紅月の神話 EP1 大罪人

与那覇瑛都

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第一章 語られぬ英雄

第四話 やった事を忘れてもなくなった事にはならない 上

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 ジーンズにTシャツを着た黒く長い髪の美女が座ったまま大型のハンドガンを両手でしっかりと襖に向かって構え襖が開いた瞬間発砲した。
 襖を開いた人物と同行者は顔を引きつらせる中彼女は何事もなかったかのように言う。
「お帰り月輪。久し振りね。玲司。転生したから初めましてかしら?」
「いきなり撃つ!?」
「殺す気か!?」
 美女は首を傾げて言う。
「神がただの銃で死ぬわけ無いでしょ」
「当たったら痛いんだよ!」
「俺は人間だ!」
「当てる気はなかったわよ。殺気も何もなかったでしょ」
 戯れで発砲する美女に二人は顔を歪める。
「殺気も何もないから気付かないよ」
「悪意無い子供の犯罪みたいにたちが悪い」
「犯罪なんて犯してないでしょ」
 何も悪い事はしていないと言う美女に玲司は言う。
「銃刀法違反って知ってる?」
「無法許される者、それが神であり最高権力者よ」
「最悪だ」
「まあ今の世の中最高権力者でも法が適用されるけど・・・」
「誤解がないよう言っときますけど、神だって下界に降りたら法に従うようにしてますよ」
「面倒事はごめんだからね。それと武器が必要なら貴方達の言葉で空間魔法? 最近じゃアイテムボックスかしら? まあそれで取り出せるから」
「歩く危険物! ってか何で銃! 日本の神だよね」
「? 神様だって楽したいのよ。便利な物があれば使うわ」
「クソ、俺の中の日本の神像が」
「最近じゃ降臨する事もないから自由にやってるわ」
「本当、自由すぎて毎日引きこもってますからね」
「人を引きこもりみたいに言わないで下さい」
「月に一回しか外に出ないのは引きこもりでしょ」
 月輪の指摘に美女は大まじめに言う。
「私は日ノ本の最高神、日ノ本の民は私の子、子供の作品は親として観ないといけない」
「何真面目に言ってるんですか? ただアニメや漫画が見たくてゲームがしたいだけでしょ」
「私の子達はとても優秀だから時間がいくらあっても足りないわ」
「遂にオタクの駄女神になっていたか」
 美女は玲司に銃を向け発砲した。玲司は銃を向けた瞬間大きく横に飛んだ御陰で当たらず崩れた体制で直ぐに言う。
「無言で撃つな! 俺は当たったら死ぬんだぞ!」
「大丈夫でしょ。当てる気なかったし」
「横に飛んだからな! そのままなら当たってたわ!」
「事故よ。事故。なに、当たっても神様の超パワーで回復させるわ」
「太陽神と月神にそんな力ねぇだろ!」
「そこはほら、部下を呼ぶわよ」
「呼んでる間に死んだら終わりですけどね」
 姉の物言いに呆れて月輪が言う。
「そこはほら、神様の超パワーで時間を止めるわ」
「姉上にそんな力はないし、私にだってそんな力無いですよ」
「解った玲司。神は万能じゃないの」
「綺麗に纏めんな!」
「五月蠅い子ね。少しは落ち着きなさい」
 玲司は嘆息して気持ちを切り替え平伏し挨拶をする。
「改めまして、今生にてはお初お目に掛かる。天月の分家、紅月の初代当主秀衡が転生体。玲司でございます。以後よろしくお願いいたします」
「簡略されてるけど、久し振りに名告りを聞いたわ。まあ、名告りなんて今の世の中殆ど使わないし、使わないから忘れ去られてるけどね。私の事は昔同様、日輪でいいわ。今更敬語とかもいいから、さて、貴方が来た目的、天叢雲剣だけど貸せるはずないわね。あれはもう上げた者だから今更ちょっと貸してって言えるはずもなく、このご時世降臨なんて出来ないから」
「じゃあどうすんだよ」
 日輪は眼を閉じ過去を振り返る。

 あれはレイジ、秀衡の死後、血のように紅い満月の夜だった。
 膨大な神力の高まりを感じ日輪は高まった場所に向かった。
 そこは淡海の海に浮かぶ月の中心、そこに月輪はいた。
 月輪は月に向け右手を挙げる。すると強く紅い光が月輪に降り注ぎ光が晴れると月輪の右手に一振りの太刀が握られていた。
 月輪は振り返り日輪に向かって言う。
「絶望の闇を斬り裂く希望の光、夜光。それがこの太刀の銘です。姉上これを玲次に授けようと思っています」
「異津神とはいえあの子は神殺し、この世界の神々はもちろん異界の神にも衝撃を与えた。いつか来る神々の戦いに備えた武器? それとも復活するであろう異津神から身を守るため?」
「両方です。姉上の言う通りあの子は神殺し、異津神を始め逃れられない戦いに身を置く事になる。その時武器なしは辛いでしょ」
「そうね。それじゃ、来たるべき時まで私が預かるわ」
 そう言うと日輪は月輪から太刀を受け取り異空間にしまった。
 紅い月はいつの間にか普通の満月と成っていた。
 その後、太刀は柄や鍔、鞘などいろいろと日輪が準備や手入れをしていた。

 日輪は目を開いて言う。
「私が千年近い間何もしなかったと思ってるの」
 そう言って日輪は異空間から一振りの太刀を取り出した。
「これは貴方の秀衡の死後、一柱の神が後悔の果て力を蓄え現世でも使えるよう創った太刀、絶望の闇を斬り裂く希望の光、月輪夜光!」
 そう言って日輪はチラッと月輪を見る。それを見て玲司も月輪を見る。
 月輪は顔を伏せ耳を真っ赤にしてぷるぷる震えている。そしてガバッと顔を上げて言う。
「そうですよ! 私ですよ! 私が創りましたよ! ってか当然でしょ! 玲次は私の氏子で私の使徒ですよ! 氏神の私が責任を持って創りましたよ! ってか玲次も玲次です! 何勝手に死んでるんですか! 縁まで切って! 貴方が死ぬ度にちゃんと転生出来るか、どんだけ心配だったと思ってるんですか!」
 あまりの迫力に助けを求めるため玲司は日輪を見る、日輪は四つん這いになって部屋から逃げようとしていた。玲司の視線で日輪に気付いた月輪は言う。
「姉上戻って正座なさい! 玲次貴方もです! 今日という今日は二人に説教します!」
 姉への怒りと溜まり溜まった玲次への怒り、秀衡により封じられていた記憶はこの日説教と共に少し明らかになった。
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