8 / 27
霞んだ景色
西田先輩
しおりを挟む
「じゃあ、試合日程はそれでいいか」
「はい。現地集合させるので、お願いします」
昨日聞いた美声が、そこにあった。
聞いた瞬間、何故か顔が真っ赤になるのが分かった。
由美が驚いたようにこちらを見てくるのが分かったが、なりたくてなったわけではないので、どうしようもない。
そうっと由美を盾にして、のぞき見た姿は、背が高くてがっしりした体つきの、大きな男子だった。
千尋とは、30センチ以上身長差があるかもしれない。顧問の先生が小柄に見えるほどだ。
全体的に厳ついイメージを持ちそうな人で、一目見て優しそうとは言えない。
だけど、昨日家まで送ってもらった千尋としては、優しいことも、面倒見がいいことも知っている。何より、千尋の妙な探究心も笑ってくれるような人だった。
――――ううぅ、何これ。
どくんどくんと心臓が大きな音を立て続けて、顔の熱も引かない。
見つかりたくないから、顔が分かればすぐに去ってしまわなければいけないのに、もっとじっくり見ていたい。相反する思いに、身動きがとれない。
ふと、彼がこちらをちらりと見た気がした。
その瞬間、千尋は由美の手を引っ張って、早足で歩き出した。
「へ?あれ、ちょっと千尋!?」
由美が驚いた声を上げるが、振り返る勇気がない。どんどん早くなる歩くスピードに、戸惑ったまま、由美がついてくる。
早足である気続けて、校門まで来てようやく千尋は止まった。
「はあ・・・。何なの、急に・・・」
由美が文句を言おうとして、千尋の顔を見て、あんぐりと口を開けたのが横目に見えた。
顔が、熱い。
涙まで出てきた。
「由美・・・どうしよう~」
千尋、遅い初恋であった。
「由美、また明日ね!」
一日の最後の授業が終わって、千尋はすぐに駆け出す。
由美は、ここ数日で恒例になってしまったその姿に、ひらりと手を振った。
西田先輩をくっきりとした視界で初めて捉えてから、4日が経っていた。
今日は金曜日で、日曜日に、眼鏡のレンズも、コンタクトも届くらしい。
青黒くなっていた痣も、目立たなくなって、絆創膏も今日の夜にはとれるはずだ。
来週の月曜日は自分の中では、かわいい状態になる。
そうしたら、日曜日の夜にクッキーを焼いて、遅くなったけれど、あのときのお礼を言いに行こうと決めていた。
そう考えるだけで、千尋は顔に熱が集まってきたのを感じる。
行こうと考えるだけで赤面するとか、彼を目の前にしたらどうなるんだろう。
自分で自分が心配だが、会いたい・・・もとい、見たい気持ちが抑えられない。
だから、最近では授業が終わった途端かけだして、武道場に向かうことが多くなった。
武道場に近づくと、千尋と同じ目的の人たちが駆け足に武道場に向かっていた。
この4日間、毎日通って、武道場の窓から常時中を見られる場所を確保できるようになっていた。
昨日の場所は、1年生を指導する姿がすごく近くで見られて、嬉しかったので、また同じ場所がいいなと、千尋は急いでいた。
運動音痴のくせに、急ぎながらそんな思考にふければ、当然転ぶ。
「ひゃっ!?」
「おっと」
今回は、転ばずにぶつかることになった。
「大丈夫か?」
顔を上げる前に降ってきた声に、千尋の動きが止まる。
この、声は・・・・・・!
ぶつかって、支えられた形のまま動かない千尋に、不思議そうな声がもう一度かかった。
「相川?どこかぶつけたか?」
バレてる・・・・・・!?
なぜ、どうして。どこで?いつから?
後頭部だけを見て千尋と判断した・・・あり得ない。どれだけ後頭部が特殊な形しているのだ。
ってことは、このおかしな眼鏡をかけた顔も見られていたってことで・・・。
うそおおおぉぉぉ!?
パニックになった千尋は、折角話しかけてもらった機会など、全く考えず、
「人違いですっ……!」
無茶な理由で俯いたまま逃げ出した。
西田先輩がその時にどんな表情をしていたかも知らずに、走り去ってしまったのだった。
そのまま、剣道部の部活動を見に行く勇気はなくて、帰ってきてしまったのだった。
「はい。現地集合させるので、お願いします」
昨日聞いた美声が、そこにあった。
聞いた瞬間、何故か顔が真っ赤になるのが分かった。
由美が驚いたようにこちらを見てくるのが分かったが、なりたくてなったわけではないので、どうしようもない。
そうっと由美を盾にして、のぞき見た姿は、背が高くてがっしりした体つきの、大きな男子だった。
千尋とは、30センチ以上身長差があるかもしれない。顧問の先生が小柄に見えるほどだ。
全体的に厳ついイメージを持ちそうな人で、一目見て優しそうとは言えない。
だけど、昨日家まで送ってもらった千尋としては、優しいことも、面倒見がいいことも知っている。何より、千尋の妙な探究心も笑ってくれるような人だった。
――――ううぅ、何これ。
どくんどくんと心臓が大きな音を立て続けて、顔の熱も引かない。
見つかりたくないから、顔が分かればすぐに去ってしまわなければいけないのに、もっとじっくり見ていたい。相反する思いに、身動きがとれない。
ふと、彼がこちらをちらりと見た気がした。
その瞬間、千尋は由美の手を引っ張って、早足で歩き出した。
「へ?あれ、ちょっと千尋!?」
由美が驚いた声を上げるが、振り返る勇気がない。どんどん早くなる歩くスピードに、戸惑ったまま、由美がついてくる。
早足である気続けて、校門まで来てようやく千尋は止まった。
「はあ・・・。何なの、急に・・・」
由美が文句を言おうとして、千尋の顔を見て、あんぐりと口を開けたのが横目に見えた。
顔が、熱い。
涙まで出てきた。
「由美・・・どうしよう~」
千尋、遅い初恋であった。
「由美、また明日ね!」
一日の最後の授業が終わって、千尋はすぐに駆け出す。
由美は、ここ数日で恒例になってしまったその姿に、ひらりと手を振った。
西田先輩をくっきりとした視界で初めて捉えてから、4日が経っていた。
今日は金曜日で、日曜日に、眼鏡のレンズも、コンタクトも届くらしい。
青黒くなっていた痣も、目立たなくなって、絆創膏も今日の夜にはとれるはずだ。
来週の月曜日は自分の中では、かわいい状態になる。
そうしたら、日曜日の夜にクッキーを焼いて、遅くなったけれど、あのときのお礼を言いに行こうと決めていた。
そう考えるだけで、千尋は顔に熱が集まってきたのを感じる。
行こうと考えるだけで赤面するとか、彼を目の前にしたらどうなるんだろう。
自分で自分が心配だが、会いたい・・・もとい、見たい気持ちが抑えられない。
だから、最近では授業が終わった途端かけだして、武道場に向かうことが多くなった。
武道場に近づくと、千尋と同じ目的の人たちが駆け足に武道場に向かっていた。
この4日間、毎日通って、武道場の窓から常時中を見られる場所を確保できるようになっていた。
昨日の場所は、1年生を指導する姿がすごく近くで見られて、嬉しかったので、また同じ場所がいいなと、千尋は急いでいた。
運動音痴のくせに、急ぎながらそんな思考にふければ、当然転ぶ。
「ひゃっ!?」
「おっと」
今回は、転ばずにぶつかることになった。
「大丈夫か?」
顔を上げる前に降ってきた声に、千尋の動きが止まる。
この、声は・・・・・・!
ぶつかって、支えられた形のまま動かない千尋に、不思議そうな声がもう一度かかった。
「相川?どこかぶつけたか?」
バレてる・・・・・・!?
なぜ、どうして。どこで?いつから?
後頭部だけを見て千尋と判断した・・・あり得ない。どれだけ後頭部が特殊な形しているのだ。
ってことは、このおかしな眼鏡をかけた顔も見られていたってことで・・・。
うそおおおぉぉぉ!?
パニックになった千尋は、折角話しかけてもらった機会など、全く考えず、
「人違いですっ……!」
無茶な理由で俯いたまま逃げ出した。
西田先輩がその時にどんな表情をしていたかも知らずに、走り去ってしまったのだった。
そのまま、剣道部の部活動を見に行く勇気はなくて、帰ってきてしまったのだった。
13
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
私の夫は救えないクズ〜別れた先に幸福が待ってました〜
専業プウタ
恋愛
篠山久子はアラサー商社OL。十年付き合った恋人に振られ、コネ入社なのに実家の会社が傾き父親が亡くなり腫れ物扱い。そんな時に出会ったばかりの年下ドクター富永スバルからプロポーズされる。経済的苦労もない溺愛新婚生活を送って一年、何故か久子はスバルに絞殺された。タイムリープした久子はスバルの真実を知る。再びスバルに殺された久子は時を戻り、男に頼らず、今までと全く違う行動に出る。この物語は発想を逆転させた甘ちゃんお嬢様が、悪と闘い愛すべき人生を手に入れる仰天サクセスラブストーリーである。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
セイレーンの家
まへばらよし
恋愛
病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる