幼馴染

ざっく

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就職

大学卒業後、私はしっかりと就職が決まった。
隼人は去年就職していたし、浩一と修也も同様に、就職は決まった。
全員が見事に就職できてばんばんざいだ。
……ああ、心愛ちゃんは花嫁修業とかで、短大出てから仕事を始めたりやめたりしている。
私とは合わない。
そろそろ誰にするか決めたのだろうか。


「就職して、小遣い程度の小銭など、必要なくなったのよ」
「ああ」
隣でノンアルコールビールに口を付けながら、適当に相槌を打たれる。
「なのに!まだ飯炊き女してるのよ!いい加減解放されたいぃ!」
どん!
大きな音を立ててジョッキを振り下ろした。
私はビールだ。
送迎は隣の友人がしてくれる。

就職後、私はもうご飯づくりはしないと宣言した。
帰ってくるのがいつになるかもわからないまま、ご飯を待たれるのも面倒くさかったからだ。
「沙知……そんなことを言わないでくれ」
格好良かった修也に、無駄に色気が加わった顔で懇願された。
幼いころから見慣れすぎたその顔は、殴っても怒らないだろうか。
「沙知。私のこと、嫌になったの?」
前から嫌だったよ!
心愛ちゃんがきらっきらの爪を握りしめて、バッサバッサとまばたきするその顔。見るのも最近怖い。
「急に何故だ」
本当に話を聞かなきかない奴等だな!
スーツのネクタイを緩めながら椅子に座る隼人を残念な思いで見下ろす。
「私はこれから付き合いもあるし、仕事も遅くなることだってあるし、ご飯作っている暇はないのよ」
「ご飯くらいすぐに作れるだろ。自分の分のついでだ」
「仕事なんて、遅くならないじゃないか」
「付き合いなんて。彼氏いないでしょう?」
―――ぶちぎれなかった大人な私を褒めてください。


「だから、彼氏が欲しいの。いっつも飲みに付き合ってくれる人が欲しいのよっ」
就職してから、また自分磨きを頑張った。
社会に出れば、心愛ちゃんより可愛くてオシャレな人などあちこちにいた。
いつまでも地味で自分を卑しめていくだなんて、冗談じゃない。
「―――それで、ふり?」
すげえ見下されている。
「彼氏ができなかったのよっ。どうやって作るの?声かけられた人について行けばいいの?でもあれって、肩抱かれたりといきなり気持ち悪…」
「ついて行ったのかっ?馬鹿タレっ!」
頭を掴まれた。
くうぅっ。
無駄にでかくなりやがって。片手で頭を掴むんじゃない。
「心愛ちゃんが好きなあんたにお願いするのも申し訳ないと思うけど、でも、もう望みも無……痛い痛い痛いいいぃぃぃ!」
「だ、れ、が…?」
「ごめんなさい。無神経でした。まだフラれてない…痛いぃ」
めきめき音がする気がするっ。
頭蓋骨が変形する。ただでさえ可愛くない顔がこれ以上崩れたらどうしてくれるっ?
「オレは木村のことが好きだったことは無い」
「へ?」
木村?
そういえば、浩一は心愛ちゃんのこと名前で呼んでなかったかな?
涙目になってしまっている私を嫌そうに見下ろして、浩一はため息を吐いた。
「修也と隼人の間に入ったことはあるけど、木村と二人で話したことさえほとんどないぞ」
そうだっけ?
いつもリビングに溜まっていた姿しか覚えていない。
「お前は、修也が好きなんじゃないのか?修也にダメもとで告れば……」
「なわけあるかあ!」
「ぶほっ」
はっ。
嫌すぎてマジで殴ってしまった。
浩一がこぼして首元にかかってしまったビールをお手拭きで拭いていた。
「ご、ごめん。やりすぎた。でも、あり得ないから。あんな顔だけ良くて、優柔不断でいつまでも子供っぽさを残していくことが自分の魅力とでも思っているやつ。いつまでも夢を見て居たいとか言いながら、今転職しようとしてるんだよ。現実が見えて無いやつって怖い」
「へ、ええ…?転職?馬鹿か、あいつ。じゃあ、隼人は」
「それこそ無理でしょう?優しいとは名ばかりの八方美人で心愛ちゃん一筋に見せかけて遊ぶとこは遊んどくみたいな誠実さもないやつ。優しくしとけば言うこと聞かせられると思っていることがダダ漏れでよくあんなんで営業とかやってられる。無理」
「なんで付き合ってるんだよ」
浩一の呆れた視線が痛い。
自分だってここまで続くなんて考えてもいなかった。
「家にいたら来るんだよ!私が拒否っても親がいれるんだよ!しがない扶養家族だった私には、近所づきあいを邪魔する権限はなかったの!あいつら、あんなんだから、近所の評判良すぎてさあ」
うちの親と木村と林の親は仲がいい。
サザエさんの世界かってくらい「いただきものなんですけど」とかいつも行き来している。
私が嫌がれば、「あんた何したの」と理不尽な説教だ。

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