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青い春編
第11話
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「――それじゃ、問三を……浅賀。おい起きてるのか浅賀」
学校に復帰して約二週間、怜史はほとんど毎日一限から寝て過ごしていた。教師の声を鬱陶しく感じながら、欠伸をするのを隠さずにゆっくりと身体を起こす。
「……寝てました」
「寝てましたじゃない。体調不良が続いてるなら帰れ」
「もう元気です」
「じゃあ授業を真面目に受けなさい……日竹、問三前に出て解け」
「チッ……なんで俺なんだよ」
指名を変更された日竹が怜史を睨み付けて立ち上がる。怜史の横をわざとゆっくり歩いても怜史はちらりと一瞥するだけで関心のない顔をしていた。
それでもわざとらしく背筋を伸ばして日竹が黒板にチョークを走らせる姿をじっと見つめていた。真面目にやってます、という顔も作って見せたが、肝心の教師は怜史のことを見ていなかった。
そんな真面目なふりをしていたのも一瞬のことで、机の下で怜史のスマートフォンが光り出すと、怜史はこっそりと画面を触って通知に表示された流生の名前をタップする。
『学校行ってる?』
文字に滲み出ている流生の優しさに怜史は静かにはにかんだ。教師に気付かれないよう教科書を見ながら返事をフリック入力し、また机の下を見て打ち間違いがないかを確認した。
『来てる。つまんないっす』
怜史の返信に流生は『やれやれ』と猫が呆れているスタンプを返してきた。
流生とのメッセージでの会話は頻繁に行われるようになった。あれから流生は授業のある日には必ず怜史が出席しているかを確認してくる。それに対して退屈とアピールするのが日課だった。最早授業を受けることよりも、流生に報告するためだけに毎日登校しているのに近い。それでも怜史の学校生活はましになりつつある。
そんな会話はあれど、あの日の口付けの意味を怜史はまだ流生に確認できていない。これは恋人ではないのかと浮かれながら、その妄想で浮ついた身体を地面に叩きつけられるのが怖かった。
怜史が流生とのやりとりに夢中になってる隙に黒板の方から日竹が戻ってきて、怜史の横で足を止める。
「覚えとけよ、不良」
日竹の目には怜史がスマートフォンを隠し持っているのがしっかりと映っていた。怜史は肩をすくませて『静かに』と人差し指を唇の前に置いたジェスチャーを取る。日竹は悔しそうな顔になってすたすたと自分の席に戻って行った。
文化祭の一件があって以来、日竹の態度は軟化した。当然怜史はミスコンに出ていないし、日竹のドレスも日の目を浴びることはなかった。
だが彼の中で何かが変わったらしく、怜史に因縁をつけるような行動は慎んだ。最もその皮肉やな態度には改善は見られないだが。
怜史は再び教師の目を盗みながら流生からのメッセージに関心を寄せる。流生からは続きのメッセージが届いていた。黒い文字で表示された電子的な言葉が怜史の目には輝いて見えた。
『今日放課後空いてる? 寄り道しない?』
『する! したいです!』
一目見た文章に怜史は反射的にフリック入力を行っていく。流生からは『早すぎる…』と書かれた猫の目が飛び出しているスタンプが返ってきた。流生が苦笑いを浮かべている様子が怜史の頭の中で像となって生み出される。
怜史は黒板の上の時計を見上げた。時刻は九時二十九分。この授業が終わるのですらあと十五分以上ある。怜史は時計の針が突然ぐるりと回り出して、夕方まで時間が進んでしまわないかなと淡い期待を寄せる。
それこそ今この場所にタイムマシンが現れないかと夢想した。
***
「浅賀」
昼休みになり、怜史が鞄から昼食を取り出していると刹那が顔を出した。
刹那の顔を怜史は久しぶりに見たような気がする。出琉の一件以降、二人が昼休みに会う時間は途絶えていた。怜史が休んでいたのに加えて刹那が生徒会の引き継ぎで慌ただしくしていたから――だけが理由ではなかった。
「昼、空いてる?」
「うん……空いてる」
「じゃ、上の空き教室行くべ。生徒会室、もう使えないし」
刹那はそれだけ言うと先に教室を出て行ってしまう。怜史は慌ててその背中を追いかけた。
刹那はずっと怜史によそよそしい顔をしていた。まるで怜史を避けているかのようだった。
怜史は出琉の一件で刹那のメッセージをシカトしていたし、流生と外出したあの日は刹那から逃げるような態度をとっていた。刹那に避けられるのも無理もない。原因は自分にある、と怜史は読んでいた。
いつも向かっていた生徒会室への道とは反対方向を歩く。初めて昼食に誘われたあの日のような、緊張感が走っている。
階段を上がった一つ上の階は全てが使われていない教室だ。放課後に委員会や部活動で使う以外の時間で、ここにやってくる生徒はいない。教員ですらやって来ない。
埃被った空間の一番突き当たり、生徒会室と同じ構造の部屋の扉を刹那は開けた。立て付けの悪い引き戸が悲鳴のような音を鳴らす。
「ま、座れよ」
「……」
「……久しぶりってだけで、いつもと変わんねえからよ」
「……うん」
互いに机を一つずつ持ち上げて、向かい合わせになるように長い辺をくっ付ける。外の景色は見慣れたものより少し高いが、机の置き場所は生徒会室で見たのと同じだった。
「食うべ」
「うん」
刹那が大きな弁当箱の蓋を開ける。怜史がサンドイッチの包装を剥がす。聞きなれた音がいつの間にか遠ざかっていた時間を巻き戻すようだった。
「生徒会は引退?」
「そ。文化祭が終わったからな」
「そっか……」
「……調子、どう?」
「……体調的に?」
「ん」
厚焼き卵を口に入れながら刹那が大きく頷く。怜史はゆっくりと咀嚼してから、一口噛んだサンドイッチを飲み込んだ。
「元気だよ」
「ならいい」
「……ごめんね」
「何が?」
「心配かけて」
「……そんな心配してねー。俺と同じ男だもん」
「でも……ごめん。刹那のこと無視してた」
「……それだけど、何でそんなことしたの」
怜史は持っていたサンドイッチを机に置き、両手を膝の上についた。パンの間のレタスのかけらが包装紙の上に落ちる。刹那も静かに箸を動かすのをやめている。
「俺さ、甘えるんだ。すぐに。嫌なこととかあった時」
「……うん」
「出琉さんのこと、すごく悲しかった。耐えられなかった」
「そんなの見てたら分かる」
「だからさ、柏葉優しいから、出琉さんのことで柏葉に縋っちゃうと思った。そんな弱い俺じゃ、柏葉の友達じゃいられない気がしたんだ。だから弱いところ見せないようにって……」
「っ、そんなの! 関係ないって!」
刹那がようやく顔を上げる。刹那と視線が交わって怜史はここにきて初めて安堵した。
だが、刹那は怜史の姿を捉えるなりはっとして、まだ何かを続けようとしていた口を開いたまま黙り込んでしまった。
「……」
「……柏葉、」
「違う!」
刹那は立ち上がって拳を地面に向かって突き下ろすと途端に叫んだ。
「違う浅賀、俺にとって浅賀は特別じゃないんだ。周りと変わらない友達の一人だ。友達ってのはちょっとやそっとじゃ終わったりしねんだ。だから浅賀がみだぐなしでも関係ねえんだよ!」
捲し立てる刹那に圧倒されて怜史は口をポカンと開いたまま、刹那の顔を見上げた。よほど昂ったのか刹那の顔は真っ赤に染まっていた。
「ど、どうしたの柏葉」
「……なんでもね」
「……うん?」
「とにかく! 別に浅賀がヘラってても気にしないっての! 第一に俺はそんなに頼りない存在なのか?」
「……そんなことない。むしろ逆」
「だろっ! だから遠慮なんかすんなよ、これからは」
「うん……分かった」
「おし! ……ふー、よし、食おう」
刹那は呼吸を整えて、椅子に座り直す。箸を取り戻した刹那はまたいつもの通りに戻っていた。
「……ね。みだぐなしって何?」
「だらしないってこと」
「だ、だらしないって……」
やっぱりだらしないと思うんじゃないかと、怜史は少し憤慨する。それでもどんな自分でも良いと言ってくれた刹那の言葉を信じてみようと思った。
刹那は大切な友達だ。きっとこれからもバカな事をしながら、時々本音をぶちまけて、大人になっても笑い合える――刹那とはそういう未来に行けるはずだと、怜史の中には確信めいたものが生まれつつあった。
***
いつも通りに他愛もない話に耽っている間に昼休み終わりのチャイムが鳴る。いつも通りに机を元の配置に戻す。そのまま刹那と下の階に戻ろうと教室を出かけた時、刹那が怜史を呼び止めた。
「なあ浅賀」
「うん?」
「一個聞いても良い?」
「歯切れ悪いな……何?」
怜史は笑って問いかける。それに反して刹那は深刻に眉間を狭めていた。先ほどの神妙な空気が吹き戻ってきたような気がして、怜史は息を呑んだ。
「……盛谷流生と、連絡取ってんの?」
刹那の声が一段低くなって聞こえてくる。怜史は即答できなかった。刹那の重々しい態度は怜史にイエスという回答を求めていないような気がした。だが嘘もつけない。大切な刹那に嘘などつきたくはなかった。
怜史はやむなく口を開いた。喉の奥が拒むように掠れたが、意地でも真実を吐き出した。
「……してる、けど」
「……日竹の件で助けたの、あの人だったもんな。出琉さんのことも俺より早く伝えにきたっけ」
「……出琉さんのことを俺に伝えにきたのは、よく、分かんないけど、まあ……うん。連絡取ってる。取るようになった」
「そう、か」
刹那は落胆を隠さないまま、口角を吊り上げた。引き攣った笑みに怜史は落ち着かなくなる。いっそ嘘をつけばよかったのだろうかと、もしもを探るが答えは見つからない。
「……予鈴鳴っちまう。行こうぜ」
刹那が怜史の肩を叩き、ひと足先に空き教室を飛び出した。駆け足で振り返りながら「早く!」と怜史を急かしてくる。慌てて付いていく怜史の心臓は激しく脈打っていた。いますぐ刹那を引き止めて、先ほどの真意を聞き出したかったが、刹那の足が怜史の言葉で止まってくれる気配はなかった。
学校に復帰して約二週間、怜史はほとんど毎日一限から寝て過ごしていた。教師の声を鬱陶しく感じながら、欠伸をするのを隠さずにゆっくりと身体を起こす。
「……寝てました」
「寝てましたじゃない。体調不良が続いてるなら帰れ」
「もう元気です」
「じゃあ授業を真面目に受けなさい……日竹、問三前に出て解け」
「チッ……なんで俺なんだよ」
指名を変更された日竹が怜史を睨み付けて立ち上がる。怜史の横をわざとゆっくり歩いても怜史はちらりと一瞥するだけで関心のない顔をしていた。
それでもわざとらしく背筋を伸ばして日竹が黒板にチョークを走らせる姿をじっと見つめていた。真面目にやってます、という顔も作って見せたが、肝心の教師は怜史のことを見ていなかった。
そんな真面目なふりをしていたのも一瞬のことで、机の下で怜史のスマートフォンが光り出すと、怜史はこっそりと画面を触って通知に表示された流生の名前をタップする。
『学校行ってる?』
文字に滲み出ている流生の優しさに怜史は静かにはにかんだ。教師に気付かれないよう教科書を見ながら返事をフリック入力し、また机の下を見て打ち間違いがないかを確認した。
『来てる。つまんないっす』
怜史の返信に流生は『やれやれ』と猫が呆れているスタンプを返してきた。
流生とのメッセージでの会話は頻繁に行われるようになった。あれから流生は授業のある日には必ず怜史が出席しているかを確認してくる。それに対して退屈とアピールするのが日課だった。最早授業を受けることよりも、流生に報告するためだけに毎日登校しているのに近い。それでも怜史の学校生活はましになりつつある。
そんな会話はあれど、あの日の口付けの意味を怜史はまだ流生に確認できていない。これは恋人ではないのかと浮かれながら、その妄想で浮ついた身体を地面に叩きつけられるのが怖かった。
怜史が流生とのやりとりに夢中になってる隙に黒板の方から日竹が戻ってきて、怜史の横で足を止める。
「覚えとけよ、不良」
日竹の目には怜史がスマートフォンを隠し持っているのがしっかりと映っていた。怜史は肩をすくませて『静かに』と人差し指を唇の前に置いたジェスチャーを取る。日竹は悔しそうな顔になってすたすたと自分の席に戻って行った。
文化祭の一件があって以来、日竹の態度は軟化した。当然怜史はミスコンに出ていないし、日竹のドレスも日の目を浴びることはなかった。
だが彼の中で何かが変わったらしく、怜史に因縁をつけるような行動は慎んだ。最もその皮肉やな態度には改善は見られないだが。
怜史は再び教師の目を盗みながら流生からのメッセージに関心を寄せる。流生からは続きのメッセージが届いていた。黒い文字で表示された電子的な言葉が怜史の目には輝いて見えた。
『今日放課後空いてる? 寄り道しない?』
『する! したいです!』
一目見た文章に怜史は反射的にフリック入力を行っていく。流生からは『早すぎる…』と書かれた猫の目が飛び出しているスタンプが返ってきた。流生が苦笑いを浮かべている様子が怜史の頭の中で像となって生み出される。
怜史は黒板の上の時計を見上げた。時刻は九時二十九分。この授業が終わるのですらあと十五分以上ある。怜史は時計の針が突然ぐるりと回り出して、夕方まで時間が進んでしまわないかなと淡い期待を寄せる。
それこそ今この場所にタイムマシンが現れないかと夢想した。
***
「浅賀」
昼休みになり、怜史が鞄から昼食を取り出していると刹那が顔を出した。
刹那の顔を怜史は久しぶりに見たような気がする。出琉の一件以降、二人が昼休みに会う時間は途絶えていた。怜史が休んでいたのに加えて刹那が生徒会の引き継ぎで慌ただしくしていたから――だけが理由ではなかった。
「昼、空いてる?」
「うん……空いてる」
「じゃ、上の空き教室行くべ。生徒会室、もう使えないし」
刹那はそれだけ言うと先に教室を出て行ってしまう。怜史は慌ててその背中を追いかけた。
刹那はずっと怜史によそよそしい顔をしていた。まるで怜史を避けているかのようだった。
怜史は出琉の一件で刹那のメッセージをシカトしていたし、流生と外出したあの日は刹那から逃げるような態度をとっていた。刹那に避けられるのも無理もない。原因は自分にある、と怜史は読んでいた。
いつも向かっていた生徒会室への道とは反対方向を歩く。初めて昼食に誘われたあの日のような、緊張感が走っている。
階段を上がった一つ上の階は全てが使われていない教室だ。放課後に委員会や部活動で使う以外の時間で、ここにやってくる生徒はいない。教員ですらやって来ない。
埃被った空間の一番突き当たり、生徒会室と同じ構造の部屋の扉を刹那は開けた。立て付けの悪い引き戸が悲鳴のような音を鳴らす。
「ま、座れよ」
「……」
「……久しぶりってだけで、いつもと変わんねえからよ」
「……うん」
互いに机を一つずつ持ち上げて、向かい合わせになるように長い辺をくっ付ける。外の景色は見慣れたものより少し高いが、机の置き場所は生徒会室で見たのと同じだった。
「食うべ」
「うん」
刹那が大きな弁当箱の蓋を開ける。怜史がサンドイッチの包装を剥がす。聞きなれた音がいつの間にか遠ざかっていた時間を巻き戻すようだった。
「生徒会は引退?」
「そ。文化祭が終わったからな」
「そっか……」
「……調子、どう?」
「……体調的に?」
「ん」
厚焼き卵を口に入れながら刹那が大きく頷く。怜史はゆっくりと咀嚼してから、一口噛んだサンドイッチを飲み込んだ。
「元気だよ」
「ならいい」
「……ごめんね」
「何が?」
「心配かけて」
「……そんな心配してねー。俺と同じ男だもん」
「でも……ごめん。刹那のこと無視してた」
「……それだけど、何でそんなことしたの」
怜史は持っていたサンドイッチを机に置き、両手を膝の上についた。パンの間のレタスのかけらが包装紙の上に落ちる。刹那も静かに箸を動かすのをやめている。
「俺さ、甘えるんだ。すぐに。嫌なこととかあった時」
「……うん」
「出琉さんのこと、すごく悲しかった。耐えられなかった」
「そんなの見てたら分かる」
「だからさ、柏葉優しいから、出琉さんのことで柏葉に縋っちゃうと思った。そんな弱い俺じゃ、柏葉の友達じゃいられない気がしたんだ。だから弱いところ見せないようにって……」
「っ、そんなの! 関係ないって!」
刹那がようやく顔を上げる。刹那と視線が交わって怜史はここにきて初めて安堵した。
だが、刹那は怜史の姿を捉えるなりはっとして、まだ何かを続けようとしていた口を開いたまま黙り込んでしまった。
「……」
「……柏葉、」
「違う!」
刹那は立ち上がって拳を地面に向かって突き下ろすと途端に叫んだ。
「違う浅賀、俺にとって浅賀は特別じゃないんだ。周りと変わらない友達の一人だ。友達ってのはちょっとやそっとじゃ終わったりしねんだ。だから浅賀がみだぐなしでも関係ねえんだよ!」
捲し立てる刹那に圧倒されて怜史は口をポカンと開いたまま、刹那の顔を見上げた。よほど昂ったのか刹那の顔は真っ赤に染まっていた。
「ど、どうしたの柏葉」
「……なんでもね」
「……うん?」
「とにかく! 別に浅賀がヘラってても気にしないっての! 第一に俺はそんなに頼りない存在なのか?」
「……そんなことない。むしろ逆」
「だろっ! だから遠慮なんかすんなよ、これからは」
「うん……分かった」
「おし! ……ふー、よし、食おう」
刹那は呼吸を整えて、椅子に座り直す。箸を取り戻した刹那はまたいつもの通りに戻っていた。
「……ね。みだぐなしって何?」
「だらしないってこと」
「だ、だらしないって……」
やっぱりだらしないと思うんじゃないかと、怜史は少し憤慨する。それでもどんな自分でも良いと言ってくれた刹那の言葉を信じてみようと思った。
刹那は大切な友達だ。きっとこれからもバカな事をしながら、時々本音をぶちまけて、大人になっても笑い合える――刹那とはそういう未来に行けるはずだと、怜史の中には確信めいたものが生まれつつあった。
***
いつも通りに他愛もない話に耽っている間に昼休み終わりのチャイムが鳴る。いつも通りに机を元の配置に戻す。そのまま刹那と下の階に戻ろうと教室を出かけた時、刹那が怜史を呼び止めた。
「なあ浅賀」
「うん?」
「一個聞いても良い?」
「歯切れ悪いな……何?」
怜史は笑って問いかける。それに反して刹那は深刻に眉間を狭めていた。先ほどの神妙な空気が吹き戻ってきたような気がして、怜史は息を呑んだ。
「……盛谷流生と、連絡取ってんの?」
刹那の声が一段低くなって聞こえてくる。怜史は即答できなかった。刹那の重々しい態度は怜史にイエスという回答を求めていないような気がした。だが嘘もつけない。大切な刹那に嘘などつきたくはなかった。
怜史はやむなく口を開いた。喉の奥が拒むように掠れたが、意地でも真実を吐き出した。
「……してる、けど」
「……日竹の件で助けたの、あの人だったもんな。出琉さんのことも俺より早く伝えにきたっけ」
「……出琉さんのことを俺に伝えにきたのは、よく、分かんないけど、まあ……うん。連絡取ってる。取るようになった」
「そう、か」
刹那は落胆を隠さないまま、口角を吊り上げた。引き攣った笑みに怜史は落ち着かなくなる。いっそ嘘をつけばよかったのだろうかと、もしもを探るが答えは見つからない。
「……予鈴鳴っちまう。行こうぜ」
刹那が怜史の肩を叩き、ひと足先に空き教室を飛び出した。駆け足で振り返りながら「早く!」と怜史を急かしてくる。慌てて付いていく怜史の心臓は激しく脈打っていた。いますぐ刹那を引き止めて、先ほどの真意を聞き出したかったが、刹那の足が怜史の言葉で止まってくれる気配はなかった。
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