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最愛の女性
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シーラの仰天する表情を全く無視して話を進める人たちにシーラは叫ぶ。
「さっきまでの、婚約しないって話は何だったのです!?」
シーラの言葉に、王太子は「ああ」と、軽い声をあげた。
「そう言えば、言うのを忘れていたよ。浮かれすぎだな、私も」
にっこり笑う顔が怖い人って本当にいるんだ。
こんなにイケメンなのに、嫌なことしか思いつかない。
シーラは何とか逃げようと、頭の中であれこれ考えるが、王太子の鋭い視線の前ではすべてが無駄に思えてしまう。
「私は、結婚に安らぎを求めたい。だから、愛する自信がある人間しか妻にできないと思っている」
なるほど。
重責を担う職務だからこそ、家庭に安らぎが欲しいと言うことか。
国のトップとしては甘い考えだと一刀両断することもできるが、トップとして立たなければならないからこそ、並び立つ人には愛する人がということなのだろう。
だが、それならそれで、婚約者候補をあげている時点で言うべきだ。華の命の短さを甘く見てもらっちゃあ困る。
妃教育の三年間で、『光り輝くよう』と言われ続けたシーラでさえもしおれてしまいそうなのだ。
どんなに美しくても、この国の価値観では若さにはかなわない。
未だに女は子を産む道具であるからだ。若い方が多く産めるという考えを覆していかなければならない。
「それは、出会った日にお聞きしたかったですわ」
ここまで放置することが許せないとシーラが言うと、王太子は眉を下げた。
「ああ。今更、理解した。自分の行動の一つ一つを、もっと考えておくべきだった」
素直な王太子の謝罪に、シーラは少し怒りを治める。
ここで「王が勝手にやったこと」などと言われれば、自分の責に目を向けられない大バカ者だと大声で罵っていただろう。
「私の婚約者候補になるために、女性が何を犠牲にしてここまで来るのかを理解できていなかった」
王太子は、大きなため息を吐いて「後悔している」と小さく呟いた。
彼は、候補者と言われる女性が直前の、こんな状態で断られれば、どんな状態になるのか理解していなかった。
分からなかったのではない。理解する気が無かったのだ。
きっと、彼ならば、候補者と呼ばれる女性たちに少しでも思いを向ければ、彼女たちの時間が無駄になってしまうことが瞬時に理解できていただろう。
そんなことに考えが至らなかったと反省して、こんな視野の狭さでは国を支える人間になどなれないと反省していた。
許せるのかと言われれば、許せないと思うが、激しい怒りは無くなった。
シーラはため息を吐いて、怒りを長引かせることを諦めた。
彼に悪気はなかった。
―――そこは理解したが、何故顔を近づけてくるんだ。
腰に腕が回っていたせいで、王太子が顔を下に向け屈むと、大変近い。パーソナルスペースの取り方を大きく間違っている。
シーラがのけ反るように王太子を避けると、王太子は内緒話をするように囁いた。
「なんと、見つけてしまったのだよ」
そう言って、恥ずかしそうに笑う王太子は、正直、可愛いと思ってしまった。
ただ、腰を抱く力や近づき方が全くかわいげのないものだった。
抵抗するシーラを易々と抑えつけて、照れくさそうに言った。
「愛する人をね」
この一瞬でか。
「勘違いです」
シーラが間髪入れずに返答すれば、彼はニヤリと笑った。
「大丈夫。私はできる男だ。一カ月でおとしてみせよう。最愛の妻になる女性を」
そう言って、彼はシーラのこめかみにキスを落とす。
淑女に勝手に触れたうえ、唇まで触れさせるなんて!
本気で王太子に攻撃を加えようとした足も軽く避けられた。
腹が立つことこの上ない。
蹴りが空振りしてバランスを崩すシーラを軽く支えて、王太子は笑う。
「これからよろしく。婚約者殿」
嫌がるシーラを面白がるように、彼は首筋にもキスをした。
この日からきっかり一年後、王族にしてはとんでもなく短い婚約期間を経て、この国の王太子は結婚することになる。
もちろん、最愛の女性と。
「さっきまでの、婚約しないって話は何だったのです!?」
シーラの言葉に、王太子は「ああ」と、軽い声をあげた。
「そう言えば、言うのを忘れていたよ。浮かれすぎだな、私も」
にっこり笑う顔が怖い人って本当にいるんだ。
こんなにイケメンなのに、嫌なことしか思いつかない。
シーラは何とか逃げようと、頭の中であれこれ考えるが、王太子の鋭い視線の前ではすべてが無駄に思えてしまう。
「私は、結婚に安らぎを求めたい。だから、愛する自信がある人間しか妻にできないと思っている」
なるほど。
重責を担う職務だからこそ、家庭に安らぎが欲しいと言うことか。
国のトップとしては甘い考えだと一刀両断することもできるが、トップとして立たなければならないからこそ、並び立つ人には愛する人がということなのだろう。
だが、それならそれで、婚約者候補をあげている時点で言うべきだ。華の命の短さを甘く見てもらっちゃあ困る。
妃教育の三年間で、『光り輝くよう』と言われ続けたシーラでさえもしおれてしまいそうなのだ。
どんなに美しくても、この国の価値観では若さにはかなわない。
未だに女は子を産む道具であるからだ。若い方が多く産めるという考えを覆していかなければならない。
「それは、出会った日にお聞きしたかったですわ」
ここまで放置することが許せないとシーラが言うと、王太子は眉を下げた。
「ああ。今更、理解した。自分の行動の一つ一つを、もっと考えておくべきだった」
素直な王太子の謝罪に、シーラは少し怒りを治める。
ここで「王が勝手にやったこと」などと言われれば、自分の責に目を向けられない大バカ者だと大声で罵っていただろう。
「私の婚約者候補になるために、女性が何を犠牲にしてここまで来るのかを理解できていなかった」
王太子は、大きなため息を吐いて「後悔している」と小さく呟いた。
彼は、候補者と言われる女性が直前の、こんな状態で断られれば、どんな状態になるのか理解していなかった。
分からなかったのではない。理解する気が無かったのだ。
きっと、彼ならば、候補者と呼ばれる女性たちに少しでも思いを向ければ、彼女たちの時間が無駄になってしまうことが瞬時に理解できていただろう。
そんなことに考えが至らなかったと反省して、こんな視野の狭さでは国を支える人間になどなれないと反省していた。
許せるのかと言われれば、許せないと思うが、激しい怒りは無くなった。
シーラはため息を吐いて、怒りを長引かせることを諦めた。
彼に悪気はなかった。
―――そこは理解したが、何故顔を近づけてくるんだ。
腰に腕が回っていたせいで、王太子が顔を下に向け屈むと、大変近い。パーソナルスペースの取り方を大きく間違っている。
シーラがのけ反るように王太子を避けると、王太子は内緒話をするように囁いた。
「なんと、見つけてしまったのだよ」
そう言って、恥ずかしそうに笑う王太子は、正直、可愛いと思ってしまった。
ただ、腰を抱く力や近づき方が全くかわいげのないものだった。
抵抗するシーラを易々と抑えつけて、照れくさそうに言った。
「愛する人をね」
この一瞬でか。
「勘違いです」
シーラが間髪入れずに返答すれば、彼はニヤリと笑った。
「大丈夫。私はできる男だ。一カ月でおとしてみせよう。最愛の妻になる女性を」
そう言って、彼はシーラのこめかみにキスを落とす。
淑女に勝手に触れたうえ、唇まで触れさせるなんて!
本気で王太子に攻撃を加えようとした足も軽く避けられた。
腹が立つことこの上ない。
蹴りが空振りしてバランスを崩すシーラを軽く支えて、王太子は笑う。
「これからよろしく。婚約者殿」
嫌がるシーラを面白がるように、彼は首筋にもキスをした。
この日からきっかり一年後、王族にしてはとんでもなく短い婚約期間を経て、この国の王太子は結婚することになる。
もちろん、最愛の女性と。
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