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第9章
09-213 時渡り
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高知にたどり着いて7日。萱場隆太郎たち3人は、想定外の待遇を受けていた。
宿舎、食事、衣服が支援され、感染症等の検査が終わった3日後以降は、外出は自由。3人が乗ってきた高翼単葉単発機ピラタスPC-6ポーターも所有したまま。
提出を求められたのは、ライフル猟銃2挺、散弾銃1挺、5連発リボルバー拳銃1挺で、刃渡り15センチ以内の刃物はそのまま。
隆太郎と鮎原梨々香は、関東方面の状況について詳細な報告を求められたが、取り調べのような過酷な聴取ではなかった。
3人は過去3年間、房総半島から出ないようにしていたこともあって、直近の東京方面の状況を知らない。
理由は、東京湾に深部に相当数の穴居人がいるからだ。遭遇したら逃げるしかないが、逃げ切れなければ死しかない。
穴居人は、無条件かつ原初的に恐ろしい。
ただ、関東甲信越の生存者とは、しばしば無線で連絡し合っていて、条件がよければ東北の生存者とも情報交換していた。
穴居人が現れてから生存者は少なくなったが、皆無になったわけではない。
また、大災厄から70年を経ているので、クルマや無線を使えない生存者もいる。彼らとの接触は偶然だけで、言葉が通じないこともある。
4日目、サクラは民生部の担当者に促され、緊張しながら学校に初登校した。同時に10人以上のヒトを見たことがないサクラだったが、35人の同級生と一緒に過ごせ、同時に友だちもできた。
サクラにとっては想像さえしなかったことで、動揺したが、それでも学校は楽しかった。
7日目、萱場隆太郎たちが逗留するゲストハウスに、若くはない4人の男女が訪れる。
隆太郎が1人で対応するが、4人の話しを理解するには少々の時間を要した。
4人のうち話しをするのは、リーダーらしい女性で、彼女の申し入れは思考のはるか外だった。
近藤と名乗った女性は、高知の実情から話し始める。
「大消滅以後、高知には東アジアや東南アジアから多くのヒトが移住してきました。
高知がヒトの役に立つならば、避難者を積極的に受け入れるべきですが、同時に、日本本来の文化や伝統を守る必要があります。
私たちは、その立場です」
隆太郎には、どんな立場なんだか、皆目理解不能だった。
近藤が続ける。
「高知の現政権は、私たちとは異なる立場です。高知の歴代政権は、高知周辺エリアの安定を重視するため、公用語を日本語と英語としました。
ですから、この街の標識は日本語と英語の両表記になっています。
私は、これはおかしいと思います。高知は日本なのですから、日本語を使うべきなのです」
隆太郎は過去に日本という国家が存在したことは知っている。しかし、いまはない。世界のどこにも国家はない。
近藤が続ける。
「萱場さんと奥様は、純粋な日本人ですよね?」
隆太郎は、正直面食らう。
「さぁ、どうでしょうねぇ。
ご先祖がどこから来たのか、私の父母、祖父母、曽祖父母は知らないと思いますよ。
家系図があるわけでも、家系図があったとしても正しいかなんてわからないでしょう。
そもそも、数千年遡っても、純粋な日本人なんていないでしょう。あなたのお顔を拝見していると、私と同じで、明らかに寒冷化適応後のモンゴロイドの特徴がありますよね。原日本列島人は、寒冷化適応前のモンゴロイドだったはず。となると、あなたも私も純粋な日本人ではない。
それに下世話な話、私は母が誰かと浮気してできた子かもしれないし……。
近藤さんは、ご自身の出自に絶対の自信があるのですか?」
この種の反論に近藤は慣れていた。ただ、限られた外部との接触しかなかった隆太郎に、一定の教養と知識があることに驚く。
「あなたも、理屈派ですか?
私たち民族派の敵となりますが、いいのですか?」
隆太郎は、高知に対立があることを察する。民族派には興味がなかったので、理屈派について尋ねた。
「理屈派とは?」
近藤は我が意を得たりとの顔をする。
「理屈派はウソつきの集団です。
まず、穴居人を過大評価しています。穴居人が四国に渡ってきて、高知周辺に集まり始めていることは事実ですが、駆除は簡単にできます。
撃ち殺せばいいのです。
次に、過去20年で人口が減りました。その前の40年間は年々増え続けていたのに、その後の20年間は減り続けています。
その理由として、食料生産の難しさをあげています。コメの収穫量が減っていることは事実ですが、水耕栽培で野菜の収穫量は増えています。
サツマイモやジャガイモは、土に埋めなくても栽培できるようになっています。
今後も高知で生活し続けられるのです。
それなのに理屈派は、日本列島での生存は難しいと主張し、移住を計画しているのです。
日本の国土を捨て、移住するなど日本人として許せません!
そう思いませんか?」
隆太郎は、詳細は知らないが移住の噂は何度か聞いていた。また、穴居人については、複数人から尋ねられている。
「移住ですか?
移住先を近藤さんはご存じですか?」
近藤がほくそ笑む。
「それが……、荒唐無稽なんです。
時渡りをするとか。
200万年後の未来を目指すそうです」
近藤を含む4人が笑う。
「大災厄後、多くのヒトが時渡りをしたと聞いていますが、いまでも可能なんでしょうか?」
近藤たちは、時渡りをまったく信じていないが、隆太郎がこの超常的現象を事実として認識していることに驚く。
「時渡り、つまりタイムトラベルですよ?」
隆太郎も伝聞でしかないが、時渡りについては祖父母の体験を直接聞いていた。
「東京周辺には何カ所かあったそうです。
時渡りのためのゲートが。
祖父家族は戸田という場所、祖母家族はお台場という場所から時渡りする案があったそうです。だけど、必要な物資が集められないことと、房総に生活圏を確保する目処があったことから参加しなかったのです。
2人とも子供だったので、時渡りできないことにそれほどのショックはなかったと聞きました。
それと、大消滅後も時渡りしたヒトはいたようです。
これも、祖父母から聞きました」
近藤たちは時渡りを事実として捉えていなかったが、この絵空事のような事象を信じているヒトが多いことを憂いていた。
「まさかとは思いますが、萱場さんは、時渡りを信じているのですか?」
隆太郎が即答する。
「はい。そういったことが実際にあったことは確かでしょう。
祖父母がウソを私に伝える理由がありませんからね」
翌日、隆太郎と梨々香は、彼らを担当する民生部員に移住計画の有無を質した。
「あります。
計画実行の時期が迫っているみたいです。
高知市民9000人のうち、賛成は5000人、反対は2000人、迷っているヒトが2000人という割合みたいです。
私、穴居人を見たことがないのだけど……」
梨々香が答える。
「穴居人を最初に見たのは5年くらい前かな。
直近は数カ月前。
このときは追いかけられたんだ。
軽トラで必死に逃げたけど、道のない場所だったのでスピードが出せなくて、追い付かれそうになったよ。
恐ろしかったぁ」
民生部員は、彼女にとっての核心に迫る疑問を投げる。
「梨々香さん、穴居人と共存できる?
穴居人を完全に駆除できる?」
梨々香が答える。
「共存なんて絶対に無理。
穴居人には心がないし、ヒトを食べることしか考えていない。そもそも考える力があるのか、わかんないよ。
生物の仕組みを使った機械かもしれない。
それと、駆除かぁ。
繁殖力が強いし、ヒトが食べられないと、共食いするし……。
たぶん、ヒトの数よりも何倍も多いよね。
高知までの道のりでも、何度も穴居人を見たし……。上空からだけど。
駆除なんて無理だと思う。
駆除されるのはヒトのほうじゃないかな」
隆太郎は梨々香の分析は正しいと思った。房総を離れた理由の多くは食料生産の行き詰まりだが、穴居人の房総への侵入も影響している。
ヒトの生存を脅かす最大要因は、穴居人ではないかと隆太郎は考えていた。
穴居人を駆除できないなら、ヒトは逃げるしかない。
どこへ。
それが問題だった。
民生部員に隆太郎が尋ねる。
「ずいぶん前だけど、南半球の島に移住したヒトたちがいたはずだけど……」
そのことは、彼女も知っていた。
「50年くらい前のことね。
ハワイのヒトたちが、ニュージーランドの北島に移住した……。
何十年も前から連絡がなくなっていて、消息はまったくわからないって聞いています。
高知でも食料生産は綱渡りだし、一歩間違えばたいへんなことになってしまうから、もっと住みやすい場所があるなら移住したいですよね」
隆太郎が核心に迫る。
「その住みやすい場所が200万年後?」
民生部員は、彼女の私的な意見だとことわった。
「200万年後ならば、いまの異常な気象が終わっているのかなって……。
冬の寒さは土を凍らせるほど、夏の暑さで作物は枯れてしまう……。大雨が続くと、作物は腐ってしまう……。
そして、夏も冬も太陽は霞んでいる……。
大災厄以前の空は、青かったって知ってます?
青い空って、一度でいいから見てみたいと思いません?
ならば、200万年後に行ってみようかなって、私は思っているんです」
梨々香が微笑む。
「青い空かぁ、見てみたいね。
高知は中継地だと、私は考えていたから……。高知の次はどこかはわからなかったけど、ポーターに乗ったとき、この旅の終着点は高知だとは考えていなかったんだ。
行くなら、少しでも希望があるところだね。
海を越えるのも、時を渡るのも、リスクは同じだよ」
隆太郎は、梨々香の考えに驚いていた。彼も同じだからだ。高知を単なる中継地とまでは考えていなかったが、房総を発ったとき、長い旅の始まりだとは感じていた。
隆太郎が梨々香に問う。
「200万年後に行ってみる?」
梨々香は微笑むが、答えなかった。
隆太郎と梨々香は働くことを希望し、民生部は2人が望んだ仕事に近い、飛行機の修理工場を紹介してくれた。
大災厄から70年、動く飛行機は非常に少なくなっていた。日常の整備はもちろん、レストアの範囲を超えた準新造さえ珍しくない。
隆太郎と梨々香に与えられた最初の仕事は工場内の清掃や補助的作業だったが、2人の整備技術が高度だと工場側が気付くと、工場長は移住後に使う機体の修理に振り向けた。
ありものの部品を組み合わせて、必要な飛行機を組み立てるのだが、純正部品が残っているわけもなく、ない部品は手作業で作り、使える部品は修理・改造して再利用する。
このパズルのような作業は、隆太郎と梨々香は得意だった。
時渡りの時期ははっきりとはわからない。
時渡りのためには、ゲートを作る必要があるのだが、作ることはできる。だが、構造はわかっているが、作動原理がわからない。
それでも、作れる。
だが、電力はどうするのか?
高知は太陽光発電と土佐発電跡に設置した石炭火力で、電力をまかなっている。
隆太郎が勤める飛行機の修理工場では、誰もが「九州に行けなくなるのでは」と話題にしている。石炭は、九州北部から採掘している。
行けなくなる理由は、九州にも穴居人が現れる可能性だ。現状、九州で穴居人は目撃されていない。
海水準が下がっていることから、どこで陸が接続するかわからない。満潮時は海没しても、干潮時には陸続きになることも考えなくてはならない。
退勤時、隆太郎は工場長に声をかけられた。梨々香はサクラのために少し早く退勤している。
「どうですか?
仕事に慣れましたか?」
生まれてから少人数の中で過ごしてきた隆太郎には、少人数がチームを組むこの工場の仕事の仕方が合っていた。
「えぇ、まぁ。
不慣れな点が多いですが、どうにか……」
「萱場さん、あなた、移住に賛成?
唐突だけど……」
隆太郎は小首をかしげる。
「時渡りのことですか?
俺は反対じゃないですが、作戦の成否がどのくらいか気になります」
工場長は、明確に息を吐いた。
「性懲りもなく、とは言っても60年ぶりくらいだが、オークが杭州湾にゲートを作っている。
あのヒト食い化け物は、穴居人に食われるらしい。ヒト食い化け物も穴居人が怖いらしく、逃げ出す算段をしているんだ。
俺たちは、オークのゲートを使う。
オークが作ったゲートを使って、時渡りをするんだ。この作戦は、60年前にも成功している。
オークは時系列の管理ができるので、たぶん、前回の時渡りと時間の同期がとれていると思う。完全ではないにしても、近似の時系列にはなっているんじゃないかな。
ヒトもゲートは作れるけど、時系列は滅茶苦茶らしいよ。
ゲートを閉じて以降、ヒトはゲートを作っていない。ゲートを閉じたので、時系列も閉じてしまったからね。
だけど、オークやギガスは時系列に沿って、ゲートを閉じたり開いたりできるらしいよ」
その夜、隆太郎は梨々香とサクラの3人で相談をした。
サクラは仲良くなったクラスメイトが時渡りすることから、絶対に参加したいと。
梨々香は「青い空を見たい。青い空を飛びたい」とメルヘンなことを言い続けた。
隆太郎は、単におもしろそうだと感じていた。
翌日、勤務先に移住計画部の職員がやって来た。
来訪の目的は、隆太郎たちのポーターについてだった。平たく言えば、移住計画部に「売るつもりはないか?」と。
隆太郎は「移住に参加させてもらいたい」と伝え、ポーターは「移住後の足に使いたい」と売却を拒んだ。
同席していた工場長は、隆太郎の存在意義を力説する。
「この男は、すごい技術と知識を持っている。もし、一緒に行ってくれるなら、大きな力になってくれる。
絶対に一緒に行ってもらうべきだ」
時渡りの説明は、高知市内とその周辺で使用できる無線LANを通じて告知と説明がされた。
これが、行政による公式の説明だった。隆太郎たち3人は、夕食後、ゲストハウスの自室で、貸し出されていたノートパソコンでそれを見た。
巨大船のことは、3人とも知っていた。何しろ、全長350メートル、全幅70メートル、客室は20階、25万総トンの巨体だ。
浦戸湾に浮かんでいるので、上空から目撃していた。あまりの大きさに、規模感がつかめず、大きな船だとは認識していたが、目撃時にはさほどの驚きはなかった。
実際、九十九里浜には20万総トン級のタンカーが座礁している。すでに残骸に近いが、大きさはよくわかる。
この船を見ているから、隆太郎たちに必要以上の驚きはなかった。
しかし、この船の構想は壮大なものだった。
高知と周辺の住民9000人を乗せられ、最上部は全通甲板になっていて、大型航空機の輸送に使う。甲板の強度から離船は可能だが着船はできない。
船体下部、船倉には、各種車輌、建設機械、農業機械、漁業用各種装置、各種兵器を詰め込む。
エンジンは6基で、推進はディーゼルエレクトリック。最大船速は22ノットしか出ないので、ゲート突入時は旅客機用のP&W PW4062ターボファンエンジン8基を噴射して時速70キロまで増速し、ゲートに突入する。
高バイパスターボファンエンジンであるPW4000シリーズは、エアバスやボーイングの旅客機に多用されていて、多数を保管している。
ただ、ここからが問題だった。
この移住用巨大客船の船齢は70年、そのうち5年間は渤海を漂流していた。完全に修理・修復されてはおらず、必要な改造を施し、ごく短期間の使用に耐えるようにしているだけ。
移住後は、深い湾などを探して、当面の住居として繋留することを想定していた。
燃料は満載するほどの備蓄はなく、航海速力で1600海里(3000キロ)分を積む。燃料は航空機用や車輌用も積むので、必要であればさらに2000キロの航海が可能だ。
また、200万年後の到着先は、陸上である可能性もある。
運べる食料は多くない。積載量の問題ではなく、食料がないのだ。ニワトリ、ブタ、ウシ、ヒツジを連れていくが、その数は多くない。
高知でも主たる動物性タンパクは魚介に頼っていた。多くは干物や燻製に加工して、冷凍保存している。
近海は水温が高すぎ、魚は少ない。食用魚は陸上での養殖に頼っていた。
規模の違いだけで、やっていることは房総にいた頃の隆太郎たちと変わりない。
食糧のうち魚の干物だけは豊富。
農産物で豊富なのは、甘くも美味くもないサツマイモ。あるのは栄養だけ。
完璧に修復・再生した車輌を積んでいくが、あらゆる車輌を使っても全員分の移動は無理。巨大客船がたどり着いた先から、動けない。ただし、救命艇などは人数分以上ある。
こんな条件でも、200万年後を目指すのかを問われていた。
隆太郎たち3人は、これほどの悪条件でも、時渡りを決めていた。
この世界では、じり貧だからだ。
移住後には未知の危険が待ち構えているが、高知にとどまった場合は既知の危険にさらされる。未知の危険は怖いが、既知の危険は恐怖の限界を超えている。既知の脅威は現実の問題であり、克服は困難。
激烈な気象と穴居人の存在は、ヒトの存在を確実に脅かしている。
関東甲信越では、房総は例外的に安全な場所だった。利根川と江戸川など利根川水系の河川によって守られているからだ。
水を嫌う穴居人は、幅が広く深い河川を渡れない。しかし、絶対はない。房総に侵入した穴居人は、東京湾の干潟経由で侵入した可能性が高い。
干潟を移動する穴居人の目撃例もある。
繁殖力の強い穴居人の駆除・駆逐は、ヒトの力では不可能だ。
隆太郎は、既知の危険と未知の脅威を天秤にかけたが、現在進行中である既知の危険のほうが重かった。
隆太郎たち3人は、時渡りによる移住に大きく傾いているが、その判断の多くは現実味のなさにもある。
確かに移住用巨大船は用意されているが、移住のタイムスケジュールは移住計画部から明示されていないからだ。
隆太郎が勤める工場は、大規模再生を担当している。
彼の勤務先以外では、中小規模修理工場、農機専門の再生工場、建設機械の再生工場、移住先で下駄の役割をする小型オフロード車の製造工場、戦闘車輌の再生工場もある。
隆太郎は戦車や装甲車の存在も確認している。高度に電子化された70年前の最新車輌はない。機械制御を基本にした旧式ばかりだ。
装甲車輌の多くは台湾から入手していた。四国にあった陸上自衛隊第14旅団の装備は、大消滅で失われている。
戦車はM41軽戦車、装甲車はM113で統一されている。すべて、台湾陸軍の旧式装備だ。ただし、数は多くない。
戦闘車輌が必要な理由は、はっきりしている。
200万年後には、何がいるのか皆目見当がつかないからだ。それに、履帯の車輌でなければ、路外走行はできない。
杭州湾を監視している偵察隊から「ゲートの修復が完了した模様」との報告があったのは、深夜だった。
オーク特有の葉巻型の機体に、ヒトのジェットエンジンを取り付けた奇妙な飛行体も杭州に現れた。
巨大な物体で、全長400メートル、直径60メートルに達する。
移住のための物資の積み込みが始まると、高知は混乱に陥る。
移住に反対する各派が明確な妨害行為を始めたからだ。
移住に関しては高知市民の半数以上が肯定的だったが、半分弱は積極的ではなかった。
積極的でないヒトたちには濃淡があり、移住の成功に疑念がある、時渡りに懐疑的、個人的な都合等から移住に参加しない、などいろいろ。
反対の姿勢もいろいろだが、強硬に反対するだけでなく、移住阻止を唱える数百人ほどの過激グループが実力行使に出た。
彼らは移住用巨大船への道路にバリケードを築いて封鎖した。
移住用巨大船には警備の部隊が常駐していて、船の占拠だけはどうにか阻止して、船内に立て籠もる。
だが、乗り込まれるのは時間の問題だった。
高知の行政は、騒乱状態になることを危惧し、移住用巨大船の出港を決断する。
「市民のみなさんへ。
移住船は直ちに出港します。
移住を希望する市民のみなさんは、船に向かってください」
「サクラ、起きて!
寝ぼけちゃダメ」
梨々香がサクラを起こし、常時準備している3個のザックの口を閉める。サクラには、高知で購入した小さなデイパックを背負わせる。
隆太郎が梨々香に「ポーターまで走れ。船に向かうんだ。おまえなら着船できる。俺は工場に行く」と伝えると、梨々香が頷く。
隆太郎と梨々香は、こういった状況に慣れていた。ヒトの襲撃や穴居人の侵入は希だが、動物の襲来は頻繁だった。
動物が現れるたびに昼夜関係なく、すぐに対処した。そうしなければ、食べるものがなくなるからだ。
だから、幼いサクラでも、慌ても怯えもしない。
隆太郎が工場に到着すると、すでに工場長と数人が分解した最後の完成機の移動を始めようとしていた。
隆太郎たちが移住船の停泊する岸壁まで行くと、バリケードはブルドーザーで排除されている最中だった。
妨害行動に出たヒトたちは、移住阻止の賛同者が多いと予測していたようだが、実際は違っていた。
バリケードが排除されると、粛々とした物資の積み込みが本格化する。
態度が不明確だった2000人ほどのうち、9割が船に乗った。移住不参加を表明していた半分も乗ることにする。
この時点で、8000人が乗船することになる。
こうなると、残留する1000人では高知の維持はできない。
最終的には、移住阻止に向けて動いた150人ほどと、その家族の一部が残置されることになった。結果、500人強が船に乗らないこととなる。
「幼い子がいないことが、救いだね」
ポーターの最上甲板への緊急着船を終えた梨々香が発した言葉に隆太郎は頷いた。
「残留者は、最年少でも16歳と聞いている。十分に分別のつく年齢だ。
どうであれ、他者の行動を妨害するなどあり得ない。移住を実力で妨害した以上、連れていくわけにはいかないよ。
誰が考えてもね」
移住者が5000、非移住者が4000と想定していたので、物資の45パーセントは残るはずだったが、人数比で非移住者は5.5パーセントほどなので、ほとんどが持ち去られることになる。
こんな状況では、残留者の苦悩は大きかった。
公式に飛行可能な固定翼機は12機あった。5.5パーセント分として、軽飛行機のセスナ207を2機残す。
だが、パイロットはいない。
リベット1本まで完全に分解し、徹底的に修復した多数の固定翼機と回転翼機を最上の全通甲板に積んでいく。分解した航空機は船倉に積んでいく。
最上部の全通甲板の荷物として、ポーターが加わった。
大型固定翼機は4発のC-130ハーキュリーズとP-3Cオライオン、双発はP-2Jネプチューンとビーチ1900D。単発は、フロート付きのセスナ172。
回転翼機は中型のベル412が載る。
航空機の燃料は少ない。その燃料は、新潟で採油された原油を精製して製造している。
新潟に穴居人が現れて以降は、安定的な供給が不可能になった。これが、ガソリン、軽油、重油の不足につながった。
不足分は植物由来の燃料で補っているが、充足するにはほど遠い状況だった。
結局、燃料の問題でも、高知は追い詰められていた。
穴居人が現れなければ、そこそこどうにかなっていただろうが、現実は厳しい。燃料は絶対的に不足し、仕方なく穴居人がいない九州で採炭している。
しかし、早晩、九州にもヒトの天敵が現れることは確実だった。
巨大移住船は、いったん鹿児島の志布志湾に停泊し、慌ただしく出港した後始末を始める。積み荷の固定を確認し、積み込んだ物資のリストを作成する。しかし、そのリストは明らかに不正確だった。何をどれだけ積んだのか、よくわからない。
8500人もの大移住だが、相応の準備と物資ではない。準備はしていたが、物資がないのだから、完全な準備なんてできない。
移住者たちは、そのことをよく知っていた。
大災厄後の激烈な気候変動、大消滅後の文明の消滅と物資の枯渇は、生き残った人の心を折らなかった。
だが、穴居人は、生き残る望みをヒトから奪う。
杭州湾の島影に巨大移住船を停泊させ、ゲートの作動を待つ。
杭州湾最深部には、オークの移住船が浮遊している。オークは現在もヒトを使役しているが、過去とは異なり、積極的にオークに協力するヒトが増えている。
その理由だが、オークはヒトに何らかの処置をしているらしい。単純な品種改良とも、高度な遺伝子操作とも噂されている。
どちらにしても、オークに従順なヒトの開発と繁殖に成功している。
オークは、過去30年間に数回の時渡りを行っている。ただ、成否はわからない。ゲートを潜ったあとのことは、誰にもわからない。
オークやギガスにもわからない可能性がある。
西ユーラシアの生き残りは、かつてのジュネーブ付近に集結していた。
彼らは生き残ったゲートを閉じず、多くは2億年後、一部は200万年後を目指していた。
大災厄から70年後、ヒトの大集団は高知だけになっていた。
明確に高知は孤立していた。
北東アジアと東南アジアには、数百人規模どころか、数十人規模の集団でさえ、存在するか否か判然としていない。
これもまた、時渡りを決めた理由になっていた。
オークとヒトの移住船は、増速する原理に関しては同じだった。ジェットエンジンで短時間だけ、時速70キロを発揮する。
オークの浮揚する移住船は巨大であるがゆえに風の影響を受けやすい、
ヒトの海に浮かぶ巨大移住船はとても不安定で、波の影響に弱い。
つまり、どちらも好天時でなければ時渡りできない。
そして、その好天を移住者たちは船内で待っていた。
巨大移住船は、船体を軽くするため、不要な装備を可能な限り取り払っていた。だが、客室は手つかず。ベッドはもちろん什器のすべてが残る。
しかし、船体を軽くすることには腐心していた。
船体を軽くする目的は2つ。速度を出すためと、物資搭載スペースの確保。
一部の移住者は客室ではなく、劇場やホール、レストランなどで、床にマットを敷き、毛布にくるまって寝る。
ただ、巨大移住船用の燃料は2000キロ分しかないし、浦戸湾から杭州湾まで1200キロあることから、時渡りのあとに移動できる距離は計算上で800キロほどしかない。
ただ、航空機と車輌用燃料を流用すれば、最大2000キロ分になる。
どちらにしても、巨大移住船での生活が長期になることはない。
その想定だった。
だが、いっこうに好天とはならない。悪天候ではないのだが、風がやや強い。
できれば、無風がいい。
それは深夜だった。
オークの移住船が動き出したのだ。
客室最上階最前部のデッキで、星空を見ていた隆太郎は、確かに肌に風を感じない。
船内放送が「これより抜錨します。全員船内に入ってください」と。
隆太郎は梨々香とサクラの元には行かず、船内から前方を眺めている。
この広い空間にも多くのヒトが寝泊まりしていて、多くが前方に集まってきた。
隆太郎は低空を進むオークの移住船を視認する。同時にオークの移住船はジェットエンジンに点火。増速していく。
ヒトの巨大移住船もターボファンエンジンを始動させる。
オークの移住船は無茶苦茶な作りだが、ヒトの巨大移住船も尋常な造作ではない。
オークの移住船がゲートに突入し、その数秒後にヒトの巨大移住船もゲートを潜る。
渦巻く光のトンネルに分岐があり、オークの移住船はその分岐に入ろうとしてバランスを崩し、トンネルから船体の半分を出してしまう。
そして爆発。
ヒトの移住船は、その分岐にどうにか入り数秒間進む。
急加速の次は、急減速だった。何人かが吹き飛ばされて、床に倒れ転がる。
隆太郎は手すりにつかまっていたのだが、身体を半回転させて、無様に尻餅をついた。
すぐに起き上がり、前方を見ると、サーチライトの先に陸が見える。
誰かが「島だ!」と叫び、誰かが「ぶつかる!」と絶叫する。
だが、どうにか船の行き足が止まる。
数十秒間は静寂だったが、ざわつき始める。
このときは、まだ誰も時渡りが成功したことを知らなかった。
宿舎、食事、衣服が支援され、感染症等の検査が終わった3日後以降は、外出は自由。3人が乗ってきた高翼単葉単発機ピラタスPC-6ポーターも所有したまま。
提出を求められたのは、ライフル猟銃2挺、散弾銃1挺、5連発リボルバー拳銃1挺で、刃渡り15センチ以内の刃物はそのまま。
隆太郎と鮎原梨々香は、関東方面の状況について詳細な報告を求められたが、取り調べのような過酷な聴取ではなかった。
3人は過去3年間、房総半島から出ないようにしていたこともあって、直近の東京方面の状況を知らない。
理由は、東京湾に深部に相当数の穴居人がいるからだ。遭遇したら逃げるしかないが、逃げ切れなければ死しかない。
穴居人は、無条件かつ原初的に恐ろしい。
ただ、関東甲信越の生存者とは、しばしば無線で連絡し合っていて、条件がよければ東北の生存者とも情報交換していた。
穴居人が現れてから生存者は少なくなったが、皆無になったわけではない。
また、大災厄から70年を経ているので、クルマや無線を使えない生存者もいる。彼らとの接触は偶然だけで、言葉が通じないこともある。
4日目、サクラは民生部の担当者に促され、緊張しながら学校に初登校した。同時に10人以上のヒトを見たことがないサクラだったが、35人の同級生と一緒に過ごせ、同時に友だちもできた。
サクラにとっては想像さえしなかったことで、動揺したが、それでも学校は楽しかった。
7日目、萱場隆太郎たちが逗留するゲストハウスに、若くはない4人の男女が訪れる。
隆太郎が1人で対応するが、4人の話しを理解するには少々の時間を要した。
4人のうち話しをするのは、リーダーらしい女性で、彼女の申し入れは思考のはるか外だった。
近藤と名乗った女性は、高知の実情から話し始める。
「大消滅以後、高知には東アジアや東南アジアから多くのヒトが移住してきました。
高知がヒトの役に立つならば、避難者を積極的に受け入れるべきですが、同時に、日本本来の文化や伝統を守る必要があります。
私たちは、その立場です」
隆太郎には、どんな立場なんだか、皆目理解不能だった。
近藤が続ける。
「高知の現政権は、私たちとは異なる立場です。高知の歴代政権は、高知周辺エリアの安定を重視するため、公用語を日本語と英語としました。
ですから、この街の標識は日本語と英語の両表記になっています。
私は、これはおかしいと思います。高知は日本なのですから、日本語を使うべきなのです」
隆太郎は過去に日本という国家が存在したことは知っている。しかし、いまはない。世界のどこにも国家はない。
近藤が続ける。
「萱場さんと奥様は、純粋な日本人ですよね?」
隆太郎は、正直面食らう。
「さぁ、どうでしょうねぇ。
ご先祖がどこから来たのか、私の父母、祖父母、曽祖父母は知らないと思いますよ。
家系図があるわけでも、家系図があったとしても正しいかなんてわからないでしょう。
そもそも、数千年遡っても、純粋な日本人なんていないでしょう。あなたのお顔を拝見していると、私と同じで、明らかに寒冷化適応後のモンゴロイドの特徴がありますよね。原日本列島人は、寒冷化適応前のモンゴロイドだったはず。となると、あなたも私も純粋な日本人ではない。
それに下世話な話、私は母が誰かと浮気してできた子かもしれないし……。
近藤さんは、ご自身の出自に絶対の自信があるのですか?」
この種の反論に近藤は慣れていた。ただ、限られた外部との接触しかなかった隆太郎に、一定の教養と知識があることに驚く。
「あなたも、理屈派ですか?
私たち民族派の敵となりますが、いいのですか?」
隆太郎は、高知に対立があることを察する。民族派には興味がなかったので、理屈派について尋ねた。
「理屈派とは?」
近藤は我が意を得たりとの顔をする。
「理屈派はウソつきの集団です。
まず、穴居人を過大評価しています。穴居人が四国に渡ってきて、高知周辺に集まり始めていることは事実ですが、駆除は簡単にできます。
撃ち殺せばいいのです。
次に、過去20年で人口が減りました。その前の40年間は年々増え続けていたのに、その後の20年間は減り続けています。
その理由として、食料生産の難しさをあげています。コメの収穫量が減っていることは事実ですが、水耕栽培で野菜の収穫量は増えています。
サツマイモやジャガイモは、土に埋めなくても栽培できるようになっています。
今後も高知で生活し続けられるのです。
それなのに理屈派は、日本列島での生存は難しいと主張し、移住を計画しているのです。
日本の国土を捨て、移住するなど日本人として許せません!
そう思いませんか?」
隆太郎は、詳細は知らないが移住の噂は何度か聞いていた。また、穴居人については、複数人から尋ねられている。
「移住ですか?
移住先を近藤さんはご存じですか?」
近藤がほくそ笑む。
「それが……、荒唐無稽なんです。
時渡りをするとか。
200万年後の未来を目指すそうです」
近藤を含む4人が笑う。
「大災厄後、多くのヒトが時渡りをしたと聞いていますが、いまでも可能なんでしょうか?」
近藤たちは、時渡りをまったく信じていないが、隆太郎がこの超常的現象を事実として認識していることに驚く。
「時渡り、つまりタイムトラベルですよ?」
隆太郎も伝聞でしかないが、時渡りについては祖父母の体験を直接聞いていた。
「東京周辺には何カ所かあったそうです。
時渡りのためのゲートが。
祖父家族は戸田という場所、祖母家族はお台場という場所から時渡りする案があったそうです。だけど、必要な物資が集められないことと、房総に生活圏を確保する目処があったことから参加しなかったのです。
2人とも子供だったので、時渡りできないことにそれほどのショックはなかったと聞きました。
それと、大消滅後も時渡りしたヒトはいたようです。
これも、祖父母から聞きました」
近藤たちは時渡りを事実として捉えていなかったが、この絵空事のような事象を信じているヒトが多いことを憂いていた。
「まさかとは思いますが、萱場さんは、時渡りを信じているのですか?」
隆太郎が即答する。
「はい。そういったことが実際にあったことは確かでしょう。
祖父母がウソを私に伝える理由がありませんからね」
翌日、隆太郎と梨々香は、彼らを担当する民生部員に移住計画の有無を質した。
「あります。
計画実行の時期が迫っているみたいです。
高知市民9000人のうち、賛成は5000人、反対は2000人、迷っているヒトが2000人という割合みたいです。
私、穴居人を見たことがないのだけど……」
梨々香が答える。
「穴居人を最初に見たのは5年くらい前かな。
直近は数カ月前。
このときは追いかけられたんだ。
軽トラで必死に逃げたけど、道のない場所だったのでスピードが出せなくて、追い付かれそうになったよ。
恐ろしかったぁ」
民生部員は、彼女にとっての核心に迫る疑問を投げる。
「梨々香さん、穴居人と共存できる?
穴居人を完全に駆除できる?」
梨々香が答える。
「共存なんて絶対に無理。
穴居人には心がないし、ヒトを食べることしか考えていない。そもそも考える力があるのか、わかんないよ。
生物の仕組みを使った機械かもしれない。
それと、駆除かぁ。
繁殖力が強いし、ヒトが食べられないと、共食いするし……。
たぶん、ヒトの数よりも何倍も多いよね。
高知までの道のりでも、何度も穴居人を見たし……。上空からだけど。
駆除なんて無理だと思う。
駆除されるのはヒトのほうじゃないかな」
隆太郎は梨々香の分析は正しいと思った。房総を離れた理由の多くは食料生産の行き詰まりだが、穴居人の房総への侵入も影響している。
ヒトの生存を脅かす最大要因は、穴居人ではないかと隆太郎は考えていた。
穴居人を駆除できないなら、ヒトは逃げるしかない。
どこへ。
それが問題だった。
民生部員に隆太郎が尋ねる。
「ずいぶん前だけど、南半球の島に移住したヒトたちがいたはずだけど……」
そのことは、彼女も知っていた。
「50年くらい前のことね。
ハワイのヒトたちが、ニュージーランドの北島に移住した……。
何十年も前から連絡がなくなっていて、消息はまったくわからないって聞いています。
高知でも食料生産は綱渡りだし、一歩間違えばたいへんなことになってしまうから、もっと住みやすい場所があるなら移住したいですよね」
隆太郎が核心に迫る。
「その住みやすい場所が200万年後?」
民生部員は、彼女の私的な意見だとことわった。
「200万年後ならば、いまの異常な気象が終わっているのかなって……。
冬の寒さは土を凍らせるほど、夏の暑さで作物は枯れてしまう……。大雨が続くと、作物は腐ってしまう……。
そして、夏も冬も太陽は霞んでいる……。
大災厄以前の空は、青かったって知ってます?
青い空って、一度でいいから見てみたいと思いません?
ならば、200万年後に行ってみようかなって、私は思っているんです」
梨々香が微笑む。
「青い空かぁ、見てみたいね。
高知は中継地だと、私は考えていたから……。高知の次はどこかはわからなかったけど、ポーターに乗ったとき、この旅の終着点は高知だとは考えていなかったんだ。
行くなら、少しでも希望があるところだね。
海を越えるのも、時を渡るのも、リスクは同じだよ」
隆太郎は、梨々香の考えに驚いていた。彼も同じだからだ。高知を単なる中継地とまでは考えていなかったが、房総を発ったとき、長い旅の始まりだとは感じていた。
隆太郎が梨々香に問う。
「200万年後に行ってみる?」
梨々香は微笑むが、答えなかった。
隆太郎と梨々香は働くことを希望し、民生部は2人が望んだ仕事に近い、飛行機の修理工場を紹介してくれた。
大災厄から70年、動く飛行機は非常に少なくなっていた。日常の整備はもちろん、レストアの範囲を超えた準新造さえ珍しくない。
隆太郎と梨々香に与えられた最初の仕事は工場内の清掃や補助的作業だったが、2人の整備技術が高度だと工場側が気付くと、工場長は移住後に使う機体の修理に振り向けた。
ありものの部品を組み合わせて、必要な飛行機を組み立てるのだが、純正部品が残っているわけもなく、ない部品は手作業で作り、使える部品は修理・改造して再利用する。
このパズルのような作業は、隆太郎と梨々香は得意だった。
時渡りの時期ははっきりとはわからない。
時渡りのためには、ゲートを作る必要があるのだが、作ることはできる。だが、構造はわかっているが、作動原理がわからない。
それでも、作れる。
だが、電力はどうするのか?
高知は太陽光発電と土佐発電跡に設置した石炭火力で、電力をまかなっている。
隆太郎が勤める飛行機の修理工場では、誰もが「九州に行けなくなるのでは」と話題にしている。石炭は、九州北部から採掘している。
行けなくなる理由は、九州にも穴居人が現れる可能性だ。現状、九州で穴居人は目撃されていない。
海水準が下がっていることから、どこで陸が接続するかわからない。満潮時は海没しても、干潮時には陸続きになることも考えなくてはならない。
退勤時、隆太郎は工場長に声をかけられた。梨々香はサクラのために少し早く退勤している。
「どうですか?
仕事に慣れましたか?」
生まれてから少人数の中で過ごしてきた隆太郎には、少人数がチームを組むこの工場の仕事の仕方が合っていた。
「えぇ、まぁ。
不慣れな点が多いですが、どうにか……」
「萱場さん、あなた、移住に賛成?
唐突だけど……」
隆太郎は小首をかしげる。
「時渡りのことですか?
俺は反対じゃないですが、作戦の成否がどのくらいか気になります」
工場長は、明確に息を吐いた。
「性懲りもなく、とは言っても60年ぶりくらいだが、オークが杭州湾にゲートを作っている。
あのヒト食い化け物は、穴居人に食われるらしい。ヒト食い化け物も穴居人が怖いらしく、逃げ出す算段をしているんだ。
俺たちは、オークのゲートを使う。
オークが作ったゲートを使って、時渡りをするんだ。この作戦は、60年前にも成功している。
オークは時系列の管理ができるので、たぶん、前回の時渡りと時間の同期がとれていると思う。完全ではないにしても、近似の時系列にはなっているんじゃないかな。
ヒトもゲートは作れるけど、時系列は滅茶苦茶らしいよ。
ゲートを閉じて以降、ヒトはゲートを作っていない。ゲートを閉じたので、時系列も閉じてしまったからね。
だけど、オークやギガスは時系列に沿って、ゲートを閉じたり開いたりできるらしいよ」
その夜、隆太郎は梨々香とサクラの3人で相談をした。
サクラは仲良くなったクラスメイトが時渡りすることから、絶対に参加したいと。
梨々香は「青い空を見たい。青い空を飛びたい」とメルヘンなことを言い続けた。
隆太郎は、単におもしろそうだと感じていた。
翌日、勤務先に移住計画部の職員がやって来た。
来訪の目的は、隆太郎たちのポーターについてだった。平たく言えば、移住計画部に「売るつもりはないか?」と。
隆太郎は「移住に参加させてもらいたい」と伝え、ポーターは「移住後の足に使いたい」と売却を拒んだ。
同席していた工場長は、隆太郎の存在意義を力説する。
「この男は、すごい技術と知識を持っている。もし、一緒に行ってくれるなら、大きな力になってくれる。
絶対に一緒に行ってもらうべきだ」
時渡りの説明は、高知市内とその周辺で使用できる無線LANを通じて告知と説明がされた。
これが、行政による公式の説明だった。隆太郎たち3人は、夕食後、ゲストハウスの自室で、貸し出されていたノートパソコンでそれを見た。
巨大船のことは、3人とも知っていた。何しろ、全長350メートル、全幅70メートル、客室は20階、25万総トンの巨体だ。
浦戸湾に浮かんでいるので、上空から目撃していた。あまりの大きさに、規模感がつかめず、大きな船だとは認識していたが、目撃時にはさほどの驚きはなかった。
実際、九十九里浜には20万総トン級のタンカーが座礁している。すでに残骸に近いが、大きさはよくわかる。
この船を見ているから、隆太郎たちに必要以上の驚きはなかった。
しかし、この船の構想は壮大なものだった。
高知と周辺の住民9000人を乗せられ、最上部は全通甲板になっていて、大型航空機の輸送に使う。甲板の強度から離船は可能だが着船はできない。
船体下部、船倉には、各種車輌、建設機械、農業機械、漁業用各種装置、各種兵器を詰め込む。
エンジンは6基で、推進はディーゼルエレクトリック。最大船速は22ノットしか出ないので、ゲート突入時は旅客機用のP&W PW4062ターボファンエンジン8基を噴射して時速70キロまで増速し、ゲートに突入する。
高バイパスターボファンエンジンであるPW4000シリーズは、エアバスやボーイングの旅客機に多用されていて、多数を保管している。
ただ、ここからが問題だった。
この移住用巨大客船の船齢は70年、そのうち5年間は渤海を漂流していた。完全に修理・修復されてはおらず、必要な改造を施し、ごく短期間の使用に耐えるようにしているだけ。
移住後は、深い湾などを探して、当面の住居として繋留することを想定していた。
燃料は満載するほどの備蓄はなく、航海速力で1600海里(3000キロ)分を積む。燃料は航空機用や車輌用も積むので、必要であればさらに2000キロの航海が可能だ。
また、200万年後の到着先は、陸上である可能性もある。
運べる食料は多くない。積載量の問題ではなく、食料がないのだ。ニワトリ、ブタ、ウシ、ヒツジを連れていくが、その数は多くない。
高知でも主たる動物性タンパクは魚介に頼っていた。多くは干物や燻製に加工して、冷凍保存している。
近海は水温が高すぎ、魚は少ない。食用魚は陸上での養殖に頼っていた。
規模の違いだけで、やっていることは房総にいた頃の隆太郎たちと変わりない。
食糧のうち魚の干物だけは豊富。
農産物で豊富なのは、甘くも美味くもないサツマイモ。あるのは栄養だけ。
完璧に修復・再生した車輌を積んでいくが、あらゆる車輌を使っても全員分の移動は無理。巨大客船がたどり着いた先から、動けない。ただし、救命艇などは人数分以上ある。
こんな条件でも、200万年後を目指すのかを問われていた。
隆太郎たち3人は、これほどの悪条件でも、時渡りを決めていた。
この世界では、じり貧だからだ。
移住後には未知の危険が待ち構えているが、高知にとどまった場合は既知の危険にさらされる。未知の危険は怖いが、既知の危険は恐怖の限界を超えている。既知の脅威は現実の問題であり、克服は困難。
激烈な気象と穴居人の存在は、ヒトの存在を確実に脅かしている。
関東甲信越では、房総は例外的に安全な場所だった。利根川と江戸川など利根川水系の河川によって守られているからだ。
水を嫌う穴居人は、幅が広く深い河川を渡れない。しかし、絶対はない。房総に侵入した穴居人は、東京湾の干潟経由で侵入した可能性が高い。
干潟を移動する穴居人の目撃例もある。
繁殖力の強い穴居人の駆除・駆逐は、ヒトの力では不可能だ。
隆太郎は、既知の危険と未知の脅威を天秤にかけたが、現在進行中である既知の危険のほうが重かった。
隆太郎たち3人は、時渡りによる移住に大きく傾いているが、その判断の多くは現実味のなさにもある。
確かに移住用巨大船は用意されているが、移住のタイムスケジュールは移住計画部から明示されていないからだ。
隆太郎が勤める工場は、大規模再生を担当している。
彼の勤務先以外では、中小規模修理工場、農機専門の再生工場、建設機械の再生工場、移住先で下駄の役割をする小型オフロード車の製造工場、戦闘車輌の再生工場もある。
隆太郎は戦車や装甲車の存在も確認している。高度に電子化された70年前の最新車輌はない。機械制御を基本にした旧式ばかりだ。
装甲車輌の多くは台湾から入手していた。四国にあった陸上自衛隊第14旅団の装備は、大消滅で失われている。
戦車はM41軽戦車、装甲車はM113で統一されている。すべて、台湾陸軍の旧式装備だ。ただし、数は多くない。
戦闘車輌が必要な理由は、はっきりしている。
200万年後には、何がいるのか皆目見当がつかないからだ。それに、履帯の車輌でなければ、路外走行はできない。
杭州湾を監視している偵察隊から「ゲートの修復が完了した模様」との報告があったのは、深夜だった。
オーク特有の葉巻型の機体に、ヒトのジェットエンジンを取り付けた奇妙な飛行体も杭州に現れた。
巨大な物体で、全長400メートル、直径60メートルに達する。
移住のための物資の積み込みが始まると、高知は混乱に陥る。
移住に反対する各派が明確な妨害行為を始めたからだ。
移住に関しては高知市民の半数以上が肯定的だったが、半分弱は積極的ではなかった。
積極的でないヒトたちには濃淡があり、移住の成功に疑念がある、時渡りに懐疑的、個人的な都合等から移住に参加しない、などいろいろ。
反対の姿勢もいろいろだが、強硬に反対するだけでなく、移住阻止を唱える数百人ほどの過激グループが実力行使に出た。
彼らは移住用巨大船への道路にバリケードを築いて封鎖した。
移住用巨大船には警備の部隊が常駐していて、船の占拠だけはどうにか阻止して、船内に立て籠もる。
だが、乗り込まれるのは時間の問題だった。
高知の行政は、騒乱状態になることを危惧し、移住用巨大船の出港を決断する。
「市民のみなさんへ。
移住船は直ちに出港します。
移住を希望する市民のみなさんは、船に向かってください」
「サクラ、起きて!
寝ぼけちゃダメ」
梨々香がサクラを起こし、常時準備している3個のザックの口を閉める。サクラには、高知で購入した小さなデイパックを背負わせる。
隆太郎が梨々香に「ポーターまで走れ。船に向かうんだ。おまえなら着船できる。俺は工場に行く」と伝えると、梨々香が頷く。
隆太郎と梨々香は、こういった状況に慣れていた。ヒトの襲撃や穴居人の侵入は希だが、動物の襲来は頻繁だった。
動物が現れるたびに昼夜関係なく、すぐに対処した。そうしなければ、食べるものがなくなるからだ。
だから、幼いサクラでも、慌ても怯えもしない。
隆太郎が工場に到着すると、すでに工場長と数人が分解した最後の完成機の移動を始めようとしていた。
隆太郎たちが移住船の停泊する岸壁まで行くと、バリケードはブルドーザーで排除されている最中だった。
妨害行動に出たヒトたちは、移住阻止の賛同者が多いと予測していたようだが、実際は違っていた。
バリケードが排除されると、粛々とした物資の積み込みが本格化する。
態度が不明確だった2000人ほどのうち、9割が船に乗った。移住不参加を表明していた半分も乗ることにする。
この時点で、8000人が乗船することになる。
こうなると、残留する1000人では高知の維持はできない。
最終的には、移住阻止に向けて動いた150人ほどと、その家族の一部が残置されることになった。結果、500人強が船に乗らないこととなる。
「幼い子がいないことが、救いだね」
ポーターの最上甲板への緊急着船を終えた梨々香が発した言葉に隆太郎は頷いた。
「残留者は、最年少でも16歳と聞いている。十分に分別のつく年齢だ。
どうであれ、他者の行動を妨害するなどあり得ない。移住を実力で妨害した以上、連れていくわけにはいかないよ。
誰が考えてもね」
移住者が5000、非移住者が4000と想定していたので、物資の45パーセントは残るはずだったが、人数比で非移住者は5.5パーセントほどなので、ほとんどが持ち去られることになる。
こんな状況では、残留者の苦悩は大きかった。
公式に飛行可能な固定翼機は12機あった。5.5パーセント分として、軽飛行機のセスナ207を2機残す。
だが、パイロットはいない。
リベット1本まで完全に分解し、徹底的に修復した多数の固定翼機と回転翼機を最上の全通甲板に積んでいく。分解した航空機は船倉に積んでいく。
最上部の全通甲板の荷物として、ポーターが加わった。
大型固定翼機は4発のC-130ハーキュリーズとP-3Cオライオン、双発はP-2Jネプチューンとビーチ1900D。単発は、フロート付きのセスナ172。
回転翼機は中型のベル412が載る。
航空機の燃料は少ない。その燃料は、新潟で採油された原油を精製して製造している。
新潟に穴居人が現れて以降は、安定的な供給が不可能になった。これが、ガソリン、軽油、重油の不足につながった。
不足分は植物由来の燃料で補っているが、充足するにはほど遠い状況だった。
結局、燃料の問題でも、高知は追い詰められていた。
穴居人が現れなければ、そこそこどうにかなっていただろうが、現実は厳しい。燃料は絶対的に不足し、仕方なく穴居人がいない九州で採炭している。
しかし、早晩、九州にもヒトの天敵が現れることは確実だった。
巨大移住船は、いったん鹿児島の志布志湾に停泊し、慌ただしく出港した後始末を始める。積み荷の固定を確認し、積み込んだ物資のリストを作成する。しかし、そのリストは明らかに不正確だった。何をどれだけ積んだのか、よくわからない。
8500人もの大移住だが、相応の準備と物資ではない。準備はしていたが、物資がないのだから、完全な準備なんてできない。
移住者たちは、そのことをよく知っていた。
大災厄後の激烈な気候変動、大消滅後の文明の消滅と物資の枯渇は、生き残った人の心を折らなかった。
だが、穴居人は、生き残る望みをヒトから奪う。
杭州湾の島影に巨大移住船を停泊させ、ゲートの作動を待つ。
杭州湾最深部には、オークの移住船が浮遊している。オークは現在もヒトを使役しているが、過去とは異なり、積極的にオークに協力するヒトが増えている。
その理由だが、オークはヒトに何らかの処置をしているらしい。単純な品種改良とも、高度な遺伝子操作とも噂されている。
どちらにしても、オークに従順なヒトの開発と繁殖に成功している。
オークは、過去30年間に数回の時渡りを行っている。ただ、成否はわからない。ゲートを潜ったあとのことは、誰にもわからない。
オークやギガスにもわからない可能性がある。
西ユーラシアの生き残りは、かつてのジュネーブ付近に集結していた。
彼らは生き残ったゲートを閉じず、多くは2億年後、一部は200万年後を目指していた。
大災厄から70年後、ヒトの大集団は高知だけになっていた。
明確に高知は孤立していた。
北東アジアと東南アジアには、数百人規模どころか、数十人規模の集団でさえ、存在するか否か判然としていない。
これもまた、時渡りを決めた理由になっていた。
オークとヒトの移住船は、増速する原理に関しては同じだった。ジェットエンジンで短時間だけ、時速70キロを発揮する。
オークの浮揚する移住船は巨大であるがゆえに風の影響を受けやすい、
ヒトの海に浮かぶ巨大移住船はとても不安定で、波の影響に弱い。
つまり、どちらも好天時でなければ時渡りできない。
そして、その好天を移住者たちは船内で待っていた。
巨大移住船は、船体を軽くするため、不要な装備を可能な限り取り払っていた。だが、客室は手つかず。ベッドはもちろん什器のすべてが残る。
しかし、船体を軽くすることには腐心していた。
船体を軽くする目的は2つ。速度を出すためと、物資搭載スペースの確保。
一部の移住者は客室ではなく、劇場やホール、レストランなどで、床にマットを敷き、毛布にくるまって寝る。
ただ、巨大移住船用の燃料は2000キロ分しかないし、浦戸湾から杭州湾まで1200キロあることから、時渡りのあとに移動できる距離は計算上で800キロほどしかない。
ただ、航空機と車輌用燃料を流用すれば、最大2000キロ分になる。
どちらにしても、巨大移住船での生活が長期になることはない。
その想定だった。
だが、いっこうに好天とはならない。悪天候ではないのだが、風がやや強い。
できれば、無風がいい。
それは深夜だった。
オークの移住船が動き出したのだ。
客室最上階最前部のデッキで、星空を見ていた隆太郎は、確かに肌に風を感じない。
船内放送が「これより抜錨します。全員船内に入ってください」と。
隆太郎は梨々香とサクラの元には行かず、船内から前方を眺めている。
この広い空間にも多くのヒトが寝泊まりしていて、多くが前方に集まってきた。
隆太郎は低空を進むオークの移住船を視認する。同時にオークの移住船はジェットエンジンに点火。増速していく。
ヒトの巨大移住船もターボファンエンジンを始動させる。
オークの移住船は無茶苦茶な作りだが、ヒトの巨大移住船も尋常な造作ではない。
オークの移住船がゲートに突入し、その数秒後にヒトの巨大移住船もゲートを潜る。
渦巻く光のトンネルに分岐があり、オークの移住船はその分岐に入ろうとしてバランスを崩し、トンネルから船体の半分を出してしまう。
そして爆発。
ヒトの移住船は、その分岐にどうにか入り数秒間進む。
急加速の次は、急減速だった。何人かが吹き飛ばされて、床に倒れ転がる。
隆太郎は手すりにつかまっていたのだが、身体を半回転させて、無様に尻餅をついた。
すぐに起き上がり、前方を見ると、サーチライトの先に陸が見える。
誰かが「島だ!」と叫び、誰かが「ぶつかる!」と絶叫する。
だが、どうにか船の行き足が止まる。
数十秒間は静寂だったが、ざわつき始める。
このときは、まだ誰も時渡りが成功したことを知らなかった。
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