聖女は旦那様のために奮闘中

ざっく

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姉さま方

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「リラ、リラ。おかしくない?」
「落ち着いてください。そんなに動くと崩れます」
クロードがあっという間にメイシ―を迎え入れる準備を整えてくれたため、スピード結婚になってしまった。
招待客にはとても慌ただしく準備をさせてしまうことになったが、早く結婚したい気持ちは二人とも同じだった。
メイシ―としては、クロードの気が変わらないうちにと急がせたのもある。
このまま社交シーズンに突入して、一時の気の迷いだったと思われるかもしれない。「やっぱりあっちのほうがいい」と思われたら泣く。
着付けを公爵家の侍女とともに手伝ってくれたリラは、改めてメイシ―の全身を眺めて頷く。
「きれいです。メイシ―の男性の好みは正直理解できませんが、幸せになってください」
「うん?」
間になんか変な言葉が入ったような?
公爵家の侍女たちは聞かなかったことにしたようで、誰もリラの言葉に返事をしない。
聞き間違えでないなら、失礼な物言いに問いただそうとしたときに、ノックの音が響き渡った。
扉を開く前から姦しい声が聞こえてくる。
その声で、来客が誰なのかわかって、メイシ―は「どうぞ」と声をかける。
「メイシ―!」
ドアを開きながら駆け寄ってくる三人を、メイシ―は立ち上がって出迎える。
「姉さま!来てくださったのですか」
「当り前よ。それより、メイシ―。脅されているのではない?だめよ。誰もあなたに結婚を無理強いすることはできないのよ。大丈夫。正直に言って」
まず結婚のお祝いを言ってくれると思っていたのに、思ってもいない言葉に目を瞬かせる。
一つ上の聖女は、クレアとコリーン。青い髪と青い瞳の双子で、人魚のような美しい声を震わせる。
「へ?」
「あなたほど美しいのだから、もっと自分好みの方を見つけてもいいの。脅されて嫁ぐ必要なんてないのよ!」
「は、はあ」
メイシ―の二つ上の聖女はアンジェリーナ。波打つ緑の髪に緑の瞳。妖精のような美しい顔を悲しみに染めてメイシ―の手を両手で握りしめる。
「今からでも無効にできるわ」
「ええっ!?」
幸せに浸っているというのに、無効になんてされたらたまらない。
「いえ、私は望んで……」
「無理をしないで!」
「そうよ、あなたが犠牲になっていいはずがないわ」
「私たちが断った時に、あっさりと引いたのは、一番美しいメイシ―に目をつけていたからなのね。許さないわ」
いろいろと突っ込みどころがあるが、ひとまず彼女たちを止めないと。
周りで準備していてくれた侍女たちが真っ青な顔で立ち尽くしている。
彼女たちは公爵家の侍女で、結婚後もメイシ―がお世話になる人たちだろう。彼女たちにまで誤解されることは防がないといけない。
「落ち着いてください。私は脅されてもないし……」
言いかけた時に、また叫びだそうとしたクレアの口に人差し指を置く。
「もちろん、犠牲にもなっていません」
にっこりと笑いかければ、クレアはあっという間に真っ赤になる。
「麗しいわっっ……!!」
アンジェリーナは隣で悶え、コリーンは自分もしてほしそうにこちらを見てくる。
本当に、彼女たちの妹贔屓にも困ってしまう。
誰よりも麗しいのは彼女たちなのに、どう言っても、メイシ―が一番この上なく世界中で一番美しいのだと言って譲らないのだ。
「私が望んだのです。逆に、クロード様が無理をされていないか心配なほどです」
無理強いはしてないと思うが、聖女に望まれて、理由もなく断れなかっただろう。
『もっと美しい人がいい』なんていう理由では無理だったことは分かる。
今後、本当に彼は後悔しないだろうか。
「するわけないでしょう!?メイシ―のような美を終結させた女性を妻にできるのよ!?あの、クマのような人が!」
「……クマ?」
クレアに言われて、想像する。
なるほど、体も大きいし、布団の上で丸まっていたら、冬眠中のクマの様かもしれない。
「とても可愛いですね」
そんな彼の姿を見るのは自分だけでありたい。
なんて、まだ見たこともないのに想像して顔をほころばせた。
「可愛くはないでしょう!?ああ、あの恐ろしい姿は、獰猛なトラの様だわ」
コリーンが恐ろしいと体を震わせる。
獰猛なトラ……クロードが身を低くして敵を狙う姿を想像する。
「なんて格好いいの……」
なんなら、狙われたっていい。なんて、はしたない考えに、頬を赤らめる。
「格好いい!?……え、メイシ―あなた」
呆然とアンジェリーナに呟かれて、首をかしげる。
目を丸くしたアンジェリーナと目を合わせて、その隣で固まるコリーンとクレアにも目を向ける。
「本当に、閣下との結婚を望んだの……?」
信じられないとばかりに問いかけられる内容に、当たり前だと頷いた。
「え?はい」
あんなに素敵な人が、メイシ―の求婚に応じてくれた。
改めて考えて、その幸福に頬が緩む。
「あ、そ、そうなの。早とちりしたみたいで申し訳ないわ。ええと、おめでとう、で、本当にいいのよね?」
アンジェリーナがまだ信じられないという風にメイシ―の顔を覗き込みながら言ってくる。
メイシ―も、クロードを目の前にすれば、さらにこの幸福が信じられなくなりそうだが、今は祝いの言葉が素直にうれしい。
「はい!ありがとうございます」
祝福の言葉をもらえばもらうほど、結婚することへの実感が高まる。
コリーンとクレアも、続いて「おめでとう」と言ってくれた。
「本当に?そうなの?私、理解できない」
「ええ……なんだか、とってももったいない気がするのに……」
ぶつぶつ言いながら、いつの間にかその輪の中にリラも入って同意している。
――彼女らにとって、クロードが好みでないことは理解した。
あんなに素敵な人なのに、こっちこそ理解できない。
だが、そのおかげで彼と結婚できるのだと思うことにした。
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