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風花の標編
第53話
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「国岡さん」
「ん?」
金曜。ブランディーズに顔を出した怜史は、国岡がコーヒーを飲み始めた時間にそろそろと国岡の机の横に立った。
国岡は毎日同じ時間に決まった銘柄の缶コーヒーを嗜む。いつも慌ただしくしている時間が大半である中で、このタイミングならば隙があると怜史はこの数ヶ月で学んでいた。
「お願い……というか、聞いて欲しいことがあるんですけど」
国岡は缶コーヒーに口をつけたまま、まばたきを繰り返した。珍しがっていることに気付き、怜史は恥ずかしくなって腕を後ろで組んだ。彷徨う視線が空の流生のデスクを捕らえる。怜史と弾丸で故郷に行くことはできたものの、今週一週間は流生は会社に来ることはできなかった。
国岡は缶を机に置いて、にこりと人の良い笑顔を浮かべた。口角から少しずれたところに小さなえくぼができる。怜史に気を配ったまま目の前のパソコンで社内向けのウェブサイトを開いた。
「いいよ。ちょうど会議室が空いてるから、十五分後でどうかな?」
「あ、ありがとうございます」
国岡があっという間に段取りを整えてしまう様に、怜史は感嘆せざるを得なかった。深々と頭を下げ、まだ話を切り出すことに緊張したままの心臓を押さえながら自席に戻った。
***
国岡にわざわざ会議室を押さえてもらっておきながら、仕事のことではない話をしようとしていることに怜史やや申し訳なさを感じていた。だが協力を仰げるのは国岡しかいない。流生の事情をある程度把握している国岡でなければ、駄目だった。
「……俺と盛谷さんとで、一度タイムマシンに乗らせて欲しいんです」
「……詳しく、聞こうか」
国岡の声のトーンは優しく、それでいて真剣なものだった。テーブルに置かれた国岡の手と顔を交互に見つめながら、怜史は唇を動かす。
「る……盛谷さんに、向き合って欲しい過去があるんです」
「……」
「今、盛谷さんが体調崩していることとも関係していて……絶対、盛谷さんに必要なことなんです」
怜史はとにかく訴えた。だが、国岡はいつになく困った顔で視線を落としている。言葉が足りていないと焦れば焦るほど、説明はどんどんこんがらがっていった。
慌てている間に絞り出せる言い分が頭の中から消えた。フリーズする怜史の前で、国岡は咳払いを一つすると前のめりな姿勢で怜史の顔を見つめた。
「ここで少し復習だ。タイムマシンがどんな風に機能するか、覚えている?」
「は、はい」
国岡の問いかけはインターンシップ期間中に学んで覚えたことだった。曖昧な形で脳に押し込んでいた知識を、一つずつ救って糸で編むように文章にしていく。
「本物の過去に行くのは世界的な規約で決まっている……だから、認可を得た一部の人間だけが本物の過去に赴いて、現代へその時代の景色や匂いなんかを配信するための……カメラとマイクを設置して、それを元に立体映像を作り出すのがうちのタイムマシンの仕組み……ですよね」
「さすが浅賀君。ちゃんと理解しているね」
国岡は怜史に称賛の拍手を送る。怜史の成長を喜んでいるかのような笑顔を向けながら、眉間の皺をこねている。
「ただカメラにもマイクにも限界がある。一台設置するだけでその時代の全てが分かるわけじゃない。僕ら会社はその時代の節目とも言えるイベントを中心に、過去の中継場所に設置しているんだけど……個々人のイベントとなると、なかなか焦点を絞るのは難しい」
「……」
一つひとつ漏れなく説明してくる国岡の姿を前に、怜史は早くも肩を落とした。
そんな怜史の前で、国岡は屈託のない笑顔を浮かべた。
「というのが現時点で決定してる運用の方針」
「……え?」
「実は盛谷君には、以前から任せているプロジェクトがあってね。個人の思い出にフォーカスした追体験プログラムを行く行くは設定したいと思っているんだけど、そのためのテストモデルに盛谷君を起用している」
怜史はただただ目を丸くする。国岡の言葉に頭の整理が追いつかない。より核心をつく言葉を求めて、怜史は国岡の穏やかな目を食い入るように見つめた。
「つまり、君が言うような盛谷君の過去だけに時間転移するためのデータはすでに存在するってことさ」
「……本当ですか」
「うん……彼自身はあまり乗り気ではなかったんだけど、僕が強引に頼んだ。ここからは僕のエゴでしかないけれど、盛谷君は少し昔のことを整理する時間が必要だと思っている。きっとそんな余裕もないままに、大人になってしまったんだろうから」
国岡は自分の言葉を噛み締めるように、大きく頷く。それから手元に置いていたノートPCを反転させ、怜史に画面を見せる。
画面にはびっしりと書き込まれたカレンダーが表示されており、12月23日から25日にかけては、タイムマシン試乗会と書かれていた。その場所を国岡が指を指す。
「この期間、本運用前最後のテストを実施する。外部から招待客も呼ぶんだけど、浅賀君を含めたインターン生もお客さんとして参加してもらう予定だよ。最終日の一番後ろの枠はまだ余裕があるから、そこで二人にマシンを一台貸すよ」
「良いんですか、そんな特別待遇」
「そうだなあ。そのあかつきには、浅賀君には必ずうちの社員になってもらおうかな」
「えっ」
「はは、それは冗談だけど。追体験プログラムのデータ収集っていうことで上に話は通しておく。こう見えても僕はそれなりに偉い立場を持っているんだ。自分で言うことじゃないけど」
「……っ、ありがとうございます」
怜史はテーブルに額がつきそうになるほどに深々と頭を下げた。なかなか頭を上げない怜史の肩を国岡が叩く。
「僕はタイムマシンがどこまでこの世界の役に立つのかを見極めたい……一緒に、頑張っていこう」
「、はい!」
会議室に怜史の高らかな返事がこだまする。国岡は怜史の目つきが変わったのを見て、握手を求めてきた。怜史はすかさずその手を取り、国岡の頼もしさを借りながら流生に思いを馳せた。
***
就業時間終わり、怜史がスマートフォンを確認すると着信が入っていた。表示されていたのは悠の名前だった。思わず息を呑む。何の用事かはおおかた察しがつく。怜史は折り返すのを躊躇った。会社から駅までの道を歩きながら少し考える。
考えた末、怜史は改札を潜るのをやめた。駅中のコンビニの横に身を置き、息を整えて悠の名前をタップする。
3コールもしない間に、悠の声が聞こえてきた。
『あ、もしもし怜史?』
「もしもし……ごめん。インターン先に居たから出られなかった」
『いいよ。こっちも急に電話してごめんな』
「ううん……」
お互いに様子を伺うような言葉が沈黙を運んでくる。怜史はじっと口を閉ざして悠の用件を待った。騒々しい駅の中で電話の向こうの声に耳を澄ます。
「あのさ、」
「うん」
『……お前のインターン先の会社、なんてところだっけ』
「えっ? あ、え、えっと、ブランディーズ?」
予想だにしない話題で思わず答えの後ろが疑問形になってしまう。
『ブランディーズな! 了解!』
「……え、もしかしてそれだけ?」
『あー……いや』
また沈黙が流れる。向こうでは何かごそごそと物音に混じって途切れ途切れの声が聞こえてくる。電話越しの怜史ではなく、他の誰かと悠が会話をしているようだった。か、怜史に全容は伝わってこない。
『あー。なんか俺まどろっこしいの駄目だわ』
「うん……」
『お前さ……刹那とのこと、あれで良かったの?』
予想していた話題が来た、と息を呑む。場所を変えようと、人通りの少ない方向を目指して歩き出す。
「……聞いた?」
『全部は知らん。刹那が言わねえもん……別れたってことしか』
「……うん」
『俺、お前の味方だけどさ、同時に刹那の味方でもあるんだよ。どっちも納得してのことなら俺が口出すことじゃねえけど、正直疑ってる』
悠の言葉がずっしりと頭の上にのしかかってくる。自分の選択は刹那一人に留まらず、高校時代の5人の関係性も歪にすることは分かっていた。
だが怜史はもう揺るぎない決意を固めていた。今更やっぱりごめんはないのだと、甘えた考えを自分の中から切り捨てる。
「落ち着いたら、ちゃんと話す……でも、その時俺が間違ってるって思ったら、もう俺とは絶交していいから」
『おい、怜史。そんな話をしてるんじゃねえんだぞ』
「分かってる……だってみんな良いやつだもん。何で俺と一緒にいてくれるのか分かんないくらい」
電話の向こうで悠が大きなため息を入った。向こう側での会話なのか「やめろ」という悠の声が聞こえてくる。
『お前な……それ花音に言ってみ? 殴られるじゃ済まねえぞ』
「……」
『俺も、美彩季も花音も、お前と刹那が好きだから一緒にいるんだよ』
怜史は足を止める。まばらな人通りの地下歩道で、コインロッカー横の壁にもたれかかった。
『だから、気安く絶交とか言うな』
「……ごめん。悠」
『……ま、会ったらちゃんと話してくれよ。そんで俺たちが非難したって、ちゃんと受け入れてくれよ……友達でいさせてくれよ』
いつの間にか涙が浮かんでくる。刹那を裏切った自分のことを、まだ刹那と一緒に大切にしようとしてくれている友人がいる。それが真実を知れば失われるものだと分かっていても、怜史を静かに安心させた。
「……ありがと。悠」
『おう』
「美彩季と花音にも、よろしく」
『あいつらが電話するんじゃこう冷静にはならんからなー俺からの電話だったことに感謝してくれい』
「うん……本当にありがとう」
最後にいつもよ陽気な声を聞かせてくれた悠に、怜史は何度もお礼を繰り返した。
電話を終えて、再び改札へと歩みを進める。立ち止まってはいられなかった。何もかもを終わらせて全てを解放するには、今はやるべきことをやるしかなかった。
***
「確認取れた。ブランディーズで正解」
「やば。なんか奇跡起こるんじゃない?」
電話から戻ってきた悠の前で、美彩季が安堵のため息をつく。その横にいた花音は悠には一瞥もくれず、向かい合った――刹那の方をじっと見つめていた。
三人は刹那の実家を訪ねてきていた。案内された大広間には、客である三人と刹那のほかに、茅雪がそれぞれ長机を囲んで神妙に座っている。
茅雪のすぐ目の前には、ブランディーズから差し出された、刹那宛の封筒が置かれている。
「……それで、刹那君はどうしたいの」
はつらつさを潜めた花音の暗い声が刹那を問いかける。憔悴しきった刹那は、以前口を閉ざしたまま誰とも目を合わせていなかった。
「ん?」
金曜。ブランディーズに顔を出した怜史は、国岡がコーヒーを飲み始めた時間にそろそろと国岡の机の横に立った。
国岡は毎日同じ時間に決まった銘柄の缶コーヒーを嗜む。いつも慌ただしくしている時間が大半である中で、このタイミングならば隙があると怜史はこの数ヶ月で学んでいた。
「お願い……というか、聞いて欲しいことがあるんですけど」
国岡は缶コーヒーに口をつけたまま、まばたきを繰り返した。珍しがっていることに気付き、怜史は恥ずかしくなって腕を後ろで組んだ。彷徨う視線が空の流生のデスクを捕らえる。怜史と弾丸で故郷に行くことはできたものの、今週一週間は流生は会社に来ることはできなかった。
国岡は缶を机に置いて、にこりと人の良い笑顔を浮かべた。口角から少しずれたところに小さなえくぼができる。怜史に気を配ったまま目の前のパソコンで社内向けのウェブサイトを開いた。
「いいよ。ちょうど会議室が空いてるから、十五分後でどうかな?」
「あ、ありがとうございます」
国岡があっという間に段取りを整えてしまう様に、怜史は感嘆せざるを得なかった。深々と頭を下げ、まだ話を切り出すことに緊張したままの心臓を押さえながら自席に戻った。
***
国岡にわざわざ会議室を押さえてもらっておきながら、仕事のことではない話をしようとしていることに怜史やや申し訳なさを感じていた。だが協力を仰げるのは国岡しかいない。流生の事情をある程度把握している国岡でなければ、駄目だった。
「……俺と盛谷さんとで、一度タイムマシンに乗らせて欲しいんです」
「……詳しく、聞こうか」
国岡の声のトーンは優しく、それでいて真剣なものだった。テーブルに置かれた国岡の手と顔を交互に見つめながら、怜史は唇を動かす。
「る……盛谷さんに、向き合って欲しい過去があるんです」
「……」
「今、盛谷さんが体調崩していることとも関係していて……絶対、盛谷さんに必要なことなんです」
怜史はとにかく訴えた。だが、国岡はいつになく困った顔で視線を落としている。言葉が足りていないと焦れば焦るほど、説明はどんどんこんがらがっていった。
慌てている間に絞り出せる言い分が頭の中から消えた。フリーズする怜史の前で、国岡は咳払いを一つすると前のめりな姿勢で怜史の顔を見つめた。
「ここで少し復習だ。タイムマシンがどんな風に機能するか、覚えている?」
「は、はい」
国岡の問いかけはインターンシップ期間中に学んで覚えたことだった。曖昧な形で脳に押し込んでいた知識を、一つずつ救って糸で編むように文章にしていく。
「本物の過去に行くのは世界的な規約で決まっている……だから、認可を得た一部の人間だけが本物の過去に赴いて、現代へその時代の景色や匂いなんかを配信するための……カメラとマイクを設置して、それを元に立体映像を作り出すのがうちのタイムマシンの仕組み……ですよね」
「さすが浅賀君。ちゃんと理解しているね」
国岡は怜史に称賛の拍手を送る。怜史の成長を喜んでいるかのような笑顔を向けながら、眉間の皺をこねている。
「ただカメラにもマイクにも限界がある。一台設置するだけでその時代の全てが分かるわけじゃない。僕ら会社はその時代の節目とも言えるイベントを中心に、過去の中継場所に設置しているんだけど……個々人のイベントとなると、なかなか焦点を絞るのは難しい」
「……」
一つひとつ漏れなく説明してくる国岡の姿を前に、怜史は早くも肩を落とした。
そんな怜史の前で、国岡は屈託のない笑顔を浮かべた。
「というのが現時点で決定してる運用の方針」
「……え?」
「実は盛谷君には、以前から任せているプロジェクトがあってね。個人の思い出にフォーカスした追体験プログラムを行く行くは設定したいと思っているんだけど、そのためのテストモデルに盛谷君を起用している」
怜史はただただ目を丸くする。国岡の言葉に頭の整理が追いつかない。より核心をつく言葉を求めて、怜史は国岡の穏やかな目を食い入るように見つめた。
「つまり、君が言うような盛谷君の過去だけに時間転移するためのデータはすでに存在するってことさ」
「……本当ですか」
「うん……彼自身はあまり乗り気ではなかったんだけど、僕が強引に頼んだ。ここからは僕のエゴでしかないけれど、盛谷君は少し昔のことを整理する時間が必要だと思っている。きっとそんな余裕もないままに、大人になってしまったんだろうから」
国岡は自分の言葉を噛み締めるように、大きく頷く。それから手元に置いていたノートPCを反転させ、怜史に画面を見せる。
画面にはびっしりと書き込まれたカレンダーが表示されており、12月23日から25日にかけては、タイムマシン試乗会と書かれていた。その場所を国岡が指を指す。
「この期間、本運用前最後のテストを実施する。外部から招待客も呼ぶんだけど、浅賀君を含めたインターン生もお客さんとして参加してもらう予定だよ。最終日の一番後ろの枠はまだ余裕があるから、そこで二人にマシンを一台貸すよ」
「良いんですか、そんな特別待遇」
「そうだなあ。そのあかつきには、浅賀君には必ずうちの社員になってもらおうかな」
「えっ」
「はは、それは冗談だけど。追体験プログラムのデータ収集っていうことで上に話は通しておく。こう見えても僕はそれなりに偉い立場を持っているんだ。自分で言うことじゃないけど」
「……っ、ありがとうございます」
怜史はテーブルに額がつきそうになるほどに深々と頭を下げた。なかなか頭を上げない怜史の肩を国岡が叩く。
「僕はタイムマシンがどこまでこの世界の役に立つのかを見極めたい……一緒に、頑張っていこう」
「、はい!」
会議室に怜史の高らかな返事がこだまする。国岡は怜史の目つきが変わったのを見て、握手を求めてきた。怜史はすかさずその手を取り、国岡の頼もしさを借りながら流生に思いを馳せた。
***
就業時間終わり、怜史がスマートフォンを確認すると着信が入っていた。表示されていたのは悠の名前だった。思わず息を呑む。何の用事かはおおかた察しがつく。怜史は折り返すのを躊躇った。会社から駅までの道を歩きながら少し考える。
考えた末、怜史は改札を潜るのをやめた。駅中のコンビニの横に身を置き、息を整えて悠の名前をタップする。
3コールもしない間に、悠の声が聞こえてきた。
『あ、もしもし怜史?』
「もしもし……ごめん。インターン先に居たから出られなかった」
『いいよ。こっちも急に電話してごめんな』
「ううん……」
お互いに様子を伺うような言葉が沈黙を運んでくる。怜史はじっと口を閉ざして悠の用件を待った。騒々しい駅の中で電話の向こうの声に耳を澄ます。
「あのさ、」
「うん」
『……お前のインターン先の会社、なんてところだっけ』
「えっ? あ、え、えっと、ブランディーズ?」
予想だにしない話題で思わず答えの後ろが疑問形になってしまう。
『ブランディーズな! 了解!』
「……え、もしかしてそれだけ?」
『あー……いや』
また沈黙が流れる。向こうでは何かごそごそと物音に混じって途切れ途切れの声が聞こえてくる。電話越しの怜史ではなく、他の誰かと悠が会話をしているようだった。か、怜史に全容は伝わってこない。
『あー。なんか俺まどろっこしいの駄目だわ』
「うん……」
『お前さ……刹那とのこと、あれで良かったの?』
予想していた話題が来た、と息を呑む。場所を変えようと、人通りの少ない方向を目指して歩き出す。
「……聞いた?」
『全部は知らん。刹那が言わねえもん……別れたってことしか』
「……うん」
『俺、お前の味方だけどさ、同時に刹那の味方でもあるんだよ。どっちも納得してのことなら俺が口出すことじゃねえけど、正直疑ってる』
悠の言葉がずっしりと頭の上にのしかかってくる。自分の選択は刹那一人に留まらず、高校時代の5人の関係性も歪にすることは分かっていた。
だが怜史はもう揺るぎない決意を固めていた。今更やっぱりごめんはないのだと、甘えた考えを自分の中から切り捨てる。
「落ち着いたら、ちゃんと話す……でも、その時俺が間違ってるって思ったら、もう俺とは絶交していいから」
『おい、怜史。そんな話をしてるんじゃねえんだぞ』
「分かってる……だってみんな良いやつだもん。何で俺と一緒にいてくれるのか分かんないくらい」
電話の向こうで悠が大きなため息を入った。向こう側での会話なのか「やめろ」という悠の声が聞こえてくる。
『お前な……それ花音に言ってみ? 殴られるじゃ済まねえぞ』
「……」
『俺も、美彩季も花音も、お前と刹那が好きだから一緒にいるんだよ』
怜史は足を止める。まばらな人通りの地下歩道で、コインロッカー横の壁にもたれかかった。
『だから、気安く絶交とか言うな』
「……ごめん。悠」
『……ま、会ったらちゃんと話してくれよ。そんで俺たちが非難したって、ちゃんと受け入れてくれよ……友達でいさせてくれよ』
いつの間にか涙が浮かんでくる。刹那を裏切った自分のことを、まだ刹那と一緒に大切にしようとしてくれている友人がいる。それが真実を知れば失われるものだと分かっていても、怜史を静かに安心させた。
「……ありがと。悠」
『おう』
「美彩季と花音にも、よろしく」
『あいつらが電話するんじゃこう冷静にはならんからなー俺からの電話だったことに感謝してくれい』
「うん……本当にありがとう」
最後にいつもよ陽気な声を聞かせてくれた悠に、怜史は何度もお礼を繰り返した。
電話を終えて、再び改札へと歩みを進める。立ち止まってはいられなかった。何もかもを終わらせて全てを解放するには、今はやるべきことをやるしかなかった。
***
「確認取れた。ブランディーズで正解」
「やば。なんか奇跡起こるんじゃない?」
電話から戻ってきた悠の前で、美彩季が安堵のため息をつく。その横にいた花音は悠には一瞥もくれず、向かい合った――刹那の方をじっと見つめていた。
三人は刹那の実家を訪ねてきていた。案内された大広間には、客である三人と刹那のほかに、茅雪がそれぞれ長机を囲んで神妙に座っている。
茅雪のすぐ目の前には、ブランディーズから差し出された、刹那宛の封筒が置かれている。
「……それで、刹那君はどうしたいの」
はつらつさを潜めた花音の暗い声が刹那を問いかける。憔悴しきった刹那は、以前口を閉ざしたまま誰とも目を合わせていなかった。
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