そのすべてがなくなって

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はじまり

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『まもなく渋谷、渋谷です』

そのアナウンスが微かに聞こえてきて、閉じていた目を開けた。
周りの人達は既に開くドアの前で待機している。

マスクの下でバレないように欠伸をしながら立ち上がり膝の上に置いていたリュックサックを背負うと、宮下海斗は電車をおりた。

慣れた足取りで駅から出ると、
アパレルショップ「BLUE」の店内へ入る。

「お、海斗!おはよー」
「おはようございます」

既に出勤していた店長に挨拶を交わしスタッフルームへ向かう。
海斗がここで働くようになり今年で3年になる。

「海斗さん、おはようございます!」
「おはよー。今日颯太も遅番か」
「はい!海斗さんと一緒だと楽しいっす!!」
「媚び売りすぎだわ」

去年から働いている加藤颯太は、海斗の2つ下の大学生だ。
当初から海斗に懐いており、よくご飯にも行くような仲である。

「よし、じゃ行くか」
「頑張りましょう!」

そう言いながら2人で店内へ。
早番だった店長と交代して接客対応をする。

「今日早番店長だけなんすね」
「そうそう…三上くんさ、連絡もなくお休みになっちゃってね~。未だに連絡も来ないし、2人何か知ってる?」
「いや…知らないですね」
「だよね~、ごめんね。今日1人欠員だけどそこまで混まないと思うし!僕も裏で仕事してるから何かあったら呼んでね」
「はーい」


三上くんは、海斗と同じくらいの時期に入ってきた1つ上の人だ。
真面目で客からの評判も良かった彼が連絡もなく休むなんて珍しい事だった。


ーーー……

「お疲れ様、今日はごめんね~。気をつけて帰ってね」
「いえ、お疲れ様です」

定時に仕事を終えた海斗と颯太は店を出て渋谷駅へ歩き出した。

「三上さん、珍しいですよね」
「な、俺も思った。何かあったのかな」

やはり話題は三上についてだった。
颯太もどうやら同じ事を考えていたらしい。

駅について颯太と別れ、ホームに立つ。
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