363 / 425
【 滅び 】
差し出された未来 後編
しおりを挟む
平和か……。
マリッカの説明を聞きながら、本当に難しいものだと思う。
確かにリッツェルネールの案に乗れば、魔族領は確実に平和になるだろう。
あとは南方の大陸を利用し、一攫千金を夢見てきたはぐれ者……戦う以外に職のないような者や、新たな土地を求める貧しい人間、犯罪者……餌を与えつつ、そういった人間を適度に間引く。
人間側は、場合によっては軍隊を組織してのパフォーマンスも必要になるだろう。しかし概ねは平和だ。
人は自らの為に、家族の為に、騙されているとも知らず、勝手に死んでゆく。
それで良いといえば良いのだ。人など結局、自分の好きに生き、死んでいくのだ。
「あとは細かきことを決めるために、そちらの意思を確認したいそうです。まだ始まったばかりですから、多少は無茶な要求が通る可能性もあります。立場的には貴方の方が上でしょうし。それで、何を要求します?」
「答えは却下だ、マリッカ。俺はその提案に乗るつもりはない」
沈黙が場を支配する。マリッカの様子に変わった点はない。だが本能は理解した。直ちに念を押せと。
「いや、もちろん人類を滅ぼすつもりはない。それは信じてくれ。彼の案も悪くはない。でも幾つか問題がある。それを解決しないとダメなんだよ」
そう、ムーオス自由帝国跡地は人間が解除した土地だ。この世界のコントロールから逸脱した、自然な……そして無軌道な土地だ。だから――
「その計画だと、南の大陸の魔族は無分別に増えるぞ。確実にコントロール不能になる。土地の広さから考えれば、逆に人間が逆侵攻されかねない」
「それに関しては、新たな壁を設置すればいいではないですか? 今回の貴方がやったように全ての魔族が大移動をしたら厳しいですが、飽和分だけなら対処できるでしょう。むしろそれが強敵であればあるだけ、彼は喜びますよ」
マリッカは気楽に考えている様だが、何処まで正確に物事を認識しているかは不明だ。
しかし、実際これは言い訳でしかない。心の痛みを別にすれば、対処が不可能な話ではないのだから。
リッツェルネールも、最初からそれを当てにしているのだろう。万が一魔族を人間が対処できなくなった時、俺自身がそれを始末しろと。
「まあそうなんだろうけど、今はダメだ。そうだな……一度人間世界に行って、オスピアと話し合いたい。ただこれも、今すぐって訳にはいかないんだ。もう少しだけ待ってくれ」
俺――というより魔人達をじっと見ていたマリッカであったが――
「分かりました。『今は時期尚早ですが、概ねは受諾』そう受け取って良いのですね?」
「ああ、それで良いよ。悪いがそう伝えてくれ」
「伝えるのは構いませんが、情勢は常に動いています。少なくとも、今のように動きが無い状態は長くは続かないという事を理解しておいてください」
「ああ。そうするよ」
◇ ◇ ◇
「あれで良かったのかな?」
マリッカを見送った後、ゴロンとプログワードの背中で横になった俺をエヴィアが見下ろしている。
いつもの飄々とした感じだが、微妙に心配が伝わってくるな。
「ああ。一番肝心な事が終わっていないからな。結局のところ、それが終わらなければ無理だ」
それは言うまでもない、人類が開発した”揺り籠”の問題である。
この問題に決着を付けない限り、どんな約束も空手形。とはいえ、まだ実際に何処までやるのかは決めていない。情勢次第だといえる。
もし揺り籠の情報が他国に流れたら、今度はそこを攻めるのかどうか?
孤立していた南と違い、北に明確な区分けなんてものは無い。国境なんてものは、人間が勝手に引いた線でしかないのだ。
そんな所に流出した時点で、事実上終わりである。それでも使わせないようにしようとすれば、それは人類を滅亡寸前まで追い込まなければいけないだろう。
「でもこれは、とてもじゃないがまだ話せないしな……」
いや、最終的には話す必要がある。もう人類は、揺り籠の存在を具体的に知った。出来る事はわかった。0を1にする事は難しくとも、1を見て1を作るのは簡単なのだ。
実際のところ、既に多くの国が揺り籠を研究しているだろう。
技術が流出しなくても、チャレンジし続ける限りはいつかは第二第三の揺り籠が現れる。
これは俺が禁止し監視するのではなく、人類にやってもらわねばならない。
「問題はやっぱり話すタイミングだな」
揺り籠を捨てる事を交渉材料に盛り込めば、リッツェルネールならすぐに飲むだろう。
だがその真実がまったく判らない男だ。見えないところで大量生産している可能性は残る。
そして彼がそれを使わなくとも、それの使い道を考えてしまう人間が出現するのも、また自然の摂理といえよう。
やはりある程度確定するところまでは、こちら単独で進めるべきだな。
それに――、
「なあ、エヴィア、テラーネ、テルティルト、プログワード……マリッカがいった世界は、平和だと思うか?」
「魔王が考えている未来とはだいぶ違うかな。でも一番簡単だと思うよ」
「魔王次第でーすね。彼の考えは―、貴方に暫しの安息の時を与えるでしょう。考えるのはー、それからでも遅くはありまセーン。それもまた、一つの可能性でーす」
うーん……。
「早く帰ってケーキが食べたいわ」
「魔王は好きにするといいよー。して欲しい事は、何でも言ってねー」
やはり明確な賛成も反対もないか。あくまでも、考え判断するのは俺だって事だろう。
実際の所、確かに簡単なのは事実だ。これからの人類のありようを人類に丸投げする。
そして、どうしようもない時には人類の希望に沿って協力する。
そこに何の問題があるのかといえば……多分無いのだ。
「とりあえず、急いで動くか」
その言葉を合図に、プログワードが進み始める。戦いを終わらせる……その為に。
「「「魔王が殴ったー! 殴ったー!」」」
……って、まだヒドラの子供がザブンザブンと暴れているし。やれやれ、ちゃんと説明してやらないとだめか。
「あれはな……」
マリッカの説明を聞きながら、本当に難しいものだと思う。
確かにリッツェルネールの案に乗れば、魔族領は確実に平和になるだろう。
あとは南方の大陸を利用し、一攫千金を夢見てきたはぐれ者……戦う以外に職のないような者や、新たな土地を求める貧しい人間、犯罪者……餌を与えつつ、そういった人間を適度に間引く。
人間側は、場合によっては軍隊を組織してのパフォーマンスも必要になるだろう。しかし概ねは平和だ。
人は自らの為に、家族の為に、騙されているとも知らず、勝手に死んでゆく。
それで良いといえば良いのだ。人など結局、自分の好きに生き、死んでいくのだ。
「あとは細かきことを決めるために、そちらの意思を確認したいそうです。まだ始まったばかりですから、多少は無茶な要求が通る可能性もあります。立場的には貴方の方が上でしょうし。それで、何を要求します?」
「答えは却下だ、マリッカ。俺はその提案に乗るつもりはない」
沈黙が場を支配する。マリッカの様子に変わった点はない。だが本能は理解した。直ちに念を押せと。
「いや、もちろん人類を滅ぼすつもりはない。それは信じてくれ。彼の案も悪くはない。でも幾つか問題がある。それを解決しないとダメなんだよ」
そう、ムーオス自由帝国跡地は人間が解除した土地だ。この世界のコントロールから逸脱した、自然な……そして無軌道な土地だ。だから――
「その計画だと、南の大陸の魔族は無分別に増えるぞ。確実にコントロール不能になる。土地の広さから考えれば、逆に人間が逆侵攻されかねない」
「それに関しては、新たな壁を設置すればいいではないですか? 今回の貴方がやったように全ての魔族が大移動をしたら厳しいですが、飽和分だけなら対処できるでしょう。むしろそれが強敵であればあるだけ、彼は喜びますよ」
マリッカは気楽に考えている様だが、何処まで正確に物事を認識しているかは不明だ。
しかし、実際これは言い訳でしかない。心の痛みを別にすれば、対処が不可能な話ではないのだから。
リッツェルネールも、最初からそれを当てにしているのだろう。万が一魔族を人間が対処できなくなった時、俺自身がそれを始末しろと。
「まあそうなんだろうけど、今はダメだ。そうだな……一度人間世界に行って、オスピアと話し合いたい。ただこれも、今すぐって訳にはいかないんだ。もう少しだけ待ってくれ」
俺――というより魔人達をじっと見ていたマリッカであったが――
「分かりました。『今は時期尚早ですが、概ねは受諾』そう受け取って良いのですね?」
「ああ、それで良いよ。悪いがそう伝えてくれ」
「伝えるのは構いませんが、情勢は常に動いています。少なくとも、今のように動きが無い状態は長くは続かないという事を理解しておいてください」
「ああ。そうするよ」
◇ ◇ ◇
「あれで良かったのかな?」
マリッカを見送った後、ゴロンとプログワードの背中で横になった俺をエヴィアが見下ろしている。
いつもの飄々とした感じだが、微妙に心配が伝わってくるな。
「ああ。一番肝心な事が終わっていないからな。結局のところ、それが終わらなければ無理だ」
それは言うまでもない、人類が開発した”揺り籠”の問題である。
この問題に決着を付けない限り、どんな約束も空手形。とはいえ、まだ実際に何処までやるのかは決めていない。情勢次第だといえる。
もし揺り籠の情報が他国に流れたら、今度はそこを攻めるのかどうか?
孤立していた南と違い、北に明確な区分けなんてものは無い。国境なんてものは、人間が勝手に引いた線でしかないのだ。
そんな所に流出した時点で、事実上終わりである。それでも使わせないようにしようとすれば、それは人類を滅亡寸前まで追い込まなければいけないだろう。
「でもこれは、とてもじゃないがまだ話せないしな……」
いや、最終的には話す必要がある。もう人類は、揺り籠の存在を具体的に知った。出来る事はわかった。0を1にする事は難しくとも、1を見て1を作るのは簡単なのだ。
実際のところ、既に多くの国が揺り籠を研究しているだろう。
技術が流出しなくても、チャレンジし続ける限りはいつかは第二第三の揺り籠が現れる。
これは俺が禁止し監視するのではなく、人類にやってもらわねばならない。
「問題はやっぱり話すタイミングだな」
揺り籠を捨てる事を交渉材料に盛り込めば、リッツェルネールならすぐに飲むだろう。
だがその真実がまったく判らない男だ。見えないところで大量生産している可能性は残る。
そして彼がそれを使わなくとも、それの使い道を考えてしまう人間が出現するのも、また自然の摂理といえよう。
やはりある程度確定するところまでは、こちら単独で進めるべきだな。
それに――、
「なあ、エヴィア、テラーネ、テルティルト、プログワード……マリッカがいった世界は、平和だと思うか?」
「魔王が考えている未来とはだいぶ違うかな。でも一番簡単だと思うよ」
「魔王次第でーすね。彼の考えは―、貴方に暫しの安息の時を与えるでしょう。考えるのはー、それからでも遅くはありまセーン。それもまた、一つの可能性でーす」
うーん……。
「早く帰ってケーキが食べたいわ」
「魔王は好きにするといいよー。して欲しい事は、何でも言ってねー」
やはり明確な賛成も反対もないか。あくまでも、考え判断するのは俺だって事だろう。
実際の所、確かに簡単なのは事実だ。これからの人類のありようを人類に丸投げする。
そして、どうしようもない時には人類の希望に沿って協力する。
そこに何の問題があるのかといえば……多分無いのだ。
「とりあえず、急いで動くか」
その言葉を合図に、プログワードが進み始める。戦いを終わらせる……その為に。
「「「魔王が殴ったー! 殴ったー!」」」
……って、まだヒドラの子供がザブンザブンと暴れているし。やれやれ、ちゃんと説明してやらないとだめか。
「あれはな……」
0
あなたにおすすめの小説
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる