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婚約破棄
関係の破綻
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フィリアは、この国を支える一翼になろうと、とてもたくさんの勉強をした。
フィリアには分からないことだらけだったのだ。
家庭教師に聞いて、父に尋ねて、まだ分からなければ使用人に聞いて、街の人に聞いた。
だから、フィリアの知識は多岐に亘る。
そして、フィリアには知ろうともしないのに、知っているように振る舞う人たちが嫌いだった。
「そんなことを知って何になる?」
高位の人間ほど、フィリアの問いにそう答えた。
何になるかなんて、その答えを知ってから考える。
腹痛の薬草を探すのに、腹痛に効く薬草を探すわけじゃない。
植物の研究をして、その草が腹痛に効くのだと知ることができるのだ。
知った事実を、どう使うかは自分が決める。
使えるのかどうか、答えを知ってからではないと判断できないではないか。
しかし、そんなことに興味のない人間に、そんなことを言っても無駄だったと悟ったのは、もう人間関係の構築が失敗してしまってからだった。
婚約が発表されてから、フィリアとマティアスはたびたび顔を合わせる機会があった。
婚約者なのだから、マティアスはフィリアのエスコート役となる。
ただし、まだ子供であることから、屋敷からではなく、会場についてからの話だ。
マティアスは、生まれる前から決められていた婚約に不満のようだった。
フィリアの容姿が美しくないというのもあったのだろう。
「フィリア、お前はもっと着飾ってはどうだ。そうすれば……」
マティアスがそこまで行ってから、語尾を濁した。
けれど、フィリアには正確にその先を予測できた。
その地味な見た目も、まだましになるだろうに、って?
陰口は聞き飽きた。
女性陣は、陰口をわざと聞かせることの名人なのだ。
マティアスがフィリアに不満を持っていることは良く知っていた。
―――フィリアが、必要のないことまで言うからだ。
「マティアス様、宝石は山を掘らなければならないのです。そんな土地があれば、牛を飼うべきです。レースは、綿花を作らなければ。そんな畑があるなら、麦を作るべきです」
フィリアの反論に、マティアスは意味が分からないという顔をした。
「そうすれば、パンが作れるでしょう?」
「パンが?」
なんと、マティアスはパンの原料を知らなかった。
知らないことを知って、フィリアは純粋に驚いた。
マティアスだって、次期国王として十分な教育を受けているはずだったからだ。
「畑から小麦を作り、牛からミルクとバターを手に入れ、塩田で塩を手に入れる。パン一つとっても、食料を作るのには、広大な土地が必要なのです」
思わず、教師のような口調になったと思った。
(そんなことも知らないの?)
言外に言ってしまった言葉を、敏感に感じ取ったマティアスの顔が赤く染まった。
フィリアは、素直に失敗したと思ったのだ。
自分が無知だと知ってしまったときの恥ずかしさは、フィリアだって体験済みだ。
けれど、その時に一緒にいた彼は、綺麗な銀髪を震わせて、フィリアを褒めてくれたのだ。
素直な心が貴重で、素敵だと。
謝ろうとしたフィリアよりも先に、マティアスは口を開いた。
「身なりを美しく保つことも重要な役割だというのに、それさえもできないお前に教わることなど一つもないね!」
綺麗な顔を、嫌悪にゆがめてマティアスはフィリアに背を向けた。
身なりをきれいに保つこと。
高位貴族としては、他への示しのために必要なのだという。
―――知らなかった。
フィリアはまた反省する。
侍女たちがたくさん着飾らせようとするのにも、しっかりと理由があるのだ。
フィリアは、しっかりと反省をしたのだが―――。
マティアスとの関係は、もう修復不可能なまでにこじれていた。
もともと、マティアスはフィリアが嫌いだ。
フィリアも、フィリアを嫌い悪口ばかり言う人間を好きになれるはずがない。
何より、婚約者のいる立場の人間が、別の令嬢といる方が長いなどと、フィリアを馬鹿にしているとしか思えない。
きっと、いつか二人の婚約は解消されるだろうと思う。
王族の結束を高めようとした婚約が、逆効果になったのだ。
フィリアとマティアスはお互い嫌い、そしてマティアスに至っては、出来の良すぎるフィリアを憎んでさえいるようだった。
こんな状態で結婚などすれば、内戦になってしまうかもしれない。
だから、フィリアは婚約を無かったことにすることについては、賛成だったのだ。
周りには、そうは思われていなかったようだが。
フィリアには分からないことだらけだったのだ。
家庭教師に聞いて、父に尋ねて、まだ分からなければ使用人に聞いて、街の人に聞いた。
だから、フィリアの知識は多岐に亘る。
そして、フィリアには知ろうともしないのに、知っているように振る舞う人たちが嫌いだった。
「そんなことを知って何になる?」
高位の人間ほど、フィリアの問いにそう答えた。
何になるかなんて、その答えを知ってから考える。
腹痛の薬草を探すのに、腹痛に効く薬草を探すわけじゃない。
植物の研究をして、その草が腹痛に効くのだと知ることができるのだ。
知った事実を、どう使うかは自分が決める。
使えるのかどうか、答えを知ってからではないと判断できないではないか。
しかし、そんなことに興味のない人間に、そんなことを言っても無駄だったと悟ったのは、もう人間関係の構築が失敗してしまってからだった。
婚約が発表されてから、フィリアとマティアスはたびたび顔を合わせる機会があった。
婚約者なのだから、マティアスはフィリアのエスコート役となる。
ただし、まだ子供であることから、屋敷からではなく、会場についてからの話だ。
マティアスは、生まれる前から決められていた婚約に不満のようだった。
フィリアの容姿が美しくないというのもあったのだろう。
「フィリア、お前はもっと着飾ってはどうだ。そうすれば……」
マティアスがそこまで行ってから、語尾を濁した。
けれど、フィリアには正確にその先を予測できた。
その地味な見た目も、まだましになるだろうに、って?
陰口は聞き飽きた。
女性陣は、陰口をわざと聞かせることの名人なのだ。
マティアスがフィリアに不満を持っていることは良く知っていた。
―――フィリアが、必要のないことまで言うからだ。
「マティアス様、宝石は山を掘らなければならないのです。そんな土地があれば、牛を飼うべきです。レースは、綿花を作らなければ。そんな畑があるなら、麦を作るべきです」
フィリアの反論に、マティアスは意味が分からないという顔をした。
「そうすれば、パンが作れるでしょう?」
「パンが?」
なんと、マティアスはパンの原料を知らなかった。
知らないことを知って、フィリアは純粋に驚いた。
マティアスだって、次期国王として十分な教育を受けているはずだったからだ。
「畑から小麦を作り、牛からミルクとバターを手に入れ、塩田で塩を手に入れる。パン一つとっても、食料を作るのには、広大な土地が必要なのです」
思わず、教師のような口調になったと思った。
(そんなことも知らないの?)
言外に言ってしまった言葉を、敏感に感じ取ったマティアスの顔が赤く染まった。
フィリアは、素直に失敗したと思ったのだ。
自分が無知だと知ってしまったときの恥ずかしさは、フィリアだって体験済みだ。
けれど、その時に一緒にいた彼は、綺麗な銀髪を震わせて、フィリアを褒めてくれたのだ。
素直な心が貴重で、素敵だと。
謝ろうとしたフィリアよりも先に、マティアスは口を開いた。
「身なりを美しく保つことも重要な役割だというのに、それさえもできないお前に教わることなど一つもないね!」
綺麗な顔を、嫌悪にゆがめてマティアスはフィリアに背を向けた。
身なりをきれいに保つこと。
高位貴族としては、他への示しのために必要なのだという。
―――知らなかった。
フィリアはまた反省する。
侍女たちがたくさん着飾らせようとするのにも、しっかりと理由があるのだ。
フィリアは、しっかりと反省をしたのだが―――。
マティアスとの関係は、もう修復不可能なまでにこじれていた。
もともと、マティアスはフィリアが嫌いだ。
フィリアも、フィリアを嫌い悪口ばかり言う人間を好きになれるはずがない。
何より、婚約者のいる立場の人間が、別の令嬢といる方が長いなどと、フィリアを馬鹿にしているとしか思えない。
きっと、いつか二人の婚約は解消されるだろうと思う。
王族の結束を高めようとした婚約が、逆効果になったのだ。
フィリアとマティアスはお互い嫌い、そしてマティアスに至っては、出来の良すぎるフィリアを憎んでさえいるようだった。
こんな状態で結婚などすれば、内戦になってしまうかもしれない。
だから、フィリアは婚約を無かったことにすることについては、賛成だったのだ。
周りには、そうは思われていなかったようだが。
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