、それでもお兄ちゃんの言うことに従い素直に前方へ移動し砂浜へ足跡をつけた。
「はっはっは。仲が良いねぇ。まさかこんな若い子たちまで招待されているとは意外だったなぁ」
お兄ちゃんのすぐ後ろについて歩いてきていた中年のおじさんが、あたしたち二人のやり取りを温和な笑みを浮かべて見つめる。
「きみたちは学生かい? こんな会に呼ばれて来るくらいだから、将来は調理師でも目指しているのかな」
恰幅の良い体格に、漫画でたまに見るようなバーコード頭のおじさん。
笑う顔は優しいイメージだけど、目力というのかこちらを見る視線には鋭さを秘めている感じがする。
たぶん、怒ると怖い人かもしれない。
「調理師? オレたちは学生ではないし、そんな職種を目指したこともないが」
年長者を相手に、偉そうなため口を利くお兄ちゃん。
「ん? それじゃあ、どういう経緯でここへ呼ばれたんだい? ひょっとして、スタッフか何か、関係者みたいな立場かな?」
変なことを問われ、お兄ちゃんは親指で絵馬さんのいる場所を指し示す。
「オレたちは彼女の付き添いで来ただけで、直接招待された立場じゃない。失礼だが、あんたは?」
「ああ、これは失礼。私は料理評論家をしている貴道 勇気だ。昔はね、東京にあるホテルで料理長を務めていたことがあるんだよ。今回は、ここで新作の創作料理が食べられると招待されて、年甲斐もなくはしゃいで参加してしまった。それにしても、きみは日本人離れした容姿をしているね。ハーフなのかい? それとも……メイク、には見えないな」
たぶん、アルビノの存在を知らないのだろう。
貴道さんは物珍しそうな様子でお兄ちゃんを間近から眺める。
人によっては不快に感じるような行動だけど、貴道さん本人に嫌がらせのようなつもりはないみたいだし、お兄ちゃんもこういうことは特に気にしないタイプだから、迷惑そうでないのはいざこざにならず助かる。
さりげなく周りの人たちを見ると、みんなチラチラとあたしたちの方を意識しているのがわかる。
たぶん、ここにいる絵馬さん以外の全員がお兄ちゃんの存在を意識していたんだと思う。
その証拠と言うか、さっき船の上で話をした葵さんも興味深そうに聞き耳を立てていた。
気を遣って問うことはしなかったけれど、やはり気にはなっていたということか。
――当然と言えば当然だよね。お兄ちゃん目立つし。
アルビノを知らない人からすれば、外国人やハーフだと思い込んでしまう人もいるだろうし、動かずに立たせておけば遠目には西洋人形にすら見えてしまいかねない。
これで一般人に溶け込めと言う方が無理がある。
「オレはハーフではない。アルビノだ」
「アルビノ? 何だいそれは。初耳だが」
やはり知らなかったらしい貴道さんが、ポカンとしたような口をしながら首を傾げた。
お兄ちゃんは小さくため息を吐き――これまでにも数えきれないくらいアルビノの説明を繰り返して生きてきてるから正直うんざりしているのだ――アルビノについて簡単な説明をして聞かせる。
本当に単純に言えばメラニンの欠乏が原因という話になるんだけど、ちゃんと理解してくれる人は半分くらいで、残りは何となく理解しました程度なのが実情。
まぁ、お兄ちゃん自身が特に理解を求めていないから、大して問題でもないんだけど。
チャーター船が船着き場に到着したのは、十時四十五分ちょうど。
佐竹と名乗った船の操縦をしていたおじいさんに、荷物を降ろすのを手伝ってもらいながら陸へと足を付けたあたしは、ぐるりと周囲を見回してため息をついた。
「うわぁ……島だ。本当に」
「当たり前のことを言ってないで、早く進んでくれ。後ろがつかえてる」
この世に生まれて十九年。人生初の孤島上陸に感動するあたしの背中を、お兄ちゃんの手が無慈悲に押してくる。
「ちょっと、そんなに押さないでよ。危ないなぁ」
不満の声を漏らしながら、それでもお兄ちゃんの言うことに従い素直に前方へ移動し砂浜へ足跡をつけた。
「はっはっは。仲が良いねぇ。まさかこんな若い子たちまで招待されているとは意外だったなぁ」
お兄ちゃんのすぐ後ろについて歩いてきていた中年のおじさんが、あたしたち二人のやり取りを温和な笑みを浮かべて見つめる。
「きみたちは学生かい? こんな会に呼ばれて来るくらいだから、将来は調理師でも目指しているのかな」
恰幅の良い体格に、漫画でたまに見るようなバーコード頭のおじさん。
笑う顔は優しいイメージだけど、目力というのかこちらを見る視線には鋭さを秘めている感じがする。
たぶん、怒ると怖い人かもしれない。
「調理師? オレたちは学生ではないし、そんな職種を目指したこともないが」
年長者を相手に、偉そうなため口を利くお兄ちゃん。
「ん? それじゃあ、どういう経緯でここへ呼ばれたんだい? ひょっとして、スタッフか何か、関係者みたいな立場かな?」
変なことを問われ、お兄ちゃんは親指で絵馬さんのいる場所を指し示す。
「オレたちは彼女の付き添いで来ただけで、直接招待された立場じゃない。失礼だが、あんたは?」
「ああ、これは失礼。私は料理評論家をしている貴道 勇気だ。昔はね、東京にあるホテルで料理長を務めていたことがあるんだよ。今回は、ここで新作の創作料理が食べられると招待されて、年甲斐もなくはしゃいで参加してしまった。それにしても、きみは日本人離れした容姿をしているね。ハーフなのかい? それとも……メイク、には見えないな」
たぶん、アルビノの存在を知らないのだろう。
貴道さんは物珍しそうな様子でお兄ちゃんを間近から眺める。
人によっては不快に感じるような行動だけど、貴道さん本人に嫌がらせのようなつもりはないみたいだし、お兄ちゃんもこういうことは特に気にしないタイプだから、迷惑そうでないのはいざこざにならず助かる。
さりげなく周りの人たちを見ると、みんなチラチラとあたしたちの方を意識しているのがわかる。
たぶん、ここにいる絵馬さん以外の全員がお兄ちゃんの存在を意識していたんだと思う。
その証拠と言うか、さっき船の上で話をした葵さんも興味深そうに聞き耳を立てていた。
気を遣って問うことはしなかったけれど、やはり気にはなっていたということか。
――当然と言えば当然だよね。お兄ちゃん目立つし。
アルビノを知らない人からすれば、外国人やハーフだと思い込んでしまう人もいるだろうし、動かずに立たせておけば遠目には西洋人形にすら見えてしまいかねない。
これで一般人に溶け込めと言う方が無理がある。
「オレはハーフではない。アルビノだ」
「アルビノ? 何だいそれは。初耳だが」
やはり知らなかったらしい貴道さんが、ポカンとしたような口をしながら首を傾げた。
お兄ちゃんは小さくため息を吐き――これまでにも数えきれないくらいアルビノの説明を繰り返して生きてきてるから正直うんざりしているのだ――アルビノについて簡単な説明をして聞かせる。
本当に単純に言えばメラニンの欠乏が原因という話になるんだけど、ちゃんと理解してくれる人は半分くらいで、残りは何となく理解しました程度なのが実情。
まぁ、お兄ちゃん自身が特に理解を求めていないから、大して問題でもないんだけど。
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