紅月の神話 EP1 大罪人

与那覇瑛都

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第一章 語られぬ英雄

第二話 呪い 下

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「人間って凄いよね。月輪が力を貸したとは言え自力で神の呪いを打ち破ろうとしている。さすがレティが認めた子だよ。レベッカも気になってるみたいだし、そろそろ私が会ってもいいと思うんだけど、どう思う。ルシス」
 金色に輝く髪に蒼穹の如く澄んだ瞳をした美女が目の前にいる黒い髪に燃えるような瞳をした美女に尋ねた。
 ルシスと呼ばれた黒髪の美女は悲しげに言う。
「もう決めてるんでしょ。姉さん」
「うん。ごめんね。でも、これで終わり。私は彼と世界を一つにする。一つになった世界を貴女が、もしくは彼が壊す。そして始まる」
「姉さんは? その時姉さんはどうなるの?」
「もう気付いてるでしょ。その時私は死んでいる」
 金髪の美女は夜空に輝く月に向かい大きく手を広げ自身を抱き締めて言う。
「これは世界を繋ぐ物語。何度も何度も破壊した世界を未来へ繋げる神話。レイと出会い私は終わりと始まりを見た。私が分かるのは始まりまで後は彼と貴女次第、私は彼が絶望に潰れないよう傍に行く」
「絶望?」
「彼が掛かった呪いは絶望、大事な者を無くす呪い。今までのレイジは呪いが発動する前に死んでいる。彼がそうの成るよう自身を死地に向かわせ死ぬ事により呪いを回避し続けた。でも今回はダメ。彼を死なせるわけにはいかない。彼を死なせたらそこで終わるから」
「彼が死ぬ未来と死なない未来、彼を殺してやり直すじゃダメなの?」
 ルシスが言う事に困った笑みを浮かべて言う。
「ダメだよ。彼はようやく見付けた可能性、長い時を経て呪いは殆ど浄化されていた。だけど、あいつの後継者が来るとは思わなかった」
「ハヤウェイ・ザンギエフ、紅い神テスタロッサを祀っていたザンギエフ一族の現当主にしてテスタロッサの末裔、アメリカ軍がおこなった異世界召喚実験によって来た。彼を基点に様々な人や物が召喚されるようになり、それにより緩やかだった世界統合は加速した」
「ザンギエフに眠る神の血が紅月に出会う事で目覚める」
「日本とアメリカ、出会うにはまだ猶予があるわね」
 そう言うルシスを金髪の美女は悲しげに見て首を左右に振る。
「・・・出会ってしまった。・・・・・・・・・そう、彼女はその選択をしたの。ルシス、もう始まったわ。もう止められない。光と創造の女神アルバ・コスモスの名に懸けて私は彼を、紅月玲司を救い導き世界を統合する」
 アルバの宣言にルシスは一息吐いて応える。
「闇と破壊の女神カオス・ルシスの名に懸けて統合されし世界を破壊する」
 ルシスの宣言を聞きアルバは悪戯な笑みを浮かべて言う。
「じゃあルシスも行こっか。私達の旦那様の下へ!」
「へ? ・・・・・・旦那様!? ちょっと姉さん! どういう事!?」
 ルシスはアルバを呼び止めるがアルバは無視して歩き落ち込んでいるであろう玲司を思う。泣かないでと・・・

 紅月玲司の叔父、紅月雅都には一人娘がいる。母親譲りの茶色い髪を左右に結んだ彼女の名はシャルロット・オガム・紅月。彼女は今アメリカ、ロサンゼルスにある母親の実家に遊びに来ていた。
 母方の従兄に連れられビルの上層部でおこなわれるパーティーでシャルロットは金髪に紅い眼の青年を紹介される。
「シャル。彼はレオン・ザンギエフ。チャレンジャーの創業者ハヤウェイの御子息だ」
「初めまして。シャルロット・オガム・紅月です」
 紹介されたレオンは固まってシャルロットをじっと見る。
「えっと・・・ジャン兄さん、私なんか付いてる?」
 小声で従兄に尋ね従兄も小声で返す。
「何も付いてないが・・・ってかちゃんとジャック兄さんと呼べ。えっとレオンどうした?」
 レオンは笑みを浮かべそして大笑いをして言う。
「ようやく、ようやく見付けたぞ。紅月! しかもあの男が生きてるとは! いや、これは転生か!」
「ジャン兄さん、この人やばくない?」
「奇遇だな。俺もそう・・・」
 大きな音共にジャックは何も言えず真後ろに飛び額から血を流す。今なお笑うレオンの右手には拳銃があり一瞬の静寂の後悲鳴と怒号が起き、レオンはそれを無視して近くにいるシャルロット以外の人を弾切れになるまで撃ち殺していく。弾切れになりレオンは言う。
「拳銃は便利だが弾が有限って欠点がある。・・・まあ、俺には関係ないが」
 そう言って弾切れを見計らい押さえつけようと襲い掛かる男達を弾の入っていない拳銃で撃ち殺していく。
「・・・何で?」
 シャルロットの疑問にレオンが答える。
「この世界には魔術という物がある。まあ教会やら各国により闇に葬られてきたが・・・その魔術を使う元と成る魔力を撃ち出しただけだ。正確には神力だがね。さて、全員死んだ事だし君の番だ」
 そう言ってレオンは銃口をシャルロットに向けて言う。
「恨むなら君のご先祖様、紅月玲次郎秀衡を恨みな」
 玲次郎秀衡?
 銃を撃とうとした瞬間シャルロットの姿は消え弾丸は地面に当たる。レオンはそれをおこなった人物を直ぐに見付けた。
「死んだ振りとは、神を騙した罪は重いぞ」
 その人物は初老の日本人男性だった
「まさか紅月家初代当主秀衡が倒した神縁の者とは・・・」
「縁の者? 違うぞ人間。俺が神テスタロッサだ」
「テスタロッサ。それが紅い神の名か」
 言い終わると地面から石の槍が突き出て日本人の男を串刺しにして殺した。
「気安く呼ぶな。人間。ああ、もう死んでるか。紅月を知ってるとは、天月の者かな。まあどうでもいい。あの小娘は・・・直ぐ下か」
 レオンは床を壊し下の階へ落ちた。そしてシャルロットの下へ向かいシャルロットが隠れている部屋のドアを開けた。
 そこには既に死んでいるシャルロットがいた。
「自殺したか。クソッ、あの爺のせいで時間を取られた」
 レオンが部屋を出ようとした時シャルロットの側に落ちている携帯の電話が鳴った。携帯には日本語で玲司お兄ちゃんと書かれていた。
 レオンは笑みを浮かべて電話に出た。
『シャル、いきなり死ぬって何の冗談だ? お前も俺から金をせびるつもりか?』
「久し振りだな玲次」
『? ・・・あんた誰? シャルの彼氏さん? ええっと、俺の知り合い?』
「なんだ忘れたのか? 俺だ。っと言っても、お前と同じで転生、いや、俺の場合は覚醒して乗っ取りか。まぁ、生まれ変わったのは同じだ」
『・・・何言ってんの?』
「声が震えてるぞ。気付いたんだろう? 思い出したんだろう!? 俺が誰か! 改めて名乗ろう! 我が名はテスタロッサ! レオン・ザンギエフ・テスタロッサだ! 貴様は何と言う」
『紅月玲司』
「クックックッ・・・何度も生まれ変わりレイジを名乗るか。残念なお知らせだ玲司。貴様に掛けた呪いは再発したぞ。絶望にまみれて死ね! 貴様の妹は俺が貰う。母親も気に入ったら貰ってやるよ!」
『ざけんなよ。神如きが! 何度でも殺してやるよ!』
「神に逆らいし事後悔するがいい!」
 そう言ってレオンは携帯を床に投げ壊した。

 無数の本に囲まれた場所で銀髪の少女は本を閉じ目の前にいる燃えるように紅い髪の美女に言う。
「終わりが始まりました。貴女はどうしますか?」
「貴女が目に掛けてる子はどうしたの?」
「当然生きてますよ」
「じゃあ会いに行く」
「そうですか」
「・・・どういうつもり?」
「残念ですが貴女を外に出すわけにはいきません。貴女は彼を手助けしてしまいますから」
「目に掛けてるんじゃなかったの?」
「掛けてますよ。正確には懸けています」
「? 同じじゃないの?」
「私も勉強しましたが、日本語ってめんどくさいですね。同じ言葉で違う意味、違う言葉で同じ意味、同じ言葉でも文字により軽くなったり重くなったり。私が懸けてるのは未来です」
「未来?」
「彼は神殺し、これから先数多の神を屠り続ける。だからこそ彼は数多の神に目を付けられる。その過程で彼は堕ちる」
「堕ちるって!?」
「安心して下さい。魔人化です」
「全然安心出来ないんだけど!?」
 魔人とは人の身でありながら神を殺す術を得た欲望に忠実な化け物である。
「これが未来に繋がるんです」
「未来からの警告ね。何をどうしたら魔人が未来に繋がるのよ」
「魔人化させるために大人しくしてろ。これが未来の私からの警告です」
「それだけ?」
「取り合えずそれだけです。まぁ大人しく本でも読んでて下さい」
「何これ? 玲次郎幸村?」
「戦国時代の玲次ですね。この時代の日本は面白いですよ」
 紅い髪の美女は大人しく本を読みすぐに飽きて寝た。その傍で銀髪の少女は新しい本を読む。
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