アークティカの商人(AP版)

半道海豚

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第5章 解放編

第48話 国軍

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 アークティカ解放戦から5年が経過していた。トルボルグ号救援のために放った魚雷の効果なのか、神聖マムルーク帝国は我々に手出ししてこない。

 この時期のアークティカ国内には、いよいよ放置できなくなった組織上の問題があった。
 アークティカ独立において、アレナスとマルマは国軍の創設に合意している。
 しかし、当時のマルマ軍は、陸軍のみの設立を主張。空軍と海軍は不要と強硬な意見であった。
 また、新政府軍の基幹は、マルマ軍とすることにも強く同意を求めてきた。
 新政府樹立交渉が暗礁に乗り上げることを危惧したアレナスとマルマの行政府(当時)は、マルマ軍幹部の主張を丸呑みした。
 そして、マルマ軍はアークティカ国軍となり、幼年学校、士官候補生学校、幹部候補生学校の3校を含むすべての軍関係機関をキジルに移動した。

 キジルは政治と軍事の街となり、人口はあまり増えなかった。
 政治と軍事以外では、中央医学校が開設され、アークティカの医療の近代化に貢献した。
 しかし、中央医学校は例外で、それも軍医養成の関係から、国軍が強く反対しなかったことが設立が実現した理由だった。
 計画されていた中央工科学校は開校できず、ルカナの旧マーリン邸に開設された。機械工学、電子工学、電機工学、冶金学、化学などの講座がある。
 マルマからの留学生も多い。
 中央工科学校はアークティカのほぼ中央にあるキジルに設立すべきで、ルカナでは学び手を呼び込むには限界がある。
 中央農学校、中央法学校、中央図書館などの設立も頓挫している。

 国軍総司令官は、キョジーという45歳の男だった。マルマの旧幼年学校、士官候補生学校、幹部候補生学校を主席で卒業した英才だ。
 軍人である以上に利権政治家で、いろいろな噂がある。同時に軍幹部から士官候補生まで、強い支持を得ている。
 軍を支配しているといっていい。
 国防長官アリアンはもちろん、国務代表(大統領に相当)スピノオさえ、何もできない。
 国軍は新政府における不可触な領域となってしまっていた。

 実質的な問題もある。
 国軍士官はエリート意識が強く、士官と下士官・兵を差別した。区別ではなく、完全な差別だった。
 下士官・兵は、それぞれの街から選抜されて、一定期間勤務する制度だった。生業のある人々だ。パートタイムの兵隊さんだ。
 国軍士官は、彼らを見下し、愚弄し、虐げた。
 結果、昨年以降、どこの街も兵員を送り出さなくなってしまった。
 国軍には士官しかいない。
 議会でも問題になっているが、キョジーは「臆病者は不要」と言い放っていた。

 国軍の母体を輩出(排出)したマルマは、数年で軍制改革を行い、新設の郷土防衛隊を精強な部隊に改編している。
 4輪トラックによる機械化歩兵、4輪装甲車を基幹とする騎兵、4輪牽引車による機械化砲兵、航空偵察を主任務とする航空隊で組織されている。
 郷土防衛隊の設立・編制に尽力したのも旧マルマ軍の将校たちなのだが、彼らはマルマ軍の傍流だった。
 アレナスとマルマの両郷土防衛隊には、人的交流も生まれていた。

 アレナスの郷土防衛隊は、常設5個中隊で、各中隊は5個小隊編成。歩兵3個、迫撃砲1個、戦車1個で編制されている。その他、独立工兵小隊、独立機関銃小隊、独立衛生小隊がある。
 海軍は沿岸パトロール用の警備艇が5艇、空軍はイファ航空隊が代行している。海軍は、海軍航空隊の創設を計画している。海軍や空軍は、アレナスの海軍であり、空軍だ。国軍ではない。

 弾薬共通化の問題もあった。
 アークティカ解放戦終結時、アークティカには4種類の小銃弾があった。
 アメリカ軍制式スプリングフィールド7.62ミリ弾、ドイツ軍制式モーゼル7.92ミリ弾、イギリス軍制式ビッカース7.7ミリ弾、日本軍制式三八式実包6.5ミリ弾。
 このうち、大量生産している弾種は、黒色火薬を発射薬とするビッカースの7.7ミリ弾と薬莢の底に出っ張りがあるセミリムドをリムレスに変更した三八式実包の2種類だった。
 前者はマルマが、後者はアレナスが使っている。7.7ミリ(口径.303)弾は、黒色火薬から無煙火薬に変更が進んでいる。
 この4種類を国軍が比較検討した結果、モーゼルの7.92ミリ弾が最良となり、これを国軍の制式小銃弾とした。

 意外かもしれないが、第二次世界大戦において、ドイツ軍制式7.92ミリ弾をイギリス軍は大量に使用していた。鹵獲した弾薬を使ったというようなことではなく、自国で製造する車輌搭載用ベサ機銃の弾薬は7.92ミリ弾だ。
 同様に、イギリス軍の短機関銃ステンガンの弾薬は、ドイツ軍制式9ミリ拳銃弾であるパラベラム弾(ルガー弾)だ。
 マルマは無煙火薬の開発ができず、ベサ機銃や短機関銃のステンガンを複製できなかった。
 このため、7.92ミリ弾はほとんど作っていない。
 アレナスも必要量は製造していたが、ごく少量だった。

 国軍は、1発の威力と命中精度を極端に重視し、その傾向から7.92ミリ弾が選択されたのだろうが、マルマが薬莢と雷管を製造し、アレナスが弾頭と発射薬を製造したが、その量は非常に少なく、国軍は常時弾薬不足に悩むことになる。
 また、命中精度が低いことを理由にストークブラン式迫撃砲を採用せず、旧来の前装式ライフル野砲をそのまま使い続けている。

 揚陸強襲艦ミストラルの入手によって、新たな兵器が造られた。
 四一式山砲歩兵用は、そのままデッドコピーした。重量が550キロしかなく、4人いれば人力で移動できる。ピンポイントの目標に強力な榴弾を、歩兵が発射できるようになった。
 マルマは、ダイムラー装甲車の備砲を歩兵用に転用しようとしていたが、砲架の開発に手間取っていた。
 この解は、九四式37ミリ速射砲の砲架を参考にすることで解決した。
 ダイムラー装甲車の備砲は2ポンド砲(40ミリ対戦車砲)なので、車輪などいくつかの改良点はあったが、大いに参考になった。
 また、歩兵用として榴弾が開発されたが、後に装甲車にも搭載された。
 アレナスはマルマ製40ミリ対戦車砲を採用しなかったが、彼らが主張する「軽量な高初速砲があれば、歩兵でも帝国の陸上戦艦に対抗できる」という考えには影響を受けた。
 四一式山砲の二式穿甲榴弾(通称タ弾、対戦車榴弾=成形炸薬弾)は、私の記憶では歩兵戦車マチルダⅡの正面装甲75ミリを貫徹できた。これは、イギリス軍がテストしている。
 この弾種は大量に積まれていたので、リエンジニアリングによって完全コピーした。
 秒速350メートル強の低初速砲の徹甲弾では、帝国の陸上戦艦の正面装甲は貫徹できない。しかし、あの鈍足の兵器ならば、低初速砲でも命中させられる。対戦車榴弾の開発は、大きな意味があった。

 マルマはダイムラー装甲車の技術を基礎にして、トラックや牽引車を次々と開発している。
 アレナスは、戦車と装甲兵員輸送車の開発に力を注いでいた。
 一式中戦車(チヘ)と一式装甲兵車(ホキ)の入手は、技術的なブレイクスルーをもたらした。
 すでに入手していた各種異界物では、高度すぎて模倣が困難だったり、量産性が低かったりしたのだが、この2車種は最良の手本だった。
 サスペンションは、20世紀後半以降で標準のトーションバー(棒バネ)を開発しようとしていたが、冶金技術がともなわず成功していない。
 折れてしまうのだ。
 マウルティアのホルストマン式に移行しようとしていたところに、この2車種が到来する。横置きコイルスプリングによる懸架方式は単純で、これは模倣できた。
 一式装甲兵車の車台に73式装甲車風の車体を架装し、エンジンにはM3装甲車が搭載していたホワイト160AXのバルブ配置をSV(サイドバルブ)からOHV(オーバーヘッドバルブ)に変更したイファ製を載せた。
 実に軽快に動き、信頼性も高い。

 アレナスは戦車の開発ができるまで、この装甲兵員輸送車をベースに各種の装甲車輌の開発を決定する。
 いまから2年前のことだった。
 開発を急いだので、一式装甲兵車の車台には手を加えていない。このため、若干、横幅が不足していた。
 だが、開発は喫緊の問題だったから、変更しなかった。
 まず、81ミリ自走迫撃砲を作った。120ミリも試したが、車体幅が足りず、運用が難しい。
 車体上面を補強し、ダイムラー装甲車の砲塔を載せた歩兵戦闘車を作る。
 車体を大幅に形状変更して、車体後方にダイムラー装甲車の砲塔を拡大したような3人用砲塔を載せる。
 備砲は、二式砲戦車(ホイ)の75ミリ主砲をコンバートした。この砲は四一式山砲と同じ弾薬なので、補給に有利だった。
 歩兵支援用の自走榴弾砲だが、戦車みたいなものができあがった。この車輌は、エミールによって突撃砲と名付けられる。
 歩兵戦闘車型は生産されず、装甲兵車、81ミリ自走迫撃砲、75ミリ突撃砲の3車種が生産されることになる。
 エンジンはすべて同型の直列6気筒ガソリンだ。

 マルマとは、相互に開発兵器の情報を交換している。しかし、キジルの国軍とはまったくの没交渉。

 キジルは、本来のキジルがあった場所では再建できなかった。
 一部の資材を利用しながら、西30キロの草原にキジルは再建された。まったくの無からではなく、ここには3000人ほどが住んでいた街があった。
 この街をキジルと改名し、必要な施設を新たに建設した。
 キジル政府は中央行政府と呼ばれていたが、国軍の弱体、国軍の腐敗、国軍の専横は目に余るものがあった。
 バタ沖海戦以降、アークティカ第1の街チュレンと第2の街バルカナが戻り、他国に占領されている領土が消えたことから、国境警備もままならない国軍への不満は各街に強まりつつあった。
 誰もが「国軍は不要だ」と、口に出している。
 そう言われていることは、国軍も知ってはいたが、自らの実力を固く信じていた。
 そして、国軍がマルマとアレナスの郷土防衛隊の実力を検証するとして、キジル郊外の国軍練兵場における実動演習を提案する。

 マルマとアレナスは、この提案に乗った。マルマはアレナスの、アレナスはマルマの、郷土防衛隊の断片的情報ではない実態を知りたかったからだ。

 アークティカ解放戦終結から5年後のことだった。

 スコルが私をアレナスの居酒屋に呼び出す。
「これで、国軍は潰れるぞ」
 私は、今夜の寝ぐらを心配していた。
「あぁ、潰れるね。あれは、張り子の虎、玩具の兵隊だからね。
 それよりもマルマだ。
 彼らの実力は、よくわかっていない。
 兵器体系も不明ではある」
 スコルが酒を飲み干し、おかわりを注文。
「国軍には興味なしか?」
 私は、まだ酔っていない。
「国軍にはね。
 だが、マルマは違う。アレナスとともにアークティカを守る要だ。
 その実体が不明というのでは、不安だよ。
 それは、マルマも同じだと思う」
 スコルには心配があった。
「だが、国軍のていたらくが公になれば、アリアンが責任を問われるぞ!」
 私は、それも承知している。
「アリアンには責任をとって、辞職してもらう。
 辞職理由は、国軍があまりにも脆弱であるため、だ」
 スコルは明らかに驚いていた。
「そんな露骨な……。
 それにアリアンには実質的な責任はない」
 私には、その先の策がある。
「国軍の弱体化は、そのエリート教育にある。だから、エリート教育をやめる。
 幼年学校から士官候補生学校に進級し、優秀なものは幹部候補生学校に進学するという、制度をやめる。
 士官候補生学校を卒業しても、士官候補生にはなれない。試験を受けないとね。
 試験の内容は、士官候補生学校卒業者に有利ではない。
 幼年学校は、軍とは切り離す。軍と無関係な普通の学校にしてしまう。
 アリアンには、国軍が弱体化した責任のすべてを負ってもらう」
 スコルがにらむ。
「その先、どうする?」
 私が笑う。
「次の国防長官だが、スコル、あんただ。
 同時に通商長官にも辞任してもらう。
 健康上の理由がいい。
 通商長官には、リケルになってもらう。
 これで、中央政府の態勢は立ち直る」
 スコルが呆然としている。
「アリアンが気の毒だ」
 私は首を振った。
「アリアンには、アレナスの防衛長官に就いてもらう」
 スコルが怒る。
「あんた、ふざけているのか?
 人を駒のように扱って!
 で、軍の総司令官は?」
 私には腹案があった。
「イワンがいい。
 全軍をまとめる指揮官にふさわしい」
 スコルが面白そうに笑う。
「受けると思うか?」
 私には自信がなかった。
「わからない。
 これが、これから起こる事件で、最も不確実な点だよ」

 大演習が始まる。
 議会議員から民間人まで、見学者は1000人近い。民間人にまぎれて、隣国や帝国の間者もいるだろう。
 国軍は、騎兵による抜刀突撃、砲兵による斉射、若手将校による戦列歩兵戦を演じた。
 時代絵巻のような、古色蒼然とした光景だった。

 次はアレナスだ。心配事は2つ。履帯が外れないか、エンジンが故障しないか……。
 装甲兵車が登場。各車の後部観音ドアから完全武装兵12が次々と降りる。
 装甲兵車を遮蔽にして、戦闘態勢をとる。歩兵を挟むように突撃砲が現れる。
 続いて、自走迫撃砲が背後に位置し、停車と同時に迫撃砲弾を発射する。
 迫撃砲の斉射が終わると、突撃砲が直接照準で発射。装甲兵車の重機関銃の発射とともに、装甲兵車と突撃砲が歩兵と一緒に前進を始める。
 イファの航空隊が飛来し、緩降下による爆弾投下を行う。
 議会議員と見学者に対して、国軍とは異なる圧倒的な火力と機動力を見せつけた。
 観客席からは、大きな拍手をもらった。

 マルマの演習が始まる。
 マルマの騎兵、ダイムラー装甲車による威力偵察の演習。マルマは敵方を演じる部隊を用意していて、4輪装甲車が敵の騎馬よりも圧倒的に機動性が高いことを視覚的に証明した。
 次に砲兵。これには驚いた。8輪車の後部に開放式戦闘室を設け、そこに105ミリ級の軽榴弾砲を搭載する自走砲を展開させた。
 車体前後にアウトリガー式の車体固定用ジャッキがあり、これが車体を支え、装輪ながら中口径榴弾砲の発射を可能にしたのだ。
 おそらく、1万メートル以上の射程がある。射程の短い迫撃砲主体のアレナス砲兵は、マルマ砲兵にアウトレンジされる。
 そもそも、マルマが105ミリ級軽榴弾砲を開発していることを知らなかった。
 これは、見学者の1人であるヴェルンドにたいへんな衝撃を与えた。
 発射はしなかったが、4輪牽引車に牽かれた開脚砲架の105ミリ榴弾砲も公開された。
 長射程榴弾砲のために、着弾観測機も登場。圧倒的な砲戦能力を示した。
 最後は、40ミリ対戦車砲と1個分隊の歩兵が守る陣地に帝国の陸上戦艦が迫る、という演出だった。
 出来の悪い帝国旗を掲げたダイムラー装甲車4が、土嚢を積んだだけのマルマ軍陣地に迫る。
 歩兵が小銃と機関銃を発射し、帝国軍役のダイムラー装甲車も発射。
 だが、40ミリ対戦車砲によって、次々と破壊されていく。
 すべてが空砲なのだが、たいへんな迫力だ。マルマの街人は、立ち上がって自国のパートタイム兵に拍手を送る。

 キョジーは青ざめていた。
 彼が学んできた戦術とは、まったく異質な戦い方をマルマやアレナスは編み出している。
 キョジーにとっては、卑怯者の行いでしかなかった。キョジーにとって、軍とは権力であり、戦争とは権力を握るための道具でしかなかった。

 キョジーは議会において、多数の議員から大演習の感想を尋ねられた。
 彼は「国軍の精鋭の優秀さが証明された」と何度も答えた。
 しかし、議員たちは繰り返し、同じ質問をした。何日も、何日も。繰り返し、繰り返し。
 そして、マルマ選出の議員が言った。
「総司令官。
 私は、あなたは病気だと思う。
 療養されてはいかがか。
 大演習での我が国軍が精強などとは、誰であれ感じなかったでしょう。
 国軍の無様は、見ていて痛々しいと私は感じた。
 幼年学校の生徒は、あなたたちの惨めな姿を見てどう感じたと思いますか?
 あなたが総司令官でいる限り、我が国軍は田舎の芝居小屋同然の何とかの戦いを演じる程度のことしかできない。
 あなたは、総司令官を辞めるべきだ。
 自主的に辞めないのならば、私は議会に解任動議を出す!」

 アリアンは、マルマとアレナスにキジルの治安を守るために部隊を派遣するよう要請。
 マルマは3個中隊、アレナスも3個中隊を派遣する。
 キジルは、マルマとアレナスの部隊によって完全に制圧される。
 国軍総司令部は閉鎖、幼年学校は休校、士官候補生学校の学生は自宅待機となった。

 キョジーは辞任せず、「精強なる国軍将校諸君、立ち上がれ」と檄を飛ばした。
 士官候補生学校の生徒は自宅待機を続け、現役将校たちは持ち場を離れなかった。
 反乱軍とされたくなかったからだ。それに、落ち目のキョジーに義理立てする理由はなかった。士官候補生と現役の大半は、大演習の結果、軍には残れないと覚悟している。
 彼らの知識では、アレナスやマルマとは戦えない。
 国軍による反乱の兆しは、まったくなかった。

 キジルの街は落ち着いている。
 ジャベリンは、派遣する中隊の1つにクラリスの隊を選んだ。女性が多く、少しでも威圧感が減らせるのではと考えたからだ。
 実際、その効果はあった。

 だが、反乱は起きてしまった。

 イファにいた私は急遽、ヘリコプターでキジルに向かった。
 ヘリコプターを降りると、クラリスが出迎えてくれた。
「反乱勢力は?」
 クラリスが言い淀む。
「実は、子供なんだ」
「子供?」
「あぁ、幼年学校の生徒だ。
 最年長は12歳……」
「指揮官は?」
「生徒会長」
「生徒会長……?」
「あぁ」
「子供だけ?」
「そう……」
 私は、戸惑っていた。
「どうすればいい?」
 クラリスが微笑む。
「すぐに止めるよ。
 子供なんだから……」

 アークティカは、軍と警察を同時に組織する余裕はない。軍の一部を警察活動に使う前近代的な治安維持を行っていた。
 7歳から12歳の男子だけの特殊な学校で起きた反乱は、軍が制圧するわけにはいかず、誰がどう解決するのか、行政府側の主体が決まらなかった。
 このような状況下、私がキジルに降りてから2時間後、誰から何かを言われたわけではないのに、私が事態収拾の責任者にされてしまった。

 幼年学校は、国軍管理下の教育組織だ。愛国心を養い、国を守る人材を育てる、がうたい文句だが、内実は軍という官僚組織に疑問を感じない組織人を純粋培養しようとする機関だ。
 マルマの街人は、幼年学校出身者を「融通が利かない」と評価していない。病気や事故で軍から出された幼年学校卒業者は、完治しても就職先に苦労するようだ。

 幼年学校は軍務エリートの養成校で、各学年15人前後しかいない。校内には85人ほどがいる。
 どういうわけか、実銃と実弾を持ち、リー・エンフィールド小銃で武装している。
 実銃と実弾は、幼年学校教官が反乱を起こすために構内に持ち込み隠匿していたもので、教官としての立場と幼年学校の国軍における地位の維持を要求するつもりだったらしい。
 幼年学校廃止の噂が、キジルの街で広まっていたからだ。
 行政府は、幼年学校の閉校は考えていなかった。単なる基本教育校として、存続を認める予定だった。
 これを知った同校の教官は失職を免れたとして、反乱を取りやめた。
 そして、用意した武器だけが残った。

 キョジーの檄は、現役将校や軍関係者の心には届かなかった。少しでも世の中のことを知れば、国軍の実体は軍務官僚による既得権益の固守集団以上のものではないことがわかる。
 しかし、純粋培養されていた幼年学校の生徒には、「軍の名誉」は生命に替えて守らなくてはならない精神だった。
 そして、彼らはキョジーの檄に応えて、反乱を起こした。

 私は、この情報を幼年学校の幹部教官から聴取した。同校教官は全員、軍の装備を不当に入手した罪で拘束された。
 軍側には協力者はおらず、小銃の移動許可証を偽造して、同校に運び込んでいた。
 教官の目的は完全に雇用の維持であり、それを武力でどうにかできると思うほど、大人気ないと言えばいいのか、幼稚と表現すればいいのか、判断しかねる。
 少なくとも分別のある大人がすることじゃない。

 生徒会長マッカムの父親ノーカーを呼び出し、息子を説得するよう、私は丁重に要請した。
「息子さんに、武器を置いて建物から出てくるよう説得してもらえないか?」
 ノーカーの返答は私にとって意外だった。
「軍の名誉は、国家の名誉。
 息子は正しいことをしている」
 ノーカーは仕事をしていないようで、どこか超然としていた。
「いまならば、大した罪には問われない。1発も撃っていない。
 だが、誰かを傷つければ、尻を叩くぐらいではすまなくなる」
 ノーカーは、私を軽蔑の目で見た。
「息子は正義を行っている。
 私は息子を支持する」
 ノーカーはステッキの柄を私の胸に当て、笑った。
「おまえたち、卑しい商人に何ができる。
 名誉の何がわかる」

 幼年学校の父兄が集まってきた。勝手な行動も多くなった。
 だが、あえて子の名を呼ばせて、校舎から出てくるよう説得させた。

 最初の1日が終わった。

 翌早朝、私は1人で校舎に向かうことにする。武器をすべて持たないように支度をしていると、留め置いている教官が「武器は持っていたほうがいい」と言い出す。
 私が理由を尋ねると、「武装解除は、軍人の名誉を捨てる行為だと教えた」と。
 呆れ果てる。
 弾帯を付け直し、持ちたくもない借り物の刀を手に持って、校舎に向かう。

 私は簡単に考えていた。
 武装解除はしない。捕虜として扱わず、軍人の名誉を守る処遇をする。
 こんな条件で、校舎から連れ出したら、後は一網打尽だ。それで解決する、と。

 私はアレナスの軍服である、草原迷彩のジャケットを着ていた。ボディアーマーとヘルメットは付けていない。
 予算上、配備が難しいボディアーマーやヘルメットは、弱さの印と教えていたそうだ。
 いやはや……、何も言いたくない。

 校舎はもとは商家の屋敷で、レンガ造りの立派な建物だ。
 前庭が広く、門から屋敷の車寄せまで、まっすぐに通路が延びている。マーリンの家とほぼ同じ造りだ。しかし、その規模は数倍。
 異なる点は、建物がコの字型で、中庭を進むとなると、死角がないこと。建物の外側外壁が敷地を分かつ壁の役目をしていること。
 建物外側に窓が少なく、この3階建建物には一定の要塞としての機能があったことは明白だ。
 そのため、攻めにくい。

 私は200メートルほど庭を歩いて、車寄に達した。
 建物正面は南向き、東西の部屋からは、銃身が出ていた。子供が衝動的に発射したりしないか、私はビクついている。
 堅牢な木製の観音ドアを右手の拳で叩き、「誰か!」と声をかける。
 内部から「誰だ!」と誰何され、私は「中央行政府の使者だ」と嘘をついた。
 子供相手に行政は使者など出さない。
 木製の大きな扉が開く。
 私が内部に入ると、この建物には電気がないことに気付いた。
 明かりは、ローソクとランプだけだ。照明としての電気の普及は急で、どこの街にも何らかの発電設備はある。主要な建物には、電気が供給されている。
 周辺の建物には電気が届いているが、この校舎にはない。
 すべての窓のよろい戸が閉められ、室内が薄暗い。気分も薄暗くなる。

 ロビーの正面には、少年が立っていた。反りのある片刃の刀を下げている。
 堂々としたたたずまいだ。
 少年から声を発する。
「行政府の使者殿とか?
 軍の名誉を重んじ、我々の権利を守ると約束するのか?」
 私は、どう答えるべきか皆目わからなかった。
「きみたちの権利?」
 少年は凛とした声で彼らが“権利”とする論を述べる。声がロビーに反響する。
「私たちは、国を守るために特別に選ばれ、軍人となるための教育を受けている。
 しかし、現行政府と議会は、国軍が脆弱などと偽りを言い放ち、国軍を解体しようとしている。
 国軍が解体されれば、私たちが受けてきた教育の意味がなくなる。これは、国家の損失である。
 我々には、国軍軍人になる権利がある」
 私は、子供の言葉としても少し呆れていた。
「権利か……。
 アークティカを守る義務は、この国に住む他国人や長期来訪者を除くすべての民にある。
 国を守ることは、権利ではなく、義務だ」
 少年は、私の言葉を理解できないようだ。
「国を守る?
 物売りや羊飼いたちと、我々を同列に扱うのか?
 物売りや羊飼いは、矢弾避けの消耗品。我々は国軍を担う重要な立場にいる。
 つまらぬ輩〈やから〉と一緒にするな」
 私は、歪な考えの少年を理解できないでいた。
「物売り、羊飼いを見下しているようだが、彼らが国の経済を支えている。
 きみたちが手にする銃も、きみたちの制服も国から与えられたもの。
 国の財政は、日々、一生懸命働く人々が納める税にかかっている。
 税がなければ、きみたちは銃を持てないし、制服もない。
 腰に布を巻いて、棍棒でも持って戦うしかない。
 日々働き、賃金を得て、そこから税を納め、その税で道を整備し、建物を直し、橋を架け、病院を建て、銃を買う代金にもする。
 それが、国に貢献するということだ」
 少年には、まったく別の論理があるようだ。
「軍人は……、国軍の高級将校は、国を守る特別な任務を背負っている。
 だから、いかなる民にも優越する。そもそも軍人は民ではない。民とは軍人によって庇護され、ことあらば軍人の命令の下で戦うべき存在だ。
 軍人はすべてに優越する」
 私は少し理解した。彼の論は、ある種の軍国思想なのだ。
「そもそも軍隊などというものは、必要悪だ。国が平和で栄えていれば、軍などというものは本来は不用。
 だが、この世界には帝国のような連中がいる。軍事力を持って他国を征服しようとする勢力がある以上、降りかかる火の粉は払わなくてはならない。
 だから、軍隊がいる。
 戦争になれば、実際に戦うのは普通の人々だ。農民は鍬を銃に持ち替え、鍛冶屋は鎚を爆弾に換え、商人は帳簿を机に置いて剣を握る。
 戦争になれば、アークティカの誰もが戦わなくてはならない。職業軍人だけが、穴倉にこもっていられるわけはない」
 少年は怒りを表している。
「軍を必要悪と言ったな!
 軍人の誉れを蔑んだな!」
 私は笑ってしまった。
「職業としての軍人を蔑んでいるんじゃない。
 それも必要だ。
 だが、他の職業に比べて、誇り高いわけじゃない。
 戦争は、前線の兵士同士が戦って勝敗が決まるものではない。
 前線の兵士1人を殺すより、後方の街を攻めて民間人1人を殺すほうが勝利に近付く。
 たくましい若者よりも老人、老人よりも赤子を殺すほうが戦略的に有利となる。最前線で敵兵の喉に剣を突き刺すより、街を襲って妊婦の腹を割くほうが勝利への近道だ。
 そんなものに名誉や誇りがあるはずない。
 戦争があるから軍が必要なんだ。
 戦争がないなら軍は不用だ」
 少年はまったく、私の話を理解できないようだ。
「名誉ある軍人は、女の腹など割かない」
 私は、軍国少年が哀れだった。
「戦争に名誉などない。残虐なほうが勝つ。それだけだ」
 少年は、私を蔑んでいた。
「バタ沖海戦に勝利した英雄は、お前のようなことは言わない」
 ため息しか出ない。
「バタ沖海戦で魚雷を発射したのは、私たちが乗った飛行機だった。
 トルボルグ号は間一髪で脱出に成功した。
 あのとき、もう1機が爆弾を積んでいたら、敵艦に追い討ちの投弾を命じていた。海に浮いている敵兵の多くを殺せたはずだ。
 殺せるうちに殺しておかないと、こちらが殺されてしまう」
 少年は始めて狼狽した目をする。
「正々堂々の一騎打ちではなかったのか?」
 私の目は笑っていた。
「ただの虐殺だ」
 少年は憤慨している。
「出て行け!
 国軍の名誉と、我々の権利を守り抜く!」
 私に向けて、いっせいに銃口が突きつけられる。
 衝動的に引き金を引きかねない雰囲気があり、私は後ずさりしながら校舎を出た。

 クラリスが心配げな顔をする。
「どうだった?」
 私は言葉が出なかった。クラリスは軍国主義を知らない。
「国軍には名誉があり、名誉ある国軍に対して彼らには権利があると思っているようだ。
 12歳ほどの子供が、既得権益を主張している」
 クラリスは訝っている。
「既得権益?」
 私はやや投げ槍だった。
「あぁ、国軍が解体されることに抗議しているんだ。
 抗議の理由だが、平たく言えば、彼らは国軍に就職するはずだった。国軍に就職したら退役するまで給料をもらい続けるはずだった。戦争になったら高級将校だから前線には行かないつもりだった。
 そんなところかな」
 クラリスは理解できない面持ちだ。
「では、誰が戦う?」
 私は答えたくなかった。
「物売りや羊飼いだそうだ」
 クラリスが笑う。
「それでは、羊飼いの戦いぶりを見せてあげよう」
 私は忘れていた。クラリスたちは本来、羊飼いだ。最近は、チーズ職人のイメージが強いが……。

 強攻策に出るべきか。強攻策に出た場合、犠牲者を出さないか、それが問題だった。
 90人に達しない子供たちが生活するには、校舎は必要以上に広いが、食糧の備蓄は多くない。パンは数日分、塩漬け肉と魚の燻製は1週間ほど、野菜類と果物類はもうないだろう。
 子供たちだけでは、調理もままならない。たまたま薪の搬入が遅れていて、ほとんど残っていなかった。
 これらは校舎に勤務する料理人や女中、庭師から聞いた。
 少年たちは、料理人などを人質にしようとしていたが、一部の少年から知らされ、逃げたそうだ。
 少年たちが、一枚岩でないこともわかった。

 大人たちが、強攻策か調略か、を議論していた3日目に事件は起きた。
 そもそも、数日すれば、子供たちは校舎の外に出てくると、私を含めた大人たちは考えていた。
 何を考えていても、所詮は子供、と。

 校舎内から、銃声が3発ないし4発聞こえた。銃声は重なっていた。

 校舎内に何を問いかけても応答がない。
 そして、銃口が我々に向けられた。

 その日の日没後、高学年生1人が、保護を求めて脱出してきた。
 西側の外壁側2階窓から飛び降り、足をひどく捻挫している。
「処刑したんだ。
 マッカムは、外に出たいと泣く低学年生(在学1年から2年目)4人を銃殺した。
 指揮官の命令に背いたって」
 私は心底驚いた。
「銃殺?
 撃ち殺したのか?
 事故ではなくて?」
 少年は怯えていた。
「事故じゃない。
 マッカムは頭がおかしい。
 前から頭がおかしいとは思っていたけど、完全に狂ってる。
 マッカムと手下たちが怖くて、中学年生(在学3年から4年目)以下は逆らえないけれど、みんな校舎から出たいんだ。
 マッカムは、それを知っていて、見せしめに殺したんだ」

 私は時間がないと判断した。
「生徒全員が一緒なのか?」
 少年は泣き出した。
「違うよ。
 どのくらいの人数かわからないけれど、10人かそれ以上が、低学年生を中心に校舎のどこかに隠れている。
 ぼくは、助けて欲しくて、弟を残して、2階の窓から飛び降りたんだ」
 私は別な心配が起きた。
「きみ1人ではなかった?」
 少年が涙をぬぐう。
「うん。
 高学年生が1人が一緒で、低学年生と隠れている。マッカムたちに見つかったら殺されてしまう。敵前逃亡罪で処刑するって、言っているらしい。
 隠れている生徒は他にもいるかもしれない。低学年生でマッカムについたのは半分くらいだと思う。
 弟たちは2日間何も食べていないんだ。
 お腹が空いているんだ。
 早く助けて」

 クラリスは、強攻策を主張し、私も同意した。クラリスの突入策は、ロビーの背後から。
 壁のレンガは相当に頑丈だが、ロビーの背後は大型の暖炉を撤去した関係で、壁が薄い。
 これは、庭師などからの情報で、確かだ。
 クラリスの案は、壁に爆薬を仕掛け、爆発によってレンガをつなぐモルタルを剥がし、接合を弱めて人力で押し崩し、一気に侵入するという作戦。
 陽動として、東翼、西翼を構成する建屋の3階に侵入する。両翼の3階は使われておらず、3階に侵入後、南に向かいながら2階、1階と降りていく。
 高学年生の半分を引き付けられれば、ロビーの制圧はそれだけ容易になる。

 敷地外側外壁から3階に登るには、舫い銃を使った。クラリスたちは、高い崖の登坂など特殊な訓練をしており、舫い銃は登坂用ロープを打ち上げるために使っていた。
 敷地外側外壁は、1階には窓がなく、2階は通気用なのか小さい窓が少数、3階は通常の建物と大差ない大きさの造作のいい窓が並ぶ。
 コの字の建物の、東端と西端の敷地外側から、舫い銃が撃たれ、室内に飛び込み、爪が何かをつかむ。
 そして、クラリス隊の精鋭1人が登る。登り切り、ロープを固定すると、隊員が次々と登り始め、別な窓が開かれ、ロープが下ろされ、さらに多くが登っていく。
 私は、彼女たちの手際のよさに驚いていた。

 3階に上がった東隊と西隊は、派手な音を立てながら南に向かう計画だった。
 それは、ロビーに陣取る高学年生を引き付ける目的があったからだ。引き付けても交戦するつもりはなく、接触した場合は後退する予定だ。
 まず、西隊が3階で隠れている低学年生数人を発見。東隊は2階で、複数グループを発見。グループの1つは低学年生が含まれていて、高学年生が付き添っていた。
 隠れていた少年は、30人を超えた。中学年生が多い。多くの低学年生は幼くて、逃げ遅れたらしい。
 隠れていた少年たちは、クラリス隊に怯えたが、それでも勇気を振り絞り保護を求めてきた。

 クラリス隊から無線で、次々と生徒保護の連絡が入る。
 実戦に近い状況で、無線を使う初めての作戦だが、無線の威力は遺憾なく発揮されている。
 事態を重く見ていた中央行政府上層部が立ち会っていたが、野戦無線機が置かれているテーブルに集まっている。
 その目は、興味と脅威、興奮に溢れている。

 東隊と西隊の突入から15分後、校舎西側で小さな爆発が起こる。
 クラリス隊本隊が突入したのだ。

 爆発の影響で、ロビーには埃が舞っていた。視界は悪いが、それでも敵味方の判別はできた。
 クラリス隊は、大量の発煙弾を投げ込む。催涙弾はないので、手榴弾型の発煙弾を多用した。
 煙は恐怖と息苦しさを招く。
 大きな玄関ドアが開き、何人かが庭に飛び出してくる。
 少年たちは、次々と校舎外にいたクラリス隊隊員に保護されていく。

 最初に校舎外に出てきたのは、指揮官を気取っていたマッカムだった。
 お定まりの結果だ。威勢のいいヤツほど、逃げ足が速い。機を見るに敏なのだ。
 勝ち目があると思えば威勢よく、負けが見えると脱兎のごとく逃げ出す。
 そういう人間はいる。
 案の定、普通の生徒のような素振りをしている。
 中学年生がマッカムを指差し叫ぶ。
「マッカムだ。
 マッカムが弟を殺した。
 家に帰りたいって言っただけなのに」
 その場が凍りつく。
 マッカムが逃げようとし、クラリス隊通信士の少女が取り押さえようとする。
 少女の右ストレートが、マッカムの顔面にヒットする。マッカムが仰向けに倒れ、鼻を押さえる。
 ひどい鼻血が流れ出る。
「血、血ぃ、血だぁ~」
 みっともない叫び声だ。
 父親ノーカーが息子を呆然と見ている。
 クラリス隊の女性隊員たちが、笑っている。衛生隊員がマッカムを立ち上がらせ、手当てしようとしたが、途中で手を離した。

 担架に乗せられた小さな4つの遺体は、その場の喧騒を一瞬で静寂に変えた。
 ベテラン衛生隊員がクラリスに報告。
「銃殺されたようです。
 4人とも後ろ手に縛られ、目隠しされていました。銃弾は1発だけ。少なくとも2人は即死ではありません。苦しんで死んだと思います。
 遺体には毛布やシーツはかけられておらず、死者への敬意はありませんでした。遺体は床に転がされた状態で……」
 我が子の遺体を見た父親と母親が、子の名を叫び慟哭する。
 修羅場だ。
 殺された7歳の子、殺した12歳の子。
 最大級の恐怖を与えての処刑。しかも、即死ではない。
 銃殺を命じたマッカムと、実行した4人が拘束される。
 アークティカには子供を裁く法がない。私の範疇ではないが、この後始末の難しさを考えると、憂鬱になる。
 4人が銃殺されたことで、その場にいた教官たちも身柄を拘束される。彼らには、責任を取ってもらう。
 年少の子供たちを守りぬいた何人かの高学年生は、賞賛されている。私も「よくやってくれた」と感謝の言葉を伝える。

 私はマッカムの父親ノーカーに声をかける。
「子は父親の影響を受ける。
 父親がくだらない思想に拘泥していると、息子もそれに染まる。
 あの子以外に子がいるなら、まともな人間に育てて欲しい」
 後味の悪い事件だった。

 この事件の影響は大きく、アークティカの軍制度は根本から改革されることとなった。
 まず、幼年学校は軍とは無関係な普通の学校に。士官候補生学校と幹部候補生学校は、幼年学校卒業生だけに事実上進学資格があったことから、差別的で、存在の意味がないとして廃止が決まる。
 今後、国軍は、陸、海、空、国境警備隊の4軍を束ねる統合司令部だけとなることが決まった。
 実動部隊は都度、それぞれの街の郷土防衛隊から派遣することとなる。
 郷土防衛隊は、地方軍と改名された。

 そして、今後の最大の問題は、初代統合司令官の人事だった。
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