隣人よ、大志を抱け!

ざっく

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婚約破棄

婚約成立

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フィリアが夜風にあたりながらぼんやりしていると、視界の端に月夜に光る銀髪が映った。
バルコニーから下を見ると、見覚えのない軍服の人間が二人いた。

―――彼らには、なんと耳としっぽが生えていた。
そう言えば、今日は隣の国、ブルタル王国からも祝いの言葉を述べに使者が来ていると聞いていた。
彼らがそうなのだろうか。

ブルタル王国とスペシーズ王国は、仲が悪い。
人間は、獣人を見下しているし、獣人も同じだという。
だから、フィリアは獣人を近くで見たことがなかった。
(すごい!お話してみたい!)
フィリアは、獣人を蔑むというよりも、全く別の人種だということで、お話を聞かせて欲しかった。
話したことがない人を忌み嫌うよりも、知識欲の方が勝っていた。
スペシーズ王国の書籍には、獣人について詳しく記述している本がないからだ。
そう思って、フィリアが身を乗り出そうとしたとき、さっき聞いたばかりの声が聞こえた。

「あ~あ。うそだろ。あんなにブスだなんて、聞いてないよ」

マティアスの声だった。
フィリアは、身を乗り出して獣人たちに声をかけようとしていた体勢のまま動けなくなった。
喉を震わせることも、指を動かすこともできない衝撃で固まっていた。
ーーーブス?
「カシュー殿を見ていたから、きっと綺麗な子だと思っていたのに。あんなんじゃ、キャロの足元にも及ばないよ」
「まあ。殿下ったら」
くすくすくす。
楽しそうな軽やかな笑い声が広がった。
鈴を転がすような、可愛らしい声。
「冗談じゃないよ」
小さなリップ音がしたが、フィリアには振り返る勇気はなかった。

その後も、マティアスとキャロと呼ばれた女性はその場でいろいろと話しては、笑いあっていた。
フィリアに気がつく様子は全くない。
フィリアは、人目につかない場所を選んで、さらにその奥のバルコニーへ出てきていた。
室内でも、充分に人目は避けられるのだろう。
「でも、まあ公爵令嬢だもんなあ。機嫌でも取っておくか」
うんざりした声と共に遠ざかっていく足音がして、それに続いて令嬢がついて行く音もした。
「殿下、お疲れになったら私のところへ戻ってらして?」
「なんて魅力的なお誘いだ。ぜひそうしよう」
そんな声がした。

ようやくフィリアは会場内に戻ることができた。
すでに、体は冷え切っていた。
少々外に長く居すぎたらしい。
「この年で、もう、あれなの?」
フィリアは思わず一言漏らしてしまった。
身体と共に、フィリアの心も冷え切っていた。

その日、一組の婚約が成立した。
十歳同士の、可愛らしいカップルの誕生だと言われたのだった。


舞踏会の次の日。
フィリアは公爵邸の広い庭をずかずかと歩いていた。
あまり人が来ない奥の奥、少し小高い丘のようになっている場所がフィリアのお気に入りの場所だ。
花も何も植えられていないけれど、大きな木が一本だけ立って、木陰もあってとても気持ちのいい場所なのだ。
フィリアは、今日は全部お休みをして好きなことだけをして過ごそうと決めていた。
そうして、また明日からがんばるのだ。
あんまり速足で、しかも両手いっぱいの荷物を持っていたので、木の根元に着く時には少し息切れしてしまっていた。
そうして、小さなクロスを広げて持ってきたバスケットと水筒を置く。
フィリアは柔らかな芝生の上に直に座って、大好きな歴史小説を取り出す。
樹の幹に軽く背を預けて、フィリアは読書を始めた。

どれだけ経っただろう。
ふと、「お腹がすいたな」と思って、顔をあげた。
そこに、銀色の人がいた。
いつの間に。というか、いつから。
フィリアは驚きすぎて声が出なかった。
銀色の人―――と見た瞬間感じたのだが、見事な銀髪と、青灰色の瞳で黒い服を着ていた。
体は大きく、フィリアよりも年上だと思う。
この人は、昨日バルコニーから見かけた人だ。
昨日と同じように、耳が頭の上について、しっぽが生えていた。
マティアスも綺麗だと思ったが、この人は……違う。
綺麗と一言では言い表せない。この時のフィリアには言葉を見つけることはできなかった。
彼は―――野性的で怖いほどに魅力的だったのだ。
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