200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第1章

第二〇話 カルロス

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 俺たちは、北方低層平原南東部に拠点があると推測している〝厄介な集団〟を自然発生的に〝カルロス〟と呼ぶようになっていた。 カルロス・グループの糧は、鍋の内側から脱出してきた人々の物資。

 略奪だ。

 カルロス・グループに略奪され、命を長らえて西に向かっても、そこにはドラキュロの群がいる。
 どれほど幸運であっても助からない。
 同時に大量の物資とともに西からやって来た我々は、最高の獲物というわけだ。
 だが、最高の獲物は凶暴でもある。追い剥ぎの衣を剥ぐくらいは、平気でやる。
 実際、北東部の〝厄介な集団〟であったルネのグループは、虎の子のサラディン装甲車を奪われている。

 由加とベルタは、カルロス・グループの戦力分析を続けている。
 野生動物の数、野生の食用植物、鍋から脱出してくる人々の頻度、それらを勘案すると、四〇から五〇人の集団ではないと判断していた。最大でも三〇人、最小は十数人。一五人程度が現実的だ。
 カルロス・グループの勢力を二〇人以下とした場合、由加とベルタは威力偵察を兼ねた先制攻撃が適当と判断している。
 つまり、ハチの巣をつついたら、ハチがどれだけ出てくるのかを確かめるわけだ。

 子供五人を救助した二日後、一二歳の男の子パウルが亡くなった。感染症と栄養失調、そして寒さによる体力の消耗。
 シーツにくるまれた小さな遺体を、キャンプ南側の敷地内に埋葬した。生き残った四人は泣いていたが、我々も悔いのある思いだった。

 パウルの葬儀があった翌日、能美から俺だけに報告があった。
 救急車の近くで救助した女性の名は、アグスティナ、少女はフローリカ。二人はスペイン語を話す。二人から聞き出せたのは名前だけだが、アグスティナは妊娠していた。
 能美はそのことに気付いていたが、他言しなかった。しかし、昨夜、流産したという。
 能美はアグスティナの身体的異状は少ないが、精神的なダメージは大きいという。
 このことは、能美、納田、ライマ、そして俺以外は誰も知らないという。俺も他言しないと約束した。

 だが、アグスティナのことは、女性たちは知っていたようだ。
 この頃から、カルロス・グループに対する先制攻撃論が主流を占めるようになる。
 男性陣の「あえてハチの巣をつつく必要はない」という消極論は、やがて女性陣の強行論に押されていった。
 我々は、すでにカルロス・グループと思われる六人を殺害している。
 戦いは避けられない。

 珠月、ルサリィ、ネミッサ、アマリネの四人は、積極的に南東方面の捜索を行っている。目的は、明らかにカルロス・グループとの接触だ。
 それに、由加とベルタのどちらかが指揮官として加わる。装備は戦闘を意図したもの。RPK軽機関銃やRPG‐7対戦車砲も持っていく。使用する車輌は、履帯を着けたハンバー・ピッグだ。

 そして、数度の接触があった。カルロス・グループはすぐに逃走し、やがて姿を見せなくなった。

 男性陣はもっぱら、南西方面の車輌の多い一帯の調査・物資回収を行っている。寒さとガスマスクによって、ドラキュロの脅威はかなり低くなっている。
 衣類や缶詰類を発見すれば、必ず回収したし、道具や工具類もありがたい。だが、「なぜ?」と首をかしげるものもある。
 例えば、日本製の人感センサーを大量に発見したときは、正直なところ用途を思いつかなかった。
 だが、持ち帰ると、金吾と金沢がキャンプ周辺に設置し、接近者の探知に使った。
 サーモグラフィカメラ、ノートパソコン、液晶モニターなども有益な釣果だった。
 武器はほとんど発見できない。また、ディーノによれば、大量の建設資材があったというが、それも発見できない。

 由加が指揮する南東捜索班は、ついにカルロス・グループと本格的に接触した。
 カルロス・グループは八輪の小型全地形対応車(ATV)二輌と複数の四輪バイク型ATVに分乗して、攻撃を仕掛けてきた。
 下草は濃いが、丈は低い。見晴らしがよく、地面は固く、キャンプから四〇キロ南なので雪はない。灌木と疎林が点々とあり、待ち伏せに適していた。

 グレネード・ランチャーを使った初期攻撃は、効果的ではあったが雑でもあった。初速の低い榴弾で、移動する車輌に命中させることは容易ではない。しかも、距離があった。初速七六メートル/秒の低速弾を、有効射程ギリギリの一五〇メートル離れた場所から発射しても命中は偶然を頼るしかない。
 しかも、ハンバー・ピッグは履帯付きで、草原を高速移動している。
 カルロス・グループは所在を暴露した。南東捜索班は、ハンバー・ピッグの車体上面ハッチを開け、ありったけの火器で反撃を始めた。

 戦闘は二分程度で終わった。四人の死体、一輌の八輪ATV、一輌のバイク型四輪ATV、武器多数を鹵獲した。

 由加とベルタは、カルロス・グループを追い詰めつつあると分析している。しかし、連中の拠点は不明だし、実際の戦力もわからない。
 戦闘行動を起こせば、確実に燃料が減っていく。安易な行動は自滅への道だ。
 俺は由加に自分の考えを伝えた。
 だが、由加とベルタには、攻勢をやめる意思はないようだ。
 ならば、どうする。答えは一つ。燃料を探すしかない。
 南西調査班は、物資の主眼を燃料に移した。車輌数一〇〇を超える大部隊であった五年前のグループには、絶対に燃料輸送車があったはずだ。ディーノは大型のタンクローリーは見ていないといったが、二キロリットルクラスのタンクを積んだトラックを複数台目撃している。
 それを探す。
 西に向かうほど、車輌は小型になる。小型車のほうが、不整地での走行がしやすいからだ。ランドローバー、ゲレンデワーゲン、ランドクルーザー、ジープラングラーなど、車種は限定される。
 だが、同時にドラキュロに対しては脆弱。ガス欠で行き止まったクルマは少ないようで、ほとんどはドアが開け放たれ、一部の車輌には車内に黒いシミが残る。大量の血痕の跡だ。
 フロントガラスが割られたクルマも多数ある。
 最初に見つけた燃料タンク車は、車体の大半が地面に埋まっていた。
 燃料タンクは地上に露出しているが、荷台は泥と砂と枯れ草で埋まっている。
 回収方法は、車体ごと掘り出す、燃料タンクを取り外す、燃料を抜き取る、などいろいろあるが、一長一短だ。
 車体を掘り出せば、車体ごとキャンプに回収できる。あとはゆっくりと作業すればいい。
 燃料タンクごと回収するにはクレーンが必要。クレーンはあるが、ここまで走らせるには多大な労力が必要。
 燃料だけを回収することは合理的だが、抜き取った燃料を入れる容器がない。ドラム缶が六本あるが、合計で一二〇〇リットルだ。残り八〇〇リットルはどうする?
 それにドラム缶のすべてが空ではない。

 結局、八トントラックに履帯を取り付け、二トンダンプと協力して燃料タンクごと回収することにした。
 そうなると、ハンバー・ピッグから、履帯を外すことになる。
 他に履帯付きで稼働できる車輌は、スコーピオン軽戦車だけとなる。
 俺は嫌な予感がした。
 由加とベルタが戦車を持ち出したら、どう使う?
 さらに悪い情報が……。
 金沢とウィルがM24チャーフィー改造軽戦車を修理したのだ。
 しかも、チャーフィーはスコーピオンよりも装甲が厚い。スコーピオンの装甲はアルミ合金だが、チャーフィーは鋼製装甲板だ。スコーピオンの装甲は一四・五ミリ機関銃弾の直撃に耐える程度だが、チャーフィーは至近で発射された四七ミリ対戦車砲の徹甲弾を跳ね返す。
 どちらにしても、山賊相手の戦闘なら無敵だ。
 さらに悪いことが……。
 車輌整備班が、ルネたちから奪取したサラディン装輪装甲車の最後部輪に、斉木のトラクターの後輪を移植したのだ。偶然にも接地位置が合致し、取り付け可能だったのだという。
 サラディンは六輪駆動だが、前輪と中央輪で操舵する。最後部輪は駆動のみだ。
 しかも、サラディンの正面装甲は三二ミリもあり、これに建設用敷鉄板から切り出した二五ミリ圧延鋼板を増加装甲として取り付けてあった。
 由加は同じようにチャーフィーにも増加装甲を取り付けるように指示した。車体がアルミ合金のスコーピオンには増加装甲は無理なのだそうだ。
 どちらにしても、七六・二ミリ砲を搭載する機甲部隊が誕生してしまった。
 周到な戦いをしなければ、カルロス・グループに勝ち目はない。

 この三輌によって、よく晴れた真冬の寒い日に南東捜索が実施された。
 一切の接触はなかったが、以後、カルロス・グループが我々に牙をむくことはなくなった。

 燃料タンク回収は手順として、計四回の作業を行った。
 タンク車はキャンプから実走行距離で八〇キロ離れていて、ドラキュロの活動範囲内にある。
 タンクはステンレス製で、荷台とはボルトで固定されている。ドラム缶四本が空なので、計八〇〇リットルを抜き出して、総重量の軽量化を図る。
 ここまでが第一段階。
 第二段階は、荷台から泥と砂を取り除いて、荷台とタンクとの固定を解く。
 第三段階は、タンクをクレーンで吊り上げて八トントラックの荷台に移す。
 第四段階は、それをキャンプまで持ってくる。
 この作業は、ガスマスクを着けて行う。とんでもないほど息苦しい。さらに、タンク車は前方に六度、右に四度傾いて埋まっている。何をするのも簡単ではない。
 天候も安定しない。雪は少ないが、風が強い日が多い。だが、風は南下するほど弱い。

 風の強い夜、人感センサーに反応があった。過去に何度も反応があり、多くは野生動物に反応したようだ。
 このときも当初は動物だと判断していた。だが、金吾がサーモグラフィカメラで確認すると、人間のような姿が見えるという。
 ドラキュロも人形だ。
 俺と相馬、そしてデュランダルが銃を構えて、人間形の像が写る方向に向かった。

 服を着ていた。それは人間の証だ。少なくとも、ドラキュロではない。
 発見したのは女性で、厚いコートの中に幼児を抱えていた。
 女性はうずくまっていたが、意識があり、幼児も無事だった。

 翌日から、能美が診察をしながら事情を聞き始めた。
 彼女は「デリンジャーから逃げてきた」といった。デリンジャーは、我々が〝カルロス〟と呼ぶグループのリーダーらしい。
 幼児は彼女の子で、同時にデリンジャーの子でもあるという。カルロス・グループに捕らわれていたが、由加たちの行動に触発されて逃げてきたのだという。
 彼女は美容系の外科医で、医師であることから殺されなかったそうだ。

 俺は短絡的に彼女に同情した。
 だが、マーニは違った。
「あのおばちゃん、意地悪な感じがする」
 続いて、ちーちゃん。
「あのおばちゃん、赤ちゃんのことかわいがらないよ」
 三人目は能美。
「何かヘン。彼女診察させないの。医者だからって、自分を診察できないのに。
 それと、筋肉の付き方が囚われ人っていう感じじゃないの」
 持ち物に不審なものはなかった。武器になるようなものは、一切ない。
 我々のキャンプの近くまで、奪ったATVでやって来たそうだ。
 彼女はデルフィーヌと名乗ったが、子供の名前はやや口ごもってリュシアンと教えた。
 確かに不自然さはある。何となくなのだが……。
 ベルタが、デルフィーヌを名乗る女性が、幼児の扱いに不慣れだと言い始めた。その日のうちに、ベルタの意見に由加が同意する。

 デルフィーヌは医療棟におり、ここにはアグスティナもいる。アグスティナの子、フローリカは歩けないし、言葉も通じないがシルヴァやアマリネと宿棟で親しげにしている。
 まず、フローリカを医療棟に出向かせないことにした。
 アグスティナは不安定だが、フローリカに会うことを建前に医療棟から出した。
 事実上、デルフィーヌを医療棟に監禁した。

 デルフィーヌには強い違和感があるが、疑念に対する確たる根拠はなかった。ただのカンだ。

 キャンプの中央には、単管パイプを使った高さ一五メートルの鉄塔が建っている。通信用空中線のアンテナの一本であり、同時に周囲三六〇度を監視するカメラの据え付け柱でもある。通常のビデオカメラとサーモグラフィカメラが、三分間に一周の速さで定速回転している。
 デルフィーヌがやって来てから三回目の夜、サーモグラフィカメラが複数の熱源の接近を探知。人形の熱源は、東から四、西から二、南から三、北から四の計一三。
 静かに戦支度を整える。一四歳以下の子供はムンゴ装甲ワゴンへ。アグスティナとフローリカも同車に運ぶ。
 一三歳のシルヴァがリーダーで、ショウくんとユウナちゃんがサブリーダーだ。この三人には、五・五六ミリNATO弾仕様のポーランド製AK‐47を渡してある。
 一四歳のアビーとアマリネは、ムンゴ装甲ワゴンの車外で護衛の任に就く。二人はM16アサルトライフルの短銃身型であるM4カービンを装備。
 これも予定通りだ。戦闘訓練を受けていないハミルカルたちは、ハームリンに押し込んだ。
 最悪の場合、アビーがハームリンを、アマリネがムンゴ装甲ワゴンを運転して、キャンプを脱出する。

 戦いはすぐに始まった。
 暗視装置を持つ、狙撃班が東から迫る二人を倒し、西から迫る二人は軽機関銃の斉射によって一瞬で終わる。
 南からの三人は、キャンプ内に侵入しようとしたところを、ディーノの手榴弾で二人が、一人は相馬が斬った。
 北から迫る四人は数発撃っただけで、退却した。
 だが、何を勘違いしたのか、デルフィーヌと名乗る女性は納田に医療用の刃物を首に押し当て、人質にして我々の前に出てきた。
 だが我々も、東から侵入しようとした四人のうち二人を拘束していた。

 デルフィーヌは寸前まで、自分たちの勝利を確信していたようだ。
「この女がどうなってもいいのか!」と我々を脅した。
 そして、暗闇に向かって「全員集まれ!」と命じた。
 誰も現れない。
 イサイアスと金沢が、拘束した二人を連れてきた。
 デルフィーヌは慌てていた。
 納田を人質に逃走を図ろうとする。出入口のある北側に向かって後退りを始めた。
 金沢が、「納田さんを離せ」と静かにいった。
 デルフィーヌが「うるさい!」と怒鳴った瞬間、金沢は刀を抜き、拘束した二人のうちの一人を斬った。普段のオタク然とした雰囲気はなく、異様な殺気が放たれている。
 デルフィーヌは気圧され、一瞬だが納田を拘束する力を緩めた。
 納田はその瞬間を見計らったように、右手に注射器を握り、注射針のカバーを口にくわえて注射針を大気に晒した。
 そして、注射器をデルフィーヌの太ももに突き刺す。
 数秒後、デルフィーヌは地面に倒れ痙攣を始めた。
 我々は呆気にとられていた。
「助からない。大量のニコチン水溶液を注射したから」
 納田の説明に、怖気が走る。ニコチンは青酸カリの倍以上の毒性があり、しかも即効性。
 納田は捕虜に注射器を見せた。
「貴方にも注射してあげようか?
 量を減らせば、ゆっくりと苦しみながら死ぬ。どう、試してみる?」

 捕虜は以後、素直に尋問に答えた。
 カルロス・グループの全容が明らかになったが、単なる素行の悪い大人の集まりでしかなかった。
 リーダーは、デルフィーヌ。彼女が二〇人ほどの郎党を引き連れて、略奪を働いていた。デリンジャー、カルロス、バップという三人の幹部がおり、デリンジャーとカルロスは今回の戦いで死んだ。
 これは、捕虜に首実検で確認させた。
 バップと彼の女であるラウラは生き残り、その他にもメンバー三人が生き残った。

 捕虜は、キャンプから東に八〇キロの地点で解放した。武器以外の持ち物は返したが、生き残ることはほぼ不可能だろう。
 一〇日、二〇日は生きたとしても、年の単位での生存は無理だ。

 二日後の夜、北東方向に二人を発見。暗視装置で見張っていると、グレネードランチャーを撃ち込もうとしている。
 我々は危険を感じて、過大な銃弾を浴びせた。未だに攻撃を仕掛けてくる執念深さに驚くだけでなく、彼らの精神構造に不気味なものを感じた。

 結局、全員を殺す以外に解決策はないのか?

 二つの死体と、改造SKSカービン二挺、M79グレネードランチャー一挺が残っていた。死体は二人とも男で、捕虜の証言によれば、残りは男二人と女二人だ。
 解放した捕虜が合流していれば、残敵は五人。
 捕虜を尋問したベルタは、「現在のリーダーはバップではなく、ラウラではないか?」と予測している。
 ラウラは気性が激しく、カルロス・グループの残虐性の源泉はラウラにある、とベルタは推測している。他は、それに引きずられているだけ。

 カルロス・グループの処置について、会議が開かれたが、当然のように結論は出なかった。
 子供の喧嘩のような稚拙な作戦。勝敗が確定しても撤退しない非合理性。物資の確保をしたいのか、我々を殺したいのか、その重要度の違いの不明。
 これらから強い幼児性を感じていたが、それゆえの危険性も認識していた。
 金吾が、「連中は、単に俺たちが縄張りに入ってきたから攻撃してきたんじゃないか?
 動物と大差ないのかもしれない」といった。
 それに、何人かが賛同する。
 ベルタは捕虜の尋問時、「お前たちが縄張りに留まる限り、殺し続ける」と捕虜から告げられたという。
 由加は、「後顧の憂いを断つためにも〝適切な処置〟をすべきだ」と主張した。
 デルフィーヌが連れてきた幼児は元気なのだが、リュシアンという名が本名なのか、親は誰か、など一切がわからない。少なくとも、彼女が母親でないことは確かだ。

 その二日後の日没直前、監視圏外からM79の榴弾を撃ち込まれた。
 射程外からの発射で、幸いにもキャンプに届かなかったが、未だに諦めていないことが明らかになった。
 全員、ため息しか出ない。

 金吾、金沢、イサイアス、アンティが独断で罠を仕掛けた。
 ハームリンが故障して、金吾と金沢が孤立した風を装ったのだ。
 ハームリンにはイサイアスとアンティも乗っていたが二人は一切姿を見せず、金吾と金沢だけが修理をする様子を演じた。
 注文通りに引っかかった。
 二人は直ちに反撃し、イサイアスとアンティも加わって、二人を倒し、三人が逃げた。倒したのは、男一人、女一人。
 金吾たちは逃げた三人を執拗に追跡し、最西端の草原地帯で男一人を遠距離射撃戦で倒した。日没間際だった。
 残り二人は闇に紛れて逃げた。

 その翌払暁、今度はキャンプに報復攻撃を仕掛けてきた。
 北西の灌木林で銃撃戦となり、男一人を射殺。
 残るは女一人となった。

 以後の攻撃も執拗だった。
 翌日の昼間、火を付けたATVをキャンプ北側に突っ込ませようとした。これは、途中でATVが横転し失敗。
 その翌々日、キャンプから出て、西に向かう車輌に火炎瓶を投擲。
 実際の被害はないものの、子供たちは一歩たりともキャンプから出ることができず、キャンプの囲みのなかしか、外気に接することができなかった。
 生き残りの女は、確証はないが異常な執念深さからラウラだと推測している。
 珠月やルサリィの怒りの蓄積は限界に達しており、アマリネやアビーも呼応しつつあった。
 どちらにしても、残り一人が我々の何人を殺すか、それとも我々が生き残り一人を殺すか、という選択に至っていた。
 ラウラと思われる残敵一人が何を考えているのかは、まったく不明。話し合いができる相手とも思えない。

 戦いの終わりは呆気なかった。
 相馬が、消えた焚き火の前で凍っている女性を見つけた。改造SKSカービンを持ち、残弾は四発のみ。食料はなく、得体の知れない植物の根を少量持つ。
 八輪のATVが近くにあったが、燃料が切れていた。
 年齢は推定二五歳前後。金髪でヨーロッパ系の顔立ち。顔相は異様に歪んでいた。憎しみだけで生きてきた人間の顔だ。
 一人になっても戦い続け、仮に彼女が我々のすべてを葬ったとして、その後どうしようと考えていたのか?
 彼女の心情の一切は不明だが、とにかく彼女の戦いは終わった。

 冬の終わり頃、OT‐64八輪兵員輸送車の修理と改造が完了した。修理可能な車輌の最後だ。ターボチャージャーを取り付けて、飛躍的にパワーアップしている。
 この全長七・五メートルに達する巨体を何に使うのか、それは議論の的だった。子供たちのためのワゴン、通信指令車の二案が有力だったが、弾薬輸送車に決まった。この車輌ならば、手持ちの弾薬のほとんどを運べる。しかも、装甲があるから小銃弾程度が命中しても一定の安全性がある。
 この他、イヴェコ・ユーロカーゴ五・五トントラック。ベンツ・ウニモグ六輪駆動の二台の修理がなった。工作車は部品の供給源となった。六輪ウニモグは、工作車の装備を移植され、車体長が増したことからタイヤなどの補修部品の積載も可能となった。
 獲得した物資は多く、輸送力の欠如は深刻だ。五・五トントラックを獲得したといっても、それ以上に物資は増加している。

 一〇歳以下の子供が三人増えた。トーイとミシュリンは斉木と能美が親代わりとなり、わずか一歳数か月ほどのリュシアンはトルクとライマに託そうとしていたが、意外なことにデュランダルとベルタが引き受けた。
 この展開にキャンプは大騒ぎとなった。

 雪は消えず、寒さはまだまだ厳しいが、ドラキュロの姿はなく、ヒトによる脅威もない穏やかな日々が続いている。

 そこに二台の装軌車がやってきた。全長四・五メートル、全幅二・三メートルのセミキャブオーバーのフルキャブ車だ。
 一台に六人、計一二人が我々のキャンプを訪れた。幼い子供もいる。

 彼らは旧アルプス山脈の北側、旧ヨーロッパ平原からやって来た。
 ここまでやって来た理由は、移住が可能かを調べるためだという。言葉が中央平原とは微妙に異なり、意思疎通は完全ではないが、ルサリィならば概略はつかめる。
 彼らの話では、アルプスの北側は年を追うごとに寒冷化していて、移住先を探しているらしい。村ごと、村民二〇〇が暮らせて、誰の土地でもない場所を探しているという。
 彼らからは、この地の寒さについて詳しく尋ねられた。今冬のことは教えたが、それがすべてではないだろう。
 そして、我々は北に移動するルートがあることを知る。

 この一件以降、北に偵察隊を派遣する案が発言されるようになる。
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