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恋の駆け引き7
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だが、しかし。
リオは駆け引きなるものをした覚えがない。
オリヴィア曰く、『自然と無意識で』やっていた駆け引きをどうやって伝えたらいいだろうか。
使用人たちの無言の「やめてください!」の視線にリオが気がつくことは無かった。
オリヴィアは、またゆっくりお話を聞かせてくださいと帰っていった。
ということは、それまでにどうやればいいかの具体的事案を提案として出せる状態にしなければならないと言うことだ。
レディコミの内容を思い出してみる。
まあ、リオの恋愛的知識なんて、そこからしかないのだ。
――――ここはやっぱりオフィスラブだろうか?
外はもう暗くなってしまった。残業で、会社に残ったのはもう二人だけ。
「終わったか?帰ろうか」
「あ、はい!」
声をかけられて答えたのと同時に、女性の携帯が震える。
女性は慌てて謝るが、上司である男性は、構わないと帰り支度を進める。
「はい。うん。仕事終わったよ。今から?どうしたの?」
女性は、こそこそと電話で会話をし、今から食事の約束をして電話を切った。
さあ帰ろうと後ろを振り向くと、目の前にスーツに包まれた広い体がすぐそばにあった。
驚いて身を引くと、ぐらりと体が傾いで・・・その体は、たくましい男性の腕に捕らえられる。
「俺を置いてどこに行こうと言うんだ?」
「え、かちょ・・・・・・んっ」
突然抱きしめられてむさぼるように唇を奪われた。
「オレ以外のもとに行こうなんて、許さないよ。君はオレだけのものだ」
「そんな、急に・・・・・・」
「急じゃない。嫉妬で頭がおかしくなりそうだ」
課長と呼ばれた男は、さらに女性をきつく抱きしめて熱く見つめた。
「こんなにオレを狂わせているくせに、そんな愛らしい瞳で、さらにオレを煽る気か?」
女性が呆然としているのをいいことに、熱い息を吹き込むように、何度もキスを繰り返した。
「君を世界一愛せるオレの腕の中から逃げられるとでも?」
――――なんちゃって!なんちゃって!
と、妄想で萌えすぎているときに、アレクシオが現れたのだった。
リオは、アレクシオが出て行ってしまった扉を呆然と眺めた。
どうして?
アレクシオはここで嫉妬に駆られてリオを激しく抱きしめて、「誰にも渡さない」とかいろいろ言う予定だったのだ。
そんなに簡単に諦められるようなものだった?
嫉妬に我を忘れるまでもなく?
ショックを受けながらも、リオ自身がショックを受けるのはおかしいと、分かっていた。
たまには違ったことを言われたいとか、嫉妬に我を忘れて欲しいとか。
大好きな人を傷つけてまで欲しい言葉?
嫉妬してほしいけれど、「愛している」って言葉をなくしてまで欲しい?
抱き合う時間を我慢してまで欲しかった?
そんなわけがない!
「アレクシオ様っ!」
慌ててアレクシオの私室の扉を開けば、
「はい」
待っていたように、アレクシオがリオを抱き上げた。
「うゃっ!?」
実際、分かっていたのだろう。毎日受け続ける視線で、リオがアレクシオ以外に心を移すはずがないと自信を持てるほどには、アレクシオはリオの心を理解していた。
「今度は何を企んでいた?」
いつも楽しそうに目を細めてくる視線が、まったく楽しそうじゃない。少し怖い。
アレクシオがリオを信じていたとしても、今回の冗談は心臓に悪い。
それを、リオも正確に把握していた。
だけど、レディコミの中身が思い出された時、それを現実にする願望が止まらなかったのだ。
「た……企んでいたわけじゃ……ないのよ?」
とてもひどいことをした自覚があるから、声が小さくなる。
同じことを言われたら、リオはその瞬間に泣き叫ぶだろう。
それに思い至った途端、涙がにじんだ。
リオの涙を見れば、普段なら優しく抱きしめてキスをくれるのに、アレクシオは泣きそうなリオを執務机の上に下ろした。
「ごめんなさい」
謝っても、執務机に座ったリオから体を離し、腕を組んで見下ろすだけだ。
泣いている場合ではない。説明しなければ。
怒った顔をするアレクシオに、リオは震える声で説明を始めた。
リオは駆け引きなるものをした覚えがない。
オリヴィア曰く、『自然と無意識で』やっていた駆け引きをどうやって伝えたらいいだろうか。
使用人たちの無言の「やめてください!」の視線にリオが気がつくことは無かった。
オリヴィアは、またゆっくりお話を聞かせてくださいと帰っていった。
ということは、それまでにどうやればいいかの具体的事案を提案として出せる状態にしなければならないと言うことだ。
レディコミの内容を思い出してみる。
まあ、リオの恋愛的知識なんて、そこからしかないのだ。
――――ここはやっぱりオフィスラブだろうか?
外はもう暗くなってしまった。残業で、会社に残ったのはもう二人だけ。
「終わったか?帰ろうか」
「あ、はい!」
声をかけられて答えたのと同時に、女性の携帯が震える。
女性は慌てて謝るが、上司である男性は、構わないと帰り支度を進める。
「はい。うん。仕事終わったよ。今から?どうしたの?」
女性は、こそこそと電話で会話をし、今から食事の約束をして電話を切った。
さあ帰ろうと後ろを振り向くと、目の前にスーツに包まれた広い体がすぐそばにあった。
驚いて身を引くと、ぐらりと体が傾いで・・・その体は、たくましい男性の腕に捕らえられる。
「俺を置いてどこに行こうと言うんだ?」
「え、かちょ・・・・・・んっ」
突然抱きしめられてむさぼるように唇を奪われた。
「オレ以外のもとに行こうなんて、許さないよ。君はオレだけのものだ」
「そんな、急に・・・・・・」
「急じゃない。嫉妬で頭がおかしくなりそうだ」
課長と呼ばれた男は、さらに女性をきつく抱きしめて熱く見つめた。
「こんなにオレを狂わせているくせに、そんな愛らしい瞳で、さらにオレを煽る気か?」
女性が呆然としているのをいいことに、熱い息を吹き込むように、何度もキスを繰り返した。
「君を世界一愛せるオレの腕の中から逃げられるとでも?」
――――なんちゃって!なんちゃって!
と、妄想で萌えすぎているときに、アレクシオが現れたのだった。
リオは、アレクシオが出て行ってしまった扉を呆然と眺めた。
どうして?
アレクシオはここで嫉妬に駆られてリオを激しく抱きしめて、「誰にも渡さない」とかいろいろ言う予定だったのだ。
そんなに簡単に諦められるようなものだった?
嫉妬に我を忘れるまでもなく?
ショックを受けながらも、リオ自身がショックを受けるのはおかしいと、分かっていた。
たまには違ったことを言われたいとか、嫉妬に我を忘れて欲しいとか。
大好きな人を傷つけてまで欲しい言葉?
嫉妬してほしいけれど、「愛している」って言葉をなくしてまで欲しい?
抱き合う時間を我慢してまで欲しかった?
そんなわけがない!
「アレクシオ様っ!」
慌ててアレクシオの私室の扉を開けば、
「はい」
待っていたように、アレクシオがリオを抱き上げた。
「うゃっ!?」
実際、分かっていたのだろう。毎日受け続ける視線で、リオがアレクシオ以外に心を移すはずがないと自信を持てるほどには、アレクシオはリオの心を理解していた。
「今度は何を企んでいた?」
いつも楽しそうに目を細めてくる視線が、まったく楽しそうじゃない。少し怖い。
アレクシオがリオを信じていたとしても、今回の冗談は心臓に悪い。
それを、リオも正確に把握していた。
だけど、レディコミの中身が思い出された時、それを現実にする願望が止まらなかったのだ。
「た……企んでいたわけじゃ……ないのよ?」
とてもひどいことをした自覚があるから、声が小さくなる。
同じことを言われたら、リオはその瞬間に泣き叫ぶだろう。
それに思い至った途端、涙がにじんだ。
リオの涙を見れば、普段なら優しく抱きしめてキスをくれるのに、アレクシオは泣きそうなリオを執務机の上に下ろした。
「ごめんなさい」
謝っても、執務机に座ったリオから体を離し、腕を組んで見下ろすだけだ。
泣いている場合ではない。説明しなければ。
怒った顔をするアレクシオに、リオは震える声で説明を始めた。
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