そのすべてがなくなって

M.

文字の大きさ
上 下
2 / 3
はじまり

突然

しおりを挟む
「ギャハハ!!まじ?!だる~い!!」

今の高校生はこんな時間まで遊び歩いているのか。
黒髪からは程遠い髪色に派手なメイク。
声は馬鹿みたいにでかく、オマケにきつい香水のかおり。


疲れた…少し目を閉じてよう。
海斗は俯き小さくため息を着いてから目を閉じた。


…………


ガタンッ

「っ…ん」
大きな揺れでビクッと目が覚める。
顔を上げるとさっきまで満員だった電車はガランと空いていて、何故か海斗1人だけになっていた。

「ここどこだ…」
窓から見える景色は真っ暗で何も見えない。
しかし、この路線にトンネルがない事くらい海斗も分かっていた。

不思議に思い席を立ち、窓の外、
電車が向かう方向を見るが広がるのは漆黒。

「なんだよここ…」


ガタッ

その時、前方から物音がした。
どうやら隣の車両からのようだ。
ゆっくり連結部へ向かうと、


「…あ!人がいた!これ開けられます?!」

こちらの車両の扉を開けようとしているOLらしき女性がいた。

海斗もつられてドアを開こうとするも、何故かビクともしなかった。

「ダメですね、ビクともしないです」
「どうして…私うたた寝してて、目が覚めたら誰もいなくて。ちょっと怖かったんですけど、他にも人がいてよかったです」
「僕もです。少し目を閉じてただけなの…に…え…」

少し、目を離した瞬間だった。

女性の後ろに大きな物体が立っていた。

「え…?」

海斗の視線に気がついたのか、女性はゆっくりと振り返った。

「えっと…わんちゃん?何でこんな所に…?」

それは大型犬サイズの真っ黒な犬だった。

女性は犬の高さまで屈むと、犬を撫でようと手をゆっくり差し出した。


「ガゥゥゥッ!!」

「え…」
「え…」

犬は差し出された手にかぶりついた。
海斗と女性の声が重なる。

ボトッと床に落ちたのは、綺麗な女性らしい右手。


「い、いやぁぁぁあああ!!!」

女性の右手首からは血が吹き出している。

「ワンッ!ワンワンッ!!」
「やっ、やだ!!やめて!痛い!!いや!!」

犬は瞬く間に女性に覆い被さると、顔を守っていた左腕に噛み付いた。

「うっ…痛い痛い!!いやぁぁ!!」

叫ぶ女性の顔には、左腕からドクドクと溢れ出る血液で濡れていった。

「に、逃げて!!」

ようやくハッとした海斗はそう言うしかできず、
大声で必死に訴えた。

その声も虚しく、犬は左腕を噛みちぎる。

「た、たすけ…」

手首から先のない右手を、海斗へ向けてきた女性。
海斗もドアを開けようとしたものの、
未だにドアはびくともしない。

「ウ゛ゥ!」

大きな犬は容赦なく女性の頭部へ噛み付いた。

「やめろ!!!」


ブシャッ

そんな音と共に、ゴロンと転がった物体。
涙と血液でグシャグシャになり、元の顔が分からないくらいだった。


「っ…はぁ…なんだよ…これ…」

後ろへ倒れ込むように崩れ落ちた海斗。


その時ー…


ガサッ


背後から小さな物音がした。

しおりを挟む

処理中です...